第3話
昌大はあの時、力を使った時の感覚を思い出そうと…いや、あの時と同じ状況を頭の中に作り出そうとしばらく集中する。が、それはなんとなく違う気がし、集中するのをやめる。
「…」
「どうしたんだい?集中するのをやめて」
「…昨日と同じイメージなら、多分刀の方が出てくる気がするんす」
「ほう?」
疑問そうに返事をする描樹に対し、昌大は続ける。
「あの刀の力を俺は使えましたが、刀は多分俺の鋏の力とは全然別物なのだと思ったんす。だから昨日と同じイメージをした場合、あの刀の力がどんどんと俺と混ざっていって、鋏で強くなれないんじゃないかって」
「…よくわかったね」
そう、昌大に向かって描樹は微笑みかける
「この国の研究者によると、『人間に憑いている“器具”は憑かれた者のその“器具”への思いや、関心によって適合率が上がる』という説が濃厚でね、僕は別に間違ったことは言っていないんだけど、もし夕崎がそのまま刀の時とまったく同じ感覚でやってたら、下手すると強大な力に飲み込まれて爆発とかしてたかもな」
「何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか」
「だが、なんとなく理解はしただろう?」
「ええ、まぁ…スゥー…」
昌大は深呼吸をすると目を閉じる。だがさっきと違い、今度は美術室で切ってた時の感覚を思い出している。
“思いや関心で適合率が上がる”
(俺にとって鋏は…形あるものから何かを奪い、奪ったものも…奪われたものも…)
“どちらも新しい何かへと変化をさせる!!”
「…どうやら、第一段階はクリアしたようだね」
「はい!」
目を開いた昌大は特に見た目に代わったとこはないが、皆がどこか数分前とは違く感じる捕答えるような雰囲気をまとっている。それを見た描樹は安心した顔で出入口の方へ歩いていき、こちらを向かずに上にひらひらと手を振る
「じゃあこの後、頑張ってね~僕はこの後の授業終わったら寝るから」
「は~い、じゃあ次の授業か部活で~ってあの人…」
足元を見ると描樹が持ってきたと思われる五個ぐらい入ってるクリームパンの袋が置かれていた
「あの人はいつもこんなだからなぁ…」
「…よし、果たし状でも書くか」
そう思い、昌大も屋内へと戻っていく
放課後の校庭のトラック、その真ん中には昌大と鬼嶋の二人が向かい合って立っている。
「なにあれー」
「鬼嶋君があのクズ夕崎と決闘するらしいよー」
「どうせ卑怯な手も使えないからクズがサンドバックにされるだけだよー」
「そうだね」
野次馬達が校舎から大半がそんなことを言いながら闘いが始まるのを待っている。
「…君ごときが僕に果たし状とかさ、公開処刑に遭いたいの?」
「いや、お前を一回〆ときたかったからだが」
「〆る…?ハハハハハハ!出来もしないこと言ってんじゃねぇぞカス…」
そう昌大の耳元で鬼嶋が呟く。だが、昌大は全く動じずに
「さあ、始めようか」
「これより決闘を行う!フィールドは校庭の中心から半径15m以内でその空間内で怪我をした場合、空間から出れば傷はなくなるようになっているが、その瞬間敗北だ。そして説明が終わり、このコインが地面に着いた瞬間、決闘を開始とする。尚、それぞれの持ち込みのアイテムは現在手元に所持している物のみとする。両者それだけでいいのだな?」
そう言われるとどちらもこくりと頷く。
「では…開始っ!」
その声と共にコインは宙をクルクルと回転品が舞い落ちる。そして 固いシャリンと校庭の地面にコインが当たった音がした瞬間、パァンという音が学校中に鳴り響く。その音と共に昌大の右腕に風穴が開く。鬼嶋の手元にはリボルバー式のピストルが一丁あり、痛みで無言でもがき苦しむ昌大を見て、鬼嶋はニタニタと笑っていた。
「あれ~?僕を〆る…だっけ?そんなこと言っといてこの様かよー!」
「…」
「…チッ、なんか反応しろや!」
煽ろうとしているのに対して何の反応もない昌大に怒りがわき、鬼嶋は普段の何倍も昌大の身体を何度も蹴り続ける。二分ほど蹴ると、鬼嶋は昌大から離れ、能力を使い始め、ボロボロになった昌大の身体が地面へと叩きつけられる。
「…これで終わりにはしてやんねーから。そうだなー…あ!お前の弟と妹を俺の奴隷にしてやるよ…!」
審判に聞こえぬよう、昌大に鬼嶋はそう言う。
「…」
「弟はお前みたいにサンドバックにして、妹は…俺の性処理用の道具だな。あ、お前に甥っ子でも作ってやろうか?そしたらお前みたいな人間でも俺の血を愛することを許してやるから」
「…」
そんなことを悪魔のような顔で鬼嶋は言い続けるが、それでも昌大は何も言わない。野次馬達も動かない昌大を見て、“処刑!”コールを始める。
「じゃあそろそろ一旦終わりに…」
「…させねぇよ?」
鬼嶋が完全に潰そうとするタイミングで、決闘開始から言わなかった昌大が口を開く。
「は?」
「うちのかわいい弟と妹にそんなことさせねぇし、この決闘をお前の勝利にもさせない」
動揺で圧が読まったタイミングで昌大は立ち上がり、鬼嶋の方を向く。野次馬達も立ち上がった昌大を見て一瞬驚いていたが、そのあと昌大に向かってブーイングを始める。だが、そんなこと昌大には関係なかった
「拳銃は想定外だったけど、ちゃんと俺の予定通り、その力を使ってくれたね」
昌大はニヤリと笑い、右手を前へ突き出し、指をチョキにする。
「じゃあ一回その力、もらうね…
「…!?なんでだ…なんで力が使えないんだ!クソッ…」
そう昌大が言いながら人差し指と中指でチョキンと鋏で切るような動作をした瞬間、昌大の周辺から下向きにかかる圧力のようなものがなくなる。鬼嶋は突如自らの“器具”の力が使えなくなったことに動揺しながら、何度も発動させようとして前に手を突き出す。そんな姿を見ながら昌大は笑い続けながら言う。
「僕の力だよ」
「なっ!?…お前の能力は鉄以下の耐久のものを鋏のようにゆっくり切ることしかできないはずじゃないのかよ!?」
「まあ君はその能力しか知らないもんね。それにこの力はさっき手に入れたばっかりだし」
「…クソがぁぁ!!!」
鬼嶋は怒り狂った表情で昌大に殴りかかるが、それを昌大は左腕で受け流し、その勢いのまま回し蹴りで鬼嶋を後方へと倒す。それからすぐに昌大は、鬼嶋に動くすきを与えように圧し掛かるように押さえ込み、ポケットに入れていた鋏を首元に突きつける。
「降参した方が楽だと思うぞ。ま…お前が雑魚だと思っていた相手に、これ以上手も足も出ないなんて状態で平常心を保てるような奴じゃないって知ってるけど」
「クソっ…だがみんなは、お前が不正したとしか思わないだろうし、もっと嫌がらせが酷くなるだけだぞ!」
そう言いながら鬼嶋は校舎の方を見つめる。校舎から見ている生徒たちは鬼嶋が自分たちからしても隠したと思っている昌大に押さえ込まれているという異様な光景に、「アイツ、ヤバい薬とか鬼嶋に盛ったのか?頭おかしいんじゃねぇの…」とか「どうせ不正だろ。しょーもな」などと、“昌大は絶対に不正している。じゃないと鬼嶋が押さえられるはずがない”と完全に昌大を黒と見ている。
「こんな状態じゃ、お前やお前のきょうだいが、この後普通に学校で平和に過ごせるなんて思ってないだろ…?だから…」
「いや、俺はお前にやり返せればそれでいい。うちの妹と弟は弱くもなんともないし、いざとなれば転校もできる…言いたいことはそれだけか?なら今すぐお魔の顔面をタコ殴りにして、そのあとみぞおちに10発は蹴り入れるぞ。あ…!さっきの拳銃で肩に弾撃ち込むか!」
そんなことを言っていた昌大の目は、その目を見た人間を闇と光の混沌に吸い込んでしまいそうなほど澱んでいる…
「あ…あ、ああ…痛いのは嫌だ!やめろ!」
「そんな言ってやめると思うか?」
「こここ。降参する!サレンダー!!審判早く!」
「しゅ、終了だ!夕崎、これ以上の鬼嶋への攻撃は一切禁止とする!!」
審判をしていた教師は急いで二人の方へと駆け寄り、ビクビクと震える鬼嶋を昌大から助けるように昌大の胸元を押して突き飛ばす。ほかの教師も昌大の周りにどんどんと集まっていき
、全員が能力を使用できるように構える。だが、囲まれた昌大は立った状態で俯き、クククと笑う。
「いやー…あんな今まで俺がされていたことをしようかって言っただけで降参する程度の相手に俺はあんなに負けていたのかー、ハハハハ!!!…はぁ、俺ってしょうもな」
そう言ってそらを見つめる真白の肩を描樹がポンポン、と叩く。
「いや、今回勝てたというだけでかなり気持ちはすっきりしただろう?今はその感覚を味わえたことだけでお前には十分だ」
「先生的にはやっぱりそう思います?」
「あぁ。寧ろ、そうとしか思わないまである。正直、腹が減ってて頭がおかしくなっているだけかもしれないが…はぁ、どうしてあの時、格好つけてクリームパン置いていっちゃったんだろう…」
「えぇ…俺の昼飯を無駄にしたあんたが悪いじゃないすか…部活終わって暇だったら、なんかメシ食いに行きます?今回のお礼でラーメン一杯ぐらいならおごりますけど」
「マジ!?今日中に仕上げる事務も終わってるし行こうか!」
「そんなら決闘に勝ったことだし、俺は部活の方へと行きますかね…」
二人ともすぐさっき行われていた決闘への興味は一切と言っていいほどなくなっており、二人で談笑しながら部室のある校舎の方へ向かって歩いていく。その後ろには、地面に座り込んで下を向いたままトラックの中の砂をギリギリと掴む鬼嶋の姿があった。
「俺があんな奴ごときにィ…クソが…クソクソクソクソクソクソクソクソクソ……ん…?」
地面からドクン…ドクン…と脈を打つような音が地中から聞こえてくる…。次の瞬間、地面が割れ、砕かれた大地がパラパラと落ちてくると共に三体の人型にたくさんの触手の付いたような形をした殲魔がその姿を現す。殲魔が現れたことにより学校中は一瞬でパニック状態になる。逃げようとして2階の窓から地面に頭から落下する者、悲鳴を上げてしまう程パニックになり、能力が暴走しだしてしまう者、「戦うしかない!」と言って殲魔に攻撃を仕掛けようとして手首から先を持って逝かれる者、そんな中で死の瞬間を静かに待つ者と様々である…
「今度こそ俺は死ぬんだぁ…なんで今日はこんななんだよ!!クソっ」
「…描樹先生、今の俺ならあの力なしで戦えますかね」
「いやぁ、君の工夫次第だ。ちなみに、あの距離なら俺の力で君があれに闘いにいった場合でも、一瞬で緊急離脱させることはできる。けど、今の君がそこまでやる必要は全くないけど…」
「途中で離脱も可能なら行ってきていいですか?妹達の方には絶対に行かせたくないんで…」
昌大のきょうだいである鏡果と剣斗の通っている中学校は昌大達のいる鳳高校から1km圏内にあり、ここで殲魔が討伐されない場合、二人にも危害が加われてしまう可能性が大きい。そう思った昌大は昨日使ったあの力を使ってでも倒そう…そう考えていた
「じゃあ少し待って」
そう言って描樹は腕を美術室のある方へと伸ばす。すると、窓がバリンと割れ、無数の筆や鉛筆などとのそのうちの数本が持ち手部分の穴に通された鋏がいくつか2人に目掛けて飛んでくる。筆の通された鋏は昌大の目の前で止まり、残りはすべて描樹を囲むように宙に浮いている。
「その筆を四肢と胴体に着けておいてくれ。そうすれば何とか引っ張ることが出来るから」
「わかりました」
「…行ってこい」
描樹に背中をパンと押され、鋏を手に持った状態で殲魔のいる方へ向かって走り出す。ウネウネとしていた触手が鞭のように昌大に襲い掛かるが、昌大はギリギリのタイミングで前方へ3回転、その後斜め右に低い体勢で飛ぶなどして攻撃を次々と避けていく…
(鋏を、先生の筆のように重力を無視して飛ばすイメージ…)
昌大がそう念じると手に持っていた鋏数本が浮かび始め、殲魔のうち一体をロックしたように飛んでいき、殲魔の身体に突き刺さる…が、ダメージが入ったわけではなかった。殲魔の触手が昌大の腹にぶつかり、昌大は30mほど元の方向へ吹き飛ばされれ、口から血を数滴吐き出しながら倒れる。昌大の呼吸はかなり荒くなっており、一瞬昼に食べたクリームパンが半液状になって飛び出そうになる。
「ゴホッ…なんとなくだけど、あの身体はスライムに近い感じか?俺の能力で切断することもできた…だけど、あの感じ…単純な攻撃だけじゃまったく意味をなさないか」
そんなことを言いながら、今度は鋏を何か糸のようなもので繋いで引っ張るイメージで殲魔に刺さった鋏を手元に引き寄せる。鋏の刺さっていたところの傷はすぐに謎の煙を出しながら塞がっていく。傷の塞がる様子を見てハハッと乾いた笑いを出しながら昌大は立ち上がる。
「ギブにするか?」
「いいえ…まだいけますよ」
先程の決闘の時のような狂った目をして、昌大はまた殲魔へと向かって走り出す。
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