第9話 トリッパー朔夜爆誕!






「ふぅ、何か久しぶりに1人になれた気がするなぁ」


 現在は昼休み。


 俺は飯を食った後、1人で校内をプラプラしている。


 というのも、昼休みになると瑞穂は委員会の仕事、みなもは別クラスの友人からお呼ばれ、千里は弓道部のミーティング、美鈴はクラスの女子に捕まっていたのである。


 そのため俺はそそくさと学食に向かい、1人飯をしていたのだ。


 だってさ、飯買って教室で食ったとしたら、間違いなく男子クソ共がうっとおしいし、彼女達の誰かが戻って来ないとも限らないだろう?


 せっかく、久しぶりに訪れた俺の平穏だ!

 俺は静かに過ごしたい!


 だからこその、学食でのすみっコぐら・・・いや、隅っこ飯なのだ。


 誰にも気づかれることもなく、誰にも構われることもない・・・


 いやぁ・・・

 なんと、心安らぐ時間だっただろう。


 これが幸せってやつか・・・


 ・・・・・


 このまま一生、一人でもいいんじゃね?


 いや、このまま空気と同化したい・・・


 ・・・・・


 心の安寧を求めすぎて、よくわからない思考に陥るほど精神崩壊している俺・・・


 ま、まあ、そんなことはどうでもいい。


 それよりも今日は天気もいいことだし、この幸せな気分のまま中庭のベンチで昼寝でもするかな?


 と、俺が幸せ気分を満喫しようとしていると・・・


「お~い!朔た~ん!!」


 と、背後から俺の幸せをぶち壊す元凶の声が廊下に響き渡った・・・


 くそっ!

 クラスの友達と駄弁ってたんじゃなかったのかよ!


 しかも、俺を速攻で見つけるとかさぁ・・・


 どんな嗅覚してんだよ!

 鋭すぎるわ!


 と考えながら振り向いた俺の目に入ってきたのは・・・


 もう明らかに、ドドドドドッ!という音が目に見えるほどに、勢いよく駆けてくる美鈴の姿だった。


 しかも、その勢いに止まる気配は感じられない・・・


「お、おい!ちょっと・・・って、ごふぅ!!」


 美鈴は俺の声掛けも無視して、ノーブレーキで俺の腹に強烈なタックルを食らわせてきやがりましたよ・・・


 って、おいいいいいい!!

 ばかばか!倒れる!倒れるよぉ!!


 背中から倒れるとか、恐怖以外なにものでもないんですけどぉ!!


 そんな事を考えている間に、俺の腹にタックルを食らわせて、そのまま俺の腰に抱きつきやがった美鈴ごと思い切り後ろに倒れる。


 もちろん受け身を取ることは適わない。


 そして・・・


 ゴン!!


 と後頭部を強打する・・・


 うがあああああ!!


 いってええええええ!!

 くっそお!!


 あまりの痛みに頭を抱え転げ回りたい!

 にも関わらず、俺は全く動けねえし!!


 だって・・・

 美鈴が俺の腰に抱きついたままなんだもの・・・


「あはっ、朔たんごめ~ん」


 美鈴はそう言いながらも、俺から離れようとしない。


「ごめんじゃねえよ!いいから、早くそこをどけろっての!」

「いや、それは無理・・・」


「はっ!?何でよ!?」

「なぜなら・・・私が朔たんにくっついていたいからっ♪」


 ・・・・・


「あほかあああああ!!」


 よりにもよって、くっついていたいからだと!?


 ふざけんなよ!


 後頭部の痛みと美鈴の身体の柔らかさに対する意識は、美鈴の身体の柔らかさが勝ってしまうだろがぁ!!


 俺は後頭部の痛みにのたうち回りたいの!!


 なのに・・・


 やわらかい・・・

 やわらかいよぉ!!


 ・・・・・


 俺・・・

 いつからこんな変態に成り下がったの・・・?


 もうだめだ・・・


 最近の俺・・・

 頭がおかしすぎる・・・


 ・・・くそぉ!


 ただでさえ罰ゲームがおかしな方向に向かったのに、こいつまで更に乗っかってきやがったのも要因の一つなんだ!


 俺を悩ませる元凶の内の一つめぇ!


 俺は友達だと思っていたのに・・・

 友達だと思っていたのにぃ!!


 裏切りやがってぇ!!


「朔たん、それは違うなぁ。私達は今でも友達だぞっ♪」


 何が友達か!?

 自分から告白しろとか言っといて、今更友達だとか意味わかんねんだよ!!


「うぷぷっ。朔たんの考えは、相も変わらずあさいなぁ。あさといえば朝汁だよ!」


 くっ!

 こんな訳のわかんねえアホな事をいうやつに、浅いと言われる俺って・・・


 前までは美鈴は俺と同レベル・・・いや、こんなやつと同レベルではない!

 俺以下だったはずだろ!!


 ま、まあ、それはいいとして・・・


「お前に浅いとか言われたくはないが、何が浅いってんだよ!?」

「朔たんから熱烈に告られたんだから恋人なのは間違いないんだけど、だからといって朔たんとの友情関係がなくなったわけじゃないんだなぁ♪」


 ・・・・・


 更に意味わからなくなったじゃねえかよ!

 てか、俺が熱烈に告ったってなんだよ!?


 どっちかというと、あの時は冷めてたよ!

 冷え冷えだよ!


 むしろヤケクソだよ!


 そして恋人認定してんじゃねえよ!


 違う!違うの!

 俺は恋人になるつもりはないの!


 おいらはごめんなさいを所望なの・・・


 ・・・・・


 つーか、今までスルーしてきたが・・・


 美鈴までナチュラルに俺の思考を読んでんじゃねえ!


「何言ってるのさ。私と朔たんの仲ならツーと言えばカー、フーと言えばフじゃん?」

「いや、いくら何でもツーカーで通るほどじゃないだろ・・・」


 てか、その後のフーと言えばフってなんだよ!?


 ・・・・ん?


 ツーと言えばカーで、俺は今ツーカーって略したよな・・・

 フーと言えばフで・・・


 フーフ・・・・


 ・・・・・


「夫婦かよ!!無駄にとんちを効かせてんじゃねえ!!」


 しかも恋人から昇格してんじゃねえかよ!


 俺は恋人になるつもりはないっていったからか!?あぁん!?


「あははっ、やっぱり朔たんはノリがいいから楽しいねぇ♪」


 ・・・・・


 うん、俺もなんだかんだ言って楽しい。


 これが以前の友達としてだったなら、もっと素直に楽しめたのに・・・


 だからこそ・・・


「だったら、今まで通りでいいじゃねえかよ・・・」

「むふふっ。それはその通りなんだけどね・・・でもさぁ、私が朔たんの喜ぶ事を率先してやるとでも思ってるの?」


 ・・・・・


 そうだったあああああ!!

 こいつはどちらかというと、俺が困る事の方が好んでする奴だったんだあああ!!


 全部が全部そういうわけじゃないが、それでも圧倒的にだ!

 その方が面白いという理由で・・・


 もちろん、俺が本気で嫌がるようなことをする奴ではない。


 だからこそ、いつもなら俺もそれなりに楽しんでいたんですけどね・・・


 今回は、罰ゲームが失敗して俺が困っているのを敏感に察知しやがったのだ!


 だから更に俺を困らせて楽しもうとしやがったんだな!?


「ま、思いを遂げるには最高のタイミングだったのは間違いないけど、でも朔たんを弄る最高のタイミングでもあったよね♪」


 ・・・くそがっ!

 美鈴が本当に俺の事を思っていたのかどうかは別として・・・


 これが他の人が俺と同じ立場になっていたら、俺だって間違いなく似たような事をやってるよ!


 他人の困る姿ほど、見てて楽しいものはないからな!


 だからこそ美鈴の気持ちがわかるだけに、悔しいいいいい!!


 ・・・・・最低?似たもの同士?


 ・・・・・


 ふん、知るか!?

 そして、美鈴と一緒にすんじゃねえ!!


 俺は美鈴と違って、もっと、ほら、あれだ・・・


 崇高な・・・なんちゃら・・・


 ・・・・・


 おい!

 今、美鈴と一緒以下だと思っただろ!?


 ち、違う!

 言葉が出てこなかったとか、そんな事はないぞ!?


 そ、そんな事はないんだから・・・

 そんな事ないもん・・・


 い、いや、それはどうでもいい!

 それよりもだ・・・


「くっ、確かにお前はそういうやつだった・・・いや、だけどさぁ、だからと言ってあの場面で美鈴まで名乗り出る必要はないだろうが!俺はお前とは恋人になるつもりはない!」


 だって、美鈴とは友達がいいんだもん・・・


「・・・・・」


 お?珍しく美鈴が黙ったぞ?

 ・・・ちょっと言い過ぎたかな?


 と、美鈴に同情なんてするもんじゃないんですよ・・・


 美鈴はニヤリとした笑みを浮かべると・・・


「朔たん、そんな事言っていいのかな~?私は朔たんの弱点を知ってるんだぞぉ?」


 な、なにいいいいい!?

 お、俺に弱点だと!?


 そんなものがあるはずない!


「お、俺に弱点などないぞ!」

「ふふん?本当にそうなのかなぁ?・・・くすくす」


 美鈴はそう言うと少しだけ俺から離れ、俺の上半身を優しく起こす。

 そして美鈴は立ち膝になったかと思うと・・・


「むぐぅ!」

「お~、よしよし、ごめんね~、頭痛かったよねぇ~」


 美鈴は俺の後頭部を優しくなでている。


 しかし、俺の意識はそこには向かない・・・


 なぜなら・・・

 美鈴は正面から俺の後頭部を撫でている・・・


 という事は・・・


 俺の顔はアルプス山脈にいざなわれ・・・いや、それは言いすぎた・・・

 小高い2つの丘に引込まれ、花のような甘い香りに包まれている。


 ・・・ここが天国ヘブンか。


 あははははっ、あははははっ・・・・


 と、俺の頭の中では、花が咲く綺麗な丘を地に足付かずに笑いながらスキップして駆け回っている気分である。


 今なら天高く昇っていけそう・・・


 どこまでも・・・

 どこまでも・・・


 ・・・・・・


 って、だああああああああ!!


 トリップしている場合じゃねえ!!

 正気を取り戻せ俺!!


 正気に戻った俺が美鈴の中でジタバタしていると・・・


「ふふん、どうやら自分の事を理解したようだねっ♪」


 そう言いながら、ようやく俺を天国ヘブンから解放する。


「くっ、う、うるさい!お前なんかに屈したりはしないし、恋人にもならん!を洗って出直してこい!!」


 ・・・・・


 あれ?

 今俺、何を口走った!?


 顔を洗ってと言うつもりが・・・


 ばっかやろおおおおお!

 意識がそっちに向きすぎじゃねえか!


 火に油そそいでんじゃねえよ、俺!!

 もしくは美鈴を求めてるみたいじゃねえかああああ!!


「ふ~ん?そういうこと言うんだ?他にも朔たんの弱点は知っているのに?」


 ほら!

 だから言ったじゃねえか!


 美鈴が捉えたのは前者だったが、どっちにしても危険が危ない!!


「ちょ、ちがっ「例えば、こう・・・」」


 言い訳しようとした俺を無視した美鈴は、今度は俺に抱きついて頬ずりする・・・


 あひゃあああああああ!!


 美鈴のほっぺが温かくてやわこいよおおおおお!!


 ・・・・・


 ごめんなさい・・・

 弱点ありました・・・


 いっぱい弱点ありました・・・


 むしろ弱点だらけだったよぉ!!


 もうやめて・・・

 もうやめてくれよおおおおお!


 ごめんなさい・・・許して下さい・・・


 俺に異性を意識させないでくれぇ!!


「うふふっ、これからもずっと一緒にバカな事をしていこうね♪」


 その後も、楽しそうな美鈴に昼休みギリギリまで精神を摩耗させられるのであった・・・



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