「ふたりの終わりと、ふたりの始まり」
第64話「ちひろ&ルー②」
~~~現在~~~
突如泣き出し、外へ出て行った渚。
慌ててその後を追った兄貴。
思ってもみなかった展開に、場は騒然となった。
「ちょっとちょっとちひろ、どういうことよ? あのふたり、つき合ってないって? ウソでしょ?」
「あんなにラブラブな感じだったのにありえなくない?」
「つうか、あんたはあんたで落ち着きすぎじゃない? 一緒に追わなくていいの?」
傍からこちらの様子を窺っていた同級生3人が、シュババッとばかりにこちらに駆け寄って来た。
心配してるというよりは野次馬根性、あたしから詳細を聞き出そうというのだろうが……。
「あたしが? 冗談。兄貴ひとりで十分でしょ」
あたしは答える代わりに、ハイボールのグラスをぐいと傾けた。
「だってさあ……もし追いつけなかったりしたら……」
「高城って足早かったし……」
「ねえー?」
顔を見合わせる3人。
「やっべ……俺らまずいこと言っちった?」
「いやいや、予想つかないっしょ。あんなベタベタしといて実はつき合ってませんとかさあ」
事の発端となった質問をした吉田安井は、一緒になって青い顔をしている。
「あんたらは気にしなくていいよ、どうせなるようになるんだし」
あたしは素っ気なく言った。
別になるようにならなかったとしても、それはそれであたしにとってはラッキーだし?
「ちひろ」
カシスオレンジのグラスを持ったルーが、あたしの隣に座った。
「勝率はどれぐらいあると見る?」
「さあね、兄貴次第っしょ」
兄貴がどれだけ渚とヨリを戻したいか、それによって可能性は0にも100にもなる。
「でも、そうね。ひとつだけ言えるのは……兄貴はずっと後悔してた。渚と別れることを決めたあの日から、ずっと」
食事が喉を通らない日もあった。
夜中にうなされて起きることもあった。
体重は目に見えて減少し、生気が衰え、見ているのが辛かった。
「別れないという選択はなかったのか?」
「なかったのよ、当時は。兄貴ってバカだから。渚と負けず劣らず。これが正しいんだ、相手のためになるんだ、そう信じたら突き進む以外の道を知らないんだよ」
兄貴が渚と別れることを決めたのは、キャンプファイアの夜。
うちからかかってきた電話を聞いた瞬間のことだったそうだ。
電話相手はママからだった。
急きょパパのアメリカへの転勤が決まったんだって。
行き先は海外で、借家も引き払うことに決めたんだって。
パパラブなママは、単身赴任させるなんてことは当然だけど考えなかった。
マンガやアニメだったら、子供たちだけ日本に置いていくなんて展開もあるかもしれない。
だがこれは現実で、両親が娘や息子を日本に置いて行くなんてことはあり得ず、だから必然、あたしたちはアメリカへ渡ることとなった。
中学とはそのままおさらば、日本の高校へも、大学へも通わないことに決まった。
そして兄貴は──
「……」
兄貴の決断が正しかったのかどうかはわからない。
でも、兄貴はそれが正しいと信じてた。
渚は当然あきらめられず……。
「……ま、どっちもバカってことだよね」
あたしはぐいと、ハイボールの残りを呑み干し、お代わりを頼んだ。
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