777
1626
「ちゃんと……死んだね? 強さは脅威じゃなかったけど、中々手こずらされたね」
バラバラに切断されたサルの死体を見下ろしながらそう呟くと、一旦森の上空に上がった。
「さて……ここはどこだ?」
サルの追跡に集中していたから、現在地がいまいち把握出来ていない。
森に入った位置から北に向かってそこからさらに移動をしたから、位置的には北の拠点と同じくらいの場所だと思うんだが……森の奥にも少し入ったからな。
「オレ一人いなくなっても、向こうの魔物たちに影響は無いと思うけど……っと、ここまで上がったらギリギリ見えるね。でも……皆がいる所は見えないか。急いで戻った方がいいかな」
高度を上げていくと、遠くの森の境辺りに微かに魔物の気配が集まっているのが見えた。
まだ森の外には出ていないが……それももう時間の問題だろう。
魔物側の状況が悪くなっているのなら、指示役がいないにもかかわらずわざわざ参戦しようとするとは思えないし、兵たちが押されているのかもしれない。
ジグハルトは……まだ睨めっこ中かな?
見た感じ他にもう増援はいないはずだが、そんな状況であの数の魔物になだれ込まれたら、ちょっと危ないかもしれない。
場合によっては俺が代わりにボスを引き受けてでも、ジグハルトに参加してもらった方がいいかもな。
とにかく、急いで向こうに戻ろう……と思ったが。
「……っと、その前に」
地上に降りると、バラバラにしたサルの死体を一ヵ所に集めていく。
別に必要ないかもしれないが、一応コイツもボス格の一体なのかもしれないし、後で調べるためにも回収しておいた方がいいからな。
だが、とりあえず上半身と下半身は尻尾で巻き取って運ぶとして……だ。
「上半身と下半身はコレでいいとして……頭は……どうしようか。一番肝心な部分だよな?」
念入りに止めを刺そうと首を刎ねていたんだが、頭部だけ別になっているから持ち運ぶのが難しくなっている。
必要だと思ったからだったが、失敗だったかな?
死体を前に、どうしようか……と悩んでいると、尻尾で巻き取った上半身から垂れているサルの腕が目に入った。
コレがあったか!
◇
「いかん……もう始まってる!」
サルの上半身と下半身は尻尾で巻き取って、上半身から切り離した頭部は【サルの腕】で掴むという、荒っぽい方法でサルの死体と一緒にやってきたが、移動の勝手が大分変わっているためちょっと時間がかかってしまった。
そして、その所為……かはわからないが、既に魔物たちは森から出て兵たちとぶつかっていた。
ここに戻ってくる前に数度魔法の爆発音が聞こえてきたが、地面に新たに破壊跡が出来ているし、魔物たちの牽制にジグハルトが魔法を放ったんだろう。
そのお陰で、まだ兵たちが魔物の群れに飲み込まれてはいないが、このままじゃそうなるのも時間の問題だろう。
「ジグさん!」
兵たちの裏を回り込みながらジグハルトの下に到着した俺は、死体を側に投げ捨てながらジグハルトの隣に移動する。
「セラか。森の様子はどうなっていた?」
「とりあえず、あそこに出てきた分で魔物たちは出尽くしたよ」
「そうか……そりゃ結構なことだ。それならセラ、お前は向こうを頼む」
普段だったらジグハルトの指示は妥当なところだし、俺も二つ返事で引き受けるんだが、今回はもう事態が変わってしまっている。
俺はジグハルトの言葉に首を横に振ると、逆にジグハルトに提案をする。
「オレがあの二体を引き受けるから、ジグさんが向こうをお願い! このままズルズル長引きかねないし、さっさと倒しちゃってよ」
ジグハルトは俺の言葉に「ん?」と怪訝な表情を浮かべたが、すぐに理解出来たのか、「わかった」と答えた。
「すぐに片付ける。向こうが片付けばすぐに俺がやるから、お前は無理をしなくていいぞ。逃げられると厄介だから、それだけ気を付けてくれ」
そう言うと、兵たちの下に向かって走っていった。
1627
「さて……と、無理はしなくていいと言ってたけど……そうもいかないよね。そもそもオレじゃ抑えられないだろうしね」
ジグハルトがいた時は互いに距離をとっていたオオカミたちだが、後ろにいたオオカミもいつの間にかすぐ側にやって来ていた。
ジグハルトは向こうの応援に行く前に、オオカミたちをここから逃がさなければ、それでいいとか言っていたが、逃げる逃げない以前にやる気になっている。
一対一ならどうなったかわからないが、少なくとも二体でなら俺を倒せるとでも思っているんだろう。
唸り声を上げながら、二体揃ってこちらに近づいて来ている。
「まぁ……負けはしないけどね!」
二体を同時に相手取らなければどうとでもなるはずだ。
俺は持って来ていたサルの死体を邪魔にならない場所に放り投げると、【琥珀の剣】を発動して【猿の腕】で掴んだ。
【琥珀の剣】の痛みがどれくらい通用するかはわからないが、牽制くらいは出来るだろう。
「準備は出来たけど……かかってこないね。やる気になってるし、今の隙に襲ってくると思ったんだけどな……」
強力な魔物二体が相手だし、自分から突っ込んで行くよりも先に相手に動いてもらってから、カウンターでダメージを与えていく方が安全なんだが……突っ込んでこないか。
「やる気になっている割に慎重だね……。一応それなりにオレのことを警戒してくれてるのかな? それなら向こうが片付くまで時間を……んなっ!?」
そろそろジグハルトも合流しているんじゃないかなと、オオカミたちへの警戒を緩めずに北に視線を向けたところ、強い光と続いて小さな爆発音が辺りに響いた。
「始まったのか……おわっ!?」
今の魔法が合図になったのか、オオカミが二体揃って飛びかかって来た。
たとえ攻撃をかわし切れずに【風の衣】が破られたところで、【琥珀の盾】があるし一体ずつなら問題無いんだが、二体同時はちょっと不味い!
俺は慌てて真上に回避した。
オオカミたちの攻撃が届かない高さまで来たところで「ふぅ……」と大きく息を吐く。
「今のはちょっと危なかったかもね……。このレベルの魔物の攻撃を同じタイミングで受け続けたら、流石に間に合わなくなりそうだ」
【風の衣】も【琥珀の盾】もどちらも再発動はすぐに出来るんだが、だからと言って攻撃を受け続けていたら、どこかで間に合わなくなりかねない。
「カウンターを仕掛けるタイミングは無くなっちゃうけど、上に躱すのが正解だよね? ……君たちは隠れていてよ?」
地上のオオカミたちを眺めていると、服の裾からヘビたちが頭を出していたので、隠れるようにと指示を出す。
ヘビたちの攻撃力はともかく、防御力や耐久力がどれくらいなのか全くわからない。
攻撃面でのサポートはありがたいが、反撃を食らう可能性があるし、今回は隠れたままでいて貰わないとな。
「しっかし……どうしたもんかね。地上に降りて二体を相手にするのはちょっと危険すぎるし、かと言って……っ!?」
このまま上空で滞空し続けていても、ボス格二体を引き留められるとは思えないし……と言おうとしたんだが、正にそのタイミングで一体が北側に走り出そうとした。
「ふらっしゅ!」
とにかく足を止めないと……と、鼻先目がけて魔法を放つ。
狙い通り突然の強力な閃光に目を眩ませて、悲鳴を上げながら地面を転がるオオカミ。
隙だらけだし、仕掛けるなら今なんだが……。
「あぁっ……! 無駄撃ちしちゃったなぁ!」
ぼやきながらも地面に転がるオオカミ目がけて突進をする。
だが、その蹴りが直撃する直前に、もう一体が横から蹴りを阻止するために襲い掛かって来た。
「おっとぉっ!? わかってたよ!」
俺は叫びながら上に逃れる。
来るだろうなとは予測していたから慌てることなく躱すことが出来たが、お陰で攻撃は不発に終わってしまった。
目潰しを食らった方はまだ苦しんでいるし、視界が戻っていないはずだが……もう一体がいるせいで狙うことが出来ない。
このまま回復されてしまうだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます