番外編2:ジム=ターナーの思惑

ジム=ターナーSide


僕の家は貧しかった。

父親と母親は毎日生きるのに精いっぱい、3人で暮らしていくのがやっとだった。

いわゆるスラム街で必要なものを守るのに必死だった。

喧嘩に明け暮れる毎日だったが、幸い僕は強かった。

スラムの連中はガキから大人まで倒していき、10歳になるころにはスラム街で僕に勝負を挑む者はいなくなっていた。


そんな中、今の王様の下でスラム街の改革が行われた。

スラムで王様気取りだった僕は当然抵抗した。

残念ながら、真正面から警備隊を相手にしても勝てるわけもなく・・・僕はあっさり捕まってしまった。

(処刑される・・・)

そう思っていた僕に提示されたのは意外にも学校という提案だった。

俺以外の子供にも同じように提案されていた。

これも改革の一環だ。

捕まった時点で観念していた僕は素直に受け入れた。

反抗したところで勝てる見込みもないのだから。


意外にも学校は楽しかった。

スラム街でボロボロの本なんかは色々読んだことがあったが、まだまだ知らないことがたくさんあるのだと実感した。

僕はのめり込むように勉強にはまっていった。

テストで順位が出てくるのも、競争が好きな僕にはいい刺激になった。

気づけば僕は秀才と呼ばれるようになっていた。


ただ、友達は出来なかった。

元々スラム街での人付き合いも腕っぷしに物を言わせていたものだ。

喧嘩から始まる親交ばかりで、普通に友達を作るなんて経験全くなかった。

(何と話しかけていいのかわからない)

会話のきっかけにと頑張って気になることに声をかけてみるも、好意的にとられたことなど一度もなかった。

(世間ではこれは皮肉というらしい・・・)

学校に入ってから最大の挫折だった。


ある日、僕はいつも図書館で本を読んでいるのだが、友達作りにチャレンジしたく珍しく広場でベンチに腰かけていた。

当然一人で。

周りはみな楽しそうに話している。

少し場違いな空気を感じながらも、必死で話しかけるチャンスをうかがっていた。

すると、すぐ近くに2人組が座ってきた。

見覚えのある子だ。

(レイア=スレインとか言ったな・・・)

赤髪まして赤い瞳は世間的に極めて珍しかったので、僕も覚えていた。

そして、もう1人は・・・


「!?」


思わず息をのんだ。

(か、かわいい)

自分で自分の心の声にさらに驚いた。

この僕がかわいいだって?

初めての感覚に戸惑う。

別に女の人に興味がないわけではない。

素敵だと思う人だっていたし、そういう感情は人並にある。

だが彼女、サクラ=バーバリアに対しては今まで湧いたことのない気持ちで溢れていた。

体が熱くなり、鼓動も早くなる。

ついつい目で追い続けてしまうその様は、まさしく一目惚れであり、僕の初恋だった。


(声を・・・かけたい!)

友達を作りなんて言葉はどこかかなたに消え、その時にはなかった勇気が湧いてくる。

話しかけるために一歩踏み出す。

だが、なんと声をかけていいのかわからなかった。

今までラブストーリーを読んでこなかったことをこれほど後悔した日はない。

2人の会話が耳に入る距離になる。


「私はランカーになりたいと思ってる!そのためにここでも頑張って勉強して、15歳になったら登録試験を受けるんだ。そして、1位になる!」

「レイアちゃんならなれるよ!じゃあ私も1位になるためにランカーになる!」

「2人同時に1位になんてなれるわけないだろう。」

「!?」

「・・・あなた誰?いきなり何?」


レイアの一言が刺さる。

ああ・・・やってしまった。

知識の少ない僕でもわかる・・・第一印象は最悪だった。




「ジムー!そろそろ出かけようよー!」

「君は本当にいつも落ち着きがないな。」

「はぁ!?」


レイアの呼ぶ声がする。

僕は日記を閉じてカバンにしまう。

まだ5年しかたっていないのに、何だがずいぶんと昔のことのようだ。


「おはようジム!」


ニコニコ顔のサクラが話しかけてくる。

(やっぱり僕は、君が好きだな)

改めて自分の気持ちを確認する。

5年たってもそれは変わらない。


2人には本当に感謝している。

第一印象が最悪だったにもかかわらず、僕のことを受け入れてくれた。

恥ずかしくて言えたものではないが、僕が自然体でいることを許容してくれていることには心から感謝している。

サクラのことが好きだから、それは確かに最初のきっかけだったが今はそれだけではない。

3人でいるのが好きだから、だから僕はこれからもこの時間を守るために強くなる。

そう決めたのだ。

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