778
1628
目潰しの魔法は決まりさえしたら、効果は大きくて相手をほぼほぼ足止めが出来るんだが……複数の魔物で互いに顔が違う方を向いていたらどちらかにしか効果は無い。
そして、魔法そのものには攻撃能力は無いし、慣れて対処方法を掴まれてしまったら簡単に無効化されてしまう。
だから、俺は決まりさえしたら確実に仕留められる……って場面以外ではあまり使わないようにしていたんだが、まぁ……今のは必要だったよな?
頭の中でそう魔法を無駄撃ちしてしまったことの言い訳をしながら、襲ってくるオオカミをあしらいながら隙を探していたんだが。
「むぅ…………ほっ!」
オオカミの体当たりを躱してすかさずカウンターで斬りかかるが、同じくオオカミもスッと余裕をもって躱してしまう。
「オレの狙いは読まれているか……厄介だね。それに……そろそろ視界が戻るころかな? 上手く時間を稼がれちゃったか……」
仕切り直しだと一旦距離をとったが、目潰しに苦しんでいたオオカミが立ち上がってこちらを睨んでいた。
俺だって時間を稼げるのは悪いことではない。
混戦になっているから一発で纏めて……とはいかないようだが、それでも北側の戦闘はこちらが優勢な気配だし、時間を稼いでいたらそのうち向こうの連中もこちらにやって来るだろう。
だが……。
俺は「ふぅ……」と大きく溜め息を吐くと、二体のオオカミから距離をとる。
「また二体同時に相手か……。面倒だな……」
二体同時に相手をしてもやられる気はしないが、これだけ頭を使ってくる魔物が相手となると気を抜くことは出来ない。
「仕方が無い。倒すことよりも、ここに引き付けることを優先するか」
出来ればコイツらは俺が倒しておきたかったが、どうにも無理っぽいし方針変更だ。
俺は尻尾を前に伸ばすと、ゆっくりとオオカミたちに近づいて行った。
◇
二体のオオカミとの戦いは、実に地味に進行していた。
守りを優先している俺にはオオカミの攻撃は届かないが、俺の攻撃もどうしても浅くなり、その結果傷一つ与えられないでいる。
今まで強力な魔物との戦いで、中々仕留められないで長期戦になることはあったが、傷一つ与えられない……なんてことは初めてだ。
んで……近付いては適当に一発二発互いにしかけてまた離れるってことを何度も繰り返していたんだが。
初めはオオカミたちはまだ俺を倒そうという雰囲気があったんだが、攻守を何度か繰り返した結果、コイツら間違いなくやる気を無くしている。
明らかに攻撃が消極的になって来ていて、むしろ俺から距離をとりたがっている。
俺の隙を窺っているのは間違いないんだが、それは仕掛ける隙ではなくて逃げ出す隙だ。
この場から逃げ出したいオオカミと、逃がしだけはしたくない俺。
時折聞こえてくるジグハルトの魔法の音にも慣れてきた今、互いのスタンスがこれじゃー……何も起きようがない。
「……飽きた」
大人しく時間を稼ぐつもりだったが、コイツらがここまでやる気が無いのなら、やっぱり俺の方から攻め込んでやる。
「えーと……」
仕掛ける素振りを見せないように気を付けながら、俺は左手でポーチの中身を漁っていく。
ポーションは後方の待機場所にいる連中に渡してきたが、他にも魔道具はいくつも持って来ている。
その中の一つである燃焼玉を見つけると、左手に握りしめた。
「よし、これでいいね。それじゃー仕掛けるのは次にしようか」
準備は調ったが、仕掛けるのは次のオオカミたちの攻撃を凌いでからだ。
警戒させないように、先程までと同様にオオカミたちに近づいては、挑発するように眼前に尻尾を垂らして、当たらない程度の距離で適当に振り回す。
それを何度か繰り返していると、二体が揃って飛びかかって来た。
「来たっ!!」
一体は宙に浮く俺の首を狙い、もう一体は【浮き玉】から垂らしている俺の右足を狙っていた。
1629
今までも何度か使ってきたいい連携で、これを完全に回避するのは難しい。
空中の方は【風の衣】で弾くことが出来るんだが、地上の方は体当たりも兼ねていて、【風の衣】を破れそうなほどの威力がある。
だから、このパターンの連携を使ってきた時は低い位置で回避をして、カウンターを狙うのは諦めて上に退避をしていた。
毎回そうだったし、コイツらもそれはわかっているはずだ。
つまり、俺を一旦上空に追いやりたかったんだろうな。
間が悪くなったから、仕切り直したがっているってことか。
これまで通りと同じ躱し方をして、攻勢に回るのはもっと楽な攻撃の回にしてもよかったんだが……。
「まぁ、いいさ!」
俺は地上のオオカミは無視して、空中のオオカミに向かって突っ込んでいく。
今までと違う行動に驚いたのか、オオカミは口を開けたまま一瞬体が硬直した。
隙ありだ!
「よいしょっ!!」
そのまま突っ込んでいき、【風の衣】の風で吹き飛ばす。
これが【緋蜂の針】ならそれなりのダメージを与えられたんだが、所詮はただの強風で、地面に落下させるくらいしか出来ない。
だが、とりあえずこれでコイツの動きを止めることが出来た。
「ほっ!」
体勢を立て直すために、動きを止めたオオカミをひと睨みすると、先程ポーチから取り出して左手で握っていた燃焼玉に魔力を込めると、オオカミの足元目がけて投げつけた。
不慣れな左手だが、動きが止まっている相手の足元に投げるくらいなら簡単だ。
狙い通りオオカミの足元に飛んで行った燃焼玉は、地面に溜まった水と反応して一気に燃え上がる。
このレベルの魔物が相手だとこれでも大したダメージにはならないが、それでも足元が炎上することで大分動きを制限出来る。
オオカミは炎から逃れるために一旦後ろに大きく飛び退いたが、これが俺の狙いだ。
初めの一発を無駄にしてしまった以上、警戒もされているし慎重に機会を選ばなければ……と、今までの戦闘の間は使ってこなかったが、今ならいける!
「ふらっしゅ!」
炎上した足元から飛び退いて、炎の先に着地をしたタイミングを狙って、顔目掛けて魔法を放った。
俺の魔法を警戒はしていても、これだけ加護に魔道具にと畳みかけたのなら、流石に防ぐことは無理だったようだ。
狙い通り鼻先で炸裂した魔法で視界を潰されて、苦しそうに頭を振っている。
ただ、最初と違って地面に転がったりするような真似はしない。
俺の追撃に反応出来るように、転がるのを堪えてしっかりと四つ足で立っている。
「立派立派……。でも、オレの狙いはこっちだ!」
そう言って、俺はもう一体のオオカミに視線を向けた。
◇
地上を走って攻撃を仕掛けようとしていたもう一体のオオカミは、地面の炎上や炎越しの閃光でこちらの状況を理解したようだ。
目潰しを食らった相方をフォローするために、炎を迂回しながらこちらに向かって来ている。
真っ直ぐ突っ込んで来たらすぐだったんだが、やはり野生の生き物だし炎は避けたいのかもな。
短い距離ではあるが、これで一旦二体の距離を離すことが成功した。
仲間想いなのは結構なんだが……これは俺の狙い通りだ!
「せーーのっ!!」
俺はさらに二体の距離を離すために、左足を突き出して突っ込んでいく。
今まで俺は二体のうち隙が出来た方ばかり狙っていたから、まさか自分の方に突っ込んで来るとは思わなかったんだろう。
慌てて足を止めたかと思うと、俺の蹴りが突き刺さる前に横に飛び退いた。
「逃がさないよ!」
地面を砕きながらも尻尾を伸ばすと、逃げたオオカミに向かって振り払う。
今の蹴りで地面から舞い上がった瓦礫や泥が邪魔で、飛び退いたオオカミの姿はハッキリとは見えないが、宙を舞う瓦礫以外の重たい物を振り抜いた感触が尻尾から伝わって来た。
「よしよし……向こうの視界が戻るまでの短い時間だけど、これで一対一だね。それじゃー、さっさと決めちゃおうかね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます