「吉田安井とカピ腹一郎」
第20話「桜園の誓い」
勉強会を経て、わずかに距離を縮めた渚ちゃんとちひろ。
友達って感じではまだ無いが、教室にいる時にふたりで話をしたりすることぐらいはあるらしい。
内容は主に俺のことらしいのだが、何を話しているかまでは教えてくれなかった。
教えてはくれなかったけど、ふたりで話すそれ自体はすごくいいことだと思う。
渚ちゃんは自他共に認めるボッチだし、俺以外にプライベートで絡む相手がいないのも事実。
どんな形であれ、それが解消されるのはいいことだ。
それに……ちひろとの絡みが出来てからの渚ちゃんは、以前よりイキイキしてると思う。
それはたぶん、自分の意見や好き嫌いをハッキリ表すようになったおかげだ。
今までは何重ものフィルターを通してしか意志を表明しなかったから。
「大人っぽさの裏側に隠れてる子供っぽい部分がまた魅力を引き立たせてるんだよな。一粒で二度美味しい渚ちゃんというか……」
教室の窓際の一番後ろの自分の席で、うんうんとうなずいていると……。
「おう、ヒロ」
「おまえにちょっと、話があるんだが?」
「ん? なんだ、吉田と安井か……ってなんだその格好!?」
俺は思わずのけぞった。
だって、だってさ……。
悪友2人が目のところに穴の開いた真っ黒い頭巾をかぶってるんだもん、そりゃ驚くでしょ。
「え、なに? 宗教にでもハマった? それとも金に困ってコンビニ強盗でも行くところ?」
「いいから、そのまま話を聞け」
「言っとくが、逃げたりしたら地の果てまでも追ってくからな?」
「怖っ、ガチで怖っ」
前の席と横の席で俺を取り囲むようにして座ると、吉田と安井はぐぐっと詰め寄って来た。
なんだよ、おまえらにいったい何があったんだよ。
「最近、おまえの様子がおかしい」
「変だ、変すぎ」
「俺からすりゃおまえらのほうがよっぽどおかしいけどね?」
今もクラスメイトからの視線が超痛々しいしね?
「「おまえもしかして……彼女出来た?」」
吉田、安井の異口同音での詰問に、俺は思わず噴き出した。
「なななななな何を言ってるのかなあー君たちは!? 何を根拠にそんなことを!?」
「おまえ最近、俺らと一緒に帰らねえこと多いじゃん」
「なんか用事があるとかって速攻消えるじゃん」
「それはあれだ。そのー……げ、ゲームだゲームっ! 最近俺MMORPGにハマってて
! 一刻も早く帰ってプレイしたいみたいな!?」
「そのゲームの名前は?」
「そんなにハマってるなら答えられんべ」
「み、ミドガルズオルム……剣と魔法と転生とあれやこれやみたいな感じの」
電車のつり革広告で見た知識だけで語ってます、はい。
「じゃあ最近やたらとスマホ眺めてニヤニヤしてんのは?」
「超ー気持ち悪い顔してんのは?」
「それはおまえ……あれだよ。ミドガルズオルムの世界に自分も転生出来たら楽しいだろうなーとか妄想してたんだよ。ほら、そうゆーのあるじゃん。なろう系みたいな」
日々そんな妄想をしている痛い奴だと認識されるのは嫌だが、背に腹は代えられぬ。
「「ふうーん…………?」」
しどろもどろながらも一応は筋の通った説明に、ふたりは渋々ながらも納得したようだった。
「ま、今回のところは見逃してやる。だが忘れんなよ? 俺たちは誓い合った仲だからな?」
「そうそう。俺たち3人、産まれた時は違えども抜け駆けだけは許さねえ、誰かに彼女が出来た時は速やかにぶっ殺すっていう」
今思い出してみても最悪な誓いだな。
桃園の誓いならぬ桜園の誓いというか(桜=チェリーねってどうでもいいけど)。
「お、おう。わかってるわかってる。絶対抜け駆けだけはしねえよ」
じゃっかん引きつり気味ながらも、俺は懸命に笑顔を作った。
~~~現在~~~
「いやホント、あの当時はふたりがつき合ってるとは思わなかったらからなー」
「ちゃんと見張ってたつもりなんだけどなー。よっぽど上手くやったんかなー」
同窓会に途中参加した吉田と安井は、俺の前の席に座るなり口々に言った。
「ええと……知らない人が……?」
渚ちゃんはふたりの顔を不審げに眺める。
「うわひどっ?」
「眼中に無いにもほどがあるくねっ?」
ガガーン、とばかりにショックを受けた様子のふたり。
まあニッカポッカを着た鳶職人の吉田とブランド物のスーツを着たキャバクラのキャッチの安井では、さすがに驚異の記憶力を誇る渚ちゃんでもわかるまい。
……いやホント、ずいぶん変わったなこいつら。
「さすがにショックだわ……毎朝鼻ピアスを注意されてたのに……」
「俺なんか何度メリケンサックを取り上げられたことか……」
「安井は注意されたら外せよ。つうか吉田はケンカもしねえのに学校に物騒なもん持って来るなよ……」
見た目は変ったけど、言ってることは相変わらずだななどと思っていると。
「うるせえよ。おまえみたいなリア充に、非モテ男子の何がわかる」
「そうだそうだ、リア充は今すぐ死ねっ」
ふたりは肩を組んで俺への不満をぶちまけ始めた。
「そうだ思い出したぞっ。こいつ、俺らと遊んでる時にすらこっそり
「そうだよ、密会してたんだ。この裏切り者ぉー」
「んんー……? そんなことあったかな?」
非モテ男子くんたちふたりが恨み言を述べて来るが、はて、そんなことがあっただろうか?
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