第50話「衣装は自前」
そんなこんなで帰り道、俺は渚ちゃんにうちのクラスの出し物について説明した。
俺が執事役をやることも。
「執事喫茶……ですか」
渚ちゃんはふむうとばかりに首を傾げた。
「すいません、喫茶と名がつくからには喫茶店の類だろうとは思いますが、それが執事とどう結びつくのか皆目見当もつかないのですが」
まあそうだろうな。
どう考えたって渚ちゃんのデータベースにありそうな単語じゃないもの。
「ええとだね、渚ちゃんはメイド喫茶って知ってる?」
「ええ、それならば。ニュースで何度か拝見したことがあります。主に秋葉原などの電気街に店舗を構える、古めかしいヨーロッパの使用人の格好をした女性が給仕をするスタイルの喫茶店ですね」
「うん……まあだいたい合ってる」
オムレツにケチャップで絵を描いたりお客さんとチェキを撮ったり等のサービス内容まで把握しているかは怪しいが、大筋では外れてない。
「執事喫茶ってのはその男性版なんだ。主な客層は女性で、給仕役が男性」
「???」
渚ちゃんは明らかに不審そうな顔をした。
「執事というのは上級使用人であり、多くの場合お屋敷にひとりしかいない重要な役職のはずですが、その執事がたくさんいるということなのですか? メイドの対義語というならボーイが正しいのでは?」
「まあわかるけど、ボーイじゃ特別感がないじゃん。お客さんが求めてるのはそれこそ主人に仕る執事ぐらいの丁寧な接客なわけ」
「丁寧な挨拶……特別感のある接遇……たったひとりのわたしのために先輩が……なるほど……なるほど……」
俺の説明に納得してくれたのだろう、渚ちゃんは瞳に理解の光を灯した。
「それは素晴らしい催しですね。わたしだったらとても嬉し……いえ、お客さんたちもきっと喜ぶと思います」
「うん、もちろん俺だけじゃないけどね。吉田と安井と、他にもいるけど。んでさ、問題なのは衣装なんだ」
「衣装」
「うん、白いシャツと黒いズボンと、白い手袋と、あればジャケットとかベストとか……」
しょせんは中学校の文化祭。
そんなに潤沢な資金があるわけもなく、衣装は各自自前で用意することとなった。
普通なら親父の喪服でも借りればそれで済む話なのだが、うちは親父がデカすぎる(実に身長190)ので、俺にはサイズが合わんのよ。
かと言って、わざわざ自腹を切るもなあー、と思ったわけ。
「んでさ、なんかツテがあるんだったら借りれないかなーと思って。渚ちゃんは誰かいない? 親戚のお兄さんとか」
「ツテですか……」
ううむと腕組みして困り顔の渚ちゃん。
ふむ、ちょうどいい親戚などはいなそうか。
「残念ですがご期待には添えないようで……」
「兄貴! 兄貴が執事やんの!?」
いつの間について来ていたのだろう、後ろからちひろが話に割り込んで来た。
「『悪魔de執事』みたいな格好すんの!? 『お帰りなさいませお嬢様』、とか言って客の手を引いて!?」
「ああ、『悪魔de執事』ってあったな、マンガだっけ」
執務に戦闘なんでもござれの完璧な執事が主人である女性を降りかかる危難から救いまくるお話だ。
最近アニメ化もしていて、クラスの女子もハマってるとか言ってたっけ。
もしかしたら今回の企画も、そういった方向からの推しがあったのかも?
クラスの男子に執事させたって、全然面白くはないだろうけど。
「兄貴が執事の格好をする……? 席を引いてあたしを座らせて、至近距離で囁くように接客する……? それは……それはかなりヤバいのでは……っ?」
なんだか興奮気味にぶつぶつつぶやいているちひろだが、こいつも好きだったのか『悪魔de執事』。
「……グインよ」
これまたいつの間について来たのだろう、俺の背後にいたルーが突然話しかけて来た。
「うお、ルーもいたのか?」
「くくく、我はそなたのソウルメイト。常にその傍らに在り、互いに
含み笑いをしたかと思うと、ルーは一転、ババッと中二病ポーズを決めた。
「グインよ、任せておけ。ソウルメイトとして、そなたの苦境を見捨てるような真似はせぬ(友よ、わたしに任せてくださいっ)」
「おおっ、すると何かツテがっ?」
一気に希望の光が見えた。
と思ったのだが……。
「ツテはないっ。ツテはないが、センスには自信があるっ。そたなが
自信満々なルーに連れられ、俺は一路、古着屋さんに行くことになったのだった。
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