罰ゲームだからこそ、面白おかしく３人に告白してフラれようとしたら・・・ＯＫでした！・・・あれぇ？？

第6話 朔夜ヘタレる！？

「いつつっ・・・」

　俺は真白ちゃんの北京ダックアタックにより、意識を失う事５分。

　直撃を食らって痛む顔を押さえながら、上体を起こした。

　周りを見渡すと４人の姿は変わらすにあるが、真白ちゃんの姿はなかった。

　あれは幻だったのか？と思える程、忽然と姿を消していたのである。

　いや、ただ俺が意識を失っていただけですけど・・・

「あれっ？真白ちゃんは？俺は確か、真白ちゃんに撲殺されかけたんだよね？」

　度重なる脳への深刻なダメージのせいで、俺の記憶はあやふやである。

「あ、うーんとね・・・真白先生は、朔夜くんがあーんを受け入れなかったから、打ちひしがれながら戻っていったよ」

　・・・・・

　ちょっと待てえええええええい！！

　俺か！？

　俺のせいなのか！？

　俺が悪いんですか！？

　いやいや、無理でしょ！！

　思い出したけど、北京ダック丸ごと顔面に叩きつけられて、どうやって食えばいいんだよ！！

　だったら、せめてカットしておけよおおおおお！

　つーか、そもそも学校の昼飯に北京ダックってなんだよ！？

「まあまあ、朔夜くんの気持ちもわかるけど・・・とりあえず、これで顔を冷やしてね」

　相変わらず俺の思考を読む瑞穂はそう言いながら、俺が意識を失っている間に用意してくれたのか、水で濡らしたおしぼりを俺の頬に当てる。

「あ、ああ、サンキュー綾瀬」

　と、俺が頬に押し当てられたおしぼりをそのまま受け取りながら礼を述べたのだが、当の瑞穂は不満そうに顔をしかめる。

「ん？綾瀬、どうかした？」

「そうそう、それだよ！」

　どれだよ！！

　ノミ程の脳みそしかない俺には、はっきり言ってくんないとわかんねえよ！

「いい加減、綾瀬って呼ぶのやめない？」

「はっ？」

　・・・・・

　俺に綾瀬を呼ぶ資格はないというのか・・・？

　だったら最初から“ごめんなさい”を言えよおおおおお！！

　と、心の中で叫んだのだが・・・

「綾瀬じゃなくて瑞穂っ！はい！」

「へっ？」

　綾瀬がそう言いながら、俺に手を向けてくる。

　・・・・・

　やはり、俺の脳みそはノミ程の大きさしかないらしい。

　俺には日本語は通じないようだ・・・

　綾瀬が何を言っているのかがわからない・・・

「んもう！綾瀬じゃなくて瑞穂って呼んでって言ってるの！」

　・・・・・あ、ああ！

　そういう事ですか・・・

　・・・・・

　・・・む、無理・・・

　無理じゃん！無理だって！！

　ただでさえ深みに嵌まりかけてんのに、更に名前呼びなんてしたら引き返せないじゃねえかよおおお！！

「だって、美鈴ちゃんだけずるくない・・・？」

　くっ！

　そ、そんなウルウルしながら上目遣いされたって・・・

　ほ、絆されん！

　絆されんぞおおおおお！！

　そもそも、美鈴とは１年の時から同じクラスで、最初から普通の友人として接してたから呼べてたんだよ！

「ううん、そんな些細な事はどうだっていいの」

　いや、だから！

　俺の頭の中と会話すんじゃねえっての！！

　しかも些細な事って、自分から振ってきたんじゃねえかよ！

「そんな事よりも・・・サンハイ、瑞穂！」

「・・・あ、綾瀬」

「ノンノン、リピートアフタミー！み・ず・ほ！」

「あ、あ・や・せ」

　俺は頑なに名前呼びを拒否していると・・・

「ぶふぉ！」

　俺の頬を瑞穂の両手で、思い切り挟まれました。

　てか、思い切り息が吹き出て、変な音が出たじゃねえかよ！

　そんな抗議を込めた目で見る俺を無視して、瑞穂は続ける。

「朔夜くん・・・はい、瑞穂！」

「ふぁひゃふぇ（あやせ）」

「もう！強情だなぁ！・・・・・あ！・・・ふふっ！！」

　俺が是が非でも呼ばんぞ！と抵抗していたのだが、綾瀬が何かを閃いた顔をした。

　・・・やばい！

　俺の直感がそう告げている！

　何せ、素敵な笑顔の中に明らかに何か企みを醸（かも）し出している、その笑顔が恐い！

　そして、その直感は正しかった・・・

「うふふっ・・・もう、仕方ないなぁ。そんな強情な口は、真白先生じゃないけど塞いじゃおっかなぁ♪」

　そう言いながら、綾瀬は少しずつ顔を近づけてくる。

「ぴゃあああああああああ！！」

　いやああああああ！！

　たあすけてええええええ！！

　今の俺は、綾瀬に両頬をガッチリとホールドされているため、ちゃんとした声も出なけりゃ逃げ出すことも出来ねえ！！

　やばい！まずい！

　どうすりゃいいんだあああああ！！

　・・・・・か、かくなる上は！

「ふぃ（み）、ふぃどぅふぉ（みずほ）」

　折れました・・・

　折れるしかありませんでした・・・

「・・・・・ちぇ～、もう少しだったのになぁ」

　そういった綾瀬・・・いや、瑞穂は残念そうな顔をする反面、楽しそうな顔を含ませながら俺を捕まえていた手を離した。

　・・・・・

　あっぶねええええ！！

　間一髪だった！！

「・・・・そんなに焦った顔して・・・瑞穂と呼ぶのにあれだけ抵抗したのに、口を塞がれそうになったら素直に呼ぶなんて・・・そんなに私とは・・・いやだった？」

　・・・・・くっ！

「い、いやでは全然全く以て、ありませんです！はい！」

　そんな物憂げな表情は反則だろおおおおお！！

　そう言うしかねえじゃん！

　つーか、嫌なわけねえじゃん！！

　でもさぁ・・・

　違う！違うんだよ！！

　罰ゲームが失敗して成功した恋愛なんて嫌なの！！

　意味わかんねえじゃん！

　罰ゲームは罰ゲームで終わらせてくれよ！

　と嘆く俺とは裏腹に、瑞穂は楽しそうに笑いだす。

「あははっ、そんなに慌てて否定しなくても大丈夫だよ～」

　・・・くそっ！

　純情なこの俺を弄んで楽しんでやがるな！？

　この天使がああああああ！！

　・・・・・

　普通なら悪魔と呼ぶだろって？

　・・・・・

　いや、悔しい事に、本当に天使なんですよ・・・

　誰もが彼女に告白し平伏し足を舐める（誇張）気持ちも、わからんでもないです、はい・・・

　確かに最初は綾瀬・・・もう癖だな・・・瑞穂に興味は無いと言ったよ？言いましたよ？

　でもさぁ、あの笑顔を自分１人に向けられたらさぁ・・・

　そりゃあさぁ・・・

　・・・・・

　・・・しかし！

　それはそれ！これはこれ！

　どれはあれ！あれはどれなのだ！

　俺の罰ゲームは罰ゲームであるから罰ゲームなのだ！

　罰ゲームじゃない罰ゲームは罰ゲームではないのだあああああ！！

　だから、罰ゲームが失敗しての告白の成功など認めぬ！

　俺は認めぬぞおおおおお！！

　・・・・・もう、俺何言ってんの？

　自分で何を言ってるのか、わかんねえよ・・・

　と、精神を完全に崩壊しかけて訳の分からない事を嘆いている俺に、安らぎの時間など訪れはしない・・・

　更なる魔の手・・・

　いや天使の手が・・・

「さ～く～ちゃん！わかってるよねぇ・・・？」

「・・・な、何がだ！？花崎！」

「それ、わかってて言ってるよねぇ・・・？」

「わ、わからん！何もわからんぞ！？花崎！」

　俺にはわからん！

　わからんぞおおおおお！！

　いや、わかっててもわからんのだあああああ！！

「んもう！朔ちゃん、絶対わざとじゃん！・・・じゃあ、もうこうするしかないよね？」

「ぶふぉ！」

　プンプンしていた花崎が素敵な笑顔へと変わった瞬間、瑞穂同様に顔を両手で挟まれる。

　そしてやはり、俺の口から変な息が漏れる。

　やばい！

　デジャブか！？デジャブなのか！？

「はい、朔ちゃん！み～な～もっ！」

「ふぁ（は）～ふぁ（な）～ふぁ（さ）～ふぃ（き）！」

　是が非でも！

　是が非でも抵抗してやる！

　一縷の望みにかけて！！

「ふふっ、朔ちゃんはどうしても口を塞いでほしいんだねぇ♪」

「ふぃばう（ちがう）、ふぃばう（ちがう）」

　俺の抵抗もむなしく、段々と花崎の顔が近づいて来る。

　いやあああああ！！

　やめてええええええ！！

「ふぃ（み）、ふぃふぁふぉ（みなも）」

「・・・んもう、ヘタレだなぁ・・・朔ちゃんは」

　花崎・・・いや、みなももそう言いながら楽しそうな顔を浮かべ、俺の顔を離してくれる。

　・・・ええ、ええ、そうですとも！

　俺はヘタレですとも！！

　ヘタレで悪いか！？ヘタレ上等！！

　オーケー！？

　４人同時に付き合うとか、最低ゴミクズ野郎になるくらいなら、俺はヘタレを選ぶさ！

　そんなヘタレ野郎の俺に安息の時間は訪れない・・・

「・・・朔夜君、私は猶予なんて与えないわよ？」

「ぶしゅっ！」

　そう言った佐久間は、有無も言わさずに俺の頬を両手で潰す。

　ちょっと！

　俺の頬を挟むのが、彼女達のブームなの！？

　やめてやめて！

　さっきから変な音が口から漏れるからあああああ！

「ふぁひゅふぁ（さくま）、ひゃひぇへぇ（やめて）えええええ！！」

「ふふっ、私は猶予を与えないと言ったわよね」

　俺の懇願もむなしく、佐久間の顔が近づいて来る・・・

「ふぃ（ち）、ふぃふぁふぉ（ちさと）！」

「まったくもう・・・朔夜君のいくじなし」

　そう言う佐久間・・・だめだ、どうしても呼び慣れた名前で呼んでしまふ。

　千里も、残念そうにしながらも楽しそうに微笑む。

　だから言ってんじゃん！（言ってはいない）

　俺はヘタレで意気地なしなんだよ！

　だから、俺は最後まで！抗（あらが）い続けるぞ！

　俺の平穏が訪れるまで！！

　俺の平穏・・・それは、“ごめんなさい”と言われるまでだ！

　・・・それって、平穏になるのか？

　意外と心のダメージがでかくね？

　ま、まあいい・・・

　俺は罰ゲームが終らなければ、先へと進めないのだ！！

　そんなくだらない事を考えていると・・・

「さ～くたん！ちゅ～しよっ！」

「ちょっ！おまっ！ストレート過ぎんだろが！」

　最初から美鈴と名前で呼んでいたこやつは、呼び方を訂正させる必要がないため、自分の欲望をモロにぶつけてきやがった！

　両手を広げて口を突き出しながら俺に向かって飛んでくる美鈴には、顔面にチョップをくれてやる。

「てい！！」

「いたっ！」

　軽くやっただけだから、そんなに痛くないはずなのだが、美鈴は俺のチョップを食らったおでこを痛そうに手で押さえる。

「もうっ！これがドＳな朔たんの歌劇な愛情表現なんだね！大丈夫、私は全て受け入れるからねっ！」

　ちげえええええええ！！

　何も大丈夫じゃねええええええ！！

　俺にそんな性癖はありませんからあああああ！！

　そう嘆いていると、再び屋上のドアがバーン！と乱暴に開かれる。

「朔夜ああああああ！！包帯を持ってきてやったぞおおおおお！！」

　またかよ！

　また現れたよ！！

　と思っている俺の目には、真白ちゃんがなぜか大きく振りかぶる姿を写し出す。

「えっ！？い、いや！ちょ、ちょっとま・・・」

　と、俺が止める間もなく、真白ちゃんから放たれた時速１６０ｋｍの剛速球（包帯）が俺の顔面を捉えるのであった・・・

「ぐぼぉっ！！」

　な、なぜ投げる・・・

　看護する気ねえだろが・・・

「なぜだああああああ！！」

　なぜだ・・・じゃ・・・ねえ・・・よ・・・

　あたり・・・まえだ・・・の・・・クラッ・・・

　という、徐々にお決まりになりつつあるツッコミに加え、危なくダジャレを言いかけた途中で、俺は再び意識を失ったのである。