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「よいしょっ!」
目の前に生えている木を蹴り砕きながら、一の森に飛び込んだ。
潜んでいるかもしれない魔物を探すのなら逃げられてしまうかもしれないし、こんなバキバキベキベキ音を立てるべきではないんだが、とにかく手っ取り早く魔物を動かすためにも、ここは遠慮なく大音声を響かせながら、浅瀬を高速で飛び回る。
そして、木を折り森の中を飛び回りながらも、周囲の索敵は切らしていない。
ちゃんと森の浅瀬にまだ魔物が止まっていることも捉えている。
てっきりあの魔物の一団は全部森の外に出ていると思っていたが、意外とまだ浅瀬に少し入った場所に止まっている集団が残っていた。
だが、アレはただ単に飛び出るタイミングを逃して、あそこで機を窺っているだけの集団に過ぎない。
もちろん放置していいものではないが、アイツらは今俺が探している相手じゃないし、残って戦っている兵たちには申し訳ないが、ここは放置させてもらおう。
「種類まではわからないけど、強さは大したことないし……多分小型の魔獣とか妖魔種だよね。外の魔物と同じような構成だね」
浅瀬の魔物たちから、再び森の索敵のために視線を戻そうとしたが、魔物たちの奥の一体が森の北に向かって少しずつ移動するような、妙な動きをしたような気がした。
こいつらは元々もう少し森の奥……東側にいた魔物たちだし、逃げるとしたらそっちで北側じゃないはずだ。
その一体以外にも、何体かは俺のことを警戒しているのかこちらを向いているが、それ以外は森の外を見ているしその場から動こうともしていないのに……。
【浮き玉】を停止させると、一旦その場で魔物たちの様子を探っていたんだが。
「んっ!?」
北に向かって少しずつ移動していた魔物が一気に走り出した。
「こいつか!?」
これだけ派手に俺の存在をアピールしてるんだし、気付いていないってことは無いだろう。
俺から逃げようとしているのかな?
「……とりあえず確認だな」
逃げた魔物を追って、俺も北に向かうことにした。
◇
北に向かって逃げている魔物は、俺が追っていることに気付いたようでドンドンと速度を上げている。
もちろん、俺の方が速いし引き離されるようなことはないんだが、思ったよりも距離が縮まらないでいた。
一先ず目的だった怪しい魔物を炙り出すことは出来たし、これ以上騒いで他の魔物を刺激したくないから、木を折ったりせずに躱しながら進んでいるが、それでも結構な速度で移動している。
にもかかわらず、中々追いつけないのはどうも魔物が一直線に移動しているっぽいからなんだよな。
「すぐに追いつけると思ったんだけどな……もしかして木の上を移動してる?」
それなら森の中を一直線に、かつ高速で移動出来ているのも納得出来る。
「サルか何かかな? まぁ……それならそれで……!」
【浮き玉】を上昇させて森の上空に出ると、さらに加速させた。
「一気に追いついてやる!」
間に余計な物が存在しない上空は何の心配もなく速度を出せて、あっという間に逃走中の魔物を真下に捉えることが出来た。
「枝が邪魔で姿は見えないけど……枝の上を走ったり、枝を掴んで飛んだりしているね。やっぱりサルの類か」
体のサイズはゴブリンよりもちょっと大きいくらいで、強さも少し上ってところか。
群れで行動するか単独で行動するかの差かな?
「まぁ……いいや。さっさと仕留めよう。……このまま真下に突っ込めたらいいんだけどね」
枝が邪魔で上空から急降下で仕掛けるのは難しい。
仕方なくサルと速度を合わせたまま徐々に高度を下ろしていった。
◇
木の上から下りるなり、サルが飛びかかって来た。
俺が追いついて真上まで来ていたことに気付いていたようで、上手いタイミングで不意打ちを仕掛けてきた。
【風の衣】も【琥珀の盾】も発動しているから、当然ダメージなんて無いんだが、「おっとぉっ!?」と悲鳴を上げてしまった。
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木の上から現れた俺に飛びかかって来たサルは、【風の衣】に上半身を仰け反るような形で弾かれていき、そのまま背中から落下するように見えたんだが。
「いけるか……っ!? あぁ……無理か」
サルは不安定な空中ながら手足を上手く使って反転すると、しっかりと着地を決めていた。
そして、真上に浮いている俺を睨んでくる。
怪我……とまでは言わないが、せめて体勢を崩すくらいしてくれたのならその隙を狙えたんだが……隙が無いのなら仕方が無い。
「仕方ない……ふらっしゅ!」
無理矢理隙を作ってしまおうと魔法をサルの眼前に向けて放った。
魔法が直撃したサルは、顔を押さえながら苦しげな声を上げている。
「こんなところか。それじゃーさっさと決めようか……」
もう少し余裕のある状況ならコイツの生態を調べたり、どこに逃げようとしていたのか探ったりしたかったんだが、残念ながら今はそんな状況ではない。
「ってことで……」
俺はサルの背後に回り込むと、【影の剣】を振りかぶりながら伸ばして、首に叩きつけようとしたが。
「んなっ!?」
サルは横に飛び退いたかと思うと、すぐ側の木に登り始めた。
視力はちゃんと奪ったはずだが、そんなことお構いなしに枝を伝って森の奥へ凄い勢いで逃げていく。
俺は呆気にとられながら、小さくなっていくその姿を眺めていた。
「まぁ……人間も目が見えなくても歩いたり走ったりは出来るしね。普段からあんな風に移動しているのなら、目が見えなくなっても出来るのかな……?」
サルが逃げて行ったのは、今まで向かっていた北側ではなくて東側だ。
何か意味があるのかと一瞬考えてしまったが、上空を移動していた時に見た限り変わった物は目に入らなかった。
北側はもちろん、逃げた先に何かがあるって感じじゃないし、単純にパニックになって咄嗟に向かった方向が東だったってところかな?
もう少し強力な魔物だったり、群れで動くような種族だったのなら、俺を釣り出すための動きって考えも出来るが、多分コイツは違うだろう。
「逃げっぷりには驚いたけど……あんまり深読みし過ぎても何も出来ないしね。……行くか」
森の上に出ると、森の奥に向かって逃げ出したサルを追って、再び【浮き玉】を加速させた。
◇
「追いついた。やっぱりさっきに比べると速度はずっと遅いね」
追跡を再開すると、今度はすぐに追いつくことが出来た。
そろそろ視力が戻ってもおかしくないし、そうしたらまた速度はあがるかもしれない。
そうなる前に決めないとな!
先程の失敗は、相手が俺の存在に気付いているにもかかわらず、呑気に目の前に姿を晒してしまったことだ。
急いでいたこともあるが、勝てる相手だからと気を抜いた真似をしてしまった。
「さっきはすぐに降りて行ったのが駄目だったね。今度は……こうだ!」
逃げるサルの速度に合わせて真上に移動すると、真下を薙ぎ払うように尻尾を振り回した。
一振り二振りする度にサルの動きは鈍くなっていき、三振り目で尻尾にサルが直撃した感触と、払い飛ばした感触が伝わって来た。
「……当たったっ!? アレか!!」
吹き飛んで宙に浮いているサルを見つけた俺は、ソレに向かって突っ込んでいく。
「はっ!」
まずは左足で蹴りを一発。
「耐えた!? やっぱりゴブリンよりは上か」
空中での無防備な状態に【緋蜂の針】の一発を叩きこんだんだが、苦しみながらも今にも噛みつきそうな顔で俺を睨んできている。
こいつを地面に落としたらまたさっきの繰り返しになりそうだ。
こんな状態の魔物にあまりくっつきたくは無いんだが……。
「よいしょ!」
こちらを睨むサルの足に尻尾を巻き付けると、こちらに向かってひっかくように腕を動かしているサルに斬りかかった。
まずはこちらに伸ばした腕をスパンッと斬り落とし、続いて胴体を真っ二つに。
「ふっ!」
さらに、落下していく上半身に追いつくと、右手を首目がけて一直線に振り抜いた。
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