第4話
殲魔へ攻撃を仕掛けようと攻撃を避けながら、昌大は走り距離を詰める。だが、殲魔へ攻撃を仕掛けることのできる距離まで近づくことが出来ても、先程と同様の攻撃のみではきっと1体も倒せない…そう昌大は自覚し、別の攻撃手段、又は現在の攻撃を有効化させる方法を考えていた。
(アイツの身体に攻撃そのものは入るが効いているわけではない…急所以外食らわない可能性が高いな…けど、その急所が何なのか…)
攻撃を避けつつ、昌大は先程攻撃を加えた殲魔の周りを一周し、観察をする。すると殲魔の体内の中心に河原に落ちている小石ほどのサイズの角ばったものを見つける。それも不純物にしては殲魔の動きに合わせて必ず中心にずれているように見えた。それを不思議に感じた昌大はその物体目掛けてまず一本鋏を飛ばす。だが先程とは違い、あまり深くは刺さらない。
(攻撃そのものの威力は全く同じはず…もしかして…!)
何かが分かったのか、殲魔に刺さっている鋏の持ち手に対して刺さるように別の鋏を一本飛ばし、上手く目標の鋏に刺さる。先に刺さっていた鋏は突き刺さった勢いで少し奥へと進んでいく…更に、別の鋏で同じ部分目掛けて飛ばすということを7本程繰り返していく。すると殲魔はその物体が狙われることを嫌がるように暴れ始め、攻撃速度が速くなっていき、周りの悲鳴が大きくなっていく。だが昌大はその状況に対し、少し距離を離した位置で狂った目をして笑っている。
「あれが急所か…!だが、あれだけ刺しても届かないとなると…どうすればいいかな」
奥へめり込んでいるもの以外の飛ばした鋏を自分の手元へ戻しながら昌大はそうぼやく。すると先程と全く変わらぬ位置から描樹は昌大へと声を掛ける
「昌大ー!俺からヒントを少しだけ出してやるよー!」
「それって今の俺の手札で倒せるようなことですかー?」
「あぁ!」
「じゃあお願いします―!」
「よぉし!ヒントはー…“殲魔の身体・生命エネルギーは、俺達の“
そう言った描樹はその場に胡坐を掻いて座り込む。描樹からの言葉を聞いた昌大は一瞬で何を言いたいのか理解をし、殲魔から7m位の位置まで距離を詰め、めり込んでいる鋏と急所らしき物体のどちらにも重なるように腕を直線状に伸ばす。
(観察から得た情報を元に推測した内容が間違っていなければ、あの物体は
殲魔の心臓のようなものであり、その上エネルギーそのものも生成している。多分エネルギー源兼動力源を保護する目的であの部分は固くなっているのだろう…だが、)
「この力と同じものなら俺には切り取ることはできる!
そう叫んだ瞬間、腕の伸びる方向に向かって直径30㎝程の穴が貫通し、そこには謎の力で浮いた物体とめり込んでいた鋏のみが残る。すぐに物体からは殲魔の身体と同じ物質が急速に生成されていくが、昌大はめり込んでいた鋏をそのままの向きでまっすぐと飛ばす。急いで生成された物質は外側の物質よりも脆く、その鋏はその物体そのものを貫通し、破壊した。
物体が破壊された殲魔の身体はボロボロと砂石のように崩れていき、最後には粉々になった物体の欠片しか残っていない…普通なら、「何とか倒せた!」と喜べたのだろう…だが、昌大の目の前にはまだ、二体の無傷の殲魔が残っている。さすがにその場にいると危ないと思い、昌大は一度殲魔達から距離をとる。
「倒し方はわかったが、こんな状態であと二体倒さねーといけないのか…」
服で隠れている位置は分かりづらいが、昌大の身体は既にかなりボロボロであった。
昨日の
「あと2体…たったそれだけなんだ。もうちょい動いてくれよ…俺の身体」
そう自分に言い聞かせ、昌大は攻撃を仕掛ける。だが今度は一度に2体を相手しなくてはならない…距離を詰める途中、片方の殲魔の攻撃を避ける。だが、避けたときの宙に浮いているタイミングにもう片方の殲魔の攻撃を食らいまた吹っ飛ばされてしまい、そのまま倒れ込み、今度は100ml程の血を吐き出し、少し周りの景色が揺らいで見えてくる。
「さすがに今の俺の状態じゃ、やっぱり無理なのか…!?でも、ここでアイツらを止めなきゃ…」
昌大の頭には笑顔でこちらを向いている弟と妹の顔が浮かんでいる…するとマリオットが操られるように昌大はヌルヌルと立ち上がる。
「…行くか」
無表情のまま昌大はまた、殲魔達の方へ突っ込んでいく。だが、この一瞬でどのような変化がったのだろうか…殲魔の触手による攻撃は全く避けず、刃こぼれのしていない鋏を2本使い、すべてに切込みを入れていく。すると切込みの入った触手は化することがあっても昌大を吹っ飛ばせなくなっている。それを恐怖に近い感情のようなもので察知したのか、今度は触手ではなく腕のようなもので直接攻撃を仕掛ける。その攻撃が地面を割り、大きな土塊が周辺に飛び散ると同時に土の煙幕が発生し、昌大は視覚を奪われてしまい、煙幕のあらゆる方向から打撃音が聞こえてくる…そして土の煙幕が晴れたとき、中から姿を現した昌大は…服は破け、その身体のいろいろな所から血をぽたぽたと垂れ流し、たくさんの痣や切り傷だらけの状態になっていた。
だが、それでも何とか意識は残っており…ハァハァと息を吐きプルプルと
震えながらも、昌大はその場に立ち上がる。
「判断ミスったな…あ
ー、身体にあんま力が入んねぇなぁ!」
昌大の手元にある鋏は黒いものを含めて残り4本。そのすべてを手に持ち、距離を詰めるように走る。まず一本目、残りの鋏の中で一番小さいものを一体目同様コアに目掛け飛ばし、それは見事に殲魔の身体へと突き刺さる。殲魔と昌大の距離が15mほどになったとき、殲魔の片方がまた煙幕を出そうと地面を割ろうした瞬間、昌大は二本目を飛ばす。次に投げたのは黒い鋏で、四肢の関節部分のような位置を中心にすべて抉れるように切り離し、一時的に行動できなくする。が、もう1体の方は間に合わずまた砂の煙幕で視界が遮られてしまう。
(くそ…間に合わなかったか。だが、これも想定済みだ)
殲魔が攻撃するよりも早く、一本目の鋏を引き寄せようとする・次の瞬間、昌大は鋏が近づいてくる方向へ走りだし、右腕を前に構える。
「
また物体の周辺を刈り取ろうと
「…さすがに引かせてもらうか…って、やば…!」
俺が距離をとったことにより、殲魔の1体…それも無傷の方は近くで腰を抜かして座り込んでしまっている女子生徒を標的にし、近付いていく…どうやらその女子生徒はまったく“器具憑き”力を使うことが出来なくなっている様で、「死にたくない!死にたくない!」と泣き叫んでいる。意識が朦朧とする中、殲魔が口のようなものを開きながら謎の体液を分泌しているところ見た時、以前、授業で教師が言っていたことを思い出す…
『えー…我々がそれぞれ持つ“器具憑き”の力の出力はその時の精神状態に比例しているされており、殲魔にも同じような出力の変化条件があるとされている。加えて、殲魔の場合は過去の事例から、“器具憑き”の力を持つ生きた人類をそのまま摂取することでもその能力の出力を増加させることが可能なのではないかとされている』
「…強化されて、これ以上被害が広がるのも嫌だからな」
そうぼそりと呟き、昌大は二本の鋏をその殲魔に飛ばし、残りの体力をすべて使い切る勢いでその女子生徒を持ち上げギリギリずらすことのできた殲魔の攻撃を回避することが出来た。が、避けたときには昌大は意識を失ってしまっていた…その様子を見ていた描樹は立ち上がり、ポケットから何かのマークの付いたキーホルダーをポケットから取り出して独り言を言い出す。
「流石に、ほぼ初めての状態で3体倒しきるのは無理だったか…まあ及第点だ。あと、そろそろ仕事しないと部下に怒られてしまうし」
描樹は時計をチラリと見た後、キーホルダーを左掌に乗せ、右手の人差し指と中指をかざす。
「“モード
その言葉を発した時、手に持っていたキーホルダーは光り輝きだし、黒色のジャケット一式やアンダースーツへと変化し、それがすべて自動的に描樹の身体へと装着される。その胸には先程のものと同じマークが描かれており、足には筆の入るスロットが巻き付いている。カツカツと足音を立てながら、再生した殲魔へと近づいてゆく描樹。その周りには先程引き寄せた無数のペンや筆…
「『一六三〇、日ノ本支部第八部隊隊長・描樹 楓悟…時間外緊急任務、殲魔2体の破壊を開始する』」
殲魔の触手が一斉に描樹を襲う…かと思いきや残り10㎝程の距離まで先端が近付いたその瞬間、ストンと綺麗に根元から触手全てが切れ落ち、燃えてなくなった。
「雑魚が。『負の痕跡の一部よ、
描樹はそう言い、目にもとまらぬ速さで先が全体の3分の1程の量の鋭く尖ったペンを一斉発射する。普通は先ほどの昌大が放った鋏のように深く刺さらないと思うだろう。だが描樹の場合、1本1本が直径5㎝程の破壊力を持っており、殲魔の再生より早く穴を広げていく。そして、昌大がかなりの時間をかけることで可能にした、物体の破壊を一瞬にしてした。そのまま物体が破壊された殲魔の身体が崩れるよりも先に描樹はジャケットから紙を取り出し、そこに“吸”という字を書き、その紙に一本の鉛筆を突き刺し残りの殲魔に突き刺す。
「“顕現”!!!」
そう声を発したその時、“吸”の文字が浮かび上がり渦へと形を変え、物体以外の殲魔の身体が全てその渦へと吸い込まれていく。残った物体からだんだんと殲魔の身体と同じ物質が出てくるが、描樹はその物質へ近づき足の裏で踏みつけて破壊し、無線のボタンを押して話しだす。
「『こちら描樹。出現した殲魔の破壊を完了…現在、殲魔による重軽傷者が多数いるが、死者数は0。周辺から治療班と現場処理班の応援求む』-よし、とりあえずは…」
描樹は意識を失い、自らが攻撃から助けた少女の横で倒れている昌大をジッと見つめる
「昌大にどんな訓練をするか考えるか!」
描樹はいたずらをしようとする子供のようにニィっと笑った。
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