第21話「処刑確定?」
最近つき合いが悪いと吉田安井が騒ぐので、しかたなく一緒に遊ぶこととなった。
場所は定番のK越。
「ま、今日は渚ちゃんが風紀活動の日だからいいけどな……」
そう言えばこの辺渚ちゃんとデートしたっけなあなどと思いつつ歩いて行くと、ふたりが目指していたのはゲーセン。S玉レジャーランドという名の2階建ての店だった。
「おう、俺は対戦ゲーしてくっから。クソ雑魚くんどもにK越リュウの腕前を見せてやんなきゃな」
「じゃあ俺は太鼓の達人で驚異のバチさばきを見せてくるわ」
「いやおまえら全然一緒に遊ぶ気ないじゃん」
颯爽と2階に上がっていくふたりを見送りながら、俺は呆然とつぶやいた。
「だったら俺、来なくてもよかったのでは……?」
3人で一緒にゲーセンへ行って別々のゲームで遊ぶのはいかがなものかと思うが、このぬるさはこれはこれで心地よいものだ。
なんだかんだでみんな陰キャというか、みんなで一緒に連れだってきゃっほいひゃっほい騒ぐような性質じゃないからな。
「まあいっか……。んーと、じゃあ俺はどうするかな……」
S玉レジャーランドは俺らがもっと小さな頃から遊びに来ていた店で、構造やゲーム機の配置は大体知ってる。
1階がクレーンゲームやメダルゲーム、プリクラで、2階がビデオゲームにカードゲーム、音楽ゲームにダーツ。
適度にメダルゲームでもやって時間を潰してから、2階に上がるのがいいか……。
「……ん? これは……?」
クレーンゲームの一台に目が止まる。
いかにもなアニメ系のフィギュアの中に混じって、ひとつだけ異質なものが陳列されている。
白い長方形の箱に納められたそれは……。
「これ、『カピ腹っさん』じゃん」
俺との距離感を計るものさしとして使われる他、渚ちゃんのラインスタンプにほぼ毎回と言っていいほど使われているゆるキャラの携帯ストラップだ。
腹巻ステテコのくたびれた中年みたいな造形のどこがいいのかはわからないが、渚ちゃんのお気に入りであることは疑いない。
「もしかして、これをプレゼントしたら俺の評価がぐぐんとアップなのでは? お目々にハートマークを浮かべて、『先輩ありがとうございます。大好きです、チュッ♡』的な感じになるのでは? いやさすがにそれは無理だとしても、これはけっこう喜ばれそう」
考えてみれば、俺はつき合ってから未だに渚ちゃんを喜ばせたことがない。
いや、お礼の言葉自体は何度も聞いたことがあるのだが、心の底からの手放しの、なんつーか、乙女的なありがとうを聞いたことがない気がする。
「ようし、やってやる……っ」
俺は腕まくりをすると、闘志を燃やしてコインを投入した。
が……。
□ □ □
「と、取れねえ……いったいどうなってんだ? さすがにアーム弱すぎない?」
4回、5回……。
「いやいや舐めんなよ、さすがにおかしいって。こんなのもっと高級な景品向けの設定じゃん。『カピ腹っさん』は絶対そんな感じのキャラじゃねえよ。もっとサクッと取らせろよ」
9回、10回……。
「い、いかん。これ以上は致死量だ……。デート代を捻出することが出来なくなって、最悪お小遣いの前借をしなけりゃならないハメに……?」
12回、13回……。
「……さ、さすがにやめようかな。いやでもなあ、ちょうどいい感じに取れそうな位置まで来てるし、ここでやめて他の人に取られるのとか耐えらんねえし……」
15回、16回……。
「ええと、メッカはどっちの方角だっけ? プレアデス星団は? ってそういう問題じゃねえか。いかん、散財しすぎて変なことばかりが頭をよぎる……」
「先輩、これが欲しいのですか?」
「うわ、とうとう渚ちゃんの幻覚まで見えて来たよ……。しかもなにこれ超リアルぅ……」
「『カピ腹っさん』は先輩が欲しがるようなキャラではないと思うのですが、何か意図があってのことですか? もし、軽い気持ちで踏み込んだのにけっこうな散財をしてしまったからもう引き返せないと思っていらっしゃるのでしたら、引くのも勇気ですよとだけお伝えしておきますが」
「うんうん、そういう真面目な感じのこと言いそう。でもなあー、わかってねえんだよなあー。男は自分の好きな女の子のためだったら、時に命すら懸けられるというのに」
「…………ゴホン」
渚ちゃんはひとつ咳払いすると。
「先輩ちなみに、わたしは幻覚ではないのですが」
「うんうん、そうだよなあー。こんなリアルで香りまでしてくるようなのが幻覚なわけがない…………うん?」
やっべ、本物だ。
遅れて理解した俺は、その場で硬直した。
渚ちゃんは制服の腕に風紀委員の腕章を巻いている。
つまりは風紀活動中。
対する俺は制服に学生バッグを携えた、絶賛寄り道中。
しかも場所は校則により禁止されているゲーセン。
はい終わった。
これは長時間のお説教コースが待っている。
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