第7話:ジムの分析
ジムSide
(レイアがここまでやられているとは・・・)
レイアは決して弱くはない。
それは僕たちが一番わかっているはずだ。
かなり一方的にやられたことが相手の余裕からわかる。
(レイアの弱点を考えると、おそらく相手は癖があるな。)
レイアは本人は否定しているようだがとても真面目だ。
それは攻撃や防御にも出ており、とても素直なのである。
それ故にトリッキーな攻撃や、型破りな戦闘スタイルに弱いのだ。
(・・・一番得意なのは僕か。)
だてにスラム街で鍛えられていない。
何が武器になるかは人それぞれだし、ましては戦いかたなんてみんな我流だった。
トリッキーな相手が普通だったのだ。
気になったのは目の前の相手が術者なのかどうかだった。
明らかに両手を使って戦闘している。
結界魔法は魔力を維持するように掛け続けていなくてはいけない。
両手に武器をもって攻撃してくるなど、術者としては考えられない行動だった。
しかし、僕の予想は少し違う。
(あの黒い槍から出ている魔力の禍々しさ、結界のものと同じだ。)
両手に持たれた黒い槍から発せられる魔力、自分も色々見てきているが明らかに初めて感じるものだった。
ただ、僕は本での知識は人並み以上にある自信があった。
(おそらく闇魔法だなこれは。)
今は使えるものがほとんどいなくなってしまった闇魔法。
主に魔族が使用していた属性で、他の種族には扱えるものがほぼいなかったのだ。
魔王討伐によって魔族が衰退した今、主で闇魔法を使えるものはいないといわれている。
そんな魔法を使うものが2人もここに同時にいる可能性を僕は否定した。
(結界が維持できていることを考えると、おそらく何かしらのアーティファクトを持ってるはず。それを壊せば・・・)
少し考えている隙に、先手を取ったのはサクラだった。
「ー降り注げ雷ー”
瞬時にサクラの上部に黒い雨雲が発生し、そこから雷をまとった雨粒が高速で射出されてく。
雷魔法と水魔法、その両方を高いレベルで扱えるサクラだからこその技だ。
「おいおい!えぐい技使うじゃないか。」
奴は両手の槍を回転させて盾のように身を守った。
(かかったな。)
槍の雨粒が当たった瞬間、バチバチバチバチを電撃が走る。
「・・・ちっ!うっとうしい!」
弾こうとなんだろうと、雨粒に触れてしまうと帯電している雷が体に走り動きを阻害する。
相手を倒すことはできないが、相当足止めできる技だ。
(今のうちにレイアを起こして下がろう。)
レイアのもとに駆け出そうとしたその瞬間だった。
「・・・ガキどもが舐めてんじゃねぇぞ!!」
そう叫ぶと、両手で雨を防いでいるはずのやつから黒い槍が飛んできた。
「・・・なっ!?」
ただ、かわすのはそこまで難しいことではなかった。
僕は容易に避けた・・・はずだった。
ガツッ!と黒い槍が地面に突き刺さったと思ったら、瞬く間に黒い槍は人型になり、両手に黒い槍を持った奴そのものになった。
「おらぁ!」
「うっ・・・」
グサッ!と槍の先がわき腹に刺さる。
さすがに避けきれなかった。
刺さったことで一瞬動けなかった僕に追撃の蹴りが入る。
「ぐはっ・・・」
僕は後方に吹っ飛ばされていった。
(な、なにが起こったんだ・・・)
僕はわき腹を押さえながら相手を見た。
サクラの魔法飛んでいた場所には誰もいなくなっていた。
「魔力消費が大きいからあんまり使いたくなかったんだけどな。ここまで見たからには確実に殺しておかないとな。」
そういうとやつの背中からは黒い腕が2本生えてきた。
もちろん両手に黒い槍を持っている。
(分身・・・できるのか・・・)
完全に僕が思っていた以上の汎用性だったようだ。
やつはサクラとレイアの方に向き突進していく。
とっさにサクラがレイアにかけている
「はん!だがいつまでもつかな!」
4本の腕から猛ラッシュが繰り出される。
どんどん二人を覆っている水が削られていく。
(このままだとまずい・・・)
僕は今までの情報を思い返しながら頭をフル回転させた。
(結界を張り続けられて、さっきから詠唱なしで魔法を連発してる。そんなことができるアーティファクトがあったはず。)
レイアやサクラには全く共感されなかったアーティファクトの魅力。
僕はスラム街で見つけた機能を失ったアーティファクトの残骸を見たとき、その美しい造形に一目惚れをした。
学生になった後、僕は勉強の傍らアーティファクトの図鑑を見るのが好きだった。
魔王討伐PTの一人で学者でもあった”ラナ=ジルコニア”の著書が特に愛読書であった。
「ほぼすべてのアーティファクトを網羅している」そう書かれていたその図鑑を僕は肌身離さず持ち歩いたものだ。
それだけ読み込んだ、その知識の中に必ず正解があるはずだった。
そんな時、ふと奴のフードから光るものが見えた。
一瞬だったが、確信を得るには十分だった。
(永続のイヤリング!)
魔力を込めると自身の代わりに魔法を使用し続けてくれるものだ。
常に込め続ける必要があるので、魔力量が多くないと使えないのが欠点ではある。
僕は力を振り絞った。
出来ることは一つだけ。
(奴はまだ僕の攻撃も魔法も見ていない。チャンスはこの1回!)
周りのがれきを両手にいっぱいつかんだ。
血を流しよろよろになりながらも、僕は思いっきり奴に向かってそれらを投げつけた。
風魔法にのって、ヒュンと一直線に飛んでいく。
奴はすぐに気づいた。
「いくら風魔法で速度上げたからってこんなもん当たるわけねぇだろ!」
サクラへの猛攻を素早く切り上げ、軽々しく避けて見せた。
そう、奴は避けたのだ。
弾かずに。
レイアと僕を退け、サクラも時間稼ぎしかできていないこの状況から、この男は完全に余裕に構えていた。
そこからくる油断、僕はそれを期待し、そして見逃さなかった。
確かに投げるときに僕は風魔法を使った。
ただ、それは直線に早く飛ぶように軽くかけたに過ぎない。
(僕の風魔法のレベルを見誤ったな。)
奴が避けたがれきは横を通り過ぎる瞬間、ギュン!と一斉に方向転換し、奴の顔面に向かって鋭く飛んでいく。
「なっ!?」
奴は慌てて体勢を崩しながら避ける。
この突然の動きにも見事に反応して見せた。
結果、顔への被弾は0だった。
(僕の狙いは顔じゃない!)
パリン!
顔を守る動きとイヤリングを狙う動き、そのズレが致命的であった。
奴の耳についている大きな二つの宝石は、がれきによってきれいに打ち砕かれた。
「僕たちを舐めすぎだ。」
宝石が砕かれたと同時に、空を覆う黒い壁は消え、星空がまた姿を現していた。
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