第17話 朔夜、壊れすぎる!






「「~~~♪」」


 今日は久しぶりにストレス発散。


 授業が終わると同時に音楽室へと直行し、白姫と歌っていた。


 白姫とも変な関係になっちゃったし、少しだけここへ来る事に抵抗はあったけど・・・


 でも・・・


 やっぱり思いっきり歌うのは気持ちいい!


 まあ白姫とは、ただ変な関係になっただけで、別に彼女の事が嫌いなわけじゃないし。

 むしろ、白姫と一緒に歌っているのは楽しい。


 何よりも、今の俺にとってはストレス発散が絶対に必要。


 だから白姫に拒否られない限りは、俺のストレス発散に付き合ってもらうのだ!


 いや、1人で歌えばいいんじゃね?と思われるかもしれない・・・


 しかし・・・しかしだ!!

 1人で歌った時と白姫と一緒に歌った時では、爽快感がダントツに違う。


 どれくらい違うかというと・・・


 八宝菜にキクラゲが入っているかいないかくらい違うのだ!


 ・・・・・あれ?

 例えとして微妙じゃね・・・?


 ・・・・・


 ち、違う例えにするとしよう・・・


 カレーコロッケだと思って食ったら、カボチャコロッケだった時の絶望感くらい・・・


 って、絶望してんじゃねえか!!


 爽快感の違いを説明してんたんだろが!

 例え下手くそか俺!!


 ・・・・・


 も、もういい!!


 と、とにかくだ!

 精神崩壊している俺が、わけわかんねえ例えを出すくらいには爽快なのだ!!


 ・・・・・

 全然、爽快感を伝えられてないような・・・


 ま、まあ、それはともかく・・・


 爽快感は置いといてだな・・・


 白姫と歌ってストレス発散するとは言っても・・・

 音楽系の部員が集まり始める前の、たかが10数分程度なんだけどな。


 さすがにそれ以上過ぎると、徐々に部員たちが入ってくるから普通にハズいし。


 まあそれ以上に、部員でもない俺がいると白い目で見られる。

 だから、さっさと退散しているのだ。


 というか実は、俺だけじゃなくて白姫も音楽系の部活に入っているわけではなかったりする。


 彼女も最初は、放課後の部活前に誰も居ないのをいい事に音楽室で夢中に歌っていたらしく、その後に来た部員が彼女の歌に聞き惚れて、少しなら使ってもいいとお達しを受けたんだとさ。


 だから白姫は俺と違って、部員が来ても何も問題ないのである。

 むしろ、部員達からすれば彼女の歌声を聞けるのでウェルカムなのだ。


 というわけで、歌い終わった俺は残る理由がないため、白姫を残して音楽室を後にしようとする。


「あれ?朔くん、どこに行くの?」

「いや、どこに行くって・・・帰るに決まってるっしょ」


「ふ~ん、そっかぁ。じゃあ、私も帰ろうっと!」

「いやいや、別に白姫まで一緒に帰る必要はないんだぞ?いつもの様に皆とダベレばいいじゃん?」


 そう。

 いつもなら白姫は、この後来る連中と話をしている。


 その間、もしくはその前に俺はそそくさと帰っているのだ。

 だって、白い目で見られるからねぇ・・・


 まあ何よりも、楽しそうに話をしている白姫の邪魔をするつもりはなかった。


「いやいや、朔く~ん?それは違うんだよ?」

「違う?何が?」


「私はいつも朔くんと一緒に帰ろうと思ってたんだよ?なのに、気がついたら朔くんがいなくなってたんだけど?」

「へっ?だって皆と楽しそうに話してなかった?」


「そりゃあ、誰かが来れば少しくらいは話すに決まってるよ。だけど、だけどね、その間待っててくれもいいと思うのに、朔くんは素早く逃げるんだから・・・」

「そ、そうだったのか・・・?俺はてっきり、お邪魔虫だと思ってだな・・・」


「んもう、そんな事はない!ないんだよ!?・・・まあ、そんな事よりも他の人が来る前に早く行こっ!!」

「お、おい!ひっぱるなって!」


 白姫は、今日こそはと部員達が来る前に退散するために、俺の手を取って引っ張って音楽室を後にする。


 ・・・って、手を繋いだままなんですけど!!

 恥ずかしいんですけど!!


「お、おい!一緒に帰る、帰るから!手、手を離せって!」

「いいから、いいから~♪」


 俺の言葉も空しく、白姫は俺の手を離す事はしない・・・


 ちょっ!

 マジで、こんな所では恥ずかしすぎるんだけど!!


 何よりも、他の奴に見られたら・・・

 超絶危険じゃね!?


 特に俺の命とか、命とか、命とか・・・


 だって、白姫は(特に男から)絶大の人気を誇っている。


 そんな白姫と手を繋いで歩いている・・・

 今後を想像するだけ恐ろしい・・・


「し、白姫!た、頼む!頼むから手を離してくれ!」


 俺は命乞いをするように頼むのだが・・・


「え~?じゃあ、じゃあ・・・白姫じゃなくて琴音って呼んでくれる?」


 くっ!

 白姫もかよ!!


 俺にとっては難易度の高い交換条件をだしてくるとは!


 しかし、今は背に腹は変えられん・・・


「わ、わかった・・・こ、琴音」


 俺は意を決して彼女の名前を呼んだ。


 すると、白姫・・・じゃなくて琴音の元々明るい顔が、更にパアーッと明るくなり・・・


「うん!ありがとう、朔くん♪えへへ~」


 と、嬉しそうに俺の手を更にギュッと強く握った。


 ・・・・・


 いや!

 離してくれねえじゃん!!


 むしろ、更に強く握りしめてんじゃねえかよ!


 は、はかったなぁ!!


 そんな俺の心情とは裏腹に・・・


「ふん、ふ~ん♪」


 ニコニコと機嫌良さそうに、琴音が普段歌っている時の綺麗な声とは違い、可愛らしく鼻歌を歌っていた。


 くそっ!

 可愛いじゃねえか!!


 ・・・はあ、もうどうでもいいや。


 あまりの琴音の可愛さに、俺の毒気も抜かれてしまう。


 とはいえ、今はまだ校内。

 恥ずかしいには恥ずかしい・・・


 どうか誰にも出会いませんように・・・


 そんな俺の願いは・・・


「あ、見つけましたぞ!我らが歌姫!」


 と背後からかけられた声により儚く散るのである・・・


 ってか、我らが歌姫ってなんだよ!?


 そう思って振り返ると、そこに居たのは・・・


 THE・オタク!

 これでもかって言うほどのTHE・オタク!


 それが3人・・・


 首にタオルを巻いたアオヒゲの小デブに、なぜか眼鏡が光っているヒョロ眼鏡、そして低身長の眼鏡おかっぱ。


 いや、俺は別にオタクを否定するつもりはないんだが・・・


 なぜ彼らはオタクだからと言って、いかにもオタクという格好をしているんだ?


 イメージ通り過ぎる事が問題だろうが・・・


 てか、あいつらは確か・・・

 俺が言ったような意味で有名な電脳部だな。


 なぜそんな奴らが琴音を探しているのだろうか?

 そう疑問に思った所で・・・


「あ~もう!見つかっちゃったぁ・・・朔くん逃げるよ~!」


 と、俺の手を引いて逃げていく。


「ちょ、お、おい!ちょっと待て!止まれって!」


 急にひっぱりだすもんだから、俺の足がもつれかかり制止を促す。


 背後からも同様に・・・


「待って下され~!」


 いや、だから言葉もさ!!

 オタクだからって、そんな言葉遣いすんなよ!


 と、心の中で電脳部の奴らに突っ込みを入れる。


「ほらっ!止まったら、彼らに捕まっちゃうもん。だから朔くんも早く!」


 と言って、琴音は走る足を止めない。


「捕まっちゃうって、あいつらと何があったんだよ!?」

「え~?なんかねぇ、彼らが作ったキャラクターの声のイメージに私の歌声がピッタリらしいの。だからアテレコして欲しいって言われてるんだよね」


 琴音は走りながらも説明してくれる。


「おおう、まじかよ・・・」

「うん。何度も断ってるんだけど、食い下がってくるんだよ~」


 はあ・・・琴音も大変だな・・・


 ・・・いや。

 てか、それ俺は関係なくね?


 俺まで逃げる必要なくね!?


「あははっ!まあまあ、そこは一蓮托生って事でね♪」


 いやいや、だから何で俺が琴音と一蓮托生せにゃあかん!?


「それにほらっ、もう朔くんも他人事じゃないみたいだよ~?」

「へっ!?」


 どういう事?

 さっきの話だけなら、俺は全く関係ないよね?


 そう思いながらも後ろを振り返ると・・・


「ぐぬぬっ!我らの歌姫の手を取って逃げるとは・・・あやつは許すまじ!!」


 いや、ぐぬぬって初めて聞いたけど、男のぐぬぬっはきめえよ!!


 って、そんな突っ込みをしてる場合じゃねえ!

 明らかにターゲットが俺に変わってんじゃん!?


 ちょっと、どうしてくれんのよ!どうしてくれんのさ!?


 完全に巻き込まれ事故じゃん!


「ねっ?朔くんも逃げないとだねっ♪」


 おい!絶対に確信犯だろ!!

 こうなるの、わかってて俺を巻き込みやがったなぁ!?


「あははっ、まあいいからいいから♪」


 よくねえよ!

 とは思いつつも、楽しそうにしている琴音を見ると・・・


 まあ、どうでもいいか・・・

 と、確かにそう思ってしまふ。


 だからこうなった以上、全力で逃げる。


 俺は琴音と一緒に階段を駆け下りて、1階へと降りてくる。


 そして玄関へ向かおうとすると・・・


「あ、白姫さんだ!」

「ようやく見つけましたよ!」

「てか、隣の男は誰だよ!!」

「あ、あいつは!星空朔夜だ!!」

「なにぃいいいい!あいつが、我らが白姫を汚したクソ虫野郎か!!」


 と複数人の男子の声が聞こえてきた。


 いや、クソ虫野郎ってひどくね?

 自分で言うならまだしもさぁ・・・


 泣くよ??泣いちゃうよ??


 と思いながら奴らを見ると。

 頭に“白姫命”と書いたはちまきを付けた連中がいたのである。


 や、やつらは!!

 かの有名な白姫親衛隊じゃねえか!!!


 てか、この学校・・・

 どれだけ色んな意味で有名な奴らがいんだよ・・・


 ま、まあそんな事はどうでもいい・・・


 そんな奴らに見つかってしまったため、琴音は方向転換をする。


「朔くん!こっち、こっちだよ~!」

「おうふッ!」


 急に方向転換した琴音に引っ張られた事で、俺の口から変な空気が漏れる。


「あははっ、朔くんから変な声が!変な声が~!あはははっ」


 いや、琴音のせいじゃねえかぁ!!


 とは思うものの、色んな人に追いかけられながらも楽しそうな琴音を見ると、本当にどうでも良くなってくる。


 そして楽しそうな琴音に無理矢理ひっぱられていると、琴音は廊下の開いている窓を見つける。


「朔くん朔くん!ここから逃げるよ~!」


 そう言って、琴音は窓を乗り越える。

 その間も俺の手を離す事はしない。


 従って・・・


「お、おい!1回手、手を離せって・・・って、どぉわっ!!」

「えっ!?」


 自分のタイミングで窓をまたげなかった俺は、窓枠に足を引っかけてしまう。


 その俺の叫びに、琴音が振り返った様な気がするが、それ所ではない。


 や、やべぇ!!

 顔面から地面に着地する!!


 という恐怖により、俺は完全に目を閉じる。


 やべぇ!やべえよ!!

 ちょ~こええええ!


 そう恐怖にかられながらも、着地の瞬間を覚悟して待つ・・・


 そして、その恐怖の瞬間が訪れたのだが・・・


 ふよんっ!


 なんか思っていたのと違う・・・


 確かに顔から落ちて倒れた・・・

 顔に衝撃があったのも間違いない・・・


 しかし、俺の顔面が着地したのは・・・


 マ、マシュマロ!?


 そう、未だに目を閉じている俺の顔は、マシュマロに包まれている。


 くっ!

 しかも何て絶妙に心地の良いマシュマロなんだ!


 これは病み付きに・・・


 マシュマロの魅力に取り憑かれてしまう・・・


 ・・・って、やべえ!!

 色んな意味でやばすぎるぞ!!


 わかってる!

 わかってるんだよ!!


 こんな所にマシュマロなんて有るはずがないって事くらいさ!


 そもそも、顔が包まれるほどでかいマシュマロなんてねえだろ!!


 俺は未だに色んな意味で、恐ろしくて目を開けられない。


 とはいえ、ずっとこうしているわけにはいかない。


 と、とにかく、す、すぐに離れないと!


 そうは思うものの、体が上手く動かずモゾモゾしていると・・・


「あっ・・・んっ・・・さ、朔くん・・・そ、それは、それはちょっと早いというか、恥ずかしいというか・・・」


 ・・・え!?はっ!?えっ!?


 俺は琴音の声に、あまりも動揺してしまう。

 そして、彼女の声がする方を向いて目を開けると・・・


 顔を赤くして照れたように目を背ける琴音の姿が写った。


 更に、俺の顔がある場所も確認してしまった結果・・・


 マ、マシュ、マシュ、マシュマヒョふぉほぉおおおおお!!


 俺は壊れる・・・


 そして速攻で離れて・・・


「ごめんなさい・・・」


 OH!コレガ、ジャパニーズDO・GE・ZAネ!


 と、自分で外国人突っ込みをするほど俺は動揺する。


 更には、額を地面にグリグリ。


 これで許してもらおうなど虫のいい事は願っていないが、今の俺にはこうするしかないのだ!


「ちょ、ちょっと朔くん!?大丈夫、大丈夫だからね!ビックリしただけだからね!?」

「いいえ、許されざる事をしました。つきましては、このまま地面と同化せざるを得ないと存じます!」


 大丈夫だという琴音を前に、俺は更に地面に埋もれるべく額をグリグリ押しつける。


「わかったよ、わかったから!そんな事しなくてもいいからね!それよりも、早く逃げるよ!!」


 琴音はそう言って、俺の腕を取りながら無理矢理立たせる。


「俺を許してくれるのか?」

「許すも何も、最初から怒ってないし、べ、別に嫌だったわけでもないんだよ・・・?」


 最後はもにょもにょとよく聞こえなかったが・・・


 こんな俺を許してくれるとは・・・


 琴音、優しい・・・


 と、考えながらも俺は琴音の手に惹かれて逃げていく。


 そして、なんとか連中を振り切って、校舎裏の木の陰までやってくると・・・


「はあ、はあ、はあ・・・・・ふ、ふふっ、あははははっ」


 琴音は息を整えた後、急に笑い出した。


「楽しかったね、朔くん♪」


 確かに俺もバカばっかりやっているとは言え、普段とは違う事が起こって楽しかった。


「あ、ああ、確かに楽しかったな」

「うふふっ、だよねっ♪」


 俺の言葉に喜んだ琴音が、満足気な顔を浮かべ・・・


「行こっ♪」


 と言いながら楽しそうにクルッと身を翻した。

 すると、俺は琴音の制服が汚れている事に気がついた。


「あ、琴音の制服が汚れているな・・・ああ、さっき俺のせいで、背中から倒してしまったからだな」


 そうだよな・・・

 窓から出た時に、事実はどうあれ俺を庇うような形で倒れ込んでしまったもんな。


「悪かったな・・・」


 そう言いながら、琴音の制服をなるべく擦らないように手でポンポンと砂をほろっていく。


「・・・朔くん・・・朔くんってさ、そういう事・・・本当に、ナチュラルに出来るよね」

「え?何が??」


 琴音は何の事を言ってるんだ??

 声は嬉しそうではあるんだけど・・・


「ん~ん、なんでもないよ~!」

「??」


 何を言っているのか全くわからん・・・

 琴音は前を向きながら喋っているから、表情も見えんし・・・


 俺はわけがわからなさすぎて、琴音の僅かに見える横顔を見ながらも手は制服をほろっていた。


 すると・・・


「あっ・・・そこは・・・」

「へっ!?」


 琴音の声に、俺は自分の手を見ると・・・


 も、も、もももももももももも桃桃桃おおおおお!!


 うひゃひょひゃあああああ!!


 本日2度目の壊れ・・・


 そして、本日2度目のDO・GE・ZAを決め込もうとした瞬間。


「朔夜あああああ!!」

「み~た~ぞ~!!」

「さっきといい、今回といい!」

「貴様は万死に値する!!」

「我らが歌姫にぃ・・・許しませぬぞ!!」


 巻いたと思った親衛隊と電脳部の奴らに見つかっていた。


 しかも、さっきのも今のも見られてしまっていたのである・・・


 ってか、親衛隊の1人は鈴木かよ!!

 お前も親衛隊なのかよ!!


 いいから、お前は黙って真白ちゃんに振られておけよ!!


 と思っている間に、奴らがこちらに向かって駆けてくる。


「朔夜ああああ!覚悟しろおおおお!」


 うおっ!

 奴らの表情は鬼気迫ってやがる!


 これはまずい!


 とりあえず琴音だけでも逃がさねば!!


 という俺の気持ちは杞憂に終る・・・


 ってか、今は奴らが追ってるのは・・・


 俺だけじゃねえかあああああ!!


 追ってきた奴らは、琴音を素通りし俺だけを追ってきやがった!


 なんでこうなったんだあああああ!!


「朔く~ん、頑張ってね~!!」


 琴音は俺に手を振って、ニコニコと楽しそうにしていた。


 いや、おかしいだろうがああああ!!


 という俺の心の叫びは空しくもはかなく散ったのである・・・



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