幕間 朔夜、男気を見せた結果!?




 はあ・・・


 何だか、色んな意味で疲れた・・・


 俺は意識を取り戻し、瑞穂、みなも、千里、美鈴の4人を引き連れて屋上を後にしていた。


 早く席に戻ってゆっくりしたい・・・


 と思いながら教室へと戻ると、そこで俺を待ち受けていたのは・・・


「さ~く~や~!」

「う~ら~や~ま~死ぃね~!」


 ゾンビと化した男子達が、俺の名を口にしながら向かってきたのである。


 両腕を前に出し手をプラント下げて、目からは血の涙を流しながらゆっくり迫ってくる姿・・・


 流石に恐ろしいわ!!


 ゾンビゲーなら、有無も言わさず撃ち抜くぞ!?


 しかも、密かに死ねとか言いやがって!!


 ・・・・・


 ふん、しかし甘い!


 俺は野郎には一切容赦しないのだ!


 むしろ“ごめんなさい”を言われる為に、こいつらを利用して野郎じゃないか!


 襲い掛かってくる男子ゾンビ共を、さっきまでの沈んだ気持ちを晴らすかのように、ちぎっては投げちぎっては投げ。

 俺の足元には、男子共の成れの果てが次々と転がっていく。


 この俺にかかれば、このくらい造作も無いのだ!


 俺の目的達成ついでに、憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ!


「くあ~はっはっは!!ぬるい!ぬるいぞぉ!」

「くそっ!」

「意外にも強いぞ!」


 と、悔しそうな男子を尻目に、俺はラスボス気分を味わう。


 それよりも、どうよ!?

 この俺の野蛮な姿は!!


「うわっ!朔夜くんつよ~い!」

「朔ちゃん、かっこいいねぇ♪」

「さすが朔夜君、キレがあるわね!」

「朔たん、そんな奴らに負けるなよ~!!」


 ・・・・・


 くそっ!だめか・・・


 だったらこれはどうだ!?


 次の手を考えた俺は、倒れた男子の顔に腰を下ろす。


 くらえ!俺の超必殺技!

 VX(べりー臭い)ガスじゃあああああ!!


「わははははっ!どうだ、我が必殺の一撃は!!」


 と、高笑いを決めてやった。


 もちろんそいつはあまりの臭さに、「ぐっはぁ・・・」と言いながら永眠することになった。


 さすがに、こんな上品(お下劣)な俺を見れば幻滅・・・


「あはははっ!さすが朔夜くんらしいね!」

「あははっ!朔ちゃんおもしろ~い!」

「うふふっ、もう朔夜君ったら!」

「あははっ!朔たんサイコー!!」


 ・・・・・


 恋は盲目というが・・・

 もう、何をやっても無駄なのか・・・?


 そんな俺の考えをよそに、男子ゾンビ共には俺の超必殺技は効果てきめんだったようだ。


 襲ってきた他の男子達は、その攻撃の恐ろしさにビビり、ようやく動きを止めたのである。


 そのまま睨み合いが続いていた、その時・・・


 バーン!!と教室のドアが勢いよく開かれる。


「おい!お前ら何をやっている!!」


 そう言いながら入って来たのは、真白ちゃんだった。


 俺が襲われているこの状況に腹を立ててくれているのか、珍しくただ単にこの場を収めてくれようとしているのかはわからないが、俺はこれで助かったと思った。


 ・・・・・


 って、そんなわけありませんでした・・・


 真白ちゃんは、常に俺の予想の斜め上を行くのだ!!


「バカ者共が!!そんな奴相手に何を手こずっている!別々でかかってダメなら、皆で一斉にかかれ!もっと頭を使え!!」


 ・・・ええ!?

 真白ちゃんが、まさかの裏ボス!?


「ほら、何をやっている!周りを囲め!」

『マム!!イエス、マム!!』


 真白ちゃんの指示により、男子ゾンビ共が急に統率され機敏な動きを見せ、俺はこの男子クソ共に囲まれる。


 そして、更に真白ちゃんの指示が飛ぶ。


「よし、未だ!一斉に取り押さえろ!」

『マム!!イエス、マム!!』


 真白ちゃんに統率された奴らの動きは人間じゃない!


 一瞬で俺の両手両足、腰をガッチリと捉えられ、そして背後からチョークスリーパーを決められて動くことが出来なくなる。


「くそっ!お前ら卑怯だぞ!!1人に対して、6人がかりで同時に来やがるとかさぁ!!男の風上にもおけねええええ!!」

「あほか!!ラスボス1体に対して、複数人でボコるのはRPGでは当たり前だろが!」


 くそっ!

 俺の気分がラスボスだった事を見抜いてやがったな!?


「ふざっけんなよ!ここはRPGの世界じゃねえだろが!!」

「ふっ・・・そもそも、我々が真白氏裏ボスの命令に逆らえるとでも?」


 ・・・・・


 そうだったあああああ!!


 クラスの男子共こいつらはバカだったんだあああああ!!


 真白ちゃん美人に対しては、絶対なるイエスマンと化するのだ!


 そんなバカ共を説き伏せようとする俺が、もっとバカだったのだ!


 俺がそんな風に嘆いていると、真白ちゃん裏ボスがニタリとした笑みを浮かべて近づいて来る・・・


 ひぃいいいいいい!!

 恐い!恐いです!!


「よし、お前らよくやった!そのまま押さえておけ!」


 やめて!やめてえええええ!!

 一体、何する気なんだよ!!


「ふふっ、もう逃げられまい!さあ、今すぐ私に告白するのだ!そして、私の愛を受け入れろ!」

「ごめんなさい!」


「なんでだあああああ!・・・くっ!しかし、その程度では私の心は折れんぞ!」

「くそぅ、さすがに手強い・・・」


 と、俺と真白ちゃんがやり取りをしていると、俺を押さえている男子共が苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 そりゃそうだろう。

 真白ちゃんの命令に逆らえないが為に、真白ちゃんが俺に迫る手助けをしているのだからな。


 ふん、そういう意味ではいい気味だ!

 せいぜい苦しむがいい!!


 ・・・って、余裕ぶっこいてラスボス気分を楽しんでる場合じゃねえ!


 俺には真の危険が迫っているじゃねえか!


 焦る俺は一縷の望みをかけて、押さえつけている奴らに無理矢理余裕の表情を浮かべ、言葉を投げかける。


「ほ、ほらほらどうした?身体が震えているぞ?早く俺を離した方が自身のためじゃないのか?ん~?」


「くっ・・・確かに悔しい・・・悔しいのだが!!」

「しかし、俺達は真白ちゃんが望むのであれば・・・」

「この身がどうなろうとも・・・」

「命令に従うまで!」

「俺達は真白先生が幸せになることを・・・」

「願っているんだぁ!!」


 ・・・くそっ!

 自分の身・精神を削ってまで真白ちゃんのために・・・


 こいつら男・・・いや、漢かよ!!


 俺はお前らの心意気に打たれたぞ!


 と、よくわからない寸劇を繰り広げた所で、状況が変わるわけがないのである。


 いや、むしろ俺の命の危険が更に肉薄する。


「よし、お前ら良く言った!絶対に離すなよ!私が幸せになる瞬間を目に焼き付けておけ!!骨は拾ってやらんが・・・」


 ええ!?

 すげえ残酷な事言ってね!?


 真白ちゃんが幸せになる瞬間って、恋が成就する瞬間って事でしょ?


 真白ちゃんの為に身を投げた奴に、それを目に焼き付けておけって?

 しかも、骨は拾わんとか・・・


 どうやら、真白ちゃんには俺達の心は届かなかったようだ。


 って俺、冷静に分析してる場合じゃねえだろ!


 案の定・・・


「ぶしゅっ!」


 と、頬を両手で挟まれる。


 いや、だから!

 何で皆、俺の顔を挟むんだよぉ!!


 やめてって言ってるじゃん!!


「ふふっ。朔夜、もう言葉はいらん。私の愛を直接受け止めるがいい」


 そう言うと、真白ちゃんは目を閉じながら顔を近づけてくる。


「うぴゃっうぴゃっ!」


 きゃあああああああ!

 やめてやめて!!


 もう完全に絶体絶命である・・・


 と、思った瞬間・・・


 さすがに真白ちゃんの幸せになる瞬間を、目に焼き付けるのが辛かったのだろう・・・

 俺の右手を押さえていた奴の力が少しだけ緩んだ。


 その瞬間にその右手を振りほどいて、俺の顔を挟んでいる真白ちゃんの左手を掴んで顔から引き剥がす。


 そして、ちゃんと話せる状態になった俺は、真白ちゃんの目を見て口を開く。


「真白先生!」


 俺に名前を呼ばれた真白ちゃんは、一瞬ビクッとする。


 ・・・もう、こうなったら俺は覚悟を決めたぞ!


 どうせ逃げられないのだ!

 だったら、無理矢理されるくらいなら俺自身の意思でやってやる!


「真白先生!いや、真白ちゃんからさせるわけにはいきません!」


 俺はそう言って、真白ちゃんの左手を掴んでいた手を離して、彼女の腰に手を回す。


 そして、ゆっくりと自分に引き寄せていく。


「えっ、あっ・・・」


 なぜだか、真白ちゃんに最初の勢いが全く無くなっている。

 顔を少し赤くして、言葉にならない声を発するだけのようである。


 なんで、そんな風になっているのかは知らんが、俺はやると決めた事はやる!


 だから、そんな真白ちゃんの様子を一切気にせず、俺は更に彼女の体を引き寄せていく。


「うっ・・・くっ・・・」


 そして、俺達の顔が至近距離まで近づいた時。


「ばっ、ばかものぉおおおおお!!」

「ぶへっ!!」


 思い切りビンタを食らいましたとさ・・・


 いや、なんでだよおおおおお!!


「そ、そういう事はまだ早い!!」

「ぶべらっ!」


 しかも往復・・・


 いや、元々は真白ちゃんが迫って来たんだろうがああああ!!


 しかし、俺は逃げる事は叶わない。

 なぜなら、未だに俺の右手以外は拘束され続けているからだ・・・


「それは、ちゃんとしたお付き合いしてからに、決まっている・・・じゃない」

「ごふっ!」


 さ、最後に、み、みぞおち・・・だと・・・


 みぞおちに一発もらうと、俺を拘束していた奴らも流石に離してくれた。


 真白ちゃんの口から一瞬、女性らしい言葉が聞こえたような気がするが、痛みで悶絶する俺にはそれを気に留める余裕はない。


 そんな俺の耳には、更に・・・


「朔夜の・・・ばか・・・(きゅ、急に・・・男らしくなるなんて・・・ひ、卑怯よ・・・)」


 と、か細い声が聞こえた様な気がするが、耳には入るが頭には残らない。


 な、なにを・・・?

 と、思って顔を上げた俺の目に入ったのは、真白ちゃんがふいっと身を翻して背中を向ける瞬間に見えた横顔が、耳まで真っ赤になっている様子だった。


 ようやく痛みが引いてきた俺は立ち上がり、真白ちゃんに声をかける。


「ふぅ・・・ようやく落ち着いた・・・で、真白ちゃん?今何か言った?」

「ば、ばかものおおおおおお!!教師に向かって真白ちゃんと呼ぶなあああああ!!」


 怒られた・・・


 やっぱり・・・

 俺が見た、しおらしく顔を真っ赤にした女性らしい真白ちゃんは、痛みによる幻覚だったのだな!


 もしくは、俺のした行為に顔を真っ赤にして腹を立てていたに違いない!


 そうだ。

 そうに決まっている!


 どう考えても、俺のした事なんてキモイ以外なにものでも無い!


 ・・・・・


 ・・・今思い出すと、俺マジできめえ。

 何やってんの?俺・・・


 俺が自分の行為に自己嫌悪にふけっていると・・・


 ガラガラガラッ


「昼休みとはいえ、随分と騒がしいですね」


 と、教頭先生が教室に入って来た。


 その瞬間、周りを見渡すと・・・


 立っているのは俺1人だけであった。

 気が付けば、全員がきちんと着席していたのである。


 ・・・ええ!?

 なに!?どういう事!?


 皆、瞬間移動でも出来んの!?


 もちろん、真白ちゃんもすでに教壇に立っていて、指導していたように見せている。


 真白ちゃんまでもかよ・・・


「誰ですか?騒がしくしていたのは」


 教室の入り口に立つ教頭先生が、騒がしくしていた原因の元を尋ねる。


「あいつです!」


 そう真っ先に俺を指さしたのは、真白ちゃんでした・・・


 ちょっとおおおおお!!

 いきなり俺を売りやがった!!


 しかも、真白ちゃんに続くように、クラス全員が俺に指を指していた。


 くっそぉ!

 こいつらめ!


 全員で俺を売りやがってぇ!

 今に見てろよぉ!


「そうか、君ですか。後で反省文を提出しなさい」

「えっ!?ちょ、ちょっと!おかしいでしょ!?」


「いいですね?」

「・・・はい」


 ・・・って、何で俺が反省文を書かにゃならんねん!!


 そもそも何の反省文じゃい!!

 大体授業中ならまだしも、今はまだ昼休みだろが!


 しかも、騒いでいたのは俺のせいじゃねえだろが!


 ニヤニヤするクラスメイトに、お前ら覚えてろよ!という目を向けながら俺も席に戻った。


 そして教頭先生がいなくなると、いつの間にか真白ちゃんもいなくなり、クラスが再びガヤガヤし始める。


 俺は席に戻り疲れて机にクタッと突っ伏すと、俺の肩に手が乗せられた。


「朔夜ぁ・・・」


 と声をかけてきたのは、昨日一緒にゲームをやっていたうちの1人、田中である。


「あん!?なんだよ、俺は疲れてんの・・・ったく、お前らまで俺を売りやがって」

「そんな事はどうでもいいんだよ・・・むしろ売られて当然だろが!」


「俺はドナドナの子牛じゃねえよ!!・・・昨日からずっと、俺がどれだけ苦労したと思ってんの!?わかんねえだろ!?」

「ふっ、朔夜・・・・・わかるわけねえだろが!!この幸せ野郎が!!」


「はあ!?罰ゲームが失敗して訳わかんねえ状態になって、傷心している俺のどこが幸せだってんだよ!!」

「ばっかやろお!罰ゲームに失敗!?・・・美女3人に嘘告したのにOKされ、更に1人追加され、挙句に真白ちゃんにまで迫られてる、てめえの状況の何が幸せじゃねえんだよ!!」


 うおっ!

 こいつまで、血の涙まで流しやがった!


「さっきまで屋上で、キャッキャウフフしてたんだろがぁああ!!」

「なんだよ、キャッキャウフフって・・・俺は悲惨な目にあってたっての!」


「うっせ!黙れ!幸せ野郎に発言権はねえ!!」

「こ、この野郎・・・」


 くそぉ、俺の苦労も知らずに適当な事言いやがってぇ!


「こうなったら、朔夜・・・お前を殺して・・・俺も」


 くっ!

 こいつ、俺と心中するとでも言うつもりか!?


「生きる!!」

「うおい!!生きるんかい!!そこは俺も死ぬじゃねえのかよ!?」


 大体、俺“も”って何だよ!

 接続詞がおかしいだろが!!


 だったら、俺の事も生かしてくれや!!


「ばっかやろお!男となんて心中したくねえよ!」

「俺だってしたくねえよ!むしろ、俺の事も殺そうとするなや!」


 と、田中とくだらないやり取りをしている間に、昼休み終了を告げる予鈴のチャイムがなった。


「ふん、命拾いしたな!」


 と、田中はベタな悪役風の捨て台詞を残して、おとなしく自分の席へと戻っていった。


 ったく、田中の野郎めぇ!!

 今度はいかさまでもして、絶対あいつに罰ゲームをやらせてやるからな!!


 覚えてろよぉ!

 俺の苦労を思い知れってんだ!


 ・・・・・


 つーか、マジで色んな事があり過ぎてホントに疲れた・・・


 結局、誰からも“ごめんなさい”は言われないし・・・


 これからも、こんな事がずっと続くのかと思うと・・・


 ・・・あ、胃が痛い。

 胃がシクシクするよぉ・・・


 くっそぉ!

 やっぱり“ごめんなさい”を言われないと、俺の身体と精神が持たん!!


 このままでは、俺に安らぎは訪れないのだ!


 最低ゴミクズ野郎から脱却せねば!!


 ・・・・・


 こうなったら、“ごめんなさい”を言われる為に・・・


 汚名挽回してやる!!


 ・・・汚名は返上で、挽回するのは名誉?


 ・・・・・


 そんな言葉は知らん!!


 今の俺に必要なのは、汚名挽回なのだあああああ!!


 最低ゴミクズ野郎からの脱却っていうのは、最低ゴミクズクソ野郎への更なる昇格をする事だ!!


 さすがにそこまでいけば、嫌われて“ごめんなさい”を言われるだろう!


 くくっ!

 俺が最低ゴミクズクソ野郎になれる時が楽しみだぜ!


 と、精神崩壊しまくっている俺は、もう完全に訳の分からない状態になっていくのであった。



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