第12話 朔夜、ゲームで嵌められる!?
あの後、俺はとりあえず全力で真白ちゃんを家から排除した。
そもそも、まだ教師が帰る時間じゃないじゃん?
まだ仕事が残ってるでしょうが!
という当たり前な理由を突きつけてやったのだ。
とはいえ、4人は部屋にまだいるわけで・・・
まあ、勝手に部屋にいた真白ちゃんと違って、俺が許可したのに彼女達をすぐに追い返すのもねぇ・・・
そんな中、この後何しようかという話になり、瑞穂が手を上げる。
「じゃあ、何かゲームしない?もちろん、負けた人は罰ゲーム有りでね♪」
くっ!
罰ゲーム有りだと!?
今の俺にとっては、若干トラウマになりかけているキーワードじゃねえか!
「うんうん、それいいねぇ♪」
くそっ、みなもも乗り気かよ!
「私も賛成ね」
マジかよ!!
千里まで乗り気なのかよ!?
罰ゲームがあるのにいいのかよ!?
「じゃあ、何する何する~!?」
こいつは言わずもがな・・・
美鈴が乗らない訳がないな・・・
「ふふっ、朔夜くんは渋っているみたいけど、朔夜くんが勝ったら君の中では継続している罰ゲームを終らせてあげてもいいんだよ?」
「何!?それは願ってもねえ!!だったら今すぐやるぞぉ!」
くくくっ、そういう事なら俺が乗らないわけにはいかん!
さて何をやるか?
俺の部屋にはSP(ステーションでプレイ)4はもちろん、最新のSP5やSwitchingもある。
更には親父もゲーム好きな為、親父の部屋にはレトロゲーのFC(ファミリーコンプレックス)やセイガ・サカーン等々もある。
そして、俺はどれもかなりやりこんでいるのだ!
くくくっ!
そんな俺に、何のゲームをやろうとも死角はない!
「さあ、うちにゲーム機は何でもあるけど、何をやるんだ!?何でもいいぞぉ!!」
俺はもうやる気満々の、勝てる気満々である。
そして、瑞穂は少し考えて口を開く。
「うん、じゃあね・・・ポッチーゲームで!」
「よっしゃあ!やってやんぜぇ!!・・・・・って、えっ?」
・・・えっ?・・・えっ?
・・・今なんて?
俺の聞き間違いか??
何でもござれで、ノリでやると言ってしまったが・・・
「ポッチーゲームね♪」
俺が困惑している中、瑞穂が再びゲーム名を口にする。
聞き間違いじゃなかったあああああ!!
・・・って、ちょ、ちょっと待てえい!!
確かに何でもいいとは言ったよ!言いましたよ!!
でも、普通はゲーム機やスマホのゲーム、もしくはトランプやボドゲなんかをやるだろが!
そのゲームは予想外すぎる!
そんなのは望んでねえええええ!!
「な、なあ・・・ちょ、ちょっと・・・べ、別のゲームにしないか??ほ、ほら、マリ男カートとかスマッシュシスターズとかさぁ・・・」
俺は一縷の望みをかけて提案する。
「朔夜くん、やるって言ったよね・・・?」
くっ!
いつもの如く、ウルウルした目で見つめやがってぇ!
俺がいつも、その目にやられると思うなよ!?
「やるって言ったよね・・・?」
「・・・はい」
無理・・・
無理でした・・・
はい、最初からわかってました・・・
あの目に勝てる訳もなく・・・
ましてや、俺の意見が通るわけがないことくらいさ・・・
・・・くっそぉ!
よりにもよって、何でポッチーゲームなんだよ!?
今時やるやつなんているのかよ!?
それよりも、あれは皆がいる所でやるからこそ盛り上がるもんじゃないの!?
こんなこじんまりした場所・人数でやったって意味ないだろが・・・
・・・・・いや。
俺が審判をやればいいんじゃね?
それなら俺はやらなくて済むし、何よりも禁断の花園を覗けるかもしれない。
おお、そう考えると興味が出てきた!
よし、それで行こう!
「そうだ!じゃ「ねえ、朔夜くん?」「朔ちゃ~ん?」「朔夜君?」「朔たん?」」
俺が提案しようとした瞬間に、4人とも笑っていない笑顔で俺を見て俺の言葉を遮る。
おい!遮るの早すぎね!?
まだ何も言ってねえよ!?
「朔夜くんは今、何を言おうとしたのかなぁ?」
「ヒィィイイ、な、何も言おうとしてません!!」
その笑っていない笑顔が恐いっての!
「朔夜君の考えた事、許されると思っていないわよね?」
「お、思ってないです!ハイ!」
千里の圧力がぱねえ!!
「朔ちゃんは、当たり前だけどプレイヤーだよぉ?」
「そ、その通りです!」
みなもまで、普段とは迫力が違いすぎる!
「朔たん、空気よめよぉ~」
「お前にだけは言われたくねぇ!!」
普段から空気を読まない美鈴に言われるとは・・・
4人から圧力をかけられた俺は落胆する。
もう諦めるしかないのですね・・・?
「くそっ!わかったよ!わかりましたよ!じゃあ、さっさとやって終らせるぞ!」
俺は嫌な事は、さっさと済ませたいタイプ。
やると決めたからには、早く終らせたい。
「うん、朔夜くんが乗り気になってくれたようでなにより♪」
乗り気になったわけじゃねえよ!
「朔ちゃんはツンツンデレデレだからねぇ♪」
なんじゃそりゃあ!
それはどっちかというと、ツンツンされてデレデレしてるキモい奴みたいじゃねえかよ!
「朔夜君、最初から素直になった方が良いと思うの」
最初から素直じゃい!
俺の意見をねじ曲げられて、やけくそになってるんじゃい!
「朔たんのあまのじゃくは筋金入りだよっ!」
くそぉ!
天邪鬼の権化に言われるとは・・・
「うん、朔夜くんも納得してくれたようだし、早速やっていこうね!もちろんルールはわかってるよね?」
・・・・・今の俺の様子を見て、どこが納得していると?
ま、まあいい・・・
それよりも、あれだろ?
互いにポッチーの端を咥えて少しずつ食べていき、途中で折れたり互いの唇が触れないようにして、一番短く出来たペアが勝ちってやつだろ?
「うん、その通りだよ。まずは対戦相手として、朔夜くん対私達4人です!」
・・・・・ん?あれ?
なんかおかしくね?
どういう事!?
「そして、互いの唇にくっつくまで食べるか、口からポッチーを離した時の長さが1cm未満になれば朔夜くんの勝ちです!」
・・・・・
おい!どこがその通りなんだよ!!!
ルールが全然ちげえだろ!!!
なんで俺1人と女子4人の対決なんだよ!!
普通はペア対決だろが!!
しかも、本来は唇が触れたらだめだろが!
しかも唇が触れないで離した場合は1cm未満て・・・
唇触れずに1cm未満なんて、どう考えても不可能じゃん!!
どっちにしても、唇が触れないと俺の勝ちにならないって事じゃねえか!!
くそっ!
瑞穂が罰ゲーム終わらせてもいいとか言った時点で、気づくべきだった!!
最初から俺が不利になるゲームになる事、間違いないだろうが!!
もしかして俺は嵌められた!!
勝っても負けても、俺にとっては地獄だろうが!?
いや、天国か!?ご褒美か!?
・・・もう何がなんなのかわかんねえよぉ!!
「ちなみに、私達はポッチーを最初に咥えた所から進ませないから、勝つか負けるかは全て朔夜くんのさじ加減にかかってるからね♪」
そういう問題じゃねえよ!!
くそぉ!!
なんて事だ・・・
こんな状況、普通ならご褒美なのかもしれない・・・
しかし、俺は(俺の中では)付き合っていない女性、しかも複数人と気軽にそんな事をするチャラ男にはなりたくないの!
それに、ファーストキスって大事じゃん!?
そういうのはね!
そういうのは、ゲームなんかでするもんじゃないでしょ!!
わかる!?
君達も、俺みたいな奴なんかとじゃなくてさぁ・・・
と考える俺の気持ちなど、彼女達には通用しないのである。
「じゃあ、早速始めよう♪」
と言って、瑞穂はポッチーを咥えて俺の方に差し出してきた。
だから、なんでそんなに簡単に・・・
くっ、もう逃れられないのか・・・
俺がドギマギして躊躇っていると・・・
「ねえ、早くしないとゲームが進まないよ?」
と言われてしまふ・・・
くそっ!
それを言われてしまうと痛い・・・
俺が渋っているせいで、ゲームが進まないという状況はいただけん・・・
・・・くっそぉ、もうどうにでもなれっ!
俺は意を決して、瑞穂が咥えたポッチーの先に口を近づける。
・・・
しかし、ポッチーを咥えて目を閉じている瑞穂を前にすると・・・
すげえ、可愛すぎるんですけどぉ!
めちゃくちゃドキドキするんですけどぉ!?
やばい!
これはやばい!
心臓が口から飛び出るんじゃないかってほど、ドキドキがやべぇ!
それでも何とか俺は、ポッチーの先を咥える。
そして、ゆっくりかじり始める。
ポリ・・・ポリ・・・
ひぃいいいいい!
少しずつ瑞穂の顔が近づいてくるよぉ!!
ポリ・・・ポリ・・・ポリ・・・くっ!
そして、半分くらい進んだ所で・・・
ポリ・・・ポリ・・・パキッ!
「も、もう無理ぃいいいいい!!」
俺は限界に達しました・・・
だから、ポッチーを折りました・・・
「ああん、もう!・・・ふふっ。とりあえず、これで朔夜くんは罰ゲーム1つね」
瑞穂は残念そうにしながらも、俺が負ける事が最初からわかっていたように楽しげな顔を浮かべている。
くそぉ!
やっぱり、どう考えても俺は嵌められたんじゃね!?
と考えるも、それ以上は俺に考える猶予はないらしい・・・
「はい、朔ちゃん!じゃあ、次は私とだよぉ♪」
そう言ったみなもは、瑞穂と同じようにポッチーを咥えて俺の前に来る。
・・・って、みなもはポッチーを咥えながら唇を突き出してんじゃねえかよ!
どう考えても、その部分だけで1cm以上あるじゃねえか!
これは俺の負け確か!?
・・・・・いや、やってみない事にはわからない!
俺はこれ以上負けて罰ゲームを受けるわけにはいかないのだ!
よし、や、やるぞ!
俺はそう気合いを入れて、ポッチーの先を咥える。
・・・・・
くっそぉ!
つーか、瑞穂もそうだったけど、みなももかわいすぎんだよ!
そんな顔を間近で見せられたら、ドキドキすんじゃねえか!
しかも、ポッチーをかじればかじるほど、顔が近づいていくし・・・
ポリ・・・ポリ・・・ポリ・・・
ちけえよぉ!
ドキドキして震えるよぉ!!
ポリ・・・ポリ・・・あ、あと少しだけ・・・
「って、だあああああああ!!」
俺はたまらずポッチーを離してしまった。
もう無理!
これ以上は無理!!
これ以上やると、俺の心の臓が持たない!!
「あ~あ、あと少しだったのにぃ・・・でも1cm以上残ってるから、これで朔ちゃんの罰ゲーム2つ目だよぉ♪」
やはりみなもも、残念そうでありながらも楽しそうにしている。
つーか、無理だよ!
こんなの勝てる訳ねえじゃん!!
「朔夜君、大丈夫よ。私は口を突き出したりはしないから。だから、はい頑張ってね」
そう言った千里も、ポッチーを咥えて俺に向けてくる。
くそぉ・・・
やはり、全員とやるまでは・・・途中で終ると言う事はないのか・・・
しかし千里の場合は、彼女が言ってくれたように普通に咥えているだけだ。
むしろ、少しだけ唇を引いてくれているようだ。
これなら、確かに頑張ればいけるかもしれない!
よし、朔夜!
ここが正念場だ!
絶対に勝つぞ!!
そう意気込んで、近くで見る千里の綺麗な顔にドキドキしながらも、ポッチーを咥える。
ポリ・・・ポリ・・・ポリ・・・
よし、いけそうだ!
千里の顔を見るな!
見てはドキドキが止まらなくなってしまう!
ポリ・・・ポリ・・・ポリ・・・
あとちょっと、あとちょっと・・・
ひぃいいいいい・・・
唇が付きそう・・・付きそうだよぉ!!
俺はなんとか頑張って、目視では1cm切っているように見える所までいった!
「よっしゃああああ!これはいっただろう!!」
俺はポッチーから口を離し、勝利の雄叫びをあげた。
のだが・・・
「・・・残念ながら、朔夜君」
と千里が言いつつ、自分が咥えていたポッチーの残りを見せてくる。
・・・・・え?
普通に3cm以上あるんですけど・・・?
千里は長めに咥えて、その部分を噛み切ってなかったってことかよぉおおおお!!
そんなの絶対無理に決まってんじゃん!?
「ふふっ、朔夜君は甘いわね。これで罰ゲーム3つめね」
ちっくしょぉ!
こんなの最初から出来レースじゃんかよぉ!
俺が勝つにはチューするしかなく、彼女達が負けても俺に罰ゲームをさせられる。
彼女達にとっては、どっちに転んでも良かったのかよ!!
「朔た~ん、まだ終ってないよ~?私が残ってるじゃん」
美鈴はそう言って、俺に唇を突き出してくる。
「お前はポッチー咥えてねえじゃねえか!!」
俺は美鈴にビンタをするようにして、一度頬で手を止めてそこから軽く振り抜く。
いや流石に、本当に女の子にビンタする事は出来ないからね。
「いたい!私をぶったなぁ!」
「うるさいっ!」
痛くもないのに文句をいう美鈴に、今度は逆から同じように頬で一旦手を止めてから軽く振り抜く。
「に、二度もぶったなぁ!お袋さんにもぶたれたことないのにぃ!」
と、どこかで聞いた事あるようなセリフを吐きながら、美鈴は嘘泣きをする。
てか、袋さんって誰のことだよ!!
まあ、これが俺と美鈴のおふざけであり、いつものパターンである。
正直、美鈴とは普段通りで少し安心する。
と、そこに・・・
バーン!!
「朔夜あああああ!!私ともポッチーゲームするぞぉおおおおお!」
と再びクローゼットから真白ちゃんが現れた・・・
うぉい!!どういう事だよ!!
いや、マジでさ!どうしてさ!?
さっき家から追い出したじゃん!?
俺の部屋のクローゼットどうなってんの!?
猫型ロボットが引き出しから現れるように、俺のクローゼットもどっかに繋がってんの!?
つーか、真白ちゃんが手に持ってんのは・・・
ポッチーじゃなくて、うめえ棒じゃねえか!
ポッチーと違って、口ん中パサパサしてやりづれえよ!!
俺は心の中でそう突っ込みながら、笑顔で俺を見つめる真白ちゃんの腰を抱えてヒョイと持ち上げる。
「な、なんだ、朔夜?ず、随分と、せ、積極的ではないか」
と言いながら、照れた顔を見せる真白ちゃんを無視して・・・
ポイッ!
と、部屋の窓から外へ投げ捨てた。
「なんでだああああぁぁぁぁぁ『ピシャリッ・ガチャッ』」
ふう、これでもう安心だろう。
真白ちゃんを窓から投げ捨て、速攻で窓を閉めて施錠してやりましたよ!!
この一瞬、俺は何もかも忘れやり尽くした感で満足していた。
もう、これで全てが終ったんだと・・・
「というわけで、1人一つずつ朔夜くんに罰ゲームを要求するね♪」
・・・・・
ですよねぇ・・・
全てを無かった事にしようとしていた俺の考えは、完全に見透かされていました・・・
自分の部屋である限り、彼女達から逃げられるわけもなく・・・
罰ゲームは執行されましたとさ・・・
その後、俺の心の臓が破裂したのは言うまでもない・・・
・・・・・・
その夜。
眠れねえ!!
眠れねえよおおおおおお!!
布団から匂ってくる彼女達の良い香りに包まれているやら、今日の出来事やらで悶々として眠れぬ夜を過ごすのであった・・・
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