第3話:2回目のドジ
大恥をかいた私は端っこの方で細々と楽しんでいた。
サクラがどんどん料理を持ってくるので、ちょこちょこつまませてもらっている。
ジムも最初は私に対して文句を言ってきたが、やはり居心地がいいものではないらしく、同じように端っこにいる。
リサさんはさすがというか・・・バーバリア家次期党首候補といわれるだけあって、しっかりと溶け込んでいろんな人と交流している。
ガンツさんも口下手だと感じていたのだが、武官の人たちには顔が利くらしく、あちらはあちらで楽しそうである。
(やっぱりこういう空間には慣れないな・・・)
そんなため息もつきそうになった時、大きな声が広場に響いた。
「ゴア王様のご入場です!」
わぁー!っという歓声よ拍手が鳴り響く。
王様と王妃様が騎士に先導されて入ってきた。
一際豪華だった椅子のところへ歩いていく。
王様の方からはすごい闘気を感じる。
(王様って戦うイメージなかったのに・・・ちょっとイメージと違うな。)
ペンタクルス王国 第10代目国王『ゴア=オーシャン』は稀代の名君として即位中の今からすでに名高い王だ。
即位後次々に改革を行い、そのどれもで実績を収めている。
ジムのスラム街の改革も王自らの発案で実施されたものらしい。
その影響で貧困層はぐっと減り、国自体は格段に豊かになっている。
政治的な面でとても評価されている王なので、てっきり文官みたいな人だと思っていたが、現実はかなり違うようだ。
(わざと出しているのかもしれないけど、すごい闘気。私が使うのとは圧が全然違う。)
王様は実際に戦うことなんてないので、データスフィアに順位を見てもらうことなどもちろんない。
だが、私の見立てではかなり強いのではないかと思えた。
「王様ってどんな人かと思ったが、ずいぶんと武闘派なようだね。」
「そうだね。なんか想像とちょっと違うかも。」
ジムも同じ気持ちだったようだ。
そんな王様たちを守るように前で先導しながら出てきた騎士が、携えている長い剣から察するに恐らく現騎士団長『デルタ=ライコネン』のようだ。
デルタ=ライコネン、史上最年少で騎士団長に就任した若きエースだ。
非常に冷徹で慈悲のかけらもないという話を噂で耳にしたことがある。
味方であっても王命のためとあらば容赦なく切る、何がきっかけだったのかはわからないが、そんな噂がささやかれていた。
ランキング10位、長剣と雷魔法を駆使した攻撃特化で見ていて爽快な戦い方、甘いマスクも相まって女性人気は実は高い。
パーティーの場だというのに全く隙のない佇まいをしている。
王様のように闘気が出ているわけではないが、凛とした隙のない立ち姿からは相当な練度がうかがえた。
椅子のそばまで来た王様が話し始めた。
「私の誕生日にこれほどの人が集まってくれたことを心よりうれしく思う!まだまだ王として至らぬところもあると思うが、皆の協力のおかげで今日を迎えられたと思っている。この国はまだまだ豊かになる、私はそう確信しているし、そのためにまい進するつもりだ。
今日は王国でも最高の料理人に頼み世界各地の料理を作ってもらっている。ぜひとも堪能してほしい。それでは引き続きパーティーを楽しんでくれたまえ!」
またもやわぁーっと大きな歓声とともに拍手が起こる。
(本当にゴア王は人気なんだな・・・)
王様の話の後、気が付くと王様と王妃様の席の後ろに人が立っていた。
仮面をつけた二人、私はその怪しい雰囲気に思わず叫びそうになった。
「あれが王様のガード、リンドベル姉弟だね。いつの間にいたんだろう。入ってきたときは気づかなかったよ。」
ジムに言われて思い出した。
王様を守る最後の砦としてガードという人たちがいる。
今はリンドベル姉弟が務めている。
姉のセナと弟のガイ、それぞれランキングでも15、16位と高い順位にいながら、王を守ることに特化して訓練を受けている。
現在では希少な光魔法が使える二人、合わさることで強大な防御魔法が使えるらしい。
いつでも守れるように、常にそばに控えているようだ。
人々がまたパーティーを楽しみ始めた。
参列者たちが順番に王様に挨拶をしに行く。
そんな中私は嫌な気分を味わっている。
蠅がいるのだ。
あまり周りは気にしていないようだが、確実にいる。
虫はあまり好きじゃないので、どうしても気になってしまう。
(だれか何とかしてくれないかな・・・)
そうやって蠅を見ていると、少し違和感を覚えた。
不規則に飛んでいると思っていたのだが、意外と規則性があることに気づく。
少しずつ少しずつ、パーティー会場の中に進んでくる。
実に器用なもので、だれにもぶつからない。
(風の動きを読んでいると本で読んだことがあったけど、なんか・・・きれいに動きすぎ?)
そうして蠅に夢中になっていた私に突如すさまじい殺気が放たれた。
「えっ!?」
私が気づいたときには眼前に凄まじい剣尖が迫っていた。
(だめだ避けれない。)
バキィィン!
そう思たっとき、目の前でその剣が止められた。
ジョシュアさんだ。
「何もいきなり切りかかることはなかろう、デルタよ。」
「・・・王に不要に近づく不届き者。」
蠅に夢中になっていて気付かなかった。
私は気づいたら王様のすぐそばまで出てきていた。
順番も守らず、突然王に近づいたことで不審者だと切り捨てられる寸前だったのだ。
デルタさんの一撃はジョシュアさんが止めてくれなかったら間違いなく当たっていた。
今まさに死ぬところだった、そう実感したことで冷汗がどっと噴き出す。
「安心せい、このお嬢ちゃんの身元はわしが保証する。ちょっとお転婆での、パーティーに夢中だったんじゃよ。わしにもさっきぶつかったぐらいじゃからの。」
ジョシュアさんが笑いかけてくる。
「・・・す、すみませんでした・・・」
私は声を絞り出すのがやっとだった。
「デルタよ、私を守ろうとする気持ちはうれしいがそういきなり切りかからずとも良い。それにジョシュアが言うなら大丈夫だろう。」
「承知いたしました。・・・ふん。」
デルタさんが剣を引っ込めて下がった。
「嬢ちゃんも少し外の空気を吸ってくるといい。慣れんところにいるだけだと気が滅入るじゃろうからな。」
「・・・・・・はい。」
私は力なく広場を後にした。
ジムとサクラも私の後を追ってきてくれた。
途中ジムから何か言われるかと思ったが、何も言ってこなかった。
その優しさが、逆に辛かった。
(私はまたドジをしてしまった・・・)
---
ジョシュアSide
騒動が落ち着いた後、ジョシュアは一人考えていた。
(さっきのは間違いなく闇魔法の類じゃ。)
闇魔法を使えるものは今やこの世界でも本当に一握りであった。
魔族の協力者がいるのか、はたまたアーティファクトか。
そもそも偵察型だったのか攻撃型だったのか、デルタとうまくタイミングを合わせて破壊したが意図まではくみ取れなかった。
いずれにせよ仕掛けてきたのは間違いない。
(デルタから襲撃の話を聞いたときはにわかに信じがたかったが、本当に来るとわの。)
仮にもナンバーズである自分がいるのに襲撃してくるのは相当腕に自信があるからなのか、何か策があるからなのか・・・
いずれにせよ楽しいパーティーでは終わらなさそうなことは間違いなかった。
(しかし、この会場であれに気づいたのはデルタとわしだけじゃと思ったが・・・あの嬢ちゃんなかなかやるのう。)
蠅からはほとんど魔力が出ていなかった。
気づいた理由があるとすれば、それは闇魔法独特の禍々しさ故、それも闇魔法を知っているからこその気づきだった。
なので、いくら魔法の才能があったとして、ランキング30位が本当に気づけるのか疑問だった。
現に魔法に関してはかなりの腕でランキングも高位であるはずのリサ=バーバリアが気づいた様子がなかった。
(レイア=スレイン、あの子はいったい何者じゃ?レンのやつ、あやつまさか何か隠しておるのか・・・)
「なかなか面白い子を見つけてしまったようじゃな。」
ジョシュアがこぼしたその一言は誰にも気づかれることはなかった。
小さく笑みを浮かべながら、来る襲撃者にジョシュアは備え始めていた。
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