第3話:特別なタイミング

師匠にコテンパンに負けてしょぼくれていると、思わぬ一言が飛んできた。


「レンにガードを使わせるなんて、レイアも成長したわね。」

「え!?」


ダリアさんの一言に飛び起きて師匠の顔を見た。

なんともバツの悪そうな顔をしていた。


「最後の一撃はいい判断だったわ。内心あれ慌ててたわよ。レンが闘気を扱えなければ、一本だったわね。

これが闘気と身体強化の差よ、自分の体を強化するだけじゃないの、闘気は。」


ニッコリとこれまで見たことないぐらいの素敵な笑みだった。

(私の一撃をガードした鞘は闘気をまとっていたのか。)

身を持って実感出来た差。

だから、師匠は体に纏うというイメージで話していたのか。

私の体内に循環させる方法では気づかないわけだ。


「まあ闘気を纏ってなかったら、鞘が切られてただろうね。」


師匠はやられてしまったと笑いながら言った。

今までの訓練を思い返すと、師匠は私の攻撃を弾いたり、受け流したりしていたように思う。

よくよく考えると、まともに正面からしっかりガードしたのは初めてだった。


「私・・・強くなれてるってこと?」

「・・・?何を当たり前なことを。学校でもほとんど負けなかっただろ?今のお前は並の大人よりも強いよ。試験なんて余裕だろ〰」

「あんまり油断するようなことを吹き込むんじゃないの!だが、本当に試験の合格は何も心配してないよ。レイアの実力は私達が保証するわ。」


師匠とダリアの言葉に今度は嬉しくて、涙をこぼした。

別に普段褒めてもらえてないわけじゃない。

それでも、今日はどこか特別な気分だった。



その夜、私が寝静まった後のリビングにて。


「まさか本当にガードさせてくるとはな〰ダリアの教えがいいんだな。」

「それは嫌味?」

「まさか!ありがたいなと思って感謝の気持ちで話してるよ。」


ヘラヘラと笑うレンの姿に、私はまともに取り合う気をなくした。

本当にこの男はいつもこうだ。

だが、それが嫌だという気持ちも薄れてる。

随分と長く一緒にいるせいで、それが当たり前の姿になっている。

ない方が寂しい、むしろそう思っている。


「いよいよあの子も独り立ちか。パパは寂しいんじゃない?」

「その呼び方は流石にやめてよ。流石に恥ずかしいよ。そりゃそういうつもりで保護したけどさ・・・」

「フフフ」


普段おちゃらけてるのに、真っ赤な朝顔で抗議する顔に思わず笑みが溢れる。

きっちり仕返しもしないと気がすまなくなってる、これもまた長くともにいる中での変化だ。


「あの子が出ていったら、その後はどうして過ごそうか。なんかこの10年は久々に濃厚だった気がするわ・・・」

「そのことなんだけど、ちょいと相談があるんだわダリアさん。」

「・・・なに?」


これは嫌な予感がする。


「実は古い友人からこんな手紙をもらってね。二人でしばらく旅行なんてのも良いかなって思うんだわ、おれ。」


レンの懐から出された手紙には、よくよく見慣れた紋章が刻んであった。

私が大嫌いなところからの手紙だ。

「ほら、読んで。」と無理やり私に持たせてくる。

中身を確認すると、予想通りの相手から予想外の話が書かれていた。


「これ・・・10年前の戦争で魔族とはケリがついたんじゃないの?」

「ん〰おれもそう思ってたんだけど、まだまだそうは思ってない人も多いみたいなんだわ。」

「500年経っても、人も魔族も変わらないのね。いい意味でも悪い意味でも。

ゆっくり休暇って感じではなさそうね。」

「そんなことはないさ!初日は間違いなく歓迎と再会の宴だ。」

「あなたは私の実家をなんだと思ってるの・・・」


私は父からの手紙を読み返した。

(魔族の根城ね・・・今まで良かったことの試しがないわ。それに私宛じゃなくてレン宛ってところがまた・・・良くないことに発展しなければいいけど。)


私達は少しの不安を抱えながらも、それをレイアに悟られないように送り出した。

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