第2話:慣れない空気

パーティー当日の日、私たちは精一杯のおめかしをして王城にやってきた。

(変じゃないよね?)

私も普段着慣れないドレスに身を包んでいる。

サクラのご両親からせっかく行くならとプレゼントされてしまった。

「もう我が子みたいなもんだよ。」という言葉が嬉しくて、ついつい流されるままにもらってしまったのだ。


「いつまでそんなキョロキョロしてるんだ。いい加減なれたらどうなんだい。」

「いや、やっぱりドレスなんて私には似合わないよ。サクラじゃないんだから。」


サクラはこういうときさすがはバーバリア家だと言わざるを得ない。

一度ドレスに腕を通せば、一気に高貴な雰囲気が放たれている。

(正直別人だよ・・・)


「大丈夫だよレイア!すごく似合ってるよ!」


サクラに言われて嬉しくないわけではないが、なんだろうこの惨めな感じ。

少し悲しい。

そうやって入り口でもたついていると、


「やっぱり3人だったか!懐かしい声がしたと思ったんだよね!」

「カイン!?」


声をかけてきたのは『カイン=ルーカス』、学校時代のの同級生で今は王立騎士団に所属している。

家は有名な魔王討伐PTの一人『ダッジ=ルーカス』の子孫で、代々騎士の家系である。

ご先祖さんに憧れて大きな剣にゴツゴツした鎧を着ている、いわゆる重剣士と言うやつだ。

今日もゴテゴテした鎧を着込んでいる。


「3人ともランカーになったみたいだね。まずはおめでとう。自分のことのように嬉しいよ。」

「ありがとう。」

「カインも元気そうだね!」

「おかげさまでね。実は僕も先日ランキングを見てもらったよ。29位だった。」


(お前もか!)

思わず口から出そうになってしまったが、またしても私は順位で負けたようだった。

カインは剣術だけなら正直私の方が強いと思っている。

しかし、魔法となると別だ。

サクラの順位が高かったことを考えると、魔法の実力も結構加味されているのだろう。

そう考えると、水と土の2属性使えるカインに負けるのは必然なのかもしれない。

(とはいえ、悔しいよね・・・)


カインは王立騎士団なので、ランキングの順位を知っている。

データスフィアは王国が管理してるので、王立騎士団との関係はとても強い。

入隊と同時に測定されて、定期的なチェックもあるようだ。

どういう原理かデータスフィアは犯罪者には順位をつけない。

犯罪を犯していると判断された場合、順位が剥奪されるのだ。

なので、定期的に順位があるかチェックされていてる。

剥奪されたものは、一般的にノーフェイスと言われて指名手配されている。

もちろん捕まえることもランキングに影響することが多い。

(私は出会ったことがないけどね。)


「僕は今日会場の警備だから一緒にはまわれないけど、パーティー楽しんでね!」

「もちろん!」

「何もないと思うけど、カインも気をつけてね。」

「サボって怒られないようにな。」

「ジム、君は相変わらずだな〰」


カインの笑顔に少し和んだ。

騎士団に入ってからピリッとしたように見えてたが、私達の知ってるカインのままだ。



カインと別れた後、私達はパーティー会場にやってきた。

さすが王城、パーティーをするための広間があるらしい。

でかい扉を抜けると、そこにはドレスを着て着飾ってる大勢の人がいた。

所々に大きなテーブルがあり、それぞれに別の世界観で作られた様々な料理が置かれている。

装飾もランキングを見に来たときとは対照的で、まさに豪華絢爛。

でかいシャンデリアにキラキラ石が散りばめられた壁に床。

地味な色合いではなく、赤や金を使って華やかにされている。

テーブルや椅子などその一つ一つ存在感があった。

特に一番置奥、一つ段を上がったところに並べられている椅子と机は一際豪華だった。

(あそこが王様の席だね。)

いかにもふかふかそうな座面の椅子が2つ、豪華に花や宝石で飾り付けられた机とともに並んでいる。


「すごいね・・・」

「ああ。前に来たときは拍子抜けだったか、これはまさに王城だな。」

「う~ん、美味しそう!」


サクラは料理の元へかけていった。


「ちょっとサクラ!私達を置いていかないで!」


こんなところでジムと私のなれない二人だけでいるのは危険だ。

慌てて追いかけようとすると、思わず人にぶつかりそうになった。

衝突の寸前でふわりと抱き止められた。


「すみません!」

「ハッハッハ、随分とお転婆なお嬢さんじゃな。怪我はないかい?」

「ええ、ありがとうございます。」


お礼を言って顔を見てハッとした。

私を受け止めたのは元騎士団長でランキング5位の超大物『ジョシュア=バーネット』その人だった。


「ジョ、ジョシュア=バーネット!?」

「ハッハッハ、いかにもわしがジョシュア=バーネットじゃ。そういうお前さんはレイア=スレインじゃろ?レンのやつは達者にしとるか?」

「師匠のこと知ってるんですか?それに私のことも!」

「当り前じゃろ。剣術だけなんぞ変わったスタイルやっとるやつ知らんわけない。その弟子ももちろんチェック済みじゃ。」

「なるほど・・・あ、元気にしてます。今はダリアさんと仕事で出てますけど。」

「相変わらずあの二人はセットなんじゃな。何を考えておるのやら・・・まぁ元気ならよかろう!ハッハッハ」


(げ、元気な人だな・・・)

ジョシュアさんは騎士団を引退してからもナンバーズをキープしている猛者だ。

むしろ騎士団という縛りがなくなってから戦い方の自由度が増して強くなたっと聞いたことがある。

数年前世界最強の男、ダイムさんにも挑戦して善戦していた。

メイスと大盾を使った堅実で隙の少ない戦い方をしていた記憶がある。

それだけ覚えているのは、ジョシュアさんが私と同じ炎魔法の使い手だからだ。

私も参考にさせてもらった部分がある。

あくまでも物理が主体で、その中で魔法をうまく組み合わせて相手を翻弄するやり方だ。


「まあ楽しむのは結構だが、しっかり周りを見てな。こけたら一大事じゃぞ。」

「はい・・・本当にすみません。」

「謝る必要はないわい。まだ何も起きてないんじゃからな。」


そう言ってジョシュアさんは優しく微笑んでくれた。

ジョシュアさんの声が大きので私たちは非常に目立ってしまっている。

(恥ずかしすぎる・・・)

そ~っとジムの方を見ると、なんとも呆れた顔で私のことを見ている。

これは後で相当小言を言われるなと私は確信した。


---

???Side


王国内某所にて黒装束に身を包んだ部下からの報告を私は聞いていた。


「姉さん、予定通りパーティーは開催されるようです。警備の配置も姉さんの予想通りかと。」

「ご苦労様。よくやったわね!さあ、もうすぐ時間よ。準備をおし。」

「ハッ!」


そういうと部下たちは一瞬でその場から消えた。

(いよいよね、久々に盛り上がりそう。)

これから起こることへの興奮から思わず身震いする。


「さっさと仕掛けてしまえばいいのによ。俺達にはこれがあるんだから、びびる必要なんかないだろ?」

「ベック、あんたはいつも焦りすぎなのよ。確実に成功させるためには、油断は厳禁よ。」


この男『ベック=ランドール』は実力はあるのだがあまりにも心が幼い。

相手はナンバーズもいるのだ、油断など全くできないことを理解していないことに思わず呆れる。

作戦の要とはいえ、できれば今後は組みたくない相手だ。

(まあこんな子だから私が作戦に組み込まれたんでしょうね。)

ポケットの中に手を入れて、ベックが持つ赤い小瓶と同じものを確認する。

(デーモンポーションねぇ・・・)

今回の作戦の要だ。

相手の情報は理解している、さすがに使用しないわけにはいかない。

(使わないでいきたいけど、そうもいかないでしょうね。)


部下たちの準備が整ったので、先陣を切って王城に向かう。

闇夜に紛れて、黒い一団が静かに行動を開始した。

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