第13話 朔夜の思考回路は停止中!!





 最近の俺は疲れている・・・


 特に精神的疲労が半端ねえ・・・


 そんな俺に1通のメッセージが届いた。


『お昼休みにて・・・待つ・・・来られたし・・・さもなくば・・・』


 ・・・・・


 おい!

 なんかこええよ!!


 さもなくば何なんだよ!?

 最後まで書けよ!気になるだろうが!


 と思いつつも、行くことは決定事項である。


 だって俺の携帯に届いたメッセなんだから、誰が相手かわかってるしねぇ。

 従って場所も書いてなくとも、どこで待っているかもわかっているのだ。


 ただ、昼休みに呼ばれるのは珍しいなとは思う。


 だから若干だけ・・・

 若干だけだがびびっている・・・


 最近は色々ありすぎて、中々その場所に行く気力と元気がなかった・・・


 そのせいで、もしかして少し怒っているのかもしれないと思っているからだ。


 とはいえ、前からそうではあったのだが、特に今の俺にとっては重要な場所。

 唯一のストレス解消スポットなのである。


 だから、その場所と相手を無くしたくはない。


 相手がその程度で怒るような人では無いとはわかっている。


 わかってはいるのだが・・・


 万が一・・・

 万が一だ!


 少しでも怒っている様子が窺えたのであれば、平謝りする所存である!


 だから行く!

 何があっても!


 ・・・・・


 という事で昼休みになると、俺はそそくさと教室を出る。


 その直後、教室の中から・・・


「あっ!朔夜の野郎、どこへ行った!?」

「また、隠れて綾瀬さん達とイチャイチャ・チャイチャイしようって魂胆か!?」

「朔夜ゆるすまじ・・・正義の鉄槌を食らわせてやる・・・」


 という声が聞こえたが、俺には聞こえないのである。


 ・・・

 ってか、チャイチャイってなんだよ・・・


 どうしてもそこだけ突っ込んでしまう・・・


「え?私達はここにいるよ?」

「朔ちゃんは、なんか他に用があるんだって」


 瑞穂とみなもがフォローしてくれているようだ。


 おお、なんと!


 神様・瑞穂様・みなも様!

 ありがたや、ありがたや!


「くっ、綾瀬さんや花崎さんに庇われるなんて・・・」

「朔夜・・・もはやお前に明日の朝日を拝む事は出来ないと知れ!」


 妬みが酷いな!おい!

 俺を埋める気か!?そうなのか!?


「男の嫉妬は見苦しいわよ」

「あははっ、だから君達はモテないんだよっ♪」


「「「「ぐっはぁ!!」」」」


 俺を埋めようとする男子クソ共の心をえぐる言葉の2連撃・・・


 ご愁傷様です・・・

 と、俺は合掌しておく。


 まあ、それはいいとして・・・


 千里と美鈴にも感謝しながら、俺は目的の場所へと向かう。


 ・・・・・


 目的の場所の入り口の前に辿り着くと、一度大きく深呼吸をする。


 そして、どうか怒っていませんように・・・

 と、少しだけおっかなびっくりしながらその場所の扉を開けると・・・


「あ、やっほ~!よかった、来てくれたんだね♪」


 と先に来ていた相手が、ピカーと光輝くような笑顔を俺に向け、明るく迎え入れてくれた。


 うっ、光輝く笑顔がまぶしい!!


 ふう・・・全く、拍子抜けだぜ!

 びびって損したぜ・・・


 ってまあ、大丈夫なことは99%わかってたんだけどさぁ・・・

 その1%の可能性にチキっただけ。


 ・・・・・

 いや、だからチキンじゃねえし!!


 ・・・そんなどうでもいい事よりも、ここがどこでその子は誰かって?


 もう、せっかちだなぁ・・・


 あっ、痛い!やめて!物投げないで!!


 ぐすっ・・・

 ここは音楽室だよ・・・


 そして・・・


「ちぃーっす!そりゃあ来るさ、白姫」

「ちぃ~っす、ちぃ~っす!待ってたよ、朔くん!」


 俺の軽い挨拶に合わせてくれる気さくな彼女は、白姫こと白姫琴音しらひめことねだよ。


 サイドテールにした髪がよく似合う、先程の様にノリが良く非常に明るい子だ。

 それに加えて、物凄く良い子なのだ。


 更に白姫は非常に可愛いという事と、もう一つの理由により瑞穂と双璧を担うほど人気がある・・・らしい。


 なぜ、らしいと言うのかって?


 俺は、あんまり噂とか興味ないからねぇ。

 そういうのは、ふ~ん?程度でしか聞いてないんだよ。


 まあ、それはいいとして・・・


「てか、あの意味深メッセはなんだよ・・・若干怒ってるのかと思ったし、来なかったら何されるのかと思ってビクビクしたじゃんかよ」

「あははっ、ごめんねっ。普通に来てというよりも、朔くんの反応が面白いかな?と思ってね」


 ふぅ、全くびびらせよってからに・・・

 あのメッセは彼女なりのジョークらしいな。


 話してみた感じでも、怒っている様子は見られない。


 まあ、白姫が怒った所を見たことが無いから、有り得ない事だとは思っていましたけどね。


「でも怒ってはいないけど、少し拗ねてはいたかなぁ?」

「うっ・・・」


 怒ってはいないのは間違いないが、俺を少し責めるようにジト目で見られる。


「だって、最近全然ここに来てくれないから、一緒に歌えなかったもんねぇ・・・」


 そう言って寂しげな目を俺に向ける。


 くっ!

 なんてこった!


 俺が白姫を寂しくさせていたとは!


 友人としてあるまじき行為!

 いやお前おれはアルマジロだ!


 ・・・いや、俺何言ってんの?

 最近の俺、もうわけわからん・・・


 こんな精神崩壊気味の俺には、この場所と白姫という友人は必要なのである。


 というのも、白姫の言葉でも何となくわかると思うが・・・


 俺は前までは、よく放課後にここに来て白姫と一緒に歌っていたのだ!


 ・・・言っている意味がよくわからない?

 うん、まあそうだよね。


 俺もなぜそんな事になったのか、自分でも謎である。


 いやまあ、とっかかりは間違いなく俺なんだけどさ・・・


 ・・・・・


 それは1年時、ある日の放課後の事である・・・


 ・・・はい、いきなり回想が始まったとか言わない!!

 ちょっとだけ聞いて!!


 ・・・俺が音楽室の前を通った時に、僅かに漏れる歌声が聞こえてきた。


 その声にいざなわれ、音楽室の扉を開けて中に入ると・・・


 透き通ったような綺麗な歌声が、全身を通り抜けたのだ。


 そして、その歌が終った時の俺の第一声が、思わず・・・


「やべぇ、俺も一緒に歌いたい!」だったのだ。


 ・・・・・


 今思うと、超ハズいな・・・


 いやだって、上手い人の歌声聞くと自分も歌いたくならない??


 一緒に口ずさんだり、鼻歌を合わせたりするよね!?ね!?


 とまあ、それはいいとして・・・


 そう、つい口から出てしまった言葉を白姫に聞かれて、俺がいる事に気がつき驚いた白姫は、俺をジッと凝視したのだ。


 しばらく・・・いや、一瞬だったのかもしれないが、時間の感覚がわからないほど、彼女と視線を交錯させる。


 これはやばい!俺完全に邪魔したよな!?怒られる!

 と思ったのだが・・・


 次の瞬間、白姫はニコッと笑うと・・・


「じゃあ、一緒に歌おうよ♪」と、見ず知らずの俺に快く提案してくれたのだ。


 それ以来、放課後には時たま音楽室に来て一緒に歌うようになったというわけ。


 先に述べた、白姫が瑞穂と双璧を担う人気のもう1つの理由というのはこの事が関係する。


 ・・・いやいや、俺と歌うようになった事。

 なわけないっしょ!


 歌が上手いって事だよ!


 後から知ったことだが、彼女の歌の上手さと名前を掛け合わせて、『歌姫』と呼ばれるほどらしい。


 まあそれはいいとして・・・


 俺は下手くそだとは言え、ここで白姫と一緒に思いっきり歌う・・・

 それがストレス解消になっているのだ。


 だからこそストレスMAXな俺は、さっきも言ったようにこの場所と白姫との関係を壊したくはないのだ。


「朔くん、全然歌下手じゃないと思うけどなぁ?むしろ上手だよ?」


 ・・・・・


 くっ、白姫もか!

 白姫もなのか!?


 俺の心を読みやがって!!


 よしんば!

 口に出していたとしても!


 そこは聞かなかった事にしようよぉ・・・ぐすっ・・・


「まあまあ、そんなどうでもいい事は置いておこうね」


 ・・・どうでも良くねえよ!?

 俺が言うならまだしも、俺の心を読む本人が言うんじゃねえ!!


「それよりもさぁ、朔くんに聞きたい事があったんだよ」


 くっ、俺の嘆きは完全スルーしやがって・・・

 ま、まあいい・・・


「聞きたい事?俺がここに来なかった理由か?」

「うんまあ、それに近い事なんだけど・・・」


 なんだ?それに近い事って?


 何となく喉の渇きを覚えた俺は喉を潤そうと、ペットボトルを口に咥える。


「朔くんは、今4人と付き合ってるんだって?」

「ぶふっ!!」


 盛大に噴いた・・・

 口に含んだ水を、ほぼ全部噴き出した・・・


「ちょっ、ちょっと大丈夫?」


 汚いとは言わず、すぐにハンカチを出して俺を心配してくれる・・・


 なんて優しい子!


 でも・・・


「ごほっ、ごほっ・・・いや、色んな意味でだいじょばない・・・」

「うん、よかった。大丈夫そうだね」


 ・・・・・

 いや、聞いてた!?


 だいじょばないんだって!!


「それで、それでっ・・・どういう事なのかな?」

「違うっ!違うんだよぉ!それは語るも涙、聞くも涙の悲しい物語なんだよぉ!」


「ふむふむ、なるほどなるほど?罰ゲームを面白おかしくしようとして3人に振られようとしたのに、逆にOKされちゃったと?しかも、更に1人追加された・・・と?」

「そう!それ!それなんだよ!・・・って、あれ?」


 ・・・・・


 俺、今そこまで説明しました?

 してないよね?


 頭の中で説明したわけでもないから、俺の思考を読まれたわけでもないよね・・・?


 ま、まさか・・・

 あの4人以上に鋭い!?


 なんて恐ろしい子!!


「ふふっ、私に朔くんの事で知らない事なんてないんだよ?特にスリーサイズからスリーサイズまでバッチリ!」


 あらやだ!

 どこで私のスリーサイズなんて知ったの!?


 はずかちぃ~!!


「・・・って、あほかあああああ!!」


 しかもスリーサイズオンリーじゃねえかよ!!

 知ったとして、誰得だよ!その情報!


「あははっ!まあまあ、それはいいとしてね」


 全然よくないだろが・・・


「それで、朔くん自身は4人とは付き合っているつもりはないんだね?」

「あ、ああ。だって、罰ゲームだから振られるつもりだったのに、OKされたって頭がおいつかんよ・・・しかも3人どころか4人も相手だなんてさぁ・・・」


「うんうん、そうだね。じゃあ、朔くんは今後どうしたいの?」

「どうしたいか?そんなの決まってるじゃん!罰ゲームは罰ゲームで終らせる!4人からごめんなさいをもらうのだ!」


「そっかそっかぁ・・・じゃあさ、私に良い案があるんだけど・・・どう?乗らない?」

「何!?良い案だと!?それは、ごめんなさい間違いなし!?」


「もちのろんだよ!絶対に間違いないよ♪」

「本当か!?じゃあ、乗ったあ!!」


 この時の俺は精神的に疲れ果てていた・・・

 思考能力はほぼ0である・・・


 だから、白姫がニヤリとしたのも気がつくはずもなく・・・


「じゃあね、計画は・・・・・」

「ふむふむ・・・なるほど・・・」


 白姫に言われるがまま、“ごめんなさい”計画に乗ってしまったのである・・・



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



 ガラガラ!


 俺はウキウキ気分で教室へと戻ってきた。

 気分はサイコー!である。


 と、そこに・・・


「おい、朔夜!どこに行ってやがった!?正直に言え!さあ、吐け!!」


 と、男子クソ共が詰めかけて来て俺の襟首を掴んだ所で、俺の浮かれた心は彼らを気にも止めない。


 押し寄せる男子の、鼻にツーンとくる汗の匂いすら、今の俺にとってはフローラルに感じられる。


「あははっ、君達は何を言っているんだい?僕は食事に行っていただけだよ?」

『きもっ!!』


 男子クソ共の声がハモる。


 う~ん、彼らの罵声すら気にならない。


 そして・・・


「変な物でも食ったんじゃね!?」

「おい、拾い食いはよせ」

「元からイカレてる頭が更にイカレたか!?」


 など、俺をディスる声が蔓延っているが、最高の気分である今の俺にとっては心地よいハーモニー・・・


 そんなどうでもいい事は置いといて・・・


 ちらっと教室を見渡すと、ちゃんと4人の姿も確認出来る。


 よし、OK!

 これなら計画を実行出来るぞ!


 俺は男子共を適当にあしらいながら自分の席へ戻る。


 そして、携帯を取り出してメッセージ送信!ポチッとな!


 ふふふふふっ!

 これで、これでようやく念願のごめんなさいを言われるのだ!!


 そして罰ゲームから解放されるのだ!


 そんな事を考えていると・・・


 ガラガラッ!


 と教室のドアが開いた。


「やっほ~!こんにちは~!」


 と入ってきたのは、もちろん俺がポチッとなをした白姫である。

 ちゃんと4人がいる事を確認して、俺がメッセを送った時点で入ってくる手筈だったのだ。


 その白姫が入ってきた瞬間、教室がザワッとした。


 何せ『歌姫』と呼ばれ、瑞穂と双璧を担う人気の彼女が入ってきたのだ。


 そのため、男子共の目は白姫に釘付けである。


 そして、白姫が注目を浴びながらも口を開く。


「朔くんいる~?何か話あるんだって?」


 と、白姫が俺の名前を出した瞬間、男子クソ共全員の首だけがクルっと振り返り、俺を射殺すような目で見てきた。


 ・・・いや、さすがにこええよ!!


 いくら浮かれ気分だった俺とは言え、入り口に体を向けたまま顔だけこっち向けている、そのホラー的な光景は流石にびびる。


 更には・・・


「またあいつかよ!」

「朔夜死すべし!」

「リア充爆ぜろ!」

「朔夜・・・永遠にお別れだな」


 とブツブツ呟く声が聞こえる。


 いや、最後のが一番リアルすぎて恐いんだけど!?

 俺、ヘイト集まり過ぎじゃね!?


 ま、まあ、そんなのは無視して・・・


 今は白姫の計画を実行する事が最優先だ!


 彼女の計画はこうだ!


 俺「好きです!付き合って下さい!」

 →白姫「ごめんなさい!」

 →それを見た4人「私達がいるのに他の女に告白するなんて・・・最低!」と幻滅。

 →そして「節操のない貴方とは付き合えません、ごめんなさい」と4人から言われる。


 うははははっ!


 どうだ!?

 白姫の考えた計画は完璧だろ!?さすがは俺の歌友だ!


 いや、そんな事を考えているよりも、早速実行に移さねば!


 俺は立ち上がり、教室中から注目を浴びながら白姫へと向かって行く。


「ああ、よく来てくれたね。そう、白姫に話があるんだよ」

「ん?何かな何かなぁ?」


 ・・・・・


 くっ!


 やらせとはいえ、いざとなるとやはり緊張する!


 しかも白姫が、腰を軽く曲げて上目遣いで俺を見つめるもんだから、なおのことドキドキするじゃねえか!!

 いちいち仕草が可愛いんだよ!!


 今まで白姫をそんな目で見たことは無かったが、嘘告とはいえ告白するとなると女子として見てしまふ・・・


 ふぅ~・・・ふぅ~・・・


 くそっ!

 息も荒くなってきたじゃねえか!


 覚悟を決めろ、朔夜!

 これで全員からごめんなさいが貰えるのだ!


 ・・・よし!行くぞ!!


「・・・す、好きです!つ、付き合って下さい!」


 俺は頭を下げながら右手を前に出す。


 緊張しすぎだろ!

 またどもって、本気で言っている様に聞こえるじゃねえかよ!


 だが・・・


 くくっ・・・

 くくくっ・・・・


 くあ~はっはっはぁ!


 これで俺の罰ゲームは終了・・・


「うん、もちろんOKだよ♪」


 しませんでした・・・


 そして言葉と共に俺の左頬に手を添えられ、反対の頬には「チュッ」という音と柔らかい感触がありましたとさ。


 ・・・・・あれぇ??



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