第8話:初めての順位
データスフィアを使える日が来た。
朝から心なしかうきうきしている。
(いよいよだな・・・)
宿屋のロビーに行くとサクラとジムがもう準備を済ませていた。
「おはよー!」
「ずいぶんとゆっくり眠れたみたいだね。」
「おはよう。別に遅れたわけじゃないんだからいいじゃない。」
朝一本当によく思いつく。
もはや関心の域である。
宿屋を後にした我々は、データスフィアのある城へと向かった。
「す、すごい・・・」
「さすがに王様の住まいとなると圧巻だな。」
田舎者丸出しで恥ずかしいが、お城は私がイメージしていた以上に広い場所だった。
廊下も部屋も置物も、一つ一つスケールも大きさも大きかった。
壁紙や床、装飾は決して派手ではなかったが、芸術家ではない私でも品がよくいい品であるとわかるものばかりだった。
全体的に落ち着いているけど、威厳や空気の重みはひしひしと感じた。
お城についてから謁見室などがある棟とは別の棟に連れてこられた。
大きい扉を開けると、中はがらんとしていて物はほとんど置かれていない部屋だった。
中央の石柱にちょこんと丸い球が乗っている。
青く輝いているが、とても深い色合いをしており、キラキラとした粒がちりばめられている。
データスフィアだといわれなければ、ただの宝石を見間違うような代物だ。
「あれがデータスフィアです。とてもきれいで宝石のようですが、くれぐれも触らないように。防御魔法が張り巡らされていますし、いまだに誰も解読できていない術式なので保証はできませんよ。」
城に入ってから私たちを案内してくれていた神官の人が言った。
宝石みたいだから盗まれないのかな?なんて思った私の心配は杞憂で済むようだ。
(そりゃ盗まれたら大変なことだもんね。ある意味財宝よりも価値があるかもしれないものだし・・・)
それにしてもまだ誰も解読できていない魔法という言葉が魅力的だった。
データスフィアがどうやってできたのか、それはいまだに解明されていない謎だった。
勇者おおともが持ってきた代物だが、作ったものなのかどこかで見つけたものなのか、それは全く分からなかった。
勇者と面識があるダリアさんでさえ「気が付いたら彼が持っていた」という始末である。
その影響がこの防御魔法で、宝石として盗難にあうことがないようになっているようだ。
勇者おおとも以外触れない秘宝といっても差し支えない。
勇者おおともの最後も全くの謎に包まれている。
どう死んだのかを明記してる書物はない。
それでも人間だった以上は500年も生きていられるはずもなく・・・
伝記も何もない以上、勇者おおともしかわからない謎がいまだにこの世界では残されている。
(学者になってこれを解明するのも面白そうだよね・・・)
私は勉強が得意というわけではなかったが、苦手でもなかった。
なので、そっちの道への興味が全くないわけではないのだ。
「すごくきれい!」
サクラが目を輝かせている。
サクラの家なんかお金持ちなんだから、こういう宝石なんてたくさん見たことありそうなものだが・・・
まあお金持ちに染まっていないのも、サクラのいいところだと私は思う。
「それでは一人ずつデータスフィアの前に立って手をかざしてください。何度も言いますが触れないように気を付けて。かざせば後はわかります。」
(・・・後はわかる?)
最後の一言がいまいちわからなかったが、聞き返す前にサクラが意気揚々と前に出た。
「サクラ=バーバリア!よろしくお願いします!」
そういって手を突き出した。
すると・・・データスフィアの光が急激に強まった!
「サクラ=バーバリアカ・・・オマエハ28位ダ」
「!?!?!?」
3人とも顔を見合わせた。
「ねえ!今のって!」
「こいつ・・・しゃべるのか!?」
「ええ。データスフィアはランキングを掲示するときに声で知らせてくれます。ただ、その時だけです。それ以外に話したりはできたことがありません。」
横にいた神官さんが説明してくれた。
「本当に謎の珠なんだ・・・」
思わず言葉が漏れていた。
興味がより一層湧くと同時に、少し恐怖も覚えた。
あまりにも未知なものに対しての不安でもある。
(勇者おおともは世界を救った人だから信用して・・・いいんだよね。)
「じゃあ次は僕が行こうかな。」
そんな思いつめていると、ジムに先を取られた。
ジムは驚きも少ないのか躊躇いなく手をかざした。
またデータスフィアが強く光った話した。
「ジム=ターナーカ・・・オマエハ27位ダ」
「サクラと一つ違いか。まあ大きな実力差があるとは思ってないし、登録試験も一緒だったんだ、ある程度納得だな。」
ジムはえらく冷静だ。
(もうちょっとリアクションないのかよ)
私だってこの3人に順位の差が出るとは思ってない。
だからといって、誰が高い順位になるのかは興味がある。
データスフィアの数字の信憑性はこれまでのランカーを見て嫌というほど理解してる。
(低いよりは高いほうがいいよね)
「さぁ、レイア君の番だぞ。」
「楽しみだね!」
二人のどこか期待する眼差しに、少し恥ずかしくなる。
自慢じゃないが私が一番強い人に教わっていた自負がある。
たくさん見てきた、たくさん真似てきた、たくさん鍛えてきた。
(レン=スレインの弟子たる姿を見せるときだよね)
気持ちを奮い立て、データスフィアに向かい合った。
手をかざし、データスフィアの光が強くなる。
「オマエハ・・・レイア=スレインカ。オマエハ30位ダ。」
「・・・なんでぇぇぇぇえええ!?」
思わず叫んだ。
(いや、この流れは私が26位でしょ。)
データスフィアをキッと睨んだ。
「なんで私だけ一つ空いて低いのよ!」
(サクラとジムと並ぶ感じになるところでしょ!)
非常に不満だった。
「データスフィアの数字は信憑性が高いんじゃなかったかな?」
「ええ、ええそうですよ!別に受け入れないってわけじゃありません。だからなおのこと不満なんですよ!絶対に抜かしてやるから!」
にやにやしながらジムがいってきた。
そう、データスフィアの数字は信憑性が高い。
だから、この順位がきっと真実なのである。
(とっても悔しい・・・)
2人のことは大好きだけど、心から負けたくない、そう思った。
どうやら私は自分が思っていた以上に負けず嫌いなようだ。
「レイアちゃんが強いことはちゃんと知ってるよ!大丈夫!」
サクラの笑顔に本当に癒される。
「ありがとうね、サクラ。もうこうなったらさっそくランク上げに行くよ!討伐でもランク戦でもなんでもこい!」
「ランク戦にそんなに簡単に勝てるわけないだろう。まずは討伐とかだろうな。」
「じゃあ早速行こう!」
私たちはついに順位を見ることができた。
いろいろ不満はあるが、これから3人でTOP3目指して頑張ろうと改めて心に誓ったのだ。
なんだかんだ私は浮かれていたのだ。
だから気づかなかった、データスフィアの差に。
知らなかった、神官さんが驚いて声を失っていたことに。
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神官side
「データスフィアが・・・違う言葉をしゃべった・・・」
賑やかな新人3人を送り出した後、私は思わず声に出して呟いてしまった。
(私がここにきて20年、初めて見たぞ名前を言いよどむのを)
データスフィアは名前の申告も何も必要ない。
ただ手をかざすだけ、それだけでこちらの情報を把握して順位を告げてくる。
それがすべてだった。
それ以外にはないはずだった。
レイア=スレインの名をいうとき、わずかだが言いよどんだ。
神官はそれを聞き逃さなかった。
(だが・・・いったいなぜ?)
そういえばレン=スレインが弟子をとったと聞いたとき、戦争孤児だと聞いたことがある。
レイア=スレインが本名ではないから言いよどんだのかもしれない。
(スレインの名はあの子が自称しているだけだろう、本名ではないはずだ。・・・だったら、何故データスフィアは本名を言わなかったのだ?)
様々な疑問が頭の中に浮かんでくる。
今までの20年間それがルールだった、だからそんな発想すらなかった。
(名づけ前の赤子の手をかざしたら、データスフィアはなんというのだ?家名がない種族が家名をつけてから手をかざしたらどうなるのだ?)
様々な疑問がわいてくる。
「20年も働いてきたんだ。少しぐらい実験してもいいだろう。」
一人の研究熱心な神官の心に火が付いた。
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