第12話 決戦③

 城の前に着くとセリザワはシロウをウィリアをの手を離し、2人を下に落とす。無事に着地できたことを確認すると、そのまま戦場に戻ろうとした。

「セリザワさん!」

 大きな声でシロウに呼ばれたセリザワは体を振り返らせる。

「ありがとうございました! 必ず勝って戻ります!」

「ありがとうございましたー!」

 2人からお礼の言葉をもらったセリザワは、ふと思い出したように脚部の収納場所から何かを取り出した。

「お前ら、受け取れ!」

 そう言ってセリザワは投げる。シロウ達が受け取ったのは首飾りだ。赤・青・白・緑と色の違う4つの鉱石の中心に穴を開けて、丈夫な紐を通したモノだった。

「これは……。」

「贈り物だ。お前らの仲間たちからのな。お前らを探していた時、3色の竜人が俺に飛びついて言ってきた。『これは2人へ託す希望だ。だから2人に会ったら渡して欲しい。』とな。どうやら、俺とヘルガーの会話を近くで聞いていたらしい。」

 セリザワの話からその時のワイバーンの姿を想像するのは容易かった。2人は少し笑いをこぼしながらも、ありがたみを感じた。空いた穴から射す光によって、鉱石たちは美しく輝いた。それを少し眺めていると、

 ドカアアアアアアアン!!!!

 突然遠くで巨大な爆発が起きた。獣士やキメラのいるところから大分離れているが、それでもシロウ達がよく見えるほどの赤黒い光が放たれている。何が爆発したかは当然見当もつかない、ただ獣士達が戦っている所だと言うことだけが唯一ハッキリすることだった。

「全て渡した、そして総て託した。」

 2人がセリザワの方を向くと、なんとマスクを外していた。

「後はお前ら次第だ。お前達は一人じゃない。」

 セリザワは2人に笑顔を見せると顔を再びマスクで覆い、目にも止まらぬ速さで光の方へ飛んでいった。飛び去るセリザワを見送ると、2人は城の正面にある大きな門を見た。すると門は2人を迎え入れるかのように勝手に開いた。

「私たちも行こう。」

「あぁ。終わらせよう。みんなのためにも。」

 中に入ると霧がかった庭が広がり、その奥にうっすらと扉が見えた。城内では太陽の光は真っ黒い陰雲に遮られ、壁にかかった松明の揺れる炎だけが庭を照らしていた。明かりは霧による乱反射でシロウとウィリアの視界を遮る。[気]で探っても霧のせいかサドナを探れない。加えて不気味なほどの静けさが2人を襲う。シロウの耳を持ってしても何も聞こえないほどの静寂だ。自分たちの足音と松明の炎が弾ける音が恐ろしいほどに響く。敵が出てくる気配はない、かと言って何か仕掛けがあるわけでもない城内へと続く道。ただ少し扉に向かって歩くだけなのに漠然とした恐怖、そして静寂という2つの「不安」が2人の心を蝕んでいく。寒さを感じているのに2人の汗は止まらない。そして扉に近づいていくたびに、その向こうから感じる異常な殺気が強くなっていく。ウィリアは必死に冷静さを保っていたが、シロウの目はそばだって扉に釘付けになり、シロウの中にある「獣の部分」がオーラとなって現れる。「ソレ」は禍々しく怒りに燃えた雰囲気を漂わせていた。

「シロウ君…………シロウ君!」

 ウィリアが声をかけても反応がない。完全に城の空気に飲まれている。

「シロウ!」

「!?」

 強く呼ぶとシロウはようやく反応した。それも意識を取り戻したかのような反応で遅れていた。

「大丈夫?」

 ウィリアが心配して声をかけると、先程の禍々しい雰囲気は消えていた。次にシロウがウィリアに見せたのは不安に満ちた表情と涙だった。

「ごめんなさい……なんかここにいるとなんと言うか……自分を見失ってしまいそうなくらい僕の『血』が騒いでる。」

「少し休む?」

「大丈夫。それに、ここにいる方が苦しくなる。」

 シロウは涙を拭い、なんとか持ち直して進み始めた。

「(やっぱりシロウ君もそうだよね。私でもギリギリだから、シロウ君からすればもっと辛いよね)。」

 ここの中に入ってからずっと2人の気分は最悪だった。体の中にいる「獣」が暴れて騒ぎ、先程の戦いのように「また無駄で終わってしまうのではないか」とも思ってしまい心身共に苦しくなり、足取りも重くなる。城の扉へ進むとともに、着実に2人の心は絶望に進んでもいた。苦しいのは2人も同じだが、それ以上にウィリアはシロウを励ますことも考えていた。そして思いついた。ウィリアは早速シロウに試すことにした。

「ねぇシロウ君。これ、かけてあげる。」

 ウィリアはそう言うと、振り返ったシロウにワイバーンがくれた首飾りをかけた。するとシロウは、体の奥深くから獣国騎士団にいる時の「温かさ」を感じた。4人が側で見守ってくれてくれているようで、安心感からか不思議と勇気が湧いてくる。ウィリアはそのまま頭を撫でて、優しくシロウを励ます。

「いつもありがとう。ウィリア。」

 シロウの顔には笑顔が戻り、さっきのようなシロウはもうどこにもいなかった。

「どういたしまして。ほら、私にもかけて。」

「うん。」

 そうして2人は完全に意識を取り戻し、中にいる「獣」を抑え込んだ。すると、さっきまで無かったはずのオルガンの音色が聞こえてきた。だが反響で全体から聞こえるので位置が特定できない。

「シロウ君。」

「分かってる。」

 シロウが獣耳を立てて音源を探す。見つけた。なんと今シロウ達が見えている扉の反対側から鳴っていた。

「やってくれる。」

「シロウ君……これって。」

「その通り。反対だ! もう一杯父親アイツに食わされた! また騙されてたんだ僕たちは!」

 2人は一気に音色の鳴る方へ走り出す。霧の中何も見えないが音は確実に近づいていた。そして「本当の扉」を見つけると、2人は勢いに任せた体当たりで扉を破壊した。勢い余って転がるもすぐに体勢を立て直した。城内は椅子が消えた大劇場のようになっており、代理石の床に壁、そしてさまざまな貴金属の飾りや巨大な額縁があったがどれも錆びたりくすんでいたりしていた。真ん中に大きな階段と踊り場、そのさらに上にある階段が行き着く先は巨大なオルガン。そこにサドナヤツはいた。2人は構えるが、サドナは振り返ることもせず、まるで「討て」とでも言うかのように2人に背中を見せて優雅にオルガンの音色を奏でていた。そして弾き終わるとサドナは突然拍手をしだした。2人はヤツの姿が不気味すぎて仕方なかった。

「よくここに辿り着いた。さすが私の成功個体子供達だ。」

 振り向いたサドナの頭はフクロウではなく、2人がよく知る父親の時の顔になっていた。


 獣士達は突然飛来した槍により串刺しにされたアモンから離れて注視していた。今のところ何も変化ないが、何かが起こると言うことはその場にいる全員が理解していた。先程とは打って変わり、全員が倒れているアモンに対し武器を向けている。

「リザード、イーグル。まだ時間は残されています。サバージとレオンのところへ向かってください。彼らは今少し離れたところで2人の合成人間キメラノイドと戦っています。巨大な闇を打ち滅ぼすには、彼らの力が必要です。」

「わかりました。ですがマスター・エイジ、一つ聞かせてください。その『巨大な闇』と言うのはどこから? あの合成人間キメラノイドからは何も……。」

「彼からではありません。アレからです。」

 そう言ってエイジは槍に指をさす。

「あの槍からですか。」

「よく見るとわかります。徐々に聞こえ始めてもいますぞ。」

 エイジに言われた通り、リザードとイーグルは槍を凝視した。すると、槍から様々な動物や人間の悲鳴が聞こえ、徐々に溶け始めてアモンの体を侵蝕しているのが見えた。

「イーグル早く行くぞ!」

「分かっている。掴まれ!」

 危険を察知したイーグルは獣化して飛び、リザードは足に掴まる。

「リザード。あとどれくらいだと思う?」

「溶け切るのにはもう少々時間がかかるだろうが、多分その前に動き出すな。」

「まさかあんなものまで作り出すとはな……。」

「人間の科学技術には、つくづく思い知らされるな。」

「全くだ。飛ばすぞ!」

 2人は大急ぎでレオン達のところに向かった。


 ガシャン! ガシャン! ガシャン! 

 空中でフラナは電気ロッドから通電棒を地面に向けて射出する。そしてサバージを囲うと電撃を放つ。

 バン! バン! バン!

 その直前、サバージはローブの内側から改銃を2丁取り出して棒を撃ち抜く。電撃はサバージに当たることなく飛散した。

「ハアアァァッ!!」

 サバージの頭上目掛けて突き刺そうとするが、サバージは分かっていたかのようにギリギリでかわされる。そのまま怒りに任せて放電するフラナに、サバージは動揺しながらも、反射で避ける。そして距離を取りながら銃をしまった。レオンはミストと剣術勝負をしていたが、ミストの素早い動きにレオンは苦戦していた。刀を振ってもすんでのところでかわされる。常に正面からの攻撃はこない。そして何より、2本の短剣で素早い動きで攻撃してくる暗殺者アサシンのような動きだ。レオンにとって相性は最悪だった。だがそれはサバージも同じで、レオンとは反対に、正面からの攻撃や力比べ、火力勝負と言うのは苦手だ。相手を変えようにも、レオンとサバージはミストとフラナを挟んで戦わされているため不可能だった。

「ドオオォォリャアアアアアーーー!!!!」

 ソイツらは地面に突き刺さった「上の大地」を飛び跳ねながらレオン達の方に向かってくる。一番高いところから体を開いて飛び上がると、両手から限界まで光る糸を伸ばし、思い切り両手を振り下ろした。レオン達が見たその2つの影は、とても見覚えのある形だった。鞭のようにしなった光る糸は地面に触れた部分から、大きな爆発を波のように起こした。糸はミスト達の方に伸び、よけるも爆風で飛ばされる。その間にレオンとサバージは落ちてきた2人の所へ行くと、予想通り土煙から現れたのはワイバーンだった。

「お待たせ! ビックリした?」

「あの技の時点で分かっていた。」

「一緒にいたシルベスターは?」

「あぁ、それなら……。」

「アアアアアアァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 上から聞こえる断末魔と共に、大きな岩が1つだけ落ちてきた。

「あぁ、あそこ。」

 土煙が晴れると確かにその上にはシルベスターがへばりついていた。2人は呆気に取られていた。

「……一体何があったんですかニャ?」

「飛び降りた時にシリーのとこだけ岩が出っ張っててそれにぶつかってた。」

「………………なるほど。」

「全く……何でオイラのとこだけ出てんだかなー?」

 シルベスターは体についた汚れを払いながら3人の元へ来た。岩には彼の姿がしっかりと埋め込まれ、レリーフの雌型になっていた。そうこうしていると合成人間キメラノイドの2人がやってきた。

「ミスト。2匹増えたよ。」

「関係ない。今度こそ……終わらせる!」

 そして全速力でかかってきた。

「レオン。作戦は?」

「サバージとシリーはミストを頼む。俺とワイブでフラナをやる。」

「「了解!」」

 サバージの問いかけにレオンは一瞬でに状況を整理し即答した。

「ヤツらの強みは連携だ。2人の距離を離しながら戦え。行くぞ!」

「「オウ!」」

 そしてすぐさま2人を迎え撃った。フラナがの振り下ろした電気ロッドをレオンが刀で受け止める。その隙にワイバーンがメテオモードに姿を変えてフラナの腹に拳を叩き込んで吹き飛ばす。一方サバージとシルベスターは突っ込んでくるミストの短剣をそれぞれレイピアとククリで受け止める。シルベスターのククリナイフの先がミストの口元をかする。そして空いた腹を軽く蹴り、腕を掴んで後ろに投げ飛ばした。

「アイツと戦うの二度目だけど、やっぱ子供だから気が引ける。」

「これ以上彼のような子を出さないためにも、やるしかないニャ。」

 ミストは着地をした時、切れた部分からから出た血を親指で拭う。腹にあまり痛みを感じなかったことから、2人が手を抜いていたことをすぐに察知し怒りを露わにした。

「舐めやがって……ゴミ共が!」

 そして再びサバージ達に突進してくる。だが2人からするともはや無策で突っ込んでいるようにしか見えなかった。

「おやおや、少し口が悪いようだニャア。それに怒りに身を任せるとは、幼いニャア。」

「まぁ、人間の子供だし仕方ないんじゃない?」

 そう言ってシルベスターは2本のククリを時間差をつけて投げる。当然ミストに弾かれるが、操作して横から弾かれたククリを再びミストに当てた。しかしミストの体に刃が触れた瞬間、ククリは体をすり抜け地面に突き刺さった。シルベスターは背後を完全に本体に取られていたが、当人は気付いていなかった。

「アレ!?」

「(もらった!)」

 シルベスターの脳天をミストが突き刺そうとした時、横から出てきた一本のレイピアによって、その攻撃を妨害された。

「そんな小細工、吾輩が気づかないとでも?」

 余裕の笑顔で言うその言葉は、ミストに全てを見透かしていると言っているかのようでミストは舌打ちをしてさらに激昂する。そしてサバージに狙いを変えて乱撃を始めた。

「エ!? 何でそっちにいるの?」

「シルベスター。君はもう少し相手の気配を探れるようになって欲しいニャア。」

 ミストの連撃をサバージは表情ひとつ変えず、レイピア一本でさばきながら話すその声は呆れ返っていた。サバージにとってミストは速さこそあったが、力に関してはフラナの方が圧倒的だった。短剣の動きを止めるとサバージはミストの腹に掌底打ちを喰らわせる。

「チイィッ!!」

 大きく舌打ちを打つとミストはサバージのレイピアを蹴って距離を取ると、2人を霧に包んだ。シルベスターは嫌な顔をする中、サバージは冷静2丁の改銃のハンマーを引いた。すると、空になったシリンダーと下の弾が入ってるシリンダーが回転し装填された。

「ウワァまただよ。ホンッとオイラこれ嫌い。」

「落ち着くんだニャ、シルベスター。気配を感じ取ればなんてこと無いニャ。」

 予想通り様々な方向からミストは攻撃を仕掛けてくる。サバージは常に避けていたが、シルベスターはミストが攻撃する瞬間ギリギリで避ける姿を、サバージは不安げに見ていた。予想通り打撃を数発喰らっている。サバージは銃を

「どうしてサバージは避けられるのさ?」

「君みたいに勘に頼って避けてないからニャ。」

「オイラだってちゃんと探してるさ。でもこの霧のせいで、周りの[気]がアイツ色に染まってそこら中にいるみたいでわからないんだよ。」

「だからこそ[気]を通して、気配を感じんるんだニャ。そして[気]の『揺れ』から……。」

 サバージが体を少しずらすと、サバージ目掛けて刺突したミストが真横を通り過ぎ、再び霧の中に消えた。そしてサバージは素早く後ろを振り向くと、銃口を素早く向け狙いを定めた。

「相手の位置を把握する。」

 バァン!

 引き金を引くと改銃は吼え、弾丸を放つ。その直後、霧が晴れて銃口の先に現れたのは左腕を撃ち抜かれ血を流すミスト。激しい痛みから息が上がっている。

「言ったはずだニャ。そんな小細工、吾輩が気づかないとでも?」

「スゲェ!」

 シルベスターはただただ感嘆の声を漏らしていた。負傷したミストは、2人を睨みつけ、フラナの元へ向かい走る。

「待て!」

 シルベスターは足を車輪のように回転させ追いかけようとしたが、動かないサバージを見てすぐに戻ってきた。

「どうしたサバージ追わないの? アイツ合流する気だよ!」

「大丈夫ニャシルベスター。2人で決めようかニャア。」

 サバージは背を向けて走るミストを眺めている。下顎をさすりながら話しているその姿はまるで何かのタイミングを狙っているかのようだ。

「今だニャ。」

 そして、いつもよりさらに口角が上がると、突然走り出した。シルベスターも慌ててサバージの後を追う。

「おぉ……オウ! 突然どうした!?」

「シルベスター。今のうちにできるだけ[気]を溜めておいて欲しいニャ。この後一気に決めるからニャア。」

「オウ! 任せとけ!」

 サバージとシルベスターは遠く離れたミストへ徐々に距離を詰めて行く。そして少し離れたところまで近づくとシルベスターに指示を出す。

「準備を!」

「いつでも行けるぜ!」

「それでは! シュレディンガー、色は『紫』!」

「オッケー!」

 シルベスターはボンと煙のように消える。刹那ミストの服の内側から白いオーラを纏い、両手にククリナイフを持ったシルベスターが飛び出した。

「ミストバースト……!」

「させるか!」

 ミストは反射で技を出そうと両方の腰から短剣を抜く。だがシルベスターはすかさず短剣を弾き飛ばした。

「ウニャアアアアアァァァァァ!!!!」

 シルベスターは勢いよく回転し、その勢いでミストを斬りつけて行く。

「サバージ!!」

 シルベスターが呼ぶと、サバージは赤いオーラを放ちながら走り、レイピアで何度も空を斬っている。

「それじゃ、決めるとするニャ!」

「おう!」

「ア……アァ……アァ……。」

 そして一歩を踏みしめて疾走すると、シルベスターも合わせて一度距離を取り直し、サバージと同じ動きをした。ミストはこの状況を打破しようと考えていたが、動揺のあまり混乱して何もできなくなっている。そしてその混乱は、うめき声のようなものをあげる形で表されていた。

「アアアアアァァァァァーーー!!!!」

「「サウザンド・スラッシュメイデン!!」」

 ミストの断末魔が響く中、2人は同時に攻撃した。シルベスターは斬りつけて、サバージは刺すように斬ってミストの横を抜けた。しばらくの沈黙が流れると、2人の斬撃がミストの体に刻み込まれた。

「ガハッ!」

 ミストは身体中そして口から血を出すと、そのまま倒れた。薄れてく意識の中、涙を流しながらミストは呟く。

「閃奈……ごめん。オレ……守れなかっ……た……。」

 その言葉を最後に、彼は絶命した。


 レオンとワイバーンは、ジェットスラスターで上から射出されるフラナの通電棒を避け続けていた。

「いつまでもちょこまかと! 逃げずに戦え獣共!!」

「ずっと上から撃ち続けるってのもどうなんですかね?!」

 ワイバーンは走りながもフラナにそう言うと、狙いを定められえた。叫びながらワイバーンは逃げ続ける。辺り一体には数え切れないほどの通電棒が突き刺されている。ついに2人は無数の通電棒に囲まれた。レオンはワイバーンの作戦に疑問を持ち続けていた。

「ワイブ! お前のこれは本当に作戦なのか?! ただひたすら逃げて捕まってるだけだぞ!」

「何度も言ってるじゃん! これでいいんだって!」

「お前の考える作戦は、どうも信用ならん。」

「でも当たれば大勝ちだよ。何たって、向こうが自爆するんだから。」

 レオンは刀を鞘から抜き構えた。

「レオン、合図を出したら刀で電撃を受け止めて!」

「それは本当に上手くいくんだな?」

「あぁ!」

 ワイバーンは屈託のない笑顔をレオンに見せていた。

「…………信じるぞ。」

 その表情と声は不安に満ちていた。するとフラナは下に降り高らかに笑うと、2人に笑顔を見せた。

獣人アナタたちがいると、まさに獣のおりね。さぁ、鬼ごっこはもう終わり。この戦いもね。」

「来るよ! 構えて!」

「分かっている!」

 フラナは電気ロッドに意識を集中させる。だが電気はロッドに収まり切らず、獣士が放つ[気]のように体からも放電しそこら中で白い稲妻が走っている。レオンは歯を食いしばり、重心を落として構える。しかしワイバーンは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。

「あぁー……レオンちょっと待って。」

「何だ?」

「作戦のこと何だけど……無しにできない?」

「ハァ!? お前今更何言ってるんだ!!」

「だってあんなデカいの来ると思ってなかったんだよ!!」

「そういうことを踏まえての作戦を考えろといつも言ってるだろう!」

「流石にアレ予想できないでしょ!」

「もう引き下がれないところまで来てるんだぞ!! どうするんだ!?」

「僕が言うのも変だけどここまで来たらもう無理でしょ!? それにカウンターに関しちゃ撃ち方は考えてたけど止め方は考えてなかったし!」

「ふざけるな!! だからお前の作戦は……!!」

 レオンとワイバーンが怒鳴り合っていると、聞こえていたはずの音が止む。フラナのロッドからバリバリと轟音を鳴らしながら、溢れ出ていた稲妻が消えた。突然生まれた沈黙は怒鳴り合う2人に危機感を思い出させる。これは襲い掛かる瞬間に生まれる時の静寂だと言うことを2人は理解していた。

「はあああああああああああああああーーーーーーーー!!!!!!!」

 フラナは勢いをつけてロッドを突き出すと、最大限に蓄積された白い雷を一気に放出した。レオンとワイバーンを囲う通電棒に稲光が走る。そして激しい電光は2人の視界を潰す。だがレオンはこの雷を集める方法はすでに考えていた。

「ここまで来たら強行突破だ! 伏せろワイブ!!」

 レオンが大声で指示するとワイバーンは従った。そしてレオンは刀を高く掲げると呼吸を整え集中し、周りの[気]を集めて雷の属性に変換する。凄まじい雷撃は轟音と共に刀に吸い寄せられていく。セリザワから借りた刀は熱を帯び始め、排熱口から蒸気を吹き出して冷却していた。しかし電気量が大きすぎてそれでもオーバーヒート寸前だった。

「耐えてくれ!」

排熱口から噴き出す熱風は大きく、手袋越しにレオンの手を焼いていく。

「(頼むセリザワ……俺に力を貸してくれ!)」

 レオンは万雷を受けて暴れる刀身に負けないよう、両手で気合を入れながらしっかりと握りしめる。切実な願いをセリザワの刀に伝えるように。するとフラナの雷撃は徐々に収まっていった。

「耐えたつもりでしょうけど、これでもあなたたちが生き延びていることなんて想定済みよ。」

 フラナはロッドを上に掲げて勢いよく振り下ろした。すると最後のダメ押しに大きな落雷をぶつけた。全ての雷を受けていた通電棒は赤くなり、白い煙を出している。中にいる2人の姿が跡形もなく散っているのをフラナは想像していた。しかし、見えた景色は全く違うものだった。ボロボロのコートで頭から血を流した犬の獣人ビーストが、息を切らしながらも刀を構えて仁王立ちしている。血が入らないよう左目は閉じている。あまりの雷撃でいつも付けている手袋は焼けて無くなり、手は出血と火傷をしていボロボロ。それでも痺れて突き刺さるような痛みに耐えながらも握っている。刃にはフラナが撃ち込んだ電気が全て溜まっており、小さい稲妻が走り、白い霧が出ていた。

「何で……あんなに攻撃を喰らったと言うのに、どうして立っていられるの?!」

 フラナの大声でされた質問に、レオンは無言の笑顔を返した。それに怒りを露わにしたフラナだったが、ワイバーンがいないことに気付き、辺りを探し始める。

「あの竜は? 一体どこに消えたの?」

「ソイツは……。」

 フラナは後ろからの声に反応しすぐ振り返る。そこには赤く染まったメテオモードのワイバーンがオーラを放って待っていた。

「お前の後ろだ!」

「このっ……!」

 フラナはワイバーンに全力でロッドを打ち込む。打ち込む速さは拳よりロッドの方が明らかに速い。

「(勝った。)」

 フラナは確信していた。しかし、打ち込まれたのはフラナの方だった。ロッドはワイバーンの顔の真横を貫き、腹には拳がえぐるように打ち込まれている。突然入った重い一撃に、フラナは体にある全ての空気を吐き出した。

「もらった!」

 よろけた瞬間、すかさずワイバーンはフラナの足を払い倒れさせる。そしてフラナの腹に両手の拳を当てた。

「ボクから鬼ごっこの礼だ! 喰らえ!」

 至近距離で両方の拳から放たれる大きな爆破をくらわせる。フラナは地面に打ちつけられ、ワイバーンは反動で空高く飛び上がった。すぐにワイバーンは青のエクスプロモードに切り替え、爆液糸をフラナにくっつける。そして空中で思い切り一回転すると、その動きに合わせて糸とフラナがついてくる。そしてフラナは地面に叩きつけられた。

「ウ……グッ……。」

 全身の痛みに耐えながら何とか体を起こす。

「どうだい? 檻に入れられる気分は?」

 フラナはその言葉に驚きワイバーンの方を向くと、目の前には無数の通電棒。慌てて周りを見ると、

「いっけー! レオーーーン!!」

 ワイバーンが上を見上げて叫ぶと、フラナも視線の先を追う。そこには白い光が見える。

「ッ!!」

 フラナが見たそれは、レオンが放つ青いオーラと白く輝く刃の光だった。この状況を打破しようと考えたその時、何かが消えていくのを感じた。消えた「何か」がわかった途端、フラナは絶望した。通電棒が発する熱は周りを蒸気で覆うほど熱く赤く光っている。近づくだけで火傷をしそうなくらいだ。そして飛んで逃げようにも、スラスターのバッテリーはさっきの技で使い果たしている。

「今までの礼とそのお返しだ!! 受け取れぇーーーーー!!!!」

 左目を開き、鬼の形相でレオンが刀を全力で振る。刃の光は白雷を纏う巨大な斬撃となって吐き出され、フラナめがけて飛んでいく。通電棒に近づくと斬撃に纏っていた電気は流れていき、電撃となって全方位からフラナ目掛けて飛んでいく。もはや逃れる方法は存在しない。敗北を受け入れる以外の道は残されていない。そしてフラナはそう理解した瞬間、自ら受け入れるように全身の力は抜けて考えることと共に立つことすらも諦めた。フラナは崩れたように座り込んだ。

「守れなくてごめんね。すぐそっちに向かうね。ずっと一緒だよ……霧人。」

 割れた地上から刺す太陽の光を見上げながら呟く。刹那せつなレオンとワイバーンの礼の品である電撃と斬撃の餌食になった。2人は激しい電光を直視しないよう腕で覆って目を閉じる。大きいだけあって威力も輝き続ける時間も長く、全力で目を守っている2人を眩ませるほどだった。光が消えて2人は目を開けるとフラナの姿は消えていた。広がる血痕と持っていたロッドだけを残して。血は最前列の通電棒にまで血痕が飛び散り焦げ固まっている。通電棒と地面から蒸気と黒い煙が混ざって立ち上る。辺りから焼け焦げた血の匂いも漂っている。

「「…………。」」

「なんか……勝ったのに変な気分。」

 ワイバーンはレオンも感じているもどかしい気持ちを意味がないと分かっていても言葉に吐き出した。2人には当然勝った喜びがある。しかしそれ以上に、フラナが最後にとった言動は飲み込みを悪くしていた。レオンにとって、目の前の敵が倒れたことに喜びより憐れみを感じたのはこれで2度目だ。そのせいか違う見え方がした。

「まるで彼女の墓だな。」

 ワイバーンは黙って頷く。初めてだったが、レオンと同じ気持ちだった。

「倒したというより、自ら死を受け入れたようだ。」

「誰かの後を追ってた感じ。もしかしてそれって……。」

「一緒にいた子供の合成人間キメラノイドだろうな。」

「お〜〜〜〜い! レオーン! ワイブー!」

 遠くからシルベスターが2人を呼びながら向かってくる。それも元気な笑顔で手を振って。その後ろをサバージが走っている。

「こっちは倒したニャ。そっちは……聞くまでもないかニャ。」

 2人の空気を察したサバージは1人で会話を終わらせた。だがその場に広がる空気の重さは、シルベスターでもわかるくらいだった。

「これでいいんだよね? 僕ら間違って無いんだよね?」

「ワイブ!」

 不安げに問いかけるワイバーンをレオンは制した。ワイバーンの言葉は後から来たシルベスターの不安も煽るほどだからだ。

「それを考えるのは後にしろ。今だけでいい。目の前のことに集中するんだ。」

「……わかった!」

 レオンの言葉で目が覚めた、ワイバーンは自分の顔を強く叩いて調子を取り戻した。

「今だけは、俺たち自身が正しいと思わなければ……死ぬだけだ。」

 レオンは自分にも言い聞かせるように強く言う。全員が気持ちを落ち着かせた瞬間、異常な寒気を感じた。全員感じた方向は同じ、その方向からマスター・イーグルとマスター・リザードが上からやってくる。

「みんな!」

「イーグル、リザード! 一体今のは!?」

「時間がない。今すぐ来てくれ! 合成人間キメラノイドが覚醒するぞ!」

 6人が向かい始めた時、ついに槍は溶けて血が垂れる。そして、倒れているアモンが笑った。

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