ヒロインサイド 綾瀬瑞穂

 朔夜との出会いから告白までの話となります。


 ―――――




「好きです!!付き合って下さい!」

「・・・・・ごめんなさい」


 放課後の屋上に呼び出され、向かった私に待っていたのは見知らぬ男子からの告白でした・・・


 これでもう、何回目だろう・・・


 断るのと同時に深々と頭を下げた私はそう思いながらも、心の中で相手に再度 (ごめんなさい)と謝る。


 そして、相手の人が「そっか・・・」と言って立ち去るまで、ずっと頭を上げる事はしなかった・・・


 高校に入学して、幾度となく経験してきた光景・・・


 自惚れるつもりはないけど、これだけ告白されたら自分が男子からどう見られているのかくらい流石にわかっているつもり・・・


 でも正直、知らない人や知っていても話すらしたこと無い人達に告白されても困るだけ・・・


 本気で言ってくれている人には、こちらも本気で申し訳ない気持ちになり気分が落ち込んでしまう。


 中には、物は試しとかあわよくば程度で告白してくる人もいる。

 告白される私だって毎回緊張してドキドキするし、相手をなるべく傷つけないように気を遣っているというのに・・・


 もちろん、知っている人だったとしても好きでもない人に告白されたって・・・

 断った時、その後気まずくなるのが辛い・・・


 そんな私の気持ちをわかってくれる人はほとんどいない。


 ふぅ・・・と、溜息を吐きながら、誰も居なくなった屋上を後にする。


 そして階段を降りている途中で、廊下を歩いている男子2人がこちらをチラッと見た。


 すると、1人の男子が・・・


「お、綾瀬さんだ。先に男が降りてきた所を見ると、また告白でもされたか?」


 と、隣の男子に耳打ちしている。


 本人は小声で話しているようだけど、私の耳にもわずかに届いていた。


 告白されると、その相手との事だけじゃなくて、こういう事もあるから嫌だなぁ・・・と思っていると。


「やめとけよ。そういう余計な詮索はすんなって」


 と、耳打ちされた男子が私を庇うような発言をしてくれて、私は少し驚いた。


 今までは同じような状況になると、男子達で盛り上がっていたから。


 彼のように窘める人なんていなかった・・・


「ちぇっ、朔夜は真面目だなぁ」


 ふ~ん、彼は朔夜くんっていうんだ・・・


 その、朔夜くん・・・は、真面目と言われてプリプリ怒り出す。


「真面目じゃねえよ!俺のどこが真面目だってんだ!?」

「確かに、お前ほどふざけた奴はいないわな」


「おい!言うに事欠いて、どういう事じゃい!!俺は真面目だよ!」

どっちだよ(どっちだよ)!」


 突っ込んだ彼と同時に、私も心の中で笑いながら、つい突っ込んでしまう。


 私を庇ってくれた上に面白そうな彼が少し気になり、階段を降りる私の前を彼らが通り過ぎた後、私はそのまま陰に身を潜めて彼らの話を聞いていたのです。


「しかし、本当に彼女はモテるよなぁ。俺が付き合えるとは思わないけど、試しに告白してみようかなぁ。万が一って事もあるしさ」


 先程、朔夜くんに耳打ちしていた方の男子が、私の気も知らないで軽はずみな事を口にする。

 それに対して・・・


「だから、そういうのもやめろっての!お前が本気だというなら応援してやらなくもないが、あわよくば程度で考えてるなら、相手の迷惑になるからマジでやめてやれって」


 また朔夜くんが、私を庇うような発言をする。


 ううん・・・違う・・・


 朔夜くんのその言葉は私個人を庇ったのではなく、相手が本気で嫌がる事をするのを心底嫌っている気持ちから出た言葉なんだと思う。


「お前もバカやって周りに迷惑かけてんじゃん」

「ああん?確かに迷惑をかけているかもしれんが、俺がいつ人を傷つけたり辛い思いをさせたりするような迷惑をかけたよ?」


「ま、まあ、そう言われるとそこまでじゃないけどさ・・・」

「今回に限って言えば・・・お前がさっき言ってた事から察するに、彼女は散々そういうの相手にしているんだろう?告白するのも勇気いるし振られれば傷つくかもしれないが、断る側だって勇気が必要だし断った時に傷つかないわけがねえだろ。少しはそういう事も気にしてやれって言ってんの」


 ・・・・・


 正直、私は少しだけ胸が熱くなった・・・


 今まで一体誰がそこまで考えてくれた事があるんだろう・・・

 精々、私の本当に仲の良い友人くらいだけ。


 話しぶりからすると、朔夜くんは私の事を知らないみたい。


 にも関わらず・・・

 見ず知らずの私に・・・


 自分の友人に対してであろうとも、見知らぬ他人の気持ちを考えてたしなめてくれている。


 それが本当に嬉しかった。


 朔夜くんにその気は全くないのだろうけど、私が彼に興味を抱くには十分な出来事だったのです。


 ・・・・・


 それから私は、朔夜くんを見かけると目で追うようになる。


 仲間内でバカをやって楽しそうな彼。

 友達に弄られてプリプリと怒る彼。

 食堂で昼食を幸せそうに食べている彼。


 私は朔夜くんを見れば見るほど、もっと知りたいと思うようになっていた。


 ・・・そんなある日。


 私の気持ちを決定づける衝撃的な出来事が起こる。


 それは、いつものように屋上に呼び出された時の事・・・


「好きです!俺と付き合って下さい!」


 やはり、いつもと同じように見知らぬ男子からの告白。


「ごめんなさい!」


 私もいつもと同じように、申し訳なく思いながら深々と頭を下げる。


 そして、いつもと同じように相手は去って行く・・・

 と、思っていたのだけれど、その日は違っていた。


 頭を下げる私の前から中々立ち去る気配を感じないので、私は頭を上げてみた。


 すると私の目に写ったのは・・・


 その人は手をギュッと握りしめ体をプルプルと震わせ、悔しさと怒りを滲ませたような表情を私に向けて立ち尽くす姿だった。


 私はその視線に (恐い・・・)と感じてしまう。


 そして、相手はその表情・視線を私に向けたまま口を開く。


「ふ・・・ふざっ、ふざけんじゃねえぞ!こっちはどれだけ勇気を振り絞って告白したと思ってんだよ!!」


 相手は私に向けて怒鳴り声をあげた。


 そ、そんな事言われたって・・・

 わ、私だって・・・


 そんな私の気持ちなんて知る由もない相手は、更に暴言を吐き続ける。


「そうやって、男をたぶらかして楽しいか!?本気の奴の男心を弄んで楽しいか!?どうせ、沢山の野郎に告白される自分に酔ってんだろ!?断った相手が傷つき惨めな様を見て楽しんでんだろが!!」

「ち、ちがっ、違う!そ、そんなつもりは・・・」


「違わねえよ!!だったら何で、全部断ってんだよ!!何で、誰とも付き合わねえんだよ!!実際、本気でお前に惚れて断られた俺は、傷つけられて惨めな気持ちになってんだよ!」

「・・・っ!!」


 あまりにも自分勝手な物言いとはいえ、私にはかなりのショックを受けてしまった。


 そして居ても立ってもいられなくなった私は、その場から走り出す。


 その背後から「ふざけんじゃねえよ!逃げんなよ!」という声をぶつけられた。


 その声にも止まらず、私は目に涙を溜めながら屋上から走り去っていく。


 どうして・・・


 何がいけなかったの・・・?


 私が悪いの・・・?


 告白されるのは私のせいなの・・・?


 断ってはいけなかったの・・・?


 じゃあ、どうすればよかったの・・・?


 告白されたら、好きでもない人と付き合わないといけないの・・・?


 そこに私の気持ちが介入してはいけなかったの・・・?


 ・・・


 そんなの・・・


 私が私である必要がないじゃない!!


 感情を押し殺してまで、相手に合わせないといけないの!?


 相手が満足するなら、私の気持ちなんてどうでもいいの!?


 それこそ、私を1人の人間として見てないじゃない!


 私だって、1人の人間だよ!?


 私の気持ちはどこに向ければいいの!?



 もう、私の頭の中がぐちゃぐちゃだった。


 どうすればいいのか、どうしたらよかったのか・・・

 自分の気持ちは誰が理解してくれるのか・・・


 いくら考えても答えの出ない問い掛けが、頭の中をずっとグルグル回る。


 涙で視界が歪み頭を下げながら階段を駆け下りていき、廊下に差し掛かった時・・・


 ドン!!


 と、誰かにぶつかってしまった。


「おおう!・・・っとと、大丈夫か?結構な勢いでぶつかったけど」


 私はぶつかった拍子で後ろに跳ね返りそうになったけど、ぶつかってしまった相手が支えてくれたため、後ろに倒れずにすんだ。


 しかも、思いっきりぶつかってしまったのだから相手も痛くないわけがないのに、そんな素振りは一切見せず先に私の心配してくれた。


 そんな彼と目が合うと・・・


 私の心臓が跳ね上がった・・・


 だって、私がぶつかり支えてくれたのが・・・


 偶然にも・・・


 朔夜くんだったからだ・・・


 でも正直、今は見られたくないと思うほど、絶対に酷い顔になっているはず。


 そんな私の状態を気にすることはなく彼が口を開く。


「おい、大丈夫か?怪我とかないか?・・・鼻が赤くなってるけど、俺とぶつかったせいで・・・(というわけじゃ無さそうだな)」


 朔夜くんの顔を見て何も言えずにいる私に、彼は心配し続けてくれる。

 しかも、私の今の酷い顔を見て状況を察したみたい。


 本人は言葉にしていないつもりなのだろうけど、ボソッと呟く声が聞こえた。


 でも、私に何があったのかについて、触れないようにしようとしてくれている彼の気持ちがありがたかった。


「なあ、本当に大丈夫か?なんなら保健室に連れて行こうか?」

「う、ううん、だ、大丈夫だからっ!」


 ずっと心配してくれている彼に、少し恥ずかしくなった私は顔を下に向けながら少し離れた。


 と、その時・・・


「・・・!!・・・あいつ・・・あいつか!?・・・あいつなんだな!!!」

「えっ!?」


 ボソッと朔夜くんの呟く声が聞こえた。


 私は朔夜くんが何を言っているのかわからず、顔を上げて彼の顔を見た。


 するとそこには、今まで彼の見たことも無いような怒りの表情を階段の方へ向けていた。


 正直かなり驚いた。


 普段、彼を眺めていた時に、決して見たことが無かった表情。


 彼が友達と居る時に怒ったりする事はあるけど、それはどちらかというと戯れているという感じであり、本気で怒っているような感じは一度たりともなかった。


 そんな彼が、本気で怒っているとわかるほどの表情。


 それを向ける視線の先に、私も目を向けると・・・


 1人の男子が階段から降りてくる光景。


 それは先程、屋上で私が告白を断った事で暴言をぶつけてきた相手だった。


 私も朔夜くんも、私の今の状態については何一つ触れていないのに、彼は私に何があったのかわかっている様子だった。


 だからこそ、朔夜くんは階段から降りてきた相手に怒りの眼差しを向けているのだと・・・


 ・・・私はそう感じた。


 その表情を向けられた相手は朔夜くんと私を一瞥すると、やばいというような表情で階段を更に下に駆け下りていく。


 それを追うように、朔夜くんが一歩踏み出そうとする。


 朔夜くんが相手を追おうとする光景を見て、私のせいで大変な事が起こるのではないかと不安に陥った。


 だから、私は朔夜くんを止めようと彼の前に立ちはだかる。


「ち、違う、違うの!私が悪いから!あの人は関係ないの!」


 私はそう言って、進もうとする彼の胸を両手と体で押さえる。


 すると、朔夜くんは私に顔を向ける。


 そこにあった、彼の顔は・・・


「・・・ああ、大丈夫。わかってるから・・・あんたは何も悪くない。だから気に病むことは何も無いんだ」


 と言う優しい言葉と共に向けられた、ニコッとした満面の笑顔だった。


 ああ、朔夜くんは私の名前すら知らないのに・・・

 それなのに、そんな見ず知らずの私の心情を察して・・・


 そんな朔夜くんの優しい言葉と優しい笑顔にあてられ、私の心は救われていくようだった。


 そしてそれが故に、私の抑えこんでいた気持ちが完全に緩んでしまった。

 内から溢れ出る感情を堪えきる事が出来なくなり、ついに爆発してしまう。


 ・・・・・


 私は盛大に泣いた・・・

 人目もはばからずにワンワン泣いた・・・


 彼の胸の中で・・・


 彼は何も言うことはなく、その場から立ち去ろうともせず、私が泣き止むまでずっと黙って胸を貸してくれていた。


 その間、左手で私の頭を優しく撫で、右手で背中をずっと優しくポンポンとしてくれていたのです。


 ・・・・・


 あ、良い香り・・・

 私、この匂い好きかも・・・


 泣き止んで少し落ち着いた私は、朔夜くんの匂いに包まれていることに気がついた。


 それは、私が朔夜くんの事が完全に好きになったのだと気がついた瞬間でもある。


 ただ単に、この匂いが良い香りなのではなく・・・

 彼の事が好きだからこそ、この匂いも良い匂いに感じて好きなのだと・・・


 それと同時に、朔夜くんの胸に抱きついたまま恥ずかしい姿を見せてしまった事を思い出す。


 私は恥ずかしくなって、慌てて朔夜くんから距離を取った。


「ご、ごご、ごめんね!変な所を見せた上に、変な事までしちゃって!」

「別に変な事じゃないだろう?泣きたい時はすっきりするまで泣けばいいさ」


 私は焦りながら謝ると、朔夜くんは優しい言葉をかけてくれる。


「そ、それに。制服汚しちゃったよね・・・ごめんね」

「何言ってんだよ!男のYシャツなんて汚れてなんぼだろが!汚い・臭い・キモいの3Kがそろって・・・って、あれ?」


 朔夜くんは自分で言っておきながら、ズーンという音と共に落ち込んでいる。


 更に・・・


「・・・そうだよ、俺は汚いし臭いしキモいんだよ」


 と、いじけだした。


「くすっ。大丈夫だよ!キミは汚くも臭くも気持ち悪くもないよ!私が保証するから!」

「そ、そうかぁ・・?」


 だって、私の事を庇って、私の為に怒ってくれて、私に優しくしてくれた朔夜くんが、そんなはずあるわけないじゃない!


 他の誰がそんな事を言ったとしても、私だけは絶対にそんなことは言わないし思わないよ!


 匂いに関しては特に・・・


 私の大好きな・・・


 私が大好きになった匂いなんだから!


 そもそも、私を元気づけるため・・・私の意識を別に向けようとするために、そういう事を言ってくれたんでしょ?


 朔夜くん自身が本当にそのつもりが無かったとしても、私はそう受け取って感謝するからね。


 私は彼に何があっても・・・


 彼の事を誰が何と言おうとも・・・


 私だけは朔夜くんの事をわかってあげるから!


 そう思いながら、私の言葉が未だに半信半疑な朔夜くんに笑顔を向けて・・・


「それよりも・・・ありがとう!!キミのおかげで大分すっきりしたよ!」

「あ、ああ、大した事はしてないけど、気が晴れたならよかったよ」


 私が感謝の言葉を伝えると、朔夜くんは本当に大した事はしていないという表情で頭をかいていた。


 そして次の瞬間、優しげな顔になった朔夜くんが・・・


「まあ・・・色々・・と、あまり気にすんなよ?」


 と言ってくれた。


 再び涙がこぼれそうになるが今度はグッと堪えて、朔夜くんに笑顔を向け・・・


「うん、本当にありがとう・・・じゃあ、またね!朔夜くん・・・・♪」

「あ、ああ、じゃあな・・・って、ん?俺、名乗ったか?」


 最後に朔夜くんの名前を呼んだことで、朔夜くんは首を傾げる。


「くすくすっ」


 私は首を傾げる朔夜くんがおかしくて笑ってしまう。

 それに対して、朔夜くんは疑問を私に投げかけてくるのだが・・・


「な、なあ、いつ俺の名前を知ったんだ?あ、それとあんたの名前はなんて・・・」


 と、朔夜くんが話している途中で、私は駆け出していく。


 そして少し離れた所で立ち止まると・・・


「ふふっ、秘密だよ♪」


 と言いながら、いたずらっ子の様な気分でべぇと軽く舌を出して、またすぐに駆け出した。


 ふふっ、私が朔夜くんの名前をいつどこで知ったのかなんて・・・

 そして私の名前は、私からなんて・・・


 絶対に教えてあげないんだからね♪


 キミが私に興味を持つまでは・・・

 それまではお預けだよ!


 色々と悶々とすればいいんだよ♪

 ふふっ。


 と、ちょっと子悪魔的な考えが浮かび、それが何となく楽しくなっていたのです。



 ・・・・・



 そして翌日。


 私が教室にいると、先日呼び出された男子が私の教室に来て、廊下に来て欲しいと言ってきた。


 私は少し嫌だったけど、廊下なら人の目もあるし変な事にはならないだろうと、その呼び出しに応じて廊下に向かう。


 すると・・・


「昨日は綾瀬さんの気持ちも考えずに、自分勝手なこと言って本当にごめん・・・悪かった・・・もう、あんなことは二度としないし言わないと誓うから」


 とだけ言い残し、足早に去って行った。


 私は正直驚いた。

 だってあれだけの事があったら、普通なら互いに顔を合わせづらいと思うのに、翌日にあんなに素直に謝ってくるとは思いもよらなかったから・・・


 ただ、昨日告白された時は無かったはずなんだけど、今謝っていた時の彼の顔が少しだけ赤く腫れ上がっていたのは気になっていた。


 もしかしたら、朔夜くんが何かしてくれたのかもしれない・・・


 朔夜くんが昨日言っていた、色々と気にすんなという言葉。

 この事も含めて言っていたのだろう・・・


 でも、だからといって・・・

 私のためだからといって、危険になるような事に足を突っ込んでほしくはない・・・


 そう思いながらも、嬉しく感じている自分にも気がついていた。


 その後、朔夜くんが先日廊下で女子生徒を泣かせていたという噂が広がる。


 でも朔夜くんは、冗談なんかを言って誤魔化していたようだけど、相手の事については一切何も言わなかったらしい。


 彼は自分が何を言われようとも・・・


 どんな目で見られようとも・・・


 他人の名誉を守ろうとする・・・


 傷ついたり傷つけられても、絶対に他の人の心を傷つけたりしようとはしない・・・


 もし、他の誰かが相手を傷つけたりすれば、その傷つけられた人の為に怒り、傷つけた人にも本気で怒る彼・・・


 多分、それを知っているのは・・・

 自惚れでも何でもなく・・・


 私だけだと思う・・・


 だから、私も彼の為に出来る事を・・・

 彼の噂が間違いであることを、やんわりと広めて沈静化させていったのです。


 ・・・まあでも原因は別だけど、確かに最終的には朔夜くんの優しさで泣かされたのだから、あながち間違いではないんだけどね♪


 ・・・・・


 そしてその後、彼とは特に進展する事はなく、私が彼を目で追う日々が続き、気が付けば高校2年生になっていた。


 クラス替えがあり、同じクラスに彼の名前を見つけた時と、クラスで彼を見かけた時には私の心は跳ね上がった。


 そして流石に同じクラスになれば、彼も私の名前をちゃんと覚えてくれたよ。


 でも私が無様な姿をさらした時、私の顔はあまりにも酷かったので、朔夜くんはあの時の女子生徒が綾瀬瑞穂だという事は気がつかなかったみたい。


 うん、私はそれでもいいの。

 顔も覚えていない、見ず知らずの人の心を救ってくれようとした、優しい彼であるという事実だけがあれば・・・


 それから、同じクラスになった事で彼と話す機会も増え、更に彼は私の噂についても周りから聞かされて、その事も認識するようになっていたようだ。


 だからと言って、朔夜くんが私に対する態度が変わるような事は無かったけど。


 そして、ある日の昼休み・・・


「よっしゃああ!また俺の勝ちだぜぇい!!」

「くっそぉ!」

「朔夜強すぎじゃね?」

「いかさまか!?おい!」


 ふふっ、朔夜くんは楽しそうだね。


 そう思いながら、ボーッと眺めていると。


「よし!そろそろ時間だし、次がラスト勝負な!ラストは普通にやっても面白くねぇ!一番負けた奴は罰ゲームだ!!」

「はあ?マジかよ!?」

「自分が勝ってるからってよぉ・・・」

「・・・ま、いいけどさぁ・・・で、罰ゲームは何にするんだよ?」


 朔夜くんは、自分が負けるとは思っていないみたい。

 クラスの皆にも聞こえるように、大声で叫んでいる。


 これは、クラスを巻き込んで何かするつもりなのかな?

 と、朔夜くんをよく知っている私は、何をさせるつもりなんだろうと、ワクワクしながら耳を傾けていた。


「ふふふっ・・・それはだな・・・」

「「「それはそれは??」」」


「クラスの女子に嘘告するのだぁ!!」

「「「はあああああ!?」」」


 おお!!

 中々斬新だね!


 わざわざ皆に聞こえるような声で言うって事は、どう考えても「ごめんなさい」を言われること前提で、朔夜くんは罰ゲームを考えている。


 クラス全員が罰ゲームで嘘告するとわかっているのだから、告白される側も変に悩む必要はないし、断るにも気軽に出来るもんね。


 とはいえ、朔夜くんは負けそうにないし、面白そうではあるけど・・・

 正直どうでもいいかなぁ・・・


 と考えていたのだけれど・・・


「はい、というわけで!」

「朔夜くんのぉ!」

「罰ゲーム決定!!」

「ぬがあああああ!」


 えっ!?本当に!?


 朔夜くんが負けたの!?


 その事実に私は興味を前面に押し出す。


 だ、だれ!?

 朔夜くんは誰を選ぶの!?


 私はドキドキしていた。


 私が選ばれる可能性は低いかもしれない・・・

 私の噂を知って、嘘でも告白したら迷惑をかけるかもしれないと思って・・・


 でも・・・


 でも、もしかしたら逆に、皆の前で気軽に「ごめんなさい」を言う機会を作る事で、これからも告白を断りやすく出来るように・・・と考えて、私を選んでくれるかもしれない。


 そう期待を込めて、私は朔夜くんが教壇に向かって口を開くのを今か今かと待っていた。


 そして、彼の口から出たのが・・・


「綾瀬さん・・・」


 !!!!


 や、やった!やったよ!!


 ふふっ、これで・・・


 朔夜くんは間違いなく「ごめんなさい」を求めているのだろうけど・・・


 残念ながら、そういう事にはならないんだよ♪


 私は朔夜くんに対して、「ごめんなさい」の選択肢はないのです!!


 朔夜くんは、逆にビックリするだろうなぁ。

 とウキウキしていると・・・


「花崎さん・・・」


「佐久間さん・・・」


 と、他にも2人の名前が挙がった。


 その事に少し驚いたけど・・・


 盛り上がらせたい彼の性格からすれば納得は出来る。


 でも、2人はどう思っているんだろう・・・?


 そう思って、みなもちゃん、そして千里ちゃんと目を合わせる。


 その2人の目に宿る感情を見て、私は確信する。


 ・・・ああ、2人も私と同じ気持ちなんだね?


 だったら、やることは1つだけ!


 3人とも彼の嘘告を、本当の告白として受け取り・・・そして・・・


 そんな事、普通ならありえないかもしれない・・・


 でもね・・・


 私は・・・彼を独占したいとは思わないから・・・


 私は彼の近くに居られるのであればそれでいい。

 一緒にいられるだけで幸せなの・・・


 それに、私が好きな彼を好きな人には悲しい思いはしてほしくないし・・・


 今まで私が断ってきた人には、そういう思いをさせてきてしまったのだと気がつき、申し訳ないという思いがあるけれど・・・


 でも、それに気付いたからこそ、私はもう迷わないと決めた!

 私も彼らのように、私は自分の思いを優先する!


 その思いとは、自分の事だけに限らない。


 私は朔夜くんが好きで一緒にいたい!

 それと同じように、彼の事を好きで一緒にいたいと思う人が他にいても構わない。


 むしろ、私が大好きな彼の事が好きな人がいるっていう事が凄く嬉しく感じるの。


 だからね・・・


「す、好きです!付き合って下さい!」


 朔夜くんの告白に対して・・・


 私の・・・


 私達の答えは・・・


「「「・・・お願いします」」」




 ――皆が笑顔でいられますように――




 END・・・






 ―――――


 あとがき


 お読みいただきありがとうございます。

 とりあえず、これで完結とさせていただきます。


 ヒロインサイドや、他に何か追加するようなことがあれば、またサイド更新いたします。


 最後までありがとうございました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

罰ゲームだからこそ、面白おかしく3人に告白してフラれようとしたら・・・OKでした!・・・あれぇ?? 黄色いキツネ @kitakitsune3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ