第19話 朔夜の精神はすでに崩壊している!!
いやぁ、あの後は大変でしたよ・・・
俺を先輩と呼んだ彼女は、もちろん救世主なんかじゃありません。
中学時代からの俺の後輩で、今は俺と同じ高校に通う1年生の
比較的小柄な体型で、髪は明るい茶髪のゆるふわなセミロング。
ぱっと見は美少女ときたもんだ。
うん、ぱっと見、な・・・ぱっと見。
ここ重要!
そのぱっと見に騙された男からの人気は、相当なものらしい。
上級生からは『妹にしたいNo.1』だとか、同級生からは『庇護欲そそるNo.1』だとか言われているらしいが・・・
まあ俺以外の相手には、物腰柔らかく人懐っこく可愛らしい笑顔を見せるのだ。
そりゃ騙されるってもんだろう。
しかし俺にとっては・・・
中学当時から
従って、俺を助けてくれるなんて事はなく・・・
「っはぁ?何ですかこの状況は!?」とか
「一体どういう事なんですか!?先輩!!」とか
「先輩がちやほやされてるなんて、ありえないんですけどぉ!」
などと、むしろ詰め寄ってくる始末。
もう、マシンガンの様に口から言葉が止まらない止まらない・・・
とはいえ、後輩は店の制服を着て注文の品を持ってきた・・・
という事は、制服が可愛いからコスプレをしていた!というわけではないのは間違いない。
・・・いや後輩なら、俺にウザ絡みするためにやりかねないんだけどさ。
まじで・・・
そんなわけで、後輩には「バイト中なんだろう?だったら仕事に戻れ!」という理由を突きつけて追い払ってやったのだ。
あの後輩があそこでバイトしている事実には驚かされたけど・・・
まあ、見てくれだけなら悪くないし俺以外には愛想がいいから、採用されるのもわからなくもないが・・・
俺がしっしっと追い払った、その去り際に・・・
「くぅ!私がちょっと目を離した隙に・・・」
「ありえない・・・ありえないんですけどぉ」
と、何かブツブツ呟いていると思ったら、今度は・・・
「先輩!いいですか!?明日!明日の昼休みに先輩の所に行きますからね!」
「首を洗って待っていてくださいよ!」
「絶対に逃げないで下さいね!!」
と、矢継ぎ早に叫びながら仕事に戻っていった。
・・・ええ??
嫌なんですけど・・・
なんか恐いんですけど・・・
そう感じた俺は、後輩が見えなくなると残ったパンケーキを即座に平らげ、会計を済ませ店を後にしたのである。
もちろん、瑞穂・みなも・千里・美鈴・琴音の5人も、もれなく付いてきましたよ・・・
まあ、それはいいとして・・・
・・・・・
今は、後輩が来ると言っていた昼休みになる直前。
この後、俺は言われた通り後輩を待つ・・・
わけねえだろ!!
なんか恐いし、待つ必要はありません!!
てなわけで、昼休みのチャイムがなった瞬間に俺はダッシュで逃げ・・・
ガラッ!!
「せ~んぱい??どこに行こうとしたんですかぁ??」
うひぃいいいい!!
恐い!恐いです!!
ドアを開けて俺を待ち受けている後輩の、笑っているのに笑っていないその目が恐いです!!
てか、チャイムと同時に駆け出したのに、それより早いってどういう事だよ!!
しかも、ちゃっかり別のクラスの琴音まで連れてきているし!!
どれだけフライングしてんだよ!!
「そんな事はどうでもいいんです」
いや、だから!
何で皆、俺の思考が読めるんだよ!!
「それよりも、先輩?ほら、皆さん待ってますよ?大人しく席に戻って下さい」
後輩の言葉で俺の席を見ると、すでに瑞穂とみなも、千里、美鈴はスタンバっていた。
いや、何でスタンバってるんだよ!
みんな行動早すぎだろ!!
てか、何のスタンバイだよ・・・
と、思っていると彼女達は弁当を広げている。
・・・ああ、昼飯ね。
うん、そうだよね。
昼飯以外ないよね・・・
そう項垂れていると、後輩に腕を取られ強制連行されていく・・・
「さあ、先輩への楽しい楽しい尋問が始まりますよ♪」
・・・くそがっ!!
全然楽しくねえよ!!
楽しいのはお前だけだろが!!
そう考える俺は、今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られる。
しかしながら、後輩が俺の腕を掴む力が思いの外強い・・・
更に言えば、爪が食い込むくらいの力で握っている・・・
痛い・・・
後輩・・・痛いです・・・
俺はもう、シクシクと泣くしかないのである・・・
そして泣きながらも、俺と同じように後輩に腕を軽く掴まれて連れて来られている琴音に声をかける。
「なんかすまんな、琴音。変な事に巻き込んで・・・」
「ううん。大丈夫大丈夫!だって朔くんとお昼を一緒しようと思ってたから、丁度良かったよ♪」
こんな状況でも楽しそうに笑顔を見せる琴音。
なんて良い子!!
・・・
っていうかさ・・・
周りからの視線が痛え!!
もう、何度さらされたかわからん視線・・・いや死線が痛すぎる!!
「またあいつかよ!!」
「しかも増えやがった!!」
「てか、あの子は『お兄ちゃんと呼ばせたいNo.1』の冬野唯じゃねえかよ!!」
「・・・憎しみで人が殺せたら!!」
俺に対する憎悪が酷いな!!
つーか、お兄ちゃんと呼ばせたいってなんだよ!!
妹にしたいんじゃないのかよ!?
死線にさらされながら俺がそんな事を考えている間も、後輩は自分には関係ないとばかりに気にすることも無く、俺を皆の元へ連行していく。
そして俺を自分の席に座らせると後輩も近くの席に腰を下ろし、笑顔ながらも笑っていない目で俺を見据え口を開く。
「でっ?」
「何が“で”だ?」
「
「知らん」
後輩は俺の周りの女性達を見ながら、俺に問い詰めてくる。
てか、白姫は後輩が連れてきたんじゃねえかよ・・・
というか昨日のあの状況の中、誰がいたのかちゃんと見てんだな・・・
「知らないわけがないでしょう!?ちゃんと説明して下さい!!」
「知らんもんは知らん・・・てか、俺が聞きたいくらいだ!」
いくら聞かれた所で、俺にだってわからん。
何でこんな状況になっているのか・・・
わかる奴がいたら、むしろ俺に教えてくれや!!
「むぅ~!!そんな事言って~!!・・・私は前から言っていましたよね!?」
「ん?何をだ?」
「先輩は平凡中の平凡、キングオブ平凡なんだから絶対にモテません!自惚れないでくださいねって!!」
「ああ、言われてたな。だけどまあ、もちろんお前に言われるまでもなく、それはわかってるさ」
そう、俺は中学時代に後輩から、散々モテないだの、俺を好きになる奴はいないだの言われてきたのだ。
まあ、それで自覚させられたというのもあるにはあるが・・・
そもそも、別に言われなくてもわかってるし?
自惚れるわけないし?
誰に言われるまでも、100点満点中50点の男なのだ!!
・・・
自分で言っていて悲しい・・・
「もう!んもう!!じゃあ、何でこんな事になってるんですかぁ!!」
「だから俺が聞きたいっての・・・」
てか、なんでこんなに後輩が怒ってるんだ?
モテないはずの俺がモテてる(ように見える)から、後輩の言葉が間違ってるように感じて悔しがってるのか?
大丈夫だ、後輩よ・・・
お前の言葉は間違っちゃいない・・・
俺がモテるはずはない・・・
これは夢だ!夢なのだ!!
と現実逃避しようとしていると・・・
「まあまあ、冬野さん・・・だよね?とりあえず、落ち着いて」
「くっ、そういう貴方は、綾瀬瑞穂先輩ですね?」
瑞穂が後輩を宥めようとしてくれた事で、後輩の意識は俺から瑞穂に移る。
「え?私の事知ってるの?」
「当たり前です!むしろこの学校で、綾瀬先輩の事を知らない人はいないですよ!」
「ええ~!?わ、私なんてそんな事ないよ・・・」
「そんな事あるんです!・・・っていうか、そうですよ先輩!!どういうことですか!?」
瑞穂と話していると、後輩は何かを思い出したように再び俺を見る。
せっかく瑞穂に向いた意識が、また俺に向いちゃったよ・・・
「はあ・・・何がだよ?」
「先輩の周りを囲んでいる、この女性方のメンツですよ!ありえない・・・ありえないでしょ!?」
「何がどうありえないんだ?」
「この学校の絶対的アイドル、男性を魅了する小悪魔系美少女、凜とした佇まいに男性はもちろんのこと一部の女性のお姉様である弓道美人に・・・んと、明るく可愛い先輩に、超絶美声である学校の歌姫・・・全員校内で有名な美少女じゃないですか!!」
なんかすごい熱弁してるな・・・
でも、確かにそう言われたらすごいメンツではあるな・・・
「いやいや、絶対的アイドルって・・・」
「私って、小悪魔系だったのぉ・・・??」
「一部の女性からお姉様って・・・初めて知ったけど、なんか嫌ね・・・」
「なんか、私の扱いだけぞんざいじゃない・・・?気のせい?」
「さ、さすがに直接、歌姫とか言われると、すごくすごく恥ずかしいんだけど・・・」
後輩から自分の評判を聞いた彼女達も、さすがにこう直接面と向かって言われると恥ずかしそうにしているな。
そりゃそうだろうな。
俺もこんなこと言われたら、恥ずかしさで叫びたくなるわ・・・
まあ、俺にそんな事言われる日が来るはずありませんけどねぇ。
てか残念、美鈴よ・・・
お前も確かに可愛いかもしれんが、周りが群を抜きすぎているのだ・・・
更に言えば、美鈴は一見というよりは長く一緒にいて楽しいタイプだからな。
「・・・朔た~ん?それ、フォローになってないんだけど!?」
おい!
何度言ったらわかる!!
俺の思考を読むんじゃない!!
「大丈夫です!結城美鈴先輩も美人に違いはありません!そこは断言出来ますよ!」
「えっ?あっ、ありがと・・・?」
後輩の強いフォローに、美鈴もタジタジである。
「だからこそ問題なんです!!」
「だから何が問題なんだよ・・・それに、何で怒ってんだよ?」
「こんな美女達に囲まれて、デレデレしている先輩の姿なんて見たくありません!って事です!!」
「いや、デレデレなんてしてないし・・・」
むしろ困ってるんですけど・・・?
「結局なんでこんな事になってるんですか!?」
「はあ・・・ったく・・・後輩も言うように俺がモテるはずがない。だから罰ゲームでごめんなさいを求めて嘘告したら・・・このわけのわからない有様になったというわけだ・・・」
「くぅ~!!なんですか!?先輩が告白したんですか!?」
「いや告白っていっても、最初からほぼほぼ嘘告だと明言した上でなんだけど・・・」
「そんなのはどっちでもいいんです!・・・もう!ばっかじゃないですか!?先輩はバカなんですか!?バカなんですね!?」
「そこまで言わなくても・・・」
俺泣いちゃうよ?
シクシク・・・
そもそも、なんでそこまで言われなきゃならんのだ!?
「ありえない、ありえないんです!先輩が告白するとか!!・・・それを受ける人もありえません!!」
後輩にここまで言われる俺って・・・
・・・・・!!
そうか!!
閃いた!!
閃いたぞ!?
くくくっ!
ここまで嫌われている後輩になら、念願のごめんなさいが出るかもしれん!
「ほほう、なるほど?じゃあ俺が後輩に告ったとしても、OKが出るわけがないという事だな?」
「あ、当たり前でしょう!?こんな状況で告白する方も、OKする方もどうかしてるに決まってます!!」
くくっ・・・
くははははははっ!!
言質を取ってやったぞ!
これで・・・
これでようやく、俺の悲願が達成されるのだ!!
俺の罰ゲームの終息の始まりを迎えるのだ!!
全員からごめんなさいを貰う・・・
そのためには、発端になる者が必要なのだ!!
くははははっ!
貴様には、ごめんなさいを貰う皮切りとなるための
「そっかそっか・・・じゃあ、後輩よ!」
「な、なんですか?先輩」
後輩は俺のニヤリとした顔に、ちょっと気後れしているようだ。
しかし今の俺にはそんな事は関係ない!
さあ、やるぞ!!
「好きです!付き合ってください!!」
ふっ・・・
ふははははははっ!!
言った!
言ってやったぞ!!
これで、ようやく念願のごめんなさいが・・・
「・・・もう、先輩がそこまで言うなら、しょうがないですねぇ♪宜しくお願いしますねっ、せ~んぱい♪」
・・・・・あれぇ??言質は??
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