第8話
〇一基地・“全体司令部”会議室。その部屋の入り口で昌大は現在、描樹に引きずられているという謎の状況なのであった。
「昌大君!?」
「んぇ?」
昌大は唐突な自分を呼ぶ声に適当な返事を返しながら身体ごと捻って声の方に目線を向けた。
「…っ!?」
昌大は驚き過ぎてしまい声が出なかった。なぜなら、自分の目線を向けた先にいたのが母・ヤマの友人であり、自分や弟妹達が幼い頃にはよく遊び相手になってくれていた男性・真田 幸路がいたのだから。
昌大はすぐに立ち上がり、真田の元へ駆け寄り言葉を交わす。
「真田のオジが何でここにいるの!?」
「昌大君、その言葉そのままお返しするよ…」
「オジの職業については興味がなさ過ぎて聞いてこなかったけど、まさかそっち側の仕事をしてるなんて…情報に脳が追い付いていかないよ!!」
「そっ!?…そんなこと言ってるけど、まさか君の言うそっち側に自分が来ようとしているんじゃないだろうね…?」
「ゴホンッ!!」
ピクリと4人が体を震わす。大きく誇張された咳払いに対して昌大は身体の向きをゆっくりとその音の方向へ振り返った。
「あなたが…夕崎 昌大ね」
「え、あ……はい」
昌大は鉄扇を持った女性の問いに、少し体を震わせながらたどたどしく答えた。すると昌大の腕はその女性に引かれ、部屋の奥側に置かれた立派な椅子に座らせられた。その瞬間、手すり部分と背もたれ部分から鎖が飛び出て、彼の身体を椅子に一体化させるように縛り付けた。
「え…?」
驚いた昌大は手足をできる限り振って無理矢理体を椅子から剝がそうとする。だがそれは意味をなさなかった。突然縛られた焦燥感からかその場にいる人間に手当たり次第に目を合わせようとした。だが、その様子を誰も不思議とは思っていないのだろう。鉄扇の女性を除いた全員が昌大と目を合わさず、立っていた者たちも自らに用意された席にそれぞれのペースで腰を下ろした。
“カンッ”と、閉じた扇子を叩いた音が机を通して部屋中に響いた後、先程の女性の言葉で会議?が始まった。
「これより、“超級器具憑き”を持つ少年・夕崎 昌大について、会議を始めます。まず、私、日ノ本支部統括責任者代理・有賀 花からは対象をこの基地の“器具封じ部屋”に隔離し、今後は本日欠席の対殲魔用兵器開発部最高責任者兼“器具憑き”特別専門解明資格持ちである群本中将の実験に付き合ってもらうというのを提案するが、反対の者は?」
そう彼女は言って、座ったいる者の顔を見回すが、殆どの者は少しも動きもせずにそのままでいる。昌大はなんとなくではあるが、その女性が今居る者の中で一番偉いのだと理解した。
だがそんな中で一人だけ、まるで元気な小学校低学年男児のように手をピンと伸ばし、何故か目をキラキラと輝かせた男が…と思いきや、奥に完全に重なるように同じことをする者がもう一人いた。描樹と真田だ。
有賀はまず、奥に座っていた方…真田の方に目を向けた。
「真田少将」
「はい。私からは昌大…対象を数か月から一年の間、私の監視下で生活させてはいけないでしょうか?」
「それは何故ですか?」
真田は立ち上がり、発言を続ける。
「私情ではありますが、私は対象である夕崎 昌大が1歳にも満たぬころからここ最近までの成長過程や家庭環境、そして彼の性格から予想される危険性についても理解していると思っています」
「ほう…?ですがあなたも知っての通り対象は…」
「それでも大丈夫だと思っています」
(俺が…何なんだ…?)
昌大は有賀が何を言おうとしたのか気になった。だが今はまだ、聞いてはいけない気がした。
有賀と真田は暫くの間、視線で牽制し合っていたが、勝負がついたのだろうか。有賀は目を閉じ、ゆっくりと座っている背もたれに寄りかかり、次に描樹の方に視線を向ける。
「…次に描樹」
「はい!自分的には、自分の監視下で生活させることの他に、彼を組織に入隊させ、我が部隊に配属させたいと思っております!」
その瞬間、描樹と有賀、真田や糾見以外全員がやる気を失ったように机に突っ伏したり、どこからかけん玉を取り出して『うさぎとかめ』をやり始めたりした。
有賀は下を向いて深い溜め息を吐き、鉄扇を握るその拳をプルプルと震わせながらゆっくりと上を向いて、勢いよく言い放った。
「…こんの、馬鹿弟子がァァ!!!」
「素が出てますよ花先生」
「お前の所為だろうがァァァ!!?」
そう言ってバシバシと鉄扇を叩き付け続ける有賀とキャスター付きの椅子でグルグルと回る描樹。そしてその光景を身体を動かせず、唯々見続けることしかできない昌大。そんな中…
「なんとなく予想していた」
真田は何かを考えこむように天井を向いていた。糾見に身体を揺すられながら。
「『予想していた』じゃないですって少将!!もう、これ…どうするんですかー!!?」
「んー…よし。とりあえず皆さん、会議は改めて明日行いましょう。さぁ帰っていいですよー」
何かすっきりした表情になった真田がそう言うと、幹部達はゾロゾロと部屋を出ていき、会議室には真田と糾見を含む、5人がとり残されていた。
「皆さん本当に帰っちゃいましたけど良いんですか!?」
「うん、だって本当に帰っていいのだもの。というか糾見ちゃんは初めてだっけ、このやり取り」
「はい…初めて?です…」
「そっかー。これについて説明しても、これ終わってなさそうだし、教えてあげ…」
「オジ…これ解いてくれても良くない…?」
「あ」
真田は思い出したかのように昌大に近付いて行き、彼の身体を縛っている鎖の根本等辺にあるパネルを操作する。すると鎖が緩み、昌大は手足を自由に動かせるようになった。
鎖を解いた真田はその後、すぐに扉の方へ行き別のパネルの操作を始めた。
「えっーと…あの位置ならこことここを押せば…」
そう言いながら真田は部屋と同じぐらいの寸法のマス目の、有賀と描樹の位置と同位置の場所をそれぞれタップした。すると何か仕掛けの動く音が聞こえ始め、有賀と描樹の立っている位置の床が下へと沈んでゆく。それを見た昌大と糾見は驚愕した表情を見せ、言葉を発さずに何度もパネルと床と共に沈んでゆく2人を順番に見返
「オジ!これから描樹先生たちはどこに行くの!?」
「今からこの数個下の階にある訓練場で師弟喧嘩するだけだから、安心して」
「そうなんだ…それな「えぇっ!?もしかして描樹君と代理が闘うところを見れたり出来ちゃうんですか!?!?」
今度はまるで、大好きな特撮ヒーローを生で見たときの少年のような表情でそんなことを言った糾見に対し、昌大は『この人、感情の起伏が激しすぎるな』。そう思ったのであった。
「糾見ちゃん…僕らは大奥様とあのバカタレが帰ってくるまでここで昌大君と待機だよ」
「なんでです…いや、理解しました」
「うん理解してくれて助かる」
一瞬、真田の言葉に膨れた顔をして理由を聞こうとした糾見であったが、彼女の頭の中で尤もらしい理由がみつかったらしい。
「とりあえず、昌大君も座って待ってようか。あ、今度は普通の椅子で」
そう真田が言い、3人は先程までたくさんの人が座っていたはずの空席に、それぞれ適当に腰を掛けた。
「とりあえず君に紹介するね。この娘の名前は糾見 紡。描樹とは一つ違いの先輩後輩で、階級は中佐だよ。ちなみに、今日ノ本にいる佐官以上の女性隊員は、有賀代理以外には彼女だけなんだ」
「そうなんですよ~!えっへん…って、少将今、私のこと『この娘』って言いました?私もうしっかりとした大人なんですけど」
「気にしない気にしな~い」
そう言って顔の横に両手のひらを上に向けてクネクネと揺れる真田。そしてそんな真田の服の胸元を掴んで自分の身体を前後にブンブンと振る糾見。
「と、とりあえずよろしくお願いします、糾見中佐」
「あ、はい。よろしく…」
“とりあえず握手しておこう”と思った昌大が手を糾見の方に差し出すと、タジタジながらも糾見はその手を握った。
その時は何もかもがなんとなくに感じ、昌大も糾見も『気っまず…』と心の中で呟いていたのであった。
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