第2話:最後の訓練
「ランカーになるっていうならこれが最後の訓練になるんだな~」
しみじみと師匠が言った。
「え?今後も師匠は師匠ですよ!まだまだ私は未熟です・・・
教わることはたくさんあります!それに、師匠からまだ一本もとれていませんし。」
師匠のいい方があまりにも感慨深そうだったので、つい食い下がってしまった。
(15歳になったのになんか恥ずかしいな・・・)
でも、まだまだ教えてほしいという気持ちは本当だ。
師匠とダリアさんが話す会話はいつも新鮮だ。
外の世界にはまだまだ知らないことが多い。
学校も行ったけど、結局師匠たちの会話で聞いたことある話、あるいはそれよりも簡単なものばかりだった。
10歳の時に学校に行くように命じられた。
家で師匠とダリアさん以外の人間とほとんど交流がなかったことを心配して、同年代の知り合いを作れと言われたのだ。
後から考えたら、私が独り立ちしたときに常識を持っているようにという親心もあったと思う。
残念ながら、師匠たちの予想よりも私は二人の会話や家の本から知識を蓄えていた。
学校の授業は退屈だった。
でも、友達はできたし、自分と同年代で自分より強い子がいるんだと知れたいい場所ではあった。
実技の面は確実にレベルアップしたと自分でも思う。
それでも、師匠との組手なんて今まで剣先がかすることさえできていない。
「それを今からとるんだよ。」
師匠は満面の笑みだった。
私との訓練が終わることがうれしいのか?と思ったが、そんなわけないとすぐ思い直す。
私が独り立ちするということを実感しているのかもしれない。
「そんなところだよ。」
まるで心の中を見透かされたかのような一言に思わずびくついた。
師匠はいつも抜けていて、やる気がないように見えるが、時たま非常に鋭い時がある。
すごいんだかすごくないんだか・・・
そういうところがダリアさんも付き合い続けている理由なのかなと思ってしまう。
「今日一本取らないと今後永遠に取る機会ないぞ~ハッハッハ
・・・死ぬ気で来い。」
「・・・ッツ」
師匠の纏う闘気が変わる。
この人は本当にスイッチの切り替えがすごな・・・
これが上位ランカーなんだよね。
改めて自分が憧れる存在、目指すべき相手をしっかりと観察する。
(育ててもらった感謝の気持ちは、やっぱり剣で示すのが一番だよね。)
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師匠は魔力がないが闘気を扱うことができる。
闘気とは・・・簡単に言うと身体強化魔法だ。
だけど、厳密には違う、少なくとも私は違うと思っている。
師匠から教わったのは、誰しもが持っている体内にある生命エネルギーを体にまとわせる感じといわれたが、結果体内を循環させるイメージのほうが私にはしっくりときた。
学校で魔力を使った身体強化魔法を習ったとき、体への効果こそほとんど同じだったが力の出し方が違うことに気づいた。
「先生!闘気と身体強化魔法って別物なんですか?」
「いい質問ですねレイアさん。魔力のない種族でも闘気は使えるといわれていることから別物だと思われるかもしれませんが、基本的には同じものです。
魔力はわからないぐらい少ないだけで、みないくらかは持っているのです。
それを利用して身体強化魔法を行っている、それが古来より闘気と呼ばれているものです。
つまり、魔力がないものなんていないのですよ。」
「なるほど!」教室のみんなは納得していたが、少なくとも私は納得していなかった。
私はこの授業を受ける前に師匠から闘気の出し方を習っていた。
こうして実際に両方を使ってみると、結果身体能力が向上しているのだが、力の出所が違うと感じる。
師匠に伝えると「さすが俺の弟子!」というものの、その先の話は何もしてくれない。
違うから何なのかが知りたいのに・・・
この件についてはダリアさんも「両方使えるといざというときに便利よ」というにとどまった。
そりゃ両方使えたほうがいいのはわかってるけど・・・私はどっちを使うほうがいいの?
謎は深まるばかりだった。
取り敢えず私は自分の師と同じ方法を選んだ。
闘気で身体能力を強化しようと。
なんとなく、師匠と同じ方法で強くならないといけない気がした。
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「いつもはお前から仕掛けてもらってるが、どうせ今日が最後なんだ・・・俺から仕掛けてやろう。本気で行くぞ。ダリア、合図を。」
「・・・わかったわ。レイア構えなさい。」
「え?え?わ、わかりました。」
いつもと違う展開に慌てながらも剣をとって構えた。
圧倒的実力差があるのだ、いつも私が好きに仕掛けるのが組手の合図だった。
組手だって私の攻撃をいなして死角をついてくるのが主体だ。
積極的に攻撃をしてもらったことなんて・・・思えばなかったような気がする。
師匠が本気で攻撃してくる・・・
一気に緊張感が高まった。
汗が噴き出るのを感じる。
「準備はできたようね。それでは・・・はじめっ!」
「自分の感覚を信じろよ。」
そうぼそりといって師匠が視界から消えた。
ふわりと重力が弱くなり、師匠の体が軽くなるような錯覚を見た刹那、消えた。
私は本気の師匠の動きを目で追うことができない。
剣術だけでランキング12位になったその実力は伊達ではないのだ。
気配を完全に消してからの高速連撃、これが師匠の戦闘スタイル。
ダリアさんも目では完璧に追えていないというから驚きだ。
(・・・どこから来るんだ。)
私は静寂の中神経を研ぎ澄ました。
本当にわずかに、自分でもそれが何かはわからなかったが、右側の景色が揺らいだ気がした。
もしかして・・・右側に意識を少し向けたその時、自分の闘気がゆがんだ。
自分の意志とは関係なく。
(!!)
正直無我夢中だった。
右側に力いっぱい受け流すために剣を振った。
直後に師匠の強烈な横薙ぎが飛んできた。
ガキン!
受けられた、本当にぎりぎりだった。
ただ、受けきることはできなかった。
次に私の目に入ってきたのは、吹っ飛んだ私に追いついて追撃を入れようと近づいた師匠の影だった。
(縦切りだ!!)
私はそれをいなすために空中で体を思いっきり回転させた。
(やれるだけやるしかない!)
バキン!
(いなせた!)
師匠の剣筋は確かに鋭い。
速度もパワーも桁違いだ。
それに対応するために私は双剣を選んだ。
どう頑張っても1本の剣では対処できなかった。
ダリアさんのアドバイスだ。
「私だって1本じゃ対処できないよ。」
笑いながらそう言われたときは思わずずっこけた。
ダリアさんでも対処できないなんて・・・ますます師匠に魔法が使えたらもっと・・・そう考えてしまう。
師匠は剣一本を片手で扱う。
師匠と違う武器を使うことに、抵抗はあったけど、師匠は二つ返事で「そんなんいいに決まってるじゃん」と言ってきた。
(自分なりの形でいいんだよね。)
自分に言い聞かせながら、私はその日から双剣を主たる武器にしてる。
私は地面にたたきつけられたが、これはチャンスだと判断した。
師匠の剣は今、いなした結果地面に当たった。
私は体を回転させながら落ちた影響で地面で転がってる途中だ。
この勢いの剣を伸ばせば・・・当たる!
本気で切るつもりだった。
バキン!
「え?」
私の剣は無情にも背中の鞘に当たった。
いや、正確には当てるように師匠も体を回転させていた。
私がそう攻撃してくることをこの人は読んでいたのだ。
(わざわざ背中を相手に向けることでガードするなんて・・・)
そんなことを思った次の瞬間には、私の顔の横に師匠の剣が刺さっていた。
回転しながらの私の攻撃を鞘で防ぎ、そのまま突きに移行したのだ。
殺す気だったら、間違いなく私の顔に刺さっていた。
「やっぱり強いな・・・」
私はただその場に寝転がったまま思わずつぶやいた。
届くなんて思ったことない、まだまだ遠い背中だって感じていた。
それでも、これが最後だと聞いたからか、期待に応えられなかったという気持ちからか、私には悲しみのほうが大きかった。
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