第8話:守る者の戦い

デルタSide


デルタと大男の戦いは思いの外デルタが優勢であった。

大男は防御一辺倒で有効な攻撃を繰り出せないでいた。


「・・・雷双牙」

「くっ!」


ガガッ!と高速二連撃が襲う。

大男は二刀流でも捌ききれず、切りつけられる。

大男は最初こそ土魔法のダミーで受けていたが、魔力消費も大きく構築にも時間がかかる故に、連発できずにいた。

戦いは圧倒的にデルタ優勢だった。


「はぁ~わかったわ。やっぱりあなたには敵わないわ。」

「・・・だったら大人しく投稿しろ。無駄なあがきだ。」

「うふふ。私だってこれ、持ってるわよ。」


そう言って赤い小瓶を取り出し飲んだ。

瞬く間に魔力があふれ出し、ただでさえ大柄だった男はさらに筋肉が隆起していた。

目だけでなく肌も変色し、人の形をしているが人間とは到底言えない見た目であった。


「・・・いったい何を飲んだ。」

「うはは。デーモンポーションよ。魔族の力はやっぱりとんでもないわね。」

「・・・!?」

「あら、言っちゃまずかったかしら?まあ皆殺ししたら問題ないでしょう!」


ガンッ!

先ほどとは比べ物にならない速度で飛びかかってくる。

(・・・なんてパワーだ。)


「形勢逆転と行きましょうか!」


先ほどまでの優雅な剣舞とは似ても似つかない、荒々しい猛攻で攻め立てられる。


「美しくないわ~でも、時には勝つことの方が大事なのよぉ!」

「・・・っ!」

「さあさあさあさあ!デルタ=ライコネン!いくらあなたでも、この状態でいつまで耐えられるかしらぁ!」


ガキン、バキンという音が連続で響いている。

デルタはダメージこそ受けてはいないが防戦一方になっていた。

(・・・このままだとじり貧だな。)

パワーもスピードも負けてしまっている現状でデルタの打開策は一つだけだった。

(・・・さっきよりも剣筋が粗い。ここをつく!)

デルタはだてに最年少騎士団長になっていない。

剣士としての力量は圧倒的に上だった。


「・・・流舞剣」

「あら?」


相手の剣尖に逆らわず、合わせていく。

敵の力を殺さず流す。

相手との実力差があるからこその成し得る、受けの妙技だ。

大男の体勢が少し崩れた。

その隙に、相手の武器を無力化することに集中した。

ズバン!

大男の手首から先を切り落とした。


「ぎゃああああああ!」

「・・・勝負あったな。」


奴は手首を押さえてうずくまる。

(・・・終わりだ。)

止めを刺すために剣を構えなおす。


「おのれぇ・・・・・・っていうと思ったかしら?」

「・・・!?」

「血ノ鉤爪!」


ブシュッ!

大男はすさまじいスピードで起き上がって腕を振った。

デルタは胴体を思いっきり切られた。

鎧など軽く貫通し、肉をえぐっている。

よく見ると、切ったはずの手首から手が生えている。


「・・・馬鹿な。・・・確かに切ったはず。」


地面に目をやると、そこには確かに自分が切った大男の手首と握られていた剣が落ちている。


「魔族の再生能力、舐めちゃだめよぉ。」


(・・・不覚。)

奴の再生した手からは鋭い爪が生えている。

到底人間のものには思えない。


「・・・魔族になるのか。」

「半分正解♡しかし、冷酷といわれた騎士団長様も所詮は若者なのかしらね。一瞬勝ったと思ったわね。」

「・・・・・・」

「さすがにその体じゃ私の攻撃は受けられないわね。残念だけどここまで。私はまだ後ろの子たちも相手しないといけないんだから。」


大男はそういって結界を張るリンドベル姉弟を見る。

(・・・私は命尽きる瞬間まで諦めてはいけない。)

剣を握る力を強めた。

長期戦はもう無理になった今、一撃で決めきれる技を放つしかなかった。

ただし、相手は魔族並みの再生力を持っている。

頭に確実にダメージを与えないと意味がない。

使う技は決まっている。

問題は、どう当てるかだった。


「じゃあ・・・死になさい。」


(・・・攻撃の瞬間に合わせるしかない。)

覚悟を決めて、タイミングを計っていたその時、


「ー大海より我が力を示せー”海神巨大槌ポセイドンハンマー”」

「なにっ!?」


誰も予想しなかった方向から魔法が詠唱された。

大男に向かって、巨大な水の槌が降ってきた。

ドガァン!


「うぐぐ・・・」


受けたようだが凄まじい威力から、足が完全に止まっていた。


「今だデルタ!」


王の一言に瞬時に攻撃態勢に入る。

ただ眼前の敵を滅する、それだけに集中した一撃を放つ。


「・・・雷鳴・・・麒麟遊聖斬」


カッ!と一瞬光が広がり、デルタが一瞬で大男の後ろに移動していた。

バチチチチチ・・・

剣で切る音も、デルタが大男を抜き去る音もしない。

ただただ、デルタの移動したであろうその後に、雷の道ができていた。

その雷の道は大男を貫通していた。


「・・・ゴア王・・・あんた、攻撃魔法なんて使えるのね・・・」

「私も守られるだけではいけないのだよ。」

「・・・大した王ね・・・」


大男の体はゆっくり縦に分かれていった。

デルタの一撃によって真っ二つになったのだ。

深手を負い、血を流しすぎたデルタの体は、技の反動で動けなくなっていた。

デルタもその場に崩れ落ちる。


「すぐにデルタ治療せよ!ガイ!セナ!」

「しかし、王の身を守る結界が!」

「自分の身ぐらい守れる!それに・・・もうしまいだ。」


王がそう言ったとき、ジョシュアが最後の一人を粉砕していた。


---

カインSide


「わしを倒したいならもう20人は必要だったかもしれないの。」


ジョシュアは10人を相手にしてほぼ無傷で立ち回っていた。

確かにデーモンポーションを飲んでから、10人のパワー、スピードは飛躍的に向上していた。

それでも、ジョシュア=バーネットを前にしては無意味だった。


「ー我が拳を燃やせー”炎焼剣”」


ジョシュアのメイスが赤々と光り輝く。


「しっかり受けんと死ぬぞぉお!ぬぅん!」


ゴシャ!という音とともに一人、また一人とジョシュアのメイスに叩き潰されていく。

その姿に、カインはただただ圧倒されていく。

(これがランキング5位の実力・・・)

知っているはずだった、見たことあるはずだった、それでもあまりにも一方的な戦いに驚かざるを得なかった。

いつか自分もそうなりたい、カインの中に元々あったその気持ちは、より一層膨れ上がった。


ジョシュアの戦いに見とれていた時、突如王の声が聞こえた。


「ー大海より我が力を示せー”海神巨大槌ポセイドンハンマー”」


巨大な水でできた槌が相手の人間のようなものに当たる。

(ゴア王って攻撃魔法も使えるのか!?)

王族は身を守るために攻撃を捨て、防御魔法を徹底的に習っている。

ただ、それは最後の切り札、使える前提で動いてはいけないと騎士団に入って教えられた内容だ。

(ゴア王は元々魔法の才があるといわれてるけど、よもや攻撃魔法まで習得しているなんて・・・)

驚いているのもつかの間、デルタ騎士団長の一撃が放たれて大男が倒された。

デルタ騎士団長のボロボロの姿から、向こうの激闘さがうかがえた。

(なんだ、やっぱりジョシュアさんの方が強いのか・・・)

ノーフェイスの中でも実力差があるのは当然である。

しかし、ランキングが出ていないのでそれを測ることにも技量が必要だった。

カインにはまだそれがなかった。

本人はまだ自覚していない。

しかし、心の中で小さく、そして確実に騎士団長への憧れが削れていた。

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