第7話 朔夜、登校中にラブコメる!?





「ふわ~・・・はあ、ねみぃ」


 今は通学途中。

 あまりの寝不足に、そう呟いてしまふ。


 いや、まじで眠いわ。


 最近の精神的疲労が酷すぎる。


 寝坊することはなかったけど、あまり熟睡は出来ていない。


 こりゃ、学校では爆睡決定だな!と考えていると・・・


「朔夜くん、おはよう!」


 と正面から、手を振りながら笑顔の瑞穂が近づいてきた。


 うおっ!

 現れた!


 ほ、他に伏兵は!?


 と思いながら回りを見渡すが、どうやら他の3人はおらず瑞穂1人だけのようである。


 なので、平静を装いながら瑞穂に挨拶を返しながらも、ふと思った疑問を問い掛ける。


「お、おう、おはよう瑞穂・・・って、あれ?瑞穂の通学路ってこっちだったか??」


 校門付近ならまだしも、今まで一度も通学途中で会ったことはなかったのだ。


「ううん、違うよ。真逆の方向だよ」

「え?じゃ、じゃあ何で・・?」


「だって、一緒に投稿するのって夢だったし、少しでも早く朔夜くんに会いたかったから」

「っ!」


 そう言った瑞穂は、満面の笑みを俺に向ける。


 くっそお!

 反則だろが!!


 その笑顔とその言葉!!


 ときめいちゃうだろが!

 キュンキュンしちゃうだろが!!


「つ、つーか、俺の住んでる場所というか、通る道知ってたんだ?」

「ううん、昨日田中君から聞いたんだよ♪」


 くっそお!

 田中の野郎めええええ!


 グッジョブ!・・・じゃなくて、個人情報流出しやがって!!


 あの野郎、俺の平穏を奪う気だな!


「だめだった・・・?」

「くっ!」


 だからさあ!

 その悲しそうなウルウルした目は反則だっての!!


 許すしかねえじゃん!!


「い、いや大丈夫、全く以て何も問題はないよ。むしろウェルカム!」

「え、本当!?よかったぁ!じゃあ、これからも遠慮なく来るね♪」


 ・・・あれ?

 俺、今何を口走った!?


 瑞穂のウルウルした目にあてられて、余計な事を言ったような・・・


 ・・・・・ウェルカムじゃねえよ!!


 バカなの!?

 バカなの俺!?


 自分で自分の平穏を壊してんじゃねえよ!


 俺がそう嘆いていると、瑞穂は急に辺りをキョロキョロし始める。


 そして回りに誰もいないことを確認すると・・・


「えい!」


 と言いながら、俺に抱きついてきた。


 うぴゃああああああああ!!


 ちょっ、ちょっと何!?何なの!?

 俺の心臓は弱いんだっての!?


 俺を抱き死させたいの!?


「すぅ~、はぁ・・・朔夜くんの匂いだぁ・・・良い香り」


 くっ!

 ふざけんな!


 良い香りなのは瑞穂だろがああああああ!!


 俺と瑞穂の身長差で、抱きついてきた瑞穂の頭が丁度俺の鼻辺りにくるため、彼女の良い香りが俺の鼻孔を刺激する。


 更には、女の子特有の身体の柔らかさが、意識しないようにしている俺へと襲ってくる。


 瑞穂の身体が柔らかさなど・・・か、感じぬぞ!


 特にどこがとは言わないが・・・

 そう、どこがとは言わないが、俺の腹上辺りに当たるたわわに実る桃源郷の2つの果物とか、果物とか、果物とか・・・・


 感じぬ・・・かんじぬ・・・か、かんじ・・・


 ・・・・・


 無理です・・・

 無理ですよおおおお!!


 そりゃあさ!

 俺だって男だもんよ!


 感じずにはいられないっしょ!!

 意識しないわけないっしょ!!


 もう色んな所が柔らかいよおおおおお!!

 思考がそこに全集中しちゃうじゃんかよぉ!


 ・・・・・


 もう俺は・・・


 俺はもう死ぬかもしれない・・・


 なぜかというと・・・


 心臓がやばいことになっているからだ・・・


 ドキドキがマジでやべえ!

 もう漫画みたいに心臓が飛び出るんじゃないかってくらい、ドキドキが止まらねえ!!


 おちけつ・・・いや、違う!

 落ち着けだ!落ち着け朔夜!深呼吸だ!


 ひっ、ひっ、ふ~!ひっ、ひっ、ふ~!


 ・・・・・


 ちげえ!!

 その呼吸はお産の時だろが!!


 俺から何が生まれんだよ!!


 もうテンパりすぎだわ・・・


「今までも、こうしたかったのをずっと我慢してたから・・・今、私満たされてる」


 ・・・


 やべぇ・・・

 抱きしめ返したい・・・


 ・・・・・


 ちくしょう・・・

 ちっくしょおおおおお!


 なんでだ!なんでなんだよ!


 これが罰ゲームの失敗じゃなければ!

 4人じゃなくて1人だけだったなら!


 俺もこんなに苦悩する事はなかったのにぃ!


 ・・・・・


 やっぱり・・・


 ごめんなさいを言わせる!

 まずはそこからだ!


 そこから俺の人生は始まるのだ!


 ・・・・・


 ・・・って、あれ?

 ごめんなさいを言われたら、全てが終るんじゃね?


 ・・・・・


 ま、まあいい・・・

 深くは考えないことにしよう。


 とにかく、俺は4人からごめんなさいをもらう事が目標なのだ!!


 俺がそんな事を考えていると、いつの間にか顔を上げて俺の顔を見ていた瑞穂がフフッと笑う。


「朔夜くんの気持ちはわかるけど・・・私はね、今が凄く楽しいの♪だから、朔夜くんの望みは叶えられそうもないけど、色んな意味で頑張ってね」


 そう言って瑞穂は俺から一歩離れながら、満面の笑みを俺に向ける。


 ・・・・・


 どういう事じゃあああああ!

 俺が困っている姿を見るのが楽しいっていうのかぁ!?


「確かにそれもないことはないけど、そういう事ではなんだけどね」


 ・・・・・


 ダメだ・・・

 俺には日本語がわからない・・・


 というか、女の子の考えていることがわからない・・・

 彼女たちは、今みたいに俺の頭と会話が出来るというのに・・・


 まあ、考えてもわからないことを考えても仕方がない。


「そうそう、考えていても仕方ない仕方ない♪」


 ・・・・・


 だからさぁ!

 俺の頭の中と会話すんじゃねえって!


「それはともかく、早く学校に行こっ!」


 そう言いながら、瑞穂は笑顔で俺の手を取って歩き出した。


 ・・・・・


 これが噂に聞く恋人繋ぎというやつか・・・


 ・・・って!

 冷静に分析している場合じゃねえだろ!


「ちょ、ちょっと!恥ずかしいんですけどぉ!!」

「ふふっ、いいからいいから」


 瑞穂は少しだけ顔を赤くしながらも、絶対に手は離さないとばかりに少しだけ力を入れてくる。


 ・・・ああ、女の子の手って、こんなにも柔らかくてすべすべするんだなぁ。


 ・・・やばい!堪能すんな俺!

 変態か!?


 そんな俺の気持ちも知らずに、瑞穂は嬉しそうにしている。


 もうさ、逃げられないから諦めるけどさぁ・・・


 でも、恥ずかしすぎる・・・

 いや、恥ずか死する・・・


 ・・・くそっ、意識するからダメなのだ!


 意識しないようにするために会話だ!

 会話をするしかない!


 という事で握られている手を極力意識の外へやって、俺は瑞穂に感じていた率直な疑問を聞くことにした。


「・・・て、てかさぁ、瑞穂って・・・こんなに積極的なやつだったか?」


 俺の中での瑞穂に関する記憶では、奥ゆかしいイメージがあった。


 誰とでも気さくでありながら慎み深く、細かな気配りが出来る。

 もちろん男に媚びたりするようなことはなく、むしろ男に対しては若干奥手な感じだったはず。


 それからすれば、俺への対応はイメージが違いすぎるのだ。


「えっ?だって、もうクラス公認でしょ?それなら、遠慮する必要はないよね?」

「いやいや、そもそも俺の告白は罰ゲームじゃん!?断られるならともかく、受け入れる意味がわかんねえんだよ」


「私は言ったでしょ?ごめんなさいの選択肢はないって」

「それが意味わかんないんだっての!俺みたいな奴を好きになる奴なんているわけねえじゃん!?」


 ・・・・・


 俺、自分で言っていてむなしい・・・


「ふふっ、少なくともここに1人・・・ううん、他の3人も含めて朔夜くんを好きな人はいるんだよ」

「・・・なんでそこまで・・・俺、他の3人もそうだけど、瑞穂に好かれる様な事した記憶ないんだけど・・・?」


「それはね・・・」

「それは?」


「・・・ひみつ♪」

「なんじゃそりゃあああ!」


「あははっ。朔夜くんが、前向きに考えてくれるなら、教えるのもやぶさかではないんだけどね♪」

「・・・・・」


 くっ!


 知りたい・・・

 知りたいぞ!


 そんな事言われたら、頷きたくなるじゃねえか!


 しかし、ダメだ!

 ダメだ朔夜!


 流されるな・・・

 心が折れて流されてしまえば、俺の罰ゲームが永遠に終らなくなってしまう!


 だってさ・・・

 なんでそこまでこだわるかっていうとさ・・・


 例えば、からし入りのシュークリームを食う罰ゲームを受けたはずが、食ってみれば中身は甘くて美味いカスタードクリームでした!なんて・・・


 ただ普通に、モクモクとシュークリームを食ってるだけじゃねえかよ!


 それの、どこが罰ゲームなんだよ!

 その姿を見て、誰が楽しめるんだよ!


 俺は認めん!

 そんな結末は認めるわけにはいかんのだ!!


 俺は笑われてこそなんぼ!

 そのために生まれてきたと言っても過言ではない!


 ・・・・・


 もうね・・・

 最近、精神が崩壊しすぎて自分で何を言っているのかわからないの・・・


 情緒が不安定すぎるの・・・


 だから一刻も早く罰ゲームを終えて、心の平穏を取り戻したいのです・・・


「そんな事より、早く学校にいこっ♪」


 そんな事を考えこうべを垂れる俺に、瑞穂は嬉しそうな笑顔を向けながら俺の手を引いて学校へと向かうのであった。


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