第10話 決戦①
____2238年7月8日____
獣国騎士団は広大な草原の真ん中に飛ばされた。辺りを見回しても何もいなければ誰1人いない。そう思っていた瞬間、黒い霧がそこら中から漂い、一箇所に集まった。
「何か来るぞ。油断するな。」
全員が自然体で動じていなかったが、心の帯を一瞬で締め直した。黒い霧はたちまち円を描きゲートのようなものを作った。
「お前らが俺たちと戦うのか? そのメンツで本当に勝てるのか?」
霧の向こうから声が聞こえる。だが反響と霧の巻く音で正確に判別できなかった。霧のゲートから出てきたのはとサドナ達一行だった。
「サドナ! 貴様らの計画は20年前に終わらせたはずだ。悔い改める機会を与えたのに、なぜ同じ過ちを繰り返す!?」
「簡単じゃないか。私があれを過ちだと思っていないからだよ。これは人間の進歩だ。お前らの存在が、どれだけの資源を使わずに腐らせているのかを理解しているのか? 我々はそれをみすみす見逃がす訳にはいかんのだよ。」
「キサマ……!」
今にも飛びかかろうとする衝動をレオンは必死に抑えた。
「あなた方が条約違反である『キメラ計画』を行なっていることはもう分かっているニャ。有力な証拠も山ほどある。条約改正起訴交渉をさせてもらうニャ。」
「嫌だと言ったら?」
「決戦だ。こっちは命をかけてでも
「へぇー。なるほど。」
その瞬間、サドナの顔に笑みが浮かんだ。
「それじゃあ……決戦と行こうか。『悪魔術式・
サドナが指を鳴らした瞬間空が黒く染まり赤い月があらわれる。それと同時に古城のようなものが地面から現れ、サドナ達4人の足場は城の上部らしく持ち上げてサドなサドナ達4人を
「何だコレ……サバージさん、これって……。」
「どうやら魔法使いの存在は本物のようですニャ。」
「さぁやろう。全勢力をかけた、決戦の始まりだ!」
サドナが声とともに手を上げた瞬間、城の門が開く。そこから我先にと言うようにキメラたちが大量に流れ出た。
「アレ、なんとかできる自身ある?」
「口より手を動かせ。考えるより行動しろ! 行くぞ!」
レオンの掛け声と共に獣国騎士団も城に向かって走り出した。
先頭を切ったワイバーンはキメラたちの大群にいの一番で突っ込んでいった。
「悪いけど……こういう時の僕の力は、とっておきだよ! 爆破糸!」
ワイバーンは[気]で作り出せる爆発性の粘液を糸状にしてを両手から出し一体のキメラを捉える。
「イーッ、ヨイショー!!」
掛け声と共にキメラを遠心力で浮かせて地面に叩きつけた。その時切り離した伸びた爆液糸は地面に着いたと同時に爆発し周囲のキメラを蹴散らした。さらに近づいてきたキメラに対しては獣術の格闘技で応戦した。自分の拳同士をぶつけると腕の部分から徐々に体を赤く染め上げていく。
「ワイバーン! メテオモード!」
キメラを殴ったり蹴ったりする度に爆発してワイバーンよりも大きいキメラは重さなど関係ないかのように吹き飛ばされていく。
「じゃあ、仕上げと行こうか。」
そう言うとワイバーンは爆破糸の錬成に意識を回すと、今度は体の色が水色に変わっていく。高く飛び上がり腕を回すとたちまち一本の巨大な糸を作り上げた。
「これで……一網打尽だ! 受け取れー!」
ワイバーンがその巨大な糸を振り下ろすと、それは空中で網状に広がっていき、異常な範囲を仕留める投網に変わった。網は外側から地面に着いて爆発、敵の逃げ場を奪っていくように外側から内側へ爆発が迫り仕留めていった。
「ワイバーン。エクスプロモード。」
キメラはほぼ爆殺し戦況を大きく変えたが、同時に地形も大きく変えた。
次に先頭のシルベスターは囲まれた。だがそんな中どう倒すか2本のククリナイフを肩に当てながら考えていた。
「さて、どうしたもんかなー。」
悩んでいる間もキメラはシルベスターを狙い襲いかかる。それを飛び跳ねたり猫特有のしなやかさを使って避けてはククリナイフで次々と
「ウワァちょっと! 今、考え事、してんで……しょうがアアア!!!」
そう叫ぶとキメラ達は驚いて動きを止めた。シルベスターは[気]を全力で集中させ2本のククリナイフを繋げ薙刀に変えた。キメラは全員赤黒い皮膚をしているのを確認したシルベスターは叫ぶ。
「やりたくなかったけど……。色は『黒』! ぶった斬れー!!」
発狂しながら薙刀をぶん投げると、フリスビーのように回転し周囲のキメラを次々に切断していった。
「オイラができるのはコレだけじゃないぞ!」
薙刀を指さして[気]を送ると薙刀はシルベスターの思い通りに動いた。そして背後を狙い飛びかかるキメラを見ることもせずに首をはねた。薙刀はシルベスターの元に戻りシルベスターは満足げにナイフをしまった。すると遠くから「まだ終わってないニャ。」とサバージが軽くツッコみ走り去った。
「せっかくオイラ決まってたのにさー。」
再びククリナイフを取り出してシルベスターは城に向かった。
「ウアアアアアアァァァァァアアアーーー!!!!」
「ハアアアアアアァァァァァアアアーーー!!!!」
レオンとサバージの雄叫びと共に、2本のレイピアと一本の太刀は前進しながら舞い踊る。その3本の刃に近づくキメラ達は問答無用で切り捨てられた。2人の舞を阻む者は何人たりとも許さない。それはシロウとウィリアを
その戦況を俯瞰していた4人は少し驚かされていた。3体は彼らが見せるキメラの処理速度に、サドナはシロウとウィリアの成長ぶりに驚かされていた。
「アイツら。結構やるじゃない。」
「問題ない。俺の能力には勝てない。」
「所長。もう第一陣全滅しそうっすよ?」
アモンがそう言うと、サドナは見向きもせずに指示を出した。
「なに、慌てることはない。第一陣は前座だ。それに、一番恐ろしいのはこの後さ。本陣を5分後に解放するよう設定した。その間に我々は一度彼らと戦おう。アモン、リアとマチルダの方に行け。ミスト、フラナ。君らはあの猫と恐竜を頼むよ。」
ミストとフラナは黙って頷いた。
「それでは行こう。」
サドナが合図した瞬間、4人全員が高く飛び上がり、それぞれ目標の前に着地した。シロウ達は、着地の衝撃と風圧で怯む。そしてそれぞれが対面した瞬間、獣士たちは構えた。
「やあレオン、サバージ。久しぶりだ。」
「20年前と変わってないのは考えだけではないらしいな。」
「その容姿、一体どうやって20年も……。」
「22年だ。さぁ一体……どうしたと思う?」
2人が瞬きをした次の瞬間、サドナの顔が変わった。それはもう人間ではなく、フクロウの顔だった。そして背中から白い翼が生え出し宙に浮き始めた。
「そう言うことかニャ……サドナ、いや、アンドラス!」
サバージは改銃を取り出して構えた。
「当てられるか? 私に?」
「鳥を撃ち落とすのは馴れててニャ。」
「サドナ! 22年前の引導を渡してやる! 今! ここで!」
レオンの怒号でサバージとレオン対サドナ改めアンドラスの戦いが始まった。サバージはアンドラスの羽を狙い3発銃弾を放つ。しかしその弾はアンドラスを捉えることはなく全てがかわされていく。虚しくシリンダーが半分回った。銃を持つサバージに気を取られている所をレオンが下から突き上げたが、アンドラスの持っていたサーベルで突き上げは流される。
「惜しいな。」
「まだだ!」
レオンは体を回転させ[気]を斬撃に乗せて飛ばす。
「ハァアッ!」
「ウグゥッ!」
サーベルで受けた斬撃の衝撃は凄まじく、アンドラスを体勢を崩し高度が落ちていく。彼の落下地点に先回りしたサバージが銃口を向ける。
バァン!
サバージの改銃は吼えた。銃口からアンドラスに弾を吐き出すと満足したかのように煙を吐く。弾は見事に背中を撃ち抜いた。弾が貫通しアンドラスの体は黒い霧になると、そのままの勢いでサバージにかかり視界を奪った。本物のアンドラスはサーベルをサバージの後頭部を狙い勢いよく滑空して突き刺した。だが視界が悪い状態でも正確にアンドラスの攻撃を把握したかのように素早い飛び前転で避けられた。
「何だと?」
地面を突き刺し動揺したアンドラスはサバージの方を向く。彼の目は開いていた。そこにレオンも合流した。
「これは、相当手こずりそうだニャ。1、2年でできるような付け焼き刃の技じゃないニャ。」
「そうだな。アイツは一体……いつから
サドナは不敵に笑う。まるで2人など敵ではないとでも言うように。
ワイバーンとシルベスターはどこか不服そうだった。内心余裕と思っているからだ。
「オイラ達がやるのって……。」
「あの子と
「オレが先にやる。フラナはいつも通りで。」
「わかった。」
2人はそれぞれミストは短剣、フラナは電気ロッドをもっている。
ワイバーン達が構えていると、辺りが急に霧ががった。
「あれ? なんじゃにれ。何にも見えないぞ。急に視界が悪くなったや。」
シルベスターが辺りを手で払うが意味がない。その時になってやっとワイバーンが気付いた。
「シルベスター違うよ。これがあの子達の能力だ! ボクらはもう相手の能力範囲内に入っちゃってるんだよ!」
ワイバーンの背後からミストの声がした。
「今更気付いたのか?」
反射で裏拳を使うも当たらなかった。そこから2人は疑心暗鬼になり出した。さまざまな方向からの攻撃を喰らう、だが反撃しようにも敵の居場所を掴めずどうしようもなかった。
「ねぇ、さっきのどっちか色覚えてる? ウガッ!」
「エェ? そんなこと言われても、見てなかったよ。痛い! この2人速っ!」
どこから来るかもどこにいるかも分からない状況で話す2人はミストとフラナに取っては格好の的でしかなかった。
「ミストバーストストリーム。」
「フラッシュライトニング・ストラッシュ!」
ミストが現れるがすぐに霧が濃くなり、姿が消える。次の瞬間、高濃度に圧縮された霧の竜巻が2人を襲う。きめ細かい水分がワイバーンとシルベスターに傷をつけていく。その中で閃光のようにフラナは電気ロッドで殴り電気を流していく。そして地面に電気ロッドの出力を最大にして叩きつけた。
「「うわあああああああああああ!!!!!!」」
霧の中で静電気が生まれる。2人の身体から流れる血に電流が伝わり、2人は霧の中で白く光り落雷に近い雷撃を喰らわされた。2人からは黒い煙が出ていた。
「終わった。」
「行きましょう。」
2人が行こうとしたその時、うめき声が聞こえた。
「まだ……ギブアップって言ってないよ。」
「みんなが戦ってるのに、オイラ達だけ寝てるって言うのもね……それはそれでマズイじゃん?」
ミスト達は呆れたように彼らを見た。
「今度は確実に……殺す!」
ミストが静かに言った。
「立ち上がったはいいけどどうする? 結局見えてないよ。」
「じゃあ……この方法で行こう! エクスプロモード!」
そして爆液糸を辺り一体に設置した。爆液は青く光っている。すると早速至る所で爆発した。
「ねぇ、これってどう言うこと?」
「待って、もうすぐだから。ナイフ用意して。」
爆発音はだんだん近ついてくる。次の瞬間。
「いまだ! シルベスター後ろ!」
シルベスターは言われるがまま振り向いてククリナイフを振ると2人を見事に斬りつけた。2人の鮮血が体と共に宙を舞う。
「ワイブ! 頼む!」
「オッケー! バランス!」
ワイバーンの拳は2人を確実に捉えている。
「爆裂! メテオキャノン!」
高濃度の爆液が精製され2人の腹で爆発した。あまりの威力で2人の腹部に空いた穴からは向こうの景色が見える。脱力するかのように倒れミストとフラナは再起不能となった。
「こう言うのもあれだけど……完全に舐めてたね。」
「全く、その通り。」
息を切らしながら話す2人は奥にある城に目を向けた。お互いに顔を見合わせると以心伝心で頷き城の方に向かって走り出した。
シロウとウィリアはアモンと対峙している。シロウにとっては望まない再開だった。
「久しぶりだなぁリア? 外の世界はどうだった?」
「もうその名前じゃない。そっちにいた時より本当に充実してたよ。」
「……じゃあお前は誰だ? 野良の
「……シロウ。」
その時アモンの眉は少し不機嫌そうに動いた。
「そうかよ……兄の俺がいなくて寂しかったろ?」
「冗談。お前を兄と思ったことはただの一度もありはしなかったよ。むしろいなくて良かったさ。そうじゃなきゃ、今俺はここに立ってない。」
「そうかよ……。」
アモンの近くから機械仕掛けの大剣が地面を突き抜けてきた。
「俺はお前のそういう所が……気に入らねえんだよ!!」
斬りかかるアモンを二人で受ける。それでもかなりの重さを感じる。何とか2人で押し返して攻め側に回る。ウィリアはアモンの腹に蹴りを入れると、続けてシロウは突き出たアモンの顔に後ろ回しを食らわせた。アモンは呻き声を上げながら吹き飛ばされる。距離を取ったウィリアは剣を地面に突き刺し、シロウは札に[気]を込め消費場所に入れると棍槍剣を空に掲げた。
「ライトニング・レイン!」
「ラヴァ・エレプション!」
アモンの辺り一面に亀裂が入りそこから溶岩が噴き出す。黒い空は光りながらゴロゴロと唸り始め、そして雨のように落雷を落とした。退路を断たれたアモンは避けることができず、受けるしかなかった。
「ごめん。見えなくしちゃった。」
「大丈夫、アイツの気配は分かる。避けれてない。」
シロウの言う通り目の前にアモンはいる。焼け焦げていだが彼は平然と立っている。
「今のが……『獣術』ってヤツか。」
何事も無かったかのように会話する姿に2人は戦慄を覚えた。
「どういう事? あの感じ、直撃してるはずなのに。」
「向こうは向こうで何か持ってる。と言うかどこかイジってる。」
「直接殴るのは?」
「それが一番手っ取り早いと思うぜ?」
「!!」
彼は近くにいるわけでもないに答えた。耳がいいという次元ではない。違和感を感じた2人はアモンに集中し、出方を伺った。
「来ねぇんならコッチから行くぞ!」
アモンは大剣を構え直すと一直線で2人に飛びかかった。2人ともアモンの猛攻に圧倒される。すると2人の後ろからまだ残っていたキメラが飛びかかる。
「後ろお願い!」
「わかった!」
ウィリアに合わせてシロウはキメラの応戦に回った。ウィリアとアモンの一騎打ちになった。ウィリアは大剣の乱暴な一撃一撃の重さに耐えきれずガラ空きになった腹を思い切り蹴飛ばされた。そして後ろから斬りかかるシロウに関しては武器を使わず近接格闘術で痛ぶるような戦い方をしている。
「オラオラ! どうしたよシロウ? 逃げてから12年経ったのにこの程度か!」
アモンの猛攻をシロウは受け流すしかできない。そのまま近くに突き刺していたアモンの武器を掴んでは大きく振りかぶって大きな一撃を打ち込んだ。
ガギン!
鋭い金属音が鳴り響く。
「やっぱ俺がいないと弱ぇままらしいな。」
「コイツ……!!」
ギャルギャルギャギャル……!!
回転する光刃はシロウの腕に激しい振動を加えた。腕が揺らされ力が入らず、ただただ押されていく。そして勢いよく回転する刃がシロウの右腕を食い始めた。
「アアアアアアアア!!!!」
勢いよくシロウの腕の肉を光刃が焼きながら食っていく。背後を取ったウィリアは純白に輝く長剣に炎を纏わせアモンに斬りつけようとした時、アモンはトリガーを押していた左腕をワニの頭に変身させて長剣を噛み付いて受け止めた。
「アッチ!」
熱さに耐えられなかったのか、すぐさまウィリアの剣を振り払って放し、ワニの頭でウィリアを殴り飛ばした。左腕に一瞬意識を持っていかれ、チェーンソーを持っていた右手の力が一瞬緩んだのをシロウは見逃さず、押し込んでアモンにバック回しをくらわせ距離を取る。削られた刃はボロボロになって使いものにならない。アモンはウィリアを仕留めに向かっている。
「おい!」
シロウの呼ぶ声にアモンは反応し振り返る。その瞬間、シロウの飛ばした
「ゴハァッ!」
口から噴き出た血の量からいいところに刺さった感触がした。ウィリアはアモンのチェーンソーを剣で切り上げて手から離させた。それは少し遠くに突き刺さる。そしてシロウは、アモンの脇腹に刺さった刃に小さい光弾を飛ばした。
「その
シロウが指を鳴らした瞬間アモンに刺さった刃が爆発し、爆煙の中でアモンの全身を斬り裂いた。シロウはウィリアの元に急いで向かい体勢を立て直した。
「大丈夫?」
「大丈夫。そっちこそどう?」
「もうすぐ治る。」
手で抑えているアモンに深く斬られた傷は徐々に浅くなっていく。2人はボロボロになりながらも支え合って立ち上がった。シロウの爆破によってアモンの脇腹に穴が空き、身体中にある深い切り傷をつけられた。そこから大量に血が流れ出ている。
「そんなもんかよ……全然だなぁ!!」
アモンは息を切らしながらも叫ぶ。傷口も細胞分裂を繰り返しているのか肉が増えだし傷を埋める。だが言葉と動きは一致しなかった。
「何だ……コイツは?」
アモンはシロウ達に向かおうとしたが、体の動きが鈍くなっている事に気付いた。さっきより気持ち遅く感じる。
「シロウ! 畳み掛けるよ!!」
「ハイ!!」
2人はそれを見逃すことなく一気に距離を詰めた。呼吸を整えた2人からはウィリアは赤、シロウは水色のオーラが身体から放つ。
「「ハアアアアアアアアア!!!!!!」」
2人は叫ぶと、それぞれ武器に[気]を込めてアモンに叩き込んだ。しかしアモンにつけた傷は浅かった。身体を硬化することにより2人の斬撃を防いだ。だが2人の攻撃が止まることは無い。一撃一撃全力で、2人は属性を変えながらひたすらアモンに押し込んでいった。
「(ダメだ……対応しきれない!)」
シロウとウィリアの連撃は阿吽の呼吸で隙がない。アモンは反撃できずにただひたすら硬化してなんとか身を守るしかなかった。一撃一撃が重く、受け止めるアモンは徐々に後退させられる。だが彼にとってそれは好都合でもあった。もうすぐ武器に手が届く。握った瞬間思い切り2人の首を薙ぎ払えば勝てる。アモンはそう考えていると、辿り着いた。
「俺の勝ちだ!」
「シロウ! お願い!!」
ウィリアがそう言うと、シロウは離れて剣先をアモンに向けた。
「ソイツはもう使わせない。」
瞬間、シロウはアモンの持つチェーンソーを狙い撃ち、光刃の回転部に命中させた。アモンはそれをお構いなしにトリガーを引いた瞬間、剣自体が爆発した。
爆風に巻き込まれ吹き飛ぶウィリアをシロウは受け止めた。
「私が近くにいるのに爆破させなくても良くない?」
「これ普通の弾しか撃てないよ。爆発はアイツが刃のスイッチ押したから自爆したの。」
アモンの右腕は大剣の破片と共に散らばっていた。顔と体の右半分は筋肉の筋まで見えている。だがそれもすぐに修復を始めた。
「ウ……アァ……。」
アモンはもはや身体も口も動かなくなっていた。できるのは声にならないうめき声を上げることぐらいだった。
「治る前に仕留めるよ!!」
「これで終わらせよう!!」
シロウは札を10枚取り出し自分の[気]を流し込む。それを宙に放り投げ一気に切った。真っ二つにされた札は紫の炎に包まれ剣先に火が集まる。ウィリアの剣は帯電し、白い電流が流れている。火花が散り白い煙が出ている。
「行け! 《
「獣術式・
2人の思い切り振ると、紫の炎は大量のオオカミに、白い煙は雷を纏い大量のウサギになってアモンに突進する。当たる度紫の炎と白い稲妻ががアモンの身体を食いちぎり、切り裂いていく。
「「合技・
シロウとウィリアが武器を振り回す。するとオオカミがウサギを食べ、身体が火と雷の鎖状に変化してアモンの体を拘束した。
「捉えた!」
アモンの傷の治りが止まる。どうやら攻撃をくらっている時は治癒が行えないらしい。2人はそれを見抜くと更に動きは加速した。たった1歩で間合いを一気に詰める。2人でウィリアの剣は桜色の炎を纏い、シロウの刃は冷気が漂う白群色の水を纏わせていた。
「獣術複式開花一線・
「獣術妖式開花一線・
2人の斬撃はアモンの体に深い交差の傷を描く。傷口から、桜色の雷を纏った炎と白群色の氷の華が吹き出しながら美しく咲いた。その華はアモンの体の何倍もの大きさになり、噴き出す血は凍りながら蒸発した。
「アアアアアアアアアアーーーー!!!!」
燃やされながらも凍らされる中で、アモンの断末魔が響く。ただでさえ動かない体でも必死に動かし、焼ける右手を懸命にシロウに伸ばす。拳を握るが、小さいシロウは掴めない。ヤツが小さくなってもお前は勝てない。アモンはそう神に言われた気がした。
「リィアネフウゥゥゥゥーーーーーー!!!!」
ドオオオオオオオオオン!!!!!!
2輪の花が重なり水蒸気爆発を起こし、アモンの体を木っ端微塵にした。最後のに言い放ったのはシロウの元の名前だった。その様を2人はただ見ていた。悲しむことも、悔やむことも、彼を
「12年前と似た感じがする。」
「似てるけど違う。こんなに汚れてなかったよ。」
ウィリアとシロウではこの景色から感じ取れるものが違ったが、浮かんだ景色は同じだった。アモンの気配が完全に消えたのを感じた2人は膝から崩れ落ちた。だが倒れることを拒むように、地面に剣を突き立てて、2人はなんとか堪えた。
「「ハァ……ハァ……ハァ……。」」
お互い疲れ切っていたが先に息が落ち着き立ち上がったのはウィリアだ。
「まだ戦える?」
シロウに余裕そうな表情で手を差し出した。シロウは手を見た瞬間大きく息を吐きながら笑うと差し出された手をしっかりと掴んで立ち上がった。
「もちろん。」
遠くで戦っているアンドラスが上空に飛んでいる。それを見た2人の中にあった疲労感は一瞬で吹き飛んだ。アイツが1番の目標だ。ヤツを見た瞬間から、2人の身体は既に動いていた。
「追いかけるよ。」
そう言い切るとシロウは剣を抜き、札を取り出して食いちぎった。札は燃えシロウの身体は赤い炎に包まれ水色の氷に覆われる。割れると中からはフェンリルの姿になったシロウが出てくる。見た目はほぼオオカミで、毛の根本は濃い紫で毛先は色が抜けて灰色になっている。
「最後はアイツだけだ。」
口で刺していた棍槍剣を抜いて加える。ウィリアが飛び乗り背中を叩く。乗ったことを確認すると疾走した。フェンリルの姿になっただけあり、2人の全速力を遥かに凌駕していた
レオンとサバージの攻撃を避けながらアンドラスは戦況を見ていた。彼はほくそ笑んでいる。
勝った。
アンドラスが今の状況を見て出た言葉だ。悪魔術式を使うだけでここまで追い込めるとは、アンドラス自身にとっていい意味で予想外だった。レオンとサバージは完全に背を向けて飛んでいるアイツをただひたすら走って追いかけるだけだった。距離が縮まることはない。
「これでは埒が明かない。なんとかあいつを落さなければ。」
「そうしたいのは山々だが今のアイツには無駄弾、当たらないのなら使いたくはないニャ。」
サバージの左手に持つ改銃は6発シリンダーが2つ付いている変わった銃。それを2丁持っているが、すでに1丁分無駄弾として使ってしまった。百発百中のサバージでさえアンドラスには1発も当たっていない。
「それ私たちに任せてください!」
「ウィリア!」
追いついたウィリアが言うとそのまま追い越して行った。追い越された2人も後に続く。先に行ったウィリア達は剣先をアンドラスに向けていた。だがアンドラスに当てるには距離があった。
「シロウ君、もっと早く走れる?」
「わかった。飛ばされないでよ。」
シロウは更に加速した。歩幅がさっきの倍以上に伸び足の回転も速くなる。なんとか射程距離内に入ったウィリアだが、今度はシロウの揺れで狙いが定まらない。歯を食いしばって懸命に狙いを定めようとするが、それでもブレてしまう。
「シロウ君、もうちょっと落ち着いて走って!」
「そんな無茶言わないでよ!」
「ただでさえ遠いからブレると余計当たらないの!」
「じゃあどうしろと!」
「私を揺らさないでよ!」
「そんなん無理だよ!」
「無理って言わないで頑張ってよ! 男の子でしょ!」
「……アンタはそうやって文句ばっかり言って!」
ウィリアの無理な要求をついに精神論でどうにかしろと言い始めた。その時ムカついてたシロウの頭に、乱暴だが一番の解決策が出てきた。
「……近づいて狙いが定まればいいんだよね?」
「さっきからそう言ってるじゃん!」
「じゃあ……こうしてやるよ!!」
その瞬間、シロウは体全体に「気」を流していたのを足だけに集中させ思い切り高く飛び上がった。アンドラスの方に一直線に向かい距離は一気に縮まる。遠くから近づく悲鳴にアンドラスが気付いて振り返った時、すでに涙目になっているウィリアの狙いは定まっていた。
「これでどう!?」
「完璧! [リュミエール・ソレール]!」
「[クレッセント・スラッシュ]!」
一点に集中された光線と斬撃波が一直線に飛ぶ。それらは確実にアンドラスに直撃した。光線は肩部を貫通し、羽の根本も貫いた。シロウが首を振って出した斬撃波は腹部を深く傷つけた。
「ウグゥアッ!!」
羽を動かせなくなったアンドラスは羽虫のように落ちていく。下ではサバージとレオンの2人が抜刀の準備をしていた。
「「ハアァア!!」」
2人の刃は脇腹を深く斬りつける。初めてアンドラスに対して「斬っている」感触を持った。転がりながらもなんとか体勢を立て直す。白衣は汚れて血に染まっている。息は荒く、立ち上がる時の体の動きはぎこちなかった。アンドラスの目の前には4匹が武器を持って構えていた。
「アンドラス! お前の負けだ、諦めて投降しろ!」
「ククク……フフフフフフ……。」
アンドラスの堪えていたものがついに限界に達した。
「フハハハハハハハハハ! アーハッハハハハハハハハハ!!!」
高らかに笑う姿は4人に不気味さを感じさせた。
「何がおかしい?」
「おかしいだろ。なぜ私が『
「何だと? お前らの能力底上げじゃないのか?」
「ならあえて聞こう。君たちが今まで戦っていたのは一体何だ?」
「……どう言うことだ?」
「フフフ……そう言うところだぞレオン・ヘルガー。だから……。」
グシャッ
アンドラスの後ろに濃い霧が現れ、そこから2本のサーベルがアンドラスの頭を突き刺した。こじ開けるように開くと突き刺された体は裂けた。後ろから現れたのはなんとアンドラスだった。さらに後ろからは、先ほど倒したはずの3人が気絶したワイバーンとシルベスターを十字架に
「お前らはすぐ騙される。」
人はそれを見て絶句した。6人全員が騙された。全てが嘘だった。今までの獣国騎士団全員が倒したものは全て幻でしかなかったのだ。
「ワイバーン!」
「シルベスター!」
起きたことを把握できたレオンとサバージはワイバーンとシルベスターに声をかけたがウィリアとシロウは何が起こっているのかがわからずただ呆然としていた。
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