第18話 朔夜、餌やり動物と化す!?







 最近、頭を使いすぎて糖分が足りない・・・


 故に、甘い物が食べたくなった。


 そこで俺は無意識に呟いてしまった・・・


「甘い物が食べたい・・・」


 と・・・


 別に誰かと行きたいとか、今すぐ食べたいというつもりであったわけではない。


 だから無意識とはいえボソッと呟いてしまっても、聞かれていないと思っていた・・・


 にも関わらず、彼女達の地獄耳デビルイヤーは、僅かな声すら聞き逃すことはしないのである。


 その結果・・・


 ・・・・・


 なんじゃ、この状況はああああああ!!


 と、本気で心から叫んでしまう。


 今俺がいるのは、パンケーキをメインとして最近大人気となったスイーツ店。


 それはいい・・・

 それはいいのだが・・・


 見渡す限り・・・女・・・女・・・女・・・


 男が誰一人としていない・・・


 客はもちろんの事、店員も含めてである。


 ・・・・・


 いや、正確には一人だけいる・・・


 それは・・・


 俺だ・・・


 ・・・・・いやいや!!

 おかしいでしょ!!マジで!!


 確かに甘いものが食べたいと呟きましたよ!!

 呟いてしまいましたよ!!


 しかも、この店も気になっていたことは間違いないよ!?


 でもさぁ・・・


 男が俺以外ゼロっておかしいでしょ!

 99%が女性ってさ!!


 なんだよ、この女の園は!!

 俺なんかが足を踏み入れちゃダメな場所でしょうが!!


 こんな所に来ていいのは、イケメソいけめそだけでしょうが!!

 イケメソだから許される場所でしょうが!!


 なんでこんな場所に連れてこられてんの!?

 いたたまれないでしょうが!!


 今だって、他の女性客や店員からニヤニヤとした好奇の視線が突き刺さる・・・


 こんな・・・こんな羞恥プレイなんて・・・


 はあ・・・はあ・・・


 か、快感に・・・


 ・・・・・


 って、ちげえええええええつーの!!


 前にも似たような事があったけど、俺はノーマルだっての!!


 変な性癖に目覚めたくはないの!!


 つーか、最近の俺・・・

 マジでやべぇな・・・


 精神崩壊しているせいで、現状から逃げたいからって・・・

 脳細胞が何でもかんでも快楽に変換しようとしている感が半端ねえ・・・


 もうホント・・・

 色んな意味で助けてほしいです・・・


 と、俺がひそかに心の涙を流している事など彼女たちはつゆ知らず、楽しそうにしている。


「このお店、前から来たかったんだよね♪」

「うん、私もぉ!あまりにも人気あるから混んでそうで、来る機会がなかったもんねぇ」

「本当ね。そんなに待たずに入れたから、今日の私達はタイミングが良かったようね」

「うんうん、これは提案して連れて来てくれた朔くんに大感謝だよ♪」

「朔たんにしては珍しく良い事したね!」


 ・・・・・

 って、ちょっとまて!


 さすがに聞き捨てならないセリフがあるぞ!!


 俺は提案もしてなけりゃ、連れてきてもいねえ!!

 俺はただ甘いものが食べたいと思っただけだし、むしろ無理矢理連れてこられた方なんですけど!!


 そして美鈴!!

 俺にしては珍しくってなんだよ!!


 むしろ俺は、良い事しかしてねぇ!!(誇張)


 そもそも今日は俺、何もしてないし・・・

 勝手に展開が進んでいるだけだし・・・


 ・・・はあ。

 みんな喜んでいるようだし、まあいいけどさぁ・・・


 もうここまで来たら、俺も開き直ってパンケーキでも堪能するか。


「ねえ、皆は何にする?」


 瑞穂は決めかねているのだろう。

 俺達に何を注文するか尋ねてくる。


「う~ん、たくさん種類があるから迷うよねぇ・・・」


 みなもの言う通り、かなり種類が豊富なのだ。


「そうよね。パンケーキ以外のスイーツも美味しそうで、目移りしちゃうわね」


 そうなんだよな。

 メインはパンケーキだが、それ以外のスイーツも美味しそうなのが揃っている。


「うう、確かに他のスイーツも気になるけど・・・私は、今日はパンケーキと決めているんだ!浮気はしない!」


 いや、美鈴よ・・・

 スイーツ選ぶのに浮気もないだろうが・・・


「うんうん、そうだね!浮気はよくないよ!だから今日はパンケーキ!・・・とはいえ、種類が多くて悩むよ~」


 琴音も、う~んと言いながら頭を悩ませている。


 確かに種類は多いし、気になるものもあるが。

 俺はすでに決まっている!


「ふふふっ!俺はモンブランだ!モンブランパンケーキ、それ一択しかない!!」


 イチゴやアイス系の物も捨てがたいが、俺はモンブランがあればモンブランと決まっているのだ!


 それにパンケーキのモンブランって、どんな感じなのか気になるし。


 俺が即決で選ぶと、5人はおおっ!という表情を俺に向けていた。


「朔夜くん、なかな良いチョイスだね」

「確かにモンブラン美味しそうだねぇ♪」

「確かにそれも気になってはいたのよね」

「うう~。朔たんのせいで、ますます迷うじゃんかぁ」

「じゃあさ、じゃあさ!みんなで別の物を選んでシェアしない?」


 皆が迷いを見せている中、琴音がそう提案する。


 その提案に、皆が『おお、それいいね!そうしよう!』と賛成すると、あっさりと注文が決まったので店員を呼ぶ。


 俺はもちろんモンブラン、瑞穂はイチゴショート、みなもはチョコバナナ、千里は抹茶、美鈴はチーズムース、琴音は4種のベリーとなった。


 ・・・・・


 って、あれ?

 シェアの中に、もしかして俺も入ってね?


 ま、まあ別にシェアすること自体は構わないんだが・・・


 なんだろう・・・

 物凄く嫌な予感がするんだけど・・・


 そんなことを考えつつも、皆とたわいのない会話をしている間に、注文したパンケーキが運ばれてきた。


「うわぁ、いい匂い!」

「美味しそうだねぇ♪」

「見た目も綺麗ね」

「早く食べたいよ~!」

「その前に写真だよ~!写真♪」


 おお、確かに俺も写真に残しておこう。

 別にイソスタとかやってるわけじゃないんだけどな。


 琴音の言葉でみんなが、思い思いにスマホのカメラで写真を収めていく。


「はい、朔夜く~ん!こっち向いて~!」

「ん?『パシャッ』」


「朔ちゃん、ほらこっちだよぉ」

「ん?『パシャッ』」


「朔夜君、こっち見てもらえる?」

「ん?『パシャッ』」


「朔た~ん、今度はこっち向いて」

「ん?『パシャッ』」


「朔く~ん、今度はこっちこっち」

「ん?『パシャパシャパシャパシャパシャ』」


 って、おい!連写!!

 連写はやめい!!


 気が付いたら、いつの間にか俺を撮ってんじゃねえか!

 しかも呼ばれる度に振り向いてたから、首を痛めたじゃねえか!!


 撮るのはパンケーキだろ!?

 パンケーキを撮れや!


 撮影料をとるぞ!?いいのか!?ああん!?


 つーか、そもそも俺なんかを撮ってもしかたないだろうが!


 そうは思うものの、楽しそうにしている彼女達を見ると毒気を抜かれていく。


「はあ、写真はそろそろやめて食おうぜ」


 皆は楽しそうにしながら、俺の言葉で写真を撮っていたスマホを置いてフォークに持ち替えていた。


 その様子を見て、俺も自分のパンケーキを食い始める。


 おお、これは美味いな!

 普通のスポンジケーキとはまた違った感じで、これはこれで有りだな。


 そう思いながら、俺は自分のパンケーキを堪能していると・・・


「本当に朔夜くんって、食べている時は幸せそうな顔をするよね」

「うん、こういう所が母性をくすぐられちゃうよねぇ」

「なんか、見てるだけでこっちも幸せな気分になれるわ」

「本当、朔たんって、こういう所が卑怯だよ」

「あはっ。この朔くんの幸せそうな顔だけで、ご飯3杯はいけるね♪」


 なんか、女性陣がこそこそ話しているな。

 気になるには気になるが、聞こえないものは気にしても仕方がない。


 まあいいかと、更にパンケーキを食べようとすると・・・


「朔夜くんの、モンブラン美味しそうです・・・一口下さい」


 と瑞穂が言ってきた。


「おう、いいぞ。食べたい分取ってくれ・・・って、はっ!?」


 俺は瑞穂が取りやすいように皿を近づけようとしたのに・・・


 なぜか瑞穂は、口を開けて待っている・・・


「瑞穂、好きなだけ取って「あ~ん」・・・いや、自分で取って「あ~ん」・・・」


 ・・・・・


 これか!?

 嫌な予感はこれだったのか!?


 俺は回し食いや回し飲みには、そこまで抵抗はない。

 今までも友人 (女子含む)同士ではよくやっていたからな。


 しかし、人前であ~んはないだろが!!


 ほらっ!!

 近くの席の女性たちも見てるじゃねえかよ!!


「朔夜くん、いつまでもこの格好は恥ずかしいんだけど・・・」


 じゃあ、やめろや!!


 とは思うものの・・・


 くっ!

 さすがに瑞穂に恥をかかせるわけにはいかん・・・


 そう考えた俺は意を決して、パンケーキを一口切り取ってフォークで刺す。


 それを瑞穂の口に持っていくのだが・・・


 くそっ!

 周りも皆見てやがる!!


 恥ず過ぎるじゃねえかよ!!


 そう思いつつも、何とか瑞穂の口に運んだ。


 パンケーキを口に入れた瑞穂は、これ見よがしにフォークを口で挟み、フォークにクリームが残らないほど綺麗に抜き取った。


「ん、はぁ~。凄い・・・なんか凄く美味しい気がする」


 ちょっ!!

 なんか全体的に艶かしいし、変に意識しちゃうからやめて!!


 その仕草とか表情とか言葉とかさ!!


 ドキドキするじゃねえかよ!!


「じゃあ、はい!朔夜くんも私の食べていいよ」


 瑞穂はそう言うと、自分のパンケーキをフォークに刺して俺の口元に持ってくる。


「い、いや、俺は自分で取るからさ・・・」

「遠慮せずに、はい!」


 くっ・・・

 やはり俺もやらないとだめなのか・・・?


「ほらほらっ、あ~ん」

「うっ・・・」


 瑞穂は口を開けとばかりに、口元にパンケーキを近づけてくる。


 くそっ!

 わかったよ!


 食べますよ!食べればいいんだろう!!


 俺はそう思いながら、瑞穂の差し出してきたパンケーキをほおばる。


「どう?おいしい?」

「あ、ああ・・・」


 って、味なんてわかんねえよ!!

 わかるわけねえだろが!!


 こんな他の客も含めて皆に見られた状態で、こんな事されたらさぁ!!


 羞恥プレイにもほどがあるだろおおお!!


 そう考える俺とは裏腹に、瑞穂は嬉しそうな顔をする。


 そんな瑞穂の顔を見て、まあいいけどさ・・・と、ため息を吐く。


 そして、瑞穂が俺のフォークで食べたことを意識しないようにしながら、俺は再び自分のパンケーキを口にする。


 すると・・・


「さ~くちゃん!私にも、ちょうだい!」


 と、今度はみなもが口を開けている。


「いや、だからさ・・・ほら、自分で好きなだけ取れよ」


 これ以上、羞恥プレイをさせられるわけにはいかん!


 という俺の願いは聞き入られることはないのである・・・


「んもう、朔ちゃん?差別はダメだよぉ?」


 違う!

 差別なんてしてない!


 恥ずかしいの!!

 こんな所でなんて恥ずかしいの!!


 更に言えば、今までは回し食いとしか意識してなかったのに、間接キスとして意識させられてドキドキするんだよ!!


「私にはダメなのぉ・・・?」


 くっ!

 ちくしょう!


 皆して、俺の弱点知ってんのか?

 俺がその上目遣いに弱いって知ってんのか!?


 ・・・・・


「だああああ!わかった、わかったよ!」


 俺はみなもの上目遣いに屈してしまう・・・


 そして、フォークでパンケーキを一口差し出すと、みなもは嬉しそうな顔を浮かべて口を開けた。


 くそう!

 やっぱり色んな意味で恥ず過ぎる!


 何とかみなもの口にパンケーキを入れると、みなもにも俺のフォークをきれいにされちゃったよ・・・


 変に意識しちゃうからやめてってば!!


 みなもはパンケーキを飲み込み、満足げな笑みを浮かべると、今度は・・・


「はい、朔ちゃん。あ~んだよ」


 やっぱりね・・・

 やっぱりなのね・・・


 抵抗したい所なのだが、それをするとみなもはまた悲しげな顔を浮かべるのは間違いない。


 さすがに何度もそんな顔をさせるわけにはいかない・・・


 仕方がないので、俺は抵抗する事なくみなもの差し出してきたパンケーキを口にする。


「んふふっ、これも美味しいでしょ?」

「お、おう・・・」


 だから、もう味なんてわからねえっての!


 そう思いながらも、俺は再び自分のパンケーキを食べる。


 すると・・・


「今度は私の番ね」


 ・・・・・


 いや、なんで俺が自分のパンケーキ食べるの待ってんの!?

 これは通過儀礼なのか!?


 そんな俺の嘆きも空しく、その後は千里・美鈴・琴音と同じように互いに食べさせあいをさせられた・・・


 その間、他の女性陣は互いのパンケーキの皿を回しながらシェアしていたのに・・・


 いや、俺もそれでいいじゃん!!

 なんで俺だけ食べさせあってんだよ!!


 俺は羞恥プレイなんて望んでねえの!!


 そうは思うものの、楽しそうな彼女達を見ると何も言えなくなる俺・・・


 そんな俺の気持ちもお構いなく、彼女達は美味しいからもう一皿頼んでシェアしようと言って追加の注文をしていた。


 と、そこに・・・


「朔夜あああああ!!あ~んしろおおおおお!!」


 と真白ちゃんが現れた。


 いや、満席の中でどこにいたんだよ!

 いつ入ってきたんだよ!!


 ・・・・・


 しかもフォークに刺さってるのはウインナーじゃねえかよ!!

 この店のメニューに載ってねえじゃねえか!


 持ち込みは厳禁です!!


 と突っ込みを入れたものの、甘い物ばかり食って塩辛い物を欲していたようだ。

 更には、先程の件で俺の精神が麻痺してきていたようで、俺は自然と素直に食いついた。


「ん、うまい」

「お、お、お、お前・・・!!わ、わ、私のフォークで・・・」


 ん?

 いや、自分で差し出してきて何で動揺してんの??


 まあいいや・・・

 それよりも、まだ俺のパンケーキが残ってるな。


 じゃあ・・・


「はい、どうぞ。真白先生」

「うっ・・・あっ・・・くっ・・・」


 俺は自分のフォークで残っているパンケーキを刺して、真白ちゃんの口元に持っていく。


 真白ちゃんは俺が差し出したパンケーキを見て狼狽えている。


 何を狼狽えているんだ?

 と疑問に感じた所で・・・


「そ、そ、そんな・・・事・・・出来るかああああ!!朔夜のばかああああああ!!」


 と叫びながら走り去っていったのである。


 ・・・・・

 店の中で、大声で叫ぶのは迷惑になるのでやめましょう。


 ・・・って、いや、意味わからんし!!

 何で自分からやれと言いながら、なんで逃げてんだよ!!


 真白ちゃんの行動を不可解に思っていると・・・


「あの~」


 と、急に声をかけられる。


 声をかけて来た人を見ると、隣の席に座っていた綺麗なお姉さん達である。

 どう考えても見た事ない人達だし、間違いなく初対面だ。


 そんなお姉さん達がなぜ話しかけてきたのだろう?


 俺が頭の上にクエスチョンマークを出していると。


「なんか見てたら楽しそうだから、私達もあげていいですか?」


 と、瑞穂達に向かって言ったのである。


 ・・・・・え??はっ??

 ど・ゆ・こ・と??


 俺には何を言っているのか、全く意味がわからん。

 しかし、聞かれた彼女達には何を言っているのか理解出来たらしく・・・


「ええ、どうぞどうぞ♪」


 と、満面の笑みを浮かべて了承していた。


 なんか女同士での意思疎通が可能らしい。

 俺には何がなんだかよくわからん・・・


 まあ、女性同士で話してるんだし、どうやら俺には関係ない話のようだ。


 まあ、もしかしたら彼女達の顔見知りだったのかもしれないな。


 そう楽観視して、我関せずでいたのに・・・


「わぁ、ありがとう♪じゃあ、早速・・・はい、あ~ん」


 と、俺の口元にパンケーキが差し出されてきた・・・


 ・・・・・


 俺かよ!!俺にかよ!!


 てかなんで俺の事なのに、瑞穂達に確認を取ってんだよ!!


 俺から確認取れや!!

 今すぐNGだしてやんよ!!


 って、突っ込んだのはいいけど・・・


 実際さぁ・・・

 マジで、何が起こってんの!?


 ねえ、何で!?

 何で、お姉さんは俺の口元にパンケーキを差し出してんの?


 俺の理解が追いつかない!!

 俺は混乱している!!


 これはあれか?

 踊るか!?踊ればいいのか!?


 混乱している俺は、某ゲームの混乱状態のような思考に支配される。


 目の前で起こっているあまりの出来事に、口をあんぐり開けて茫然自失する。


 それがまたいけなかった・・・


「んぐっ」


 あんぐり開けている口に、見知らぬ綺麗なお姉さんがパンケーキを入れてきたのだ・・・


「きゃ~、食べた食べた!」


 うむ、美味い。


 ・・・って、いや!

 なんで俺に食べさせて喜んでんだよ!!


 しかも気が付いたら、お姉さんの後ろに他の客も並んでんじゃねえかよ!!

 どういう事だよ!!


「じゃあ、私も・・・「んっ」きゃー食べた!かわいい~!!」


 なんか条件反射で、出されると口に入れてしまう体になってしまったようだ・・・

 パブロフの犬にでもなった気分である・・・


 ・・・・・


 つーか、なんじゃこりゃあああああ!!


 マジでどういう状況なんだよ!!

 誰か説明してくれよ!!


 俺は餌やりコーナーの動物じゃねえんだぞ!!


 ・・・・・


 もう、ホントに誰か助けてええええええ!


 と心の中で叫んだ所で・・・


「追加のパンケーキをお持ちしました~!・・・って、あれ?朔夜先輩??」


 ・・・救世主??


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