第43話「変わるもの変わらないもの」
「ううぅ……頭が割れるかと思ったぁぁぁ……」
渚ちゃんの手から解放された杏ちゃんは、頭を抱えながらその場にへたり込んだ。
一方渚ちゃんは、腕組みをしながら鼻息を荒くしている。
「なんだか意外ね、あんたって、家族といる時はそんな感じなんだ」
姉妹のやり取りを眺めていたちひろは、ヒュウと面白そうに口笛を鳴らした。
「家でもバカ丁寧な言葉づかいをしてるんだとばかり思ってたんだけど、違うんだ。へええー」
「いえ、言葉を崩すのは妹に対してだけです。このコに対しては相応に厳しくしないと、やりたい放題暴れたい放題になってしまうので」
「なるほどね、今の見てたらわかるわ。ものすごかったからね」
これには俺も激しく同意。
杏ちゃんを抑えるの、ホントに大変だろうな……。
「ああーっ! そうゆーのふうひょー被害って言うんだよお姉ちゃんっ!」
杏ちゃんはぶうぶうと不満そう。
「こんなおしとやかな美少女を捕まえて―っ!」
まあたしかに美少女なんだけど、自分で言っちゃうあたり、相当
「……と、それはともかくとしてあなたがちひろさんですね! お姉ちゃんの彼氏くんの妹さん! よろしくお願いしまーすっ!」
「う、うん。よろしくね……」
ブンッ(↓)ブンッ(↑)とものすごいお辞儀に、ちひろも思わず気圧される、
「いやあこれは……賑やかな一日になりそうだな……」
つぶやく俺の肘を、ぐいぐいと誰かが引いた。
「ぐ、グイン……今日はずいぶんと人が多いのではないか?」
振り返ると、そこにいたのは遅れてやって来たルーだ。
斜めに差した日傘に隠れるようにしながら、辺りをうかがっている。
俺と行動する時はいつもふたりだったから、その反動もあるのだろう。
コミュ障を発動させておどおどしている。
「あっ!」
ルーの存在に気づいた杏ちゃんが、びゅんと凄い勢いで走り寄って来た。
ブンッ(↓)ブンッ(↑)と勢いよくお辞儀をすると、ぱあっと太陽のように明るい笑顔をルーに向けた。
「あなたが
「〆◇£¢§☆◎○!?」
「うわあホントにキレーな方ですねっ! アニメとかに出て来そうっ! この服ってゴスロリですよね! すごいっ! 可愛い!」
「@▽%&¥¢〆≧!?」
「あ、あたしは杏です! どーか姉ともども、仲良くしてくださいっ!」
「§★~◇&£¢≦!?」
杏ちゃんが全身から発散している陽の気を浴びたルーは、言葉が喋れなくなるほどに動揺。
慌てて俺の背中に隠れた。
「こ、これが陽キャ……
おいおい、怖がり過ぎて膝震えてんじゃん。
杏ちゃんは陽キャすぎだけど、おまえはおまえで陰キャにもほどがあるだろ。
~~~現在~~~
「ハローハローエブリバディ! みんなの愛しの天使、杏ちゃん登場だよー!」
最初っからテンションマックスで登場したのは、
「おー! 杏ちゃんひさしぶり!」
「よおー! 先輩くんひさしぶり!」
俺が手を上げると、杏ちゃんは迷わずハイタッチをして来た。
「しばらく見ないうちに大人になったねえー」
「ふっふっふ~、そうでしょうそうでしょう~っ。杏ちゃんはあの頃の聖天使的ロリ属性を脱ぎ捨て、大人JKとして同い年の男どもの心を弄んでいるわけですよ」
「誰が聖天使ロリ属性か。弾の代わりに言葉を飛ばすガトリングガンみたいだったくせに」
「まぁあぁたぁあぁ~、そんなこと言ってぇえぇ~。先輩くん、あたしの太ももに目が釘付けだったくせに~。お姉ちゃんのこと見てるフリしてチラチラこっちを見てたくせに~」
「おいよせやめろ。俺に変な属性を付加するな」
そうそう、このノリこのノリ。
JSがJK(今は高3か?)になってもまったく変らないなこのコは。
黙っていれば黒髪ロングの清楚なお嬢って感じなのに、口を開いた瞬間違う生き物に変貌する。
「やれやれ、まぁぁぁたうるさいのが来たわね……」
ちひろはハアとクソでかため息。
「ふふーん、ちひろさんそんなこと言ってえー。ホントは杏ちゃん成分が足りなくて泣きそうになってたんじゃないのおー?」
「いったいどっからその自信が出て来るのよあんたは……」
めんどくさそうにあしらうちひろを、杏ちゃんはうりうりとばかりに指でつつく。
「あ、
「うう……
あの頃とほとんど変わらないやり取りをする杏ちゃんとルー。
ま、6年やそこらじゃ人間それほど変わらないか。
それぞれ進学したり就職したりで環境は変化してるけど、根っこの部分は変らないというか。
意外にも一番変わったのが渚ちゃんだという事実。
「お姉ちゃん大丈夫? お酒呑みすぎてない?」
「へーきへーき、全然らいじょーぶぅー」
全然大丈夫じゃない口調の渚ちゃんは、そう答えるなり俺に倒れかかって来た。
「何かあっても先輩がいるから~。ね、先輩?」
ありゃ、これは呑ませすぎたかな?
考えてみれば渚ちゃんは二十歳になったばかりだし、自分の酒量がわからない可能性が高い。
俺が店員さんに水を頼んでいると……。
「おおっとーっ、お姉ちゃんがもうダメそうなので、ここからの仕切りはこの杏ちゃんにお任せあれ」
杏ちゃんはドンとばかりに胸を叩いた。
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