第15話 楽園?天国?それとも・・・朔夜の境地!





 ・・・・・俺はなぜこんな所にいるのだろう。


 ここは楽園なのか、桃源郷なのか・・・

 はたまた天国ヘブンなのか、それとも・・・


 地獄ヘルなのか・・・


 俺の周りには色とりどりの綺麗な花が咲き乱れている・・・


 中には美味しそうなイチゴや果物なんかが実っていたりもする・・・


 そんな情景に心が洗われるような・・・


 ・・・って、洗われるわけねえだろがあああああ!!


 ここはどこかって!?

 ここは女性物の下着を扱っている店、いわゆるランジェリーショップだよ!!


 綺麗な花!?

 下着の色だよ!!


 美味しそうなイチゴ!?

 下着に描かれている柄だよ!!


 そんな物を見て、心が洗われるわけねえだろ!


 むしろ洗われたらやばいだろが!!

 それは、ただの変態だよ!!


 もう楽園でも何でもねえよ!!

 間違いなく、完全に地獄だよ!!


 もう本当に、何で俺はこんな所にいるんだよぉ!!


 ・・・・・


 事の発端は、放課後に瑞穂・みなも・千里・美鈴、更に追加された白姫と、そして俺を(無理矢理)含めて6人で話している時だ。


 俺がいるにも関わらず、千里が急に「最近ブラがきつくなってきたのよね・・・」と言い出した事だった。


 ・・・・・


 男の俺がいる前で話す内容じゃねえだろがあああああ!!


 せめて俺のいない所で話して下さい!!


 という俺の叫びは、当たり前の如く彼女達にはニコッと笑顔で返されるだけで、聞き入れられなかったのである。


 そして俺が居ようとも関係なく、彼女達は下着の話で盛り上がり、じゃあで帰りに見に行こうという話になった。


 ・・・行ってらっしゃい。


 そう、俺は笑顔で見送った・・・


 見送ったはずなのに!!


 しかし、気がつけばなぜかランジェリーショップのど真ん中に、1人置き去りにされているじゃねえかよ!!


 いやマジで、どういう状況だよ!?


 ・・・・・


 わかっています・・・わかっていますとも・・・


 見送るだけなんて許されるわけがないのですよ・・・


 皆で行くという、その皆の中には最初から俺が含まれていたのです・・・


 従って強制連行ですよ・・・


 いや、俺だって抵抗したんだよ!?

 行きたくないとか、せめて別行動して後で合流しようとか、言葉や行動で頑張ったんだよ!?


 でも、5人に囲まれ俺を逃がさないように色んな所を掴まれ、引きずられるように連れて来られたらさぁ・・・


 もう無理ですよね・・・


 でもだからといって、ランジェリーショップのど真ん中に置き去りは酷くない!?


 彼女達はショップのど真ん中まで来ると、俺を解放して各々が好きなように見て回り始めたんだよ!!


 もう、完全なる放置プレイ・・・

 そして究極の羞恥プレイですよ・・・


 ・・・・・・


 いや、解放する場所がおかしいんだよ!!


 放置・羞恥プレイにも程がある!!

 こんなプレイは望んでねえよ!!


 せめて時と場所を考えろよ!!


 こんな所で俺を1人にしないで!

 マジで!頼むからさ!(切実)


 だってさぁ・・・

 さっきからさぁ・・・


 視線が痛いの!!


 他の女性客とか女性店員からの・・・


 凍るような・・・・


 突き刺さるような視線が・・・


 はあ、はあ・・・か、快感に・・・・


 って、ちげええええええええ!!


 変な境地に目覚めんな俺!!


 やべえ、やべえよ俺・・・


 いくら精神崩壊してるからって・・・

 現実逃避したいからって・・・


 そっちの道に進むんじゃねえよ俺!!


 俺はノーマルなの!

 変な性癖は持ち合わせてねえの!!


 そもそも、何で俺までショップの中に入らないといけないんだよ!


 さっき俺が抵抗したように、外で待ってたっていいじゃん!

 もしくは、俺は後から合流するとかさぁ!


 そう嘆きながら、俺がシクシクと泣いていると・・・


「ねえ、朔夜くん?この2つだと、どっちの色が私に似合ってる?」

「え~と・・・マーガレット・・・」


 ・・・じゃねえ!!


 瑞穂はなんでわざわざ俺に見せてくんの!?聞いてくんの!?


 そして、なんで俺は普通に答えてんの!?


「本当?やっぱり朔夜くんもそう思うよね♪」


 ・・・自分でわかってるなら聞かないでくれ!!


 なんで女の子って、自分の中では決まっているのに聞いてくるの!?


 後押ししてほしい気持ちは、わからなくはないけどさぁ・・・


 だから、聞くのはいい!聞くのはいいからさ!!


 せめて聞く物を考えようよ・・・

 もっとマシな選択を迫ってくれよ!!


「さ~くちゃん♪」


 ・・・・・


 だよね・・・


 わかってる・・・わかってるんだよ・・・


 瑞穂が選択を迫ってきた時から、嫌な予感はしてましたよ・・・


「これとこれだと、どっちがいいと思う?」

「えっと・・・ピンクの・・・」


 って、だあああああああ!!


 だからさ!

 俺も普通に答えてんじゃねえっての!!


 てか、いちいち見せるのやめて!!本当に!!(切実)


「よかったぁ!朔ちゃんと好みが一緒で♪」


 ・・・・・


 いや、みなもと俺が下着の好みが一緒で良かったって・・・


 なんか俺が下着好きの、やばい奴みたいじゃねえかよ!!

 せめて!せめて違う物で選ばせて!!マジで!!


「朔たん?どっち?」

「こっちの黄色タンポポ・・・」


 うおい!!

 色々と言葉を省いて聞いてくんじゃねえ!


 色んな意味に捉えられるじゃねえか!!


 そして、俺も反射で答えちゃってるよ!!


「うぷぷっ、これが朔たんの好みかぁ!」


 いや、ちげえし!!

 美鈴に似合ってる色だと思ってだなぁ・・・


 って、それもおかしいだろが俺!!


「朔くん、朔く~ん!」


 終らない・・・


 終らないんですね・・・?


 全員やるまでは・・・


「朔くんは、どっちが好きかな?」

「こっちの水色ブルースターが・・・」


 って、俺やべええええええ!!


 どっちが好き?で答えちゃったよ!!


 違う!違うの!!

 言い訳させてください!!


 早く終らせたい気持ちが先走って、言葉の意味を理解する前に答えちゃっただけなんです!!


 だって、どっちが似合う?じゃなくて、どっちが好き?で聞かれるとは思わないじゃん!?


 いや・・・

 もう俺言ってる事、色々とおかしくね??


 感覚がおかしくなりすぎて、色々と麻痺ってきてんのか!?


 そもそも、男の俺に選ばせること自体がおかしいわけで・・・


 似合う下着を選ぶってことは、それは彼女達が装着した姿を想像するわけで・・・


「・・・朔くんのえっち」


 ・・・・・


 あひゃひょひゃああああああああ!!


 余計な事を考えてしまった上に、白姫のうっすら赤くしながら照れた顔と仕草、そして言葉の追い打ちで俺は壊れる・・・


 そんな俺の状態であろうと、彼女達には関係ない・・・


「あの、朔夜君?」


 ・・・まだ最後の伏兵が残ってたよ!!


 俺はもう答えん!!

 何も答えんぞ!!


「私は先にサイズを測らないといけないの。手伝って貰える?」

「・・・・・はい」


 ・・・・・いや、あほかあああああああ!!


 はい、じゃねえよ!!

 俺、マジで何言ってんの!?


 答えないどころか、最悪の答えを返してんじゃねえか!!


 いや、そもそも俺以上に千里も何言ってんの!?

 何言っちゃってんの!?


「ふふっ。じゃあ、こっちに付いてきて」


 と、千里が俺の手を引いて行こうとする。


「ちょ、ちょっと待って!!無理無理!無理に決まってんじゃん!!」


 俺は千里の手を振り払って立ち止まる。


 本当に俺の心臓を破裂させる気か!?

 俺を亡き者にさせる刺客なのか!?


 どう考えてもおかしいじゃん!!

 サイズ測るのに、男の俺に頼むってさぁ!!


 色々とやばいだろが!!

 万が一・・・万が一、見てはいけないものを見ちゃったらさぁ!!


 そんな事になったらだなぁ・・・


 俺の心臓は1秒も持たず・・・

 すぐに死ねる自信があるぞ!?


 いいのか!?あぁん!?


「でも、朔夜君・・・はいって言ったじゃない?」


 そう言って千里は少し落ち込んだような表情を見せる。


「うっ・・・そ、それは、ま、間違い!!言葉のあやってやつだよ!!」

「ふふっ、そう。それは残念ね。わかったわ、店員さんにお願いしてくるわ」


 俺の言い訳に、千里は笑いながらあっさり引き下がっていった。


 くそっ!!

 俺が出来ないと最初からわかっていて、からかいやがったな!?


 ちくしょおおお!!


 ・・・・・


 お願いです・・・


 誰か・・・誰か僕を助けて下さい!!


 僕が嫌いなピーマン (好物)も大嫌いなしいたけ (大好物)も、これからはちゃんと残さず全部食べるようにしますからぁ!!


 だからどうか、ここから早く解放してください!!


 ・・・・・


 そんな俺の虫のいい願いは、神様には届きませんでした・・・


「朔夜くん?これどうかな?恥ずかしいけど、確認してくれる?」


 そう瑞穂は言いながら、試着室のカーテンの隙間から恥ずかしそうに顔だけ出している。


 シャッ!!


 俺は速攻でカーテンを閉じる。


 ・・・・・


 あほかああああああ!

 あほですか!?あほなんですか!?


 そんなの見れるわけねえじゃん!

 つーか、恥ずかしいなら俺に確認させんじゃねえ!!


 そんな俺の心の嘆きも空しく・・・


「ねえ、朔ちゃん?そこにいるよねぇ?ちょっとブラのホック留めてくれないかなぁ?」


 隣の試着室から、みなもがそう言った。


 ばっかやろおおおおお!!

 喜んでやらせていただきます!!(ペコリッ・・90度)


 ・・・・・


 じゃねえだろが俺!!

 何言ってんの!?バカじゃねえの俺!?


「お~い、朔た~ん!」


 また別の試着室から、美鈴の俺を呼んでいる声が聞こえる。


「なんだよ・・・?」


 俺はちゃんとカーテンが閉まっている事を確認した上で、外から声をかける。


「う~んとねぇ・・・えいっ!」

「うおっ!」


 急にカーテンの隙間から伸びてきた手に、俺の腕が取られて引きずり込まれる。


「むふふぅ~。どう?朔たんの好きな下着だよ?」


 あぎゃあああああああ!!


 さっき、俺が選んだタンポポ黄色だけを身に付けた美鈴が、両手を広げて俺に見せつけてきたのだ。


「ばっかやろおおおお!」

「いたっ!」


 俺はチョップを食らわせて、速攻逃げる。


 ほんとにもう!!ばっかじゃねえの!?

 もっと恥じらいを持てよ!!


 つーか、美鈴のタンポポ下着姿なんてだなぁ・・・


 似合ってたよ!!

 かわいかったよ!!


 って、ちげええええ!!

 脳裏に焼き付けてんじゃねえよ俺!!


「ねえねえ、朔くん、朔く~ん!」


 俺の元にやって来た白姫が、俺の腕を取って試着室の前まで来る。


「な、なんだよ?」

「ちょっと、これ持っててねっ♪」


 そう言って俺の両手に持たされたのは・・・


 ・・・・・


 ブ、ブブ、ブラッ!パ、パパ、パン!


 きょへぇええええ!!


 俺は壊れる・・・


 ちょおい!!何持たせてんだよ!!

 しかもこれから試着するんだろが!


 俺は白姫を強引に試着室に押し込み、手の物を試着室に投げつける。

(商品を乱暴に扱ってはいけません)


 はあ・・・はあ・・・


 やべえ・・・


 そろそろ俺の精神も限界に・・・


「朔夜君、聞いて!!私エフカップらしいわ!」

「ぶふっ!!」


 ・・・・・


 え、エフカップっていうとあれだよな?

 あの、栄養ドリンクの・・・


 千里は栄養ドリンクだと言う事だな?うんうん・・・


 ・・・・・


 わかってるよ!!

 それはエフじゃなくてエスだってことくらいさ!!!


 現実逃避くらいさせて下さい!!


 てか、千里もそんな情報を嬉々としてよこしてんじゃねえよ!!


 俺も嬉しいだろが!!

 夢が広がるじゃねえか!!

 興奮しちゃうじゃねえか!!


 ・・・って、ちげえよ!

 俺、何言ってんだよ!


 もう精神崩壊しすぎて、自分でわけわかんねえよ・・・


 ・・・


 もうやめて・・・

 俺をおうちに帰して・・・


 俺が喜びに打ち震えて・・・じゃなくて、俺が心の中で泣いていると・・・


 シャッ!!


 と、目の前の試着室が開いた。


「朔夜ああああ!!こんなのが好きなのかああああ!!」


 ドーンという効果音と共に、真白ちゃんがポーズを決めていやがった。


 シャッ!!


 俺は速攻でカーテンを閉める。


 ・・・・・

 バラだった・・・


 薔薇でしたよ!!


 つーか・・・


 見ちゃったじゃん!!

 完全に見ちゃったじゃん!!


 しかも、とってたポーズが・・・

『女教師ランデブー』に載ってたやつじゃねえかよ!!


 くそお!

 真白ちゃん、中身を見やがったな!?


 可愛かったじゃねえか!!

 ドンピシャじゃねえかよ!!


 じゃなくて!!

 男の尊厳を守れよぉ!!


 つーか・・・


「なんでここに真白先生がいるんすか!?」


 問題はそこだよ!!

 間違いなく一緒には来てないはずだろ!?


 カーテン越しに真白ちゃんに確認すると、真白ちゃんも反応を返してくる。


「真白先生じゃないだろぉ!真白ちゃん・・・いや伊織と呼べぇ!!」

「いや、それは流石に無理っしょ」


「なんでだあああああ!?」

「え?だって、教師と生徒だし?」


「な、なんだと!?(私は逃げてしまったとはいえ・・・)朔夜は私に告白しただろがあああ!!」

「はっ?そんな事ありましたっけ?」


 ・・・・・


 俺にはそんな記憶は全くないぞ??


「あ~、朔たんあの時殴られて気を失ったもんねぇ・・・記憶飛んじゃったんじゃない?」


 試着が終り、着替え終った美鈴が俺の背後から声をかけてくる。


「あの時?あの時ってなんだ?」

「あの時はあの時だよ~。ほら、朔たんが姫ちゃんに告った時」


 ・・・・・??


 確かに俺は白姫に告白して(ごめんなさいを貰えなかったと言う意味で)失敗したのは覚えているんだけど・・・


 その後は確かに、なぜか意識を失っていて・・・

 気がついたら保健室にいたんだったよな・・・


 と、俺が首をかしげていると・・・


「あ~、やっぱりね・・・こりゃ、完全に記憶から抜け落ちてるねぇ」


 そう美鈴が、さも残念そうに呟くと・・・


「な、なんだとおおおおお!・・・くっ・・・さ、朔夜の・・・ばかあああああ」


 と言いながら、物凄い勢いで試着室から駆け抜けていった。


 あ、真白ちゃん下着姿のまま逃げてった!!


 その後、流石にまずいと思った俺達で、何とか真白ちゃんを発見し連れ戻して着替えさせたのであった・・・



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