番外編1:バーバーリア家
これはまだサクラと知り合って間もないころ。
「うちに遊びにおいでよ!」
ある日サクラと話しているときに唐突に遊びに誘われた。
友達の家に遊びに行くという経験がなかった私はとてもうれしかった。
「行く行く!行ってみたい!」
「じゃあ今度のお休みの日においでよ!パパとママには言っておくから!」
そうして遊びに行く約束がなされた。
学校に行く目的に友達を作るというのもあった、そのためこのイベントは願ったりかなったりだ。
サクラはとても明るく、ぐいぐい引っ張っていってくれるので、友達という感覚が未知な私にはとてもありがたい存在だった。
(サクラと仲良くなれて本当に良かった。)
サクラは明るくポジティブな子なので一見友達が多そうだが、実はそうではない。
ポジティブすぎるというのは、時に人を傷つけるときがある。
私と知り合う以前に、サクラはそういった経験をたくさんしてきたのだろう。
学校の周りの以前からサクラを知っている人たちの目線は、決して好意的なものではなかった。
「あの子は人の悲しみがわからない。」
「レイアちゃんもきっと同じ目に合うよ。」
そんな陰口が聞こえたこともあった。
確かに、私が師匠との特訓でうまくいかずにで落ち込んだり、気分が上がらないときでも、サクラはいつも元気だった。
満面の笑みで私に話しかけてくる。
私はその姿を見て・・・救われていた。
(人によっては違うかもしれないけど、私はサクラの性格好きだな)
サクラにもそれは伝わっているのかいないのか、私たちは急速に仲良くなれたのだ。
「で、でかい・・・」
サクラの家についた私はその大きさに圧倒されていた。
(やっぱりバーバリア家はお金持ちだな。)
その豪邸の入り口でサクラが待っていた。
「いらっしゃい!来てくれてうれしいよ!」
「あまりにも立派な家で腰を抜かしちゃうよ。」
「へへへ」
サクラの笑みに嫌味なんて感じない。
純粋に褒められて喜んでいる、そんな姿がまた私も好きだった。
サクラは普段の学校の制服とは違って、とても女の子らしいかわいい服に身を包んでいる。
私もおめかしはしてきた。
たが、女の子らしいかというと少し違うかもしれない。
(・・・やっぱり人によって似合うものは違うと思う)
同じ服を着てもサクラのようにはいかないと思う。
それからはもうこの豪邸を連れまわされた。
ペットや馬小屋、プール、サクラの部屋、本の部屋、歴史の部屋に訓練場・・・
最後訓練場で軽く手合わせが終わった後にはへとへとになっていた。
「いや~さすがに疲れたよ。本当にすごい家だね。」
「まだまだ見せたいものたくさんあるけど、お腹空いたー!」
どうやらサクラも限界らしい。
そうして話していると、
「サクラお嬢様、夕飯の支度が整いましたよ。皆さんお揃いになられるようです。」
「やった!・・・ねぇねぇ、レイアも一緒に食べていかない?いいよね?」
「もちろん、そのつもりで準備しておりますよ。」
「え、私もいいんですか?」
「はい。レイア様がご都合よろしければぜひ召し上がっていってください。」
執事の人が呼びに来て、夕飯もいただけることになった。
(師匠、ダリアさんごめん!私御馳走食べて帰るね!)
私もサクラもルンルン気分で、ダイニングへ向かった。
ダイニングの扉を開けると、すでにみんな揃っていたようだ。
「レイアちゃんね、サクラといつも仲良くしてくれてありがとう。」
「いえ、私の方こそ全く知り合いもいなくて困っていた時に声をかけてもらい、そして仲良くしてもらえて・・・こちらこそありがとうございます。」
「はっはっは。そんなかしこまらなくてもいいよ。自分の家みたいに楽に過ごしてもらっていいんだよ。これからもサクラを頼むよ。サクラもレイアちゃんと友達になってから、毎日がさらに楽しそうだよ!」
サクラのご両親は商人をやっている。
王都以外の品物を多く取り扱っていて、それこそバーバリア家ならではの人脈や資金に物を言わせている感じがする。
豪快でいて、とっても優しい二人だ。
「サクラもレイアさんも来たんだし、いただきましょう。」
「・・・腹減った。」
お姉さんとお兄さんもすでに席についていた。
サクラの姉兄は二人とも有名人だ。
お姉さんのリサさんはバーバリア家の天才令嬢といわれている。
男性人気が抜群なだけでなく、弱きを助けるその姿は女性人気も高い。
バーバリア家の次期党首だともっぱらのうわさだ。
氷魔法しか使えないが、マイナ=バーバリアの再来といわれるほど長けている。
サクラが氷魔法が使えなくて悩んでいるのを一番気にかけている優しいお姉さん、私のイメージはそんな感じだった。
甘い物が好きらしく、よく美味しいお店の情報をサクラが教えてくれるが、それは全てリサさんからのものだ。
ランキングは現在14位。
将来家を継ぐので本格的にランキングを上げようとは考えていないみたいだけど、大切なものを守るためと今でも訓練を欠かさない。
お兄さんのガンツさんはバーバリア家では珍しく剣術を好んで使ってる。
氷魔法はもちろん使えるが、実は雷魔法も得意らしい。
何故か知らないけど内緒ようなので、私も深くは聞いていない。
サクラが「雷魔法を教えてくれたのはお兄ちゃん!」といってるから、私も知ってるだけだ。
私は最初お兄さんが苦手だった。
少し物静かな感じが怖さを出していた。
しかし、私がレン=スレインの弟子だと知ってからものすごく話しかけられる。
どうやらファンだったらしい。
バーバリア家伝統の棒術を捨てて剣術に切り替えたのも、師匠への憧れからだった。
そうやって話すようになってから分かったが、決して冷たい人ではないようだ。
サクラのこと、家のことを実はとても気にかけていて、単に口下手なんだと知った。
ランキングは21位、これからが楽しみなランカーとしてよく名前が挙がっている。
サクラは氷魔法が使えない。
バーバリア家においてそれは異端なことだった。
周りの人々はよく同情の目を向けていた。
家族内での肩身が狭くてかわいそうだなって意見もあった。
しかし、実際にこうして家族の人たちと話すと周りの心配がいかにいらぬお節介であるかがわかる。
みんなサクラのことを心から大切に思ってるし、愛してる。
それは、この食卓を囲んでいるみんなの笑顔が物語っている。
「いただきまーす!!!」
こうしてニコニコしながら食卓を囲んでいる家庭を見ると、うらやましい気持ちもある。
(師匠やダリアさんのことは大好きだけど・・・)
自分の本当の両親はどんな人だったのか、それを考えなかった日はない。
(自分にもこんな未来があったのかな・・・)
私の心に潜む小さなコンプレックスは、消えるのにはまだ時間がかかりそうだった。
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