【3】
彼女が生徒会を引退しても尚、彼女と帰る日々は続いた。僕は特別推薦で秋には進学が決まっていたため、帰ってもすることがないし図書局の仕事を続けていたが、彼女はあと3ヶ月ほどで大学受験のため、図書室に来て僕が仕事を終えるまで勉強をしていた。まるで彼女と付き合っているかのような感覚で、彼女と恋人になりたがっている他の人に心の中で「僕は彼女と一緒に下校しているんだぞ。」と威張っていたのはここだけの話だ。そんなことを思うほど、僕は彼女を好きになっているみたいだった。
「ねえ、あんたなんで百合に付きまとってんの?気持ち悪い。」
図書室に向かう途中でクラスメイトの
「付きまとってなんかいないよ、たまたま一緒に帰ってるだけよ。」
「嘘よ。百合はあんたがどこに行くにもついてきてうざいって言ってたもん。大体、あんたみたいな陰キャと百合が一緒に帰る必要性がないじゃない!」
金子さんは彼女の幼馴染だった。いつもキラキラしている自分の幼なじみが、彼女とは真逆の僕と関わることが嫌だったのだろう。気が強い金子さんは、僕が反論したことに怒りが増したようだった。
「黒川さんはあなたみたいに人をグループで判断しないよ……大体、一緒に帰ることが嫌なら、金子さんが黒川さんの勉強が終わるのを待ってればいいじゃないか!」
普段大声を出さない僕が、自分に対して声を荒げたことにしたびっくりしたのか、金子さんが僕を見たまま固まった。彼女の辛さを知っているのは僕だけなんだ。金子さん達は、彼女が周りの人からの期待に追われていることを知らないくせに。周囲の視線が僕たちに集中していることに気がついていたが、今はそんなことどうでもよかった。もう一度強い意志を持って声を出そうとしたが、それは叶わなかった。
「何してるの、やめて。」
静かに、しかしはっきりと耳に届いたのは聞き覚えがある彼女の声だった。僕に言ったのか、金子さんに言ったのかは分からない。ただ、金子さんは下を向きながら「嘘ばっかりね……」と言って彼女が来た方と逆の方向に走っていった。
彼女は「ごめん、なんか真理に酷いこといわれた?」と聞いてきたので、「いや、別に」と言って二人で図書室に向かった。
その日から、図書室に向かおうとする度に金子さんは僕に絡んできた。「百合に関わるのはやめて」「大人しくゆうこと聞いてよ」「無視しないで話を聞きなさい」何度も何度も懲りずに構ってくる。無視を通しても無駄なようだ、「まるでハエみたいだな」なんて、女子に対して失礼だとは思うがそれほどしつこかった。
図書室に着くと、既に居た彼女は僕を見て、「また真理?ごめんね」と申し訳なさそうに笑ったので、「いいんだ」としか言わなかった。受験まで、あと2ヶ月に迫っている彼女は、今日も図書室の机で参考書を広げている。1時間ほどペンを走らせたところで、彼女は伸びをして休憩を取り始めた。
「もう、疲れちゃったの。」
コーヒーを両手で持ちながら、彼女が小さく呟いた。勉強に疲れたのか、周りの圧に疲れたのか、僕にはわからなかった。
「たまには休んでもいいんじゃないかな。」
何を言えばいいか分からず、そんな無責任なことを言うと、彼女は「そんなこと言ってくれるのは君だけだ」と笑い、目を伏せて「早く楽になりたいな……」と、独り言のように零した。僕は何も聞いてないふりをした。
その日も、金子さんが構ってきて、いつものように無視をしようとしていた。しかし、金子さんが言った言葉にどうしても反応せざるおえなかった。
「いい加減、百合を苦しませるのはやめて。」
苦しませてるのは金子さんたちではないか、そう言ってやろうと思ったが、きっとまた顔を真っ赤にして僕を攻めるだけだろうと思ったため通り過ぎようとした時、
「去年あんたが仲良くしてた花火くんは――」
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