第8話 朔夜、消される!?
「朔ちゃ~ん」
俺はただ今授業中。
何の授業かというと、選択授業の美術である。
本当は音楽でも良かったんだけど、絵を描くことも好きだったから何となく選んだ。
1年の時も同じような理由で美術を選んだしな。
まあ、ちゃんと課題の絵さえ提出すれば、騒がしくない程度に多少は自由というのが1番のポイントだけど。
「お~い、朔ちゃ~ん」
考えてみれば、1年の時に俺とは別のクラスだったみなもと出会うきっかけにもなっているんだよなぁ。
ある日の授業で、隣の人の似顔絵を描くという課題を出された時に、たまたま隣にいたのがみなもだったのだ。
まあ、その時くらいからだったかな?
何となく仲良くなった気がするのは。
「朔ちゃんってばぁ」
・・・・・
でも俺はあの時、ウケを狙うために(超絶イケメンにした)自画像を描いて渡したような・・・
しかも(超絶フツメンの)本人もイケメン気取ってたような・・・
・・・って?あれ?
今思い出すと・・・あの悪ふざけした時の俺・・・
キモくない!?
いや、マジできめえ!!
何やってんの!?バカじゃん!バカすぎじゃん!!
もう、土に還りてぇ・・・
むしろ土に還る!
と、今更自己嫌悪に浸る俺・・・
「さ~く~ちゃ~ん、無視しないでよぉ」
ゆさゆさゆさっ!
い、いま・・・か、かんが・・・えると・・・あ、あの時の・・・俺は・・・き、きもすぎ・・・
て、てか・・・あんなきもい事を・・・や、やり続ければ・・・ご、ごめんなさいが・・・って・・・
「おええええ」
うおい!!
俺の身体をゆさゆさ揺らすんじゃねえ!
頭振られて気持ち悪くなったじゃねえか!
吐きそうになったじゃねえかよ!
「だって、朔ちゃん無視するんだもん」
「違う!俺は今、回想にふけってたの!!気がつかなかっただけなの!!」
「うん、知ってるよぉ」
「知ってんのかよ!?」
どこまでエスパーなんだよ!!
つーか、知ってたなら身体を揺らすんじゃねえ!
「だって、私の事を考えてくれているのは嬉しいけど、本物が目の前にいるんだから、こっちを構ってくれないとダメだよぉ」
・・・・・俺、赤面。
俺がみなもとの出会いを思い出していた事がばれていた・・・
くっそぉ!
本来ならみなものセリフにも赤面するはずが・・・
キュンキュンするはずが・・・
恥ずかしさの方が勝るじゃねえかよ!!
やめてくれ!
俺の思考を読むのはやめてくれよ!!
俺のプライバシーが筒抜けじゃねえかよ!
マジで俺のプライバシーを尊重して下さい!(切実)
「朔ちゃんのプライバシーなんて、どうでもいいんだけどぉ」
「どうでもいいのかよ!?」
「うん!ていうかむしろ、朔ちゃんのプライバシーは私達に知られるためにあるんだよ?」
「なんですと!?」
驚愕の新事実が発覚!?
俺のプライバシーは俺の為のものではなく、彼女達に知られるためにあったなんて・・・
・・・・・
「って、んなわけあるかぁい!」
俺のプライバシーは俺だけのもんじゃい!!
「あははっ、相変わらず朔ちゃんは面白いねぇ」
みなもはそう言いながら、俺の背中をバシバシ叩いて笑っている。
そして笑い終った後も、俺の肩に手を置いたまま俺の身体から手を離す事はしない。
くっ!
知り合った時からそうだが、相変わらずボディタッチの多い奴!
そりゃ、男は絆されるってもんだろが!
まあ、以前は友人と接していたから、絆されるような事はありませんでしたけどね。
恋愛ではなく友情なら、俺は男女関係なく動じる事はないのだ!
そんな事を考えていると、みなもは俺の肩に置いた手を支点にクルッと身体を回して横向きになりながら、俺の膝の上に座りましたとさ・・・
うひゃひょおおおおおお!!
俺の膝に桃が!
桃がああああああ!!
・・・・・
ああ、桃にかぶりつきてぇ・・・
じゃねえ!俺はどこまで変態だ!?
俺がどんな意味で言ったかは俺も知らんが、そんな事をしたら俺の腕に輪っかをかけられて狭い部屋へ直行だろが!
・・・いや、むしろその方が俺の精神衛生上いいのでは?
・・・・・
ばっかやろう!!
この若さで前科持ちなんて嫌だよ!!
やべえよ・・・
精神崩壊している上に、心の平穏を求めすぎだよ・・・
心の平穏を優先した思考が半端ねえ・・・
俺の心の汗(涙)が止めどなく流れている中、みなもはずっと俺の顔を笑顔で見ていた。
つーか、俺の膝に座ってるから顔がちけえよ!!
ドキドキすんだろが!!
みんな俺を心臓破裂で死なせたいの!?
と思っていると、みなもの次の言葉で俺は一瞬凍り付く。
「朔ちゃん、大丈夫だよぉ。朔ちゃんから何されたって、お巡りさんなんて呼ばないよ?」
・・・・・
もうやめて!!
ほんとにやめて!!
俺の思考を読まないで!!
激恥ずなんですけどぉ!!
しかも、俺は濁して言ったのに、ズガンと核心を突いちゃったよ!
やめて!俺を犯罪者扱いしないで!
穴があったら入りたい・・・
いや、穴に入った後に埋めてもらいたい・・・
・・・・・
くそう!
余計な事を考えるからダメなのだ!
そもそも、みなもは誰にでもボディタッチや接触の多い子だっただろ!?
俺に触れるのも、俺の膝に座っているのも、その延長だ!
気にすんな!
・・・てか、そう考えると、
「つーかさ、みなもは誰にでも触れすぎだぞ?そんな事をするから、勘違いする野郎が増殖するんだ」
これは嫉妬心からではなく、今後のみなもを純粋に心配しての言葉であった。
のだが・・・
「えっ??」
「・・・え??」
みなもが何を言っているの?と言う顔で首を
「私は女子とはよく触れ合うけど、男子とは朔ちゃん以外に触れた事ってほとんどないよ?」
「え?はっ?いや、だって・・・」
「あ~、朔ちゃん何か勘違いしてるなぁ?」
「か、勘違い!?」
「うん!だって他の男子と仲良く話す事はよくあるけど、触れたいとは思わないもん。朔ちゃんがいれば必然的に朔ちゃんに触れていたけど、朔ちゃんが見てる前でも女子としか触れてないはずだよ?」
「・・・・・」
・・・そ、そうだったか??
た、確かにみなもが笑う時にバシバシやるのも・・・
みなものいる中で、男同士で筋肉自慢した時にみなもが触っていたのも・・・
それにあの時も・・・あの時も・・・
・・・・・
確かに男に対しては・・・
全部、相手は俺じゃねえか!!
・・・俺、ラブコメ漫画読んでいる時に、鈍感系主人公とかありえねえわ!とか、こんなの普通気付くだろが!とかバカにしてたんだが・・・
正に
バカは
なぜもっと早く、みなもの好意に気付かない!?
もっと早くに気付いてりゃ・・・
いやいや、でもさぁ・・・
だからといって、自分に気があるんじゃね?とか自意識高い勘違い野郎になって、「はっ?ありえないんだけど」とか言われたら、それこそ目も当てられなくない!?
実際、そこまで言われてはいないだろうけど、それでみなもに振られた奴はいくらでもいるわけだし・・・
「あははっ、でも私は朔ちゃんが鈍感系で良かったと思うよ♪」
もう、突っ込まない・・・
俺の思考を読まれても突っ込まないぞ!
「な、なんでさ?」
「え、だって・・・朔ちゃんが鈍感じゃなかったら、私達の内の誰かと既に付き合っていたかもしれないよねぇ?更に言えば、もし付き合っていなくても私達の気持ちがわかっていたら、罰ゲームとはいえ私達に告白なんて絶対しなかったよねぇ?」
・・・確かにそれは言えているかもしれない。
「だから朔ちゃんが鈍感で良かったし、おバカな事が大好きな朔ちゃんが罰ゲームを盛り上げようと3人を選んでくれたからこそ、美鈴ちゃんも含めて私達全員が幸せな気分になれたんだからねぇ♪」
・・・・・
くそぅ!!
なんて良い子達なんだよ!!
感動するじゃんかよぉ!!
でもだからといって、なんでこんなありえない状況を受け入れられんだよ・・・
むしろ、俺の方が受け入れられねえよ・・・
俺が間違ってるのか・・・?
今の時代はそういう時代なのか!?
いや、そんなはずはない!
ハーレムが許されるのは漫画や小説の中だけのはずだ!
海外にはあるよ、という突っ込みはこの際無しだ!
よしんば!
よしんばハーレムが有りだとしてもだ!
・・・・・
やっぱり俺には無理・・・
俺の心臓が持たない・・・
だから罰ゲームは罰ゲームで終らせてくれよぉ・・・
むしろ、今からでもごめんなさいを言ってくれ!
そんなことを考えていると、みなもが「ふふっ」と笑いながら俺の肩にコテンと顔を預けてくる。
うっひゃああああ!!
そ、そんな事されたら、俺の頬にみなもの額がああああ!!
くっそう!!
あったかい!みなもの額があったかいよおおお!!
俺が嘆いている中、みなもはその体勢のままボソッと呟く。
「うん、朔ちゃんはそのままでいいんだよ。朔ちゃんは朔ちゃんだからこそ、朔ちゃんなんだからね」
・・・・・
脳みそが足りない俺には、みなもがどういう意味で言ったのかがわからない。
今の状況なのか、俺の考えている事になのか・・・
でも、なんとなく心がホワッと温かくなるような気がした・・・
「み、みなも・・・」
と、俺がみなもに何かを言いかけた時・・・
「はい、そこ~。まだ授業は終わってないぞぉ」
と、美術の男性教師が声をかけてきた。
ずっと小声で話していたし周りの迷惑にはなっていないし、俺達は2人とも既に課題を終えているので問題はないはず。
しかし、さすがに俺達の状況を見るに見かねて注意をしてきたのだろう。
「イチャイチャするなら・・・リア充死ねっ!!おっと本音が・・・授業じゃない時に、人目のつかない場所で・・くたばれっ!!ついまた本音が・・・まあ、要するに周りに迷惑かけんなって事だ」
おい!!
教師のくせに本音が駄々洩れだろ!!
教師がそんなんでいいのかよ!?
しかも最後めんどくさくなって、要約しすぎだろが!
そもそも俺達のどこが周りに迷惑かけ・・・
じーーーーーー((((リア充死ね・・・リア充死ね・・・))))
うおっ!!まじかよ!?
気が付けば俺達は、周りの生徒達から見られていた。
しかも特殊能力はないはずの俺に、その生徒達の視線から声まで聞こえる!?
もうこれこそ、紛れもなく視線じゃなく死線だ!
しかもその死線は、俺達というより完全に俺1人に向けてである。
まずい!
このままでは
「ちょ、ちょっとみなも!早く俺の膝から降りてくれ!」
「は~い・・・ちぇ~、もう少しこうしていたかったなぁ・・・」
俺の言葉に、みなもは少し残念そうに離れた。
・・・って、あれ?ちょっと待てよ?
みなもが俺の膝に座っていた事で殺気を浴びせられていると思ったが・・・
逆に近くにみなもという防御壁があったから、俺は無事だったんじゃね・・・?
・・・・・あれ?俺、選択を間違った!?
そう考える俺に、周りの生徒達と男性教師が徐々に迫ってくる・・・
「え!?あっ、ちょ、ちょっと待・・・」
イージスの盾を失った俺に、自身を守るものは何もない・・・
「うぎゃあああああ!ちょ、ちょっとやめてえええええ!!」
・・・俺が袋だたきにあったのは言うまでもない事である。
くそう!なんでだよ!
なんで俺がこんな目にいいいいい!!・・・くすん。
と、俺は教室の隅っこで膝を抱えて丸くなっていたのであった。
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