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「よし……後は!」


 オオカミを倒した俺は、先程までのように足止めを食らっている魔物の中から次の相手を選んだりはせずに、上昇しながらその場を離れることにした。


 こちら側の魔物たちは、まだ完全に混乱から立ち直ったってわけじゃないだろうが、どうやら俺の奇襲を警戒しだしたらしい。


 別にそれならそれで普通に戦っていくだけなんだが、いざ警戒されだすと、このレベルの魔物になってくると一撃で……とはなかなかいかない。


 俺一人で全部倒すことは不可能ではないが、時間がかかり過ぎる。


 ここを抜けるのはまだもう少し時間がかかりそうだし、こっちの魔物と戦うことにこだわる必要は無いだろう。


 ってことで、俺は足場に苦しむ魔物たちを他所に、その頭上を飛び越えて行った。


 ◇


「さて……と、どっちに行くか……」


 荒れた箇所を越えて街道の先の草原地帯の上空に戻って来た。


 こちらでは、ジグハルトが二体のボスを相手にして、残りの魔物を兵たちが相手しているって状況だ。


 ジグハルトの方は……相変わらず睨めっこだな。


 地面に何ヵ所か魔法が着弾して出来た穴があるし、倒すことよりも足止めすることを優先しているみたいだ。


 このままで安定しているし、今は俺がこっちに参加する必要は無いだろう。


 んで、ジグハルトの北側では、兵たちが魔物の群れを相手に戦っていた。


 ただ、混戦になっていて正確な数はここからだとわからないが、戦っている兵の数が減っている気がする。


 地面に転がっている魔物の死体の数を考えたら、それなりに善戦しているようだが、魔物たちに周囲を囲まれてどうにもよくないように見える。


 俺が一の森に入る前とは状況が逆だ。


 所々地面に焦げた跡があるし、アレはジグハルトの魔法の跡だよな?


 向こうでボス二体を抑えている状況でありながら、こっちに介入する必要があったってことか。


「それだけ手が足りてないってことだよね……おや? アレかな?」


 人手が足りていない状況で隊を分ける意味は無いよな……?


 地上の戦闘に参加する前に改めて周囲の様子を探ってみると、北の森のすぐ側に集まっている五人ほどの兵たちを発見した。


 丁度あの位置は俺が整地した場所だな。


 魔物の群れの裏を取ったり側面を突いたりするのならともかく、あそこまで下がるってことは補給か治療か……


「お?」


 俺の視線に気付いたのか、ジグハルトが北に向かって腕を向けた。


 向こうの援護を頼むってことかな。


 俺はジグハルトに向かって「了解」と頷くと、北で戦っている兵たちの下に急いだ。


 ◇


「ほっ!」


 北の兵たちの上空にやってきた俺は、地上に降りる前にまずは【祈り】を発動した。


 地上の兵たちは、自分の体が薄っすらと光ったことで最初は戸惑っているような素振りを見せたが、周りの兵もそうなっていることに気付いて、俺がやって来たとわかったんだろう。


 そして、彼等は【祈り】の効果は何度も受けてきただけあって、よくわかっている。


 これまでは、魔物に周囲を囲まれていて防戦一方だったが、攻撃を凌ぎきると一気に打って出た。


 俺もそれに合わせて地上に下りて、戦闘に参加する。


「ほっ!」


 左足を前に突き出す、いつもの突撃スタイルで魔物の塊に突っ込んでいくと、分断したり適当に吹き飛ばしたり……ドンドン群れの形を崩していく。


 止めは俺が刺す必要は無いし、とにかくこいつらを群れとして機能させないようにすることを優先して、ひたすら混乱させるように動き続けていると。


「副長! もういい、半分を切った。向こうにまだいるんだろう? その前に下がったアイツら頼む!」


 と、兵の一人が言ってきた。


 その言葉に俺は一旦動きを止めて周囲を見渡した。


 彼が言うように、もう魔物の数は大分減らせていて、動ける戦力の数は先程とは逆転できていた。


 ダメージを負って地面に倒れているだけってのもいるが、これならもう大丈夫だろう。


「まだ息が残ってるのもいるから気を付けて!」


 それだけ言うと、後退した兵たちの下に飛んで行く。


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 さて、戦闘が行われていた草原地帯から離れて、北の森のすぐ手前に下がっている兵たちの下にやって来た。


 詳細を聞く余裕がなかったため何となくでしかわからなかったが、彼等は戦闘で負傷したためこちらまで下がって治療を行っているようだ。


 数は五人で、見た感じ……ポーションを使用してはいるが重傷者はいないか?


 とりあえず。


「大丈夫?」


 俺は近付いて行くと、【祈り】を発動しながら声をかけた。


 鎧を外して、ついでに上着も脱いで上半身裸になっているのが四人で、無傷の一人がその彼らの治療を行っている。


 その無傷の一人が「助かる」と返してきた。


 何本も空瓶が転がっているし、結構消費したみたいだな……。


 先にこっちに来といた方がよかったかな?


「見た感じ重傷っぽくはないけど、ひどいの?」


 治療を受けている他の四人は……地面に座り込んではいるが横になっているわけじゃないし、血まみれだとかそんな感じでもない。


 かと言って、すでに四人の治療が完了したとも思えないし、いまいち状況がつかめないな。


 打撲とかだったのかな?


「ひどい……とまではいかないが、森からデカいオオカミが飛び出て来ただろう?」


「うん。群れのボスの一体だね。そいつにやられたの? ……そんな風には見えないけど」


 あのオオカミを直接見たわけじゃないが、俺が倒したのとほぼ同じサイズだったし、もしソイツにやられたんだとしたら、この程度だとは思えない。


 俺の言葉に、治療役の彼は新しいポーションを開けながら頷いた。


「ソイツのせいでこうなったのは間違いないんだがな……。森から飛び出て来たかと思うと、俺たちの周りを走り回って、進路の間に入っていた者を弾き飛ばしていったんだ。ほとんどは躱せたんだが、コイツらは他の魔物と丁度ぶつかり合っていたタイミングだったからな……運が悪かった」


「なるほどねー……仕留めるんじゃなくて、引っ掻き回す方を選んだのか……」


 いくらあのレベルの魔物でも、相手をするウチの兵だって中々良い腕をしているし、まともに戦うのならどうしても動きが止まったりする。


 そして、その隙をジグハルトや他の者が仕留めていくんだが、あのボスはそれがわかったんだろう。


 中を走り回るだけなら動きを止められることはないし、巻き込むのを避けるために魔法なんかも飛んでこない。


 ついでに、運の悪い者に体当たりでダメージを与えることも可能……と。


 改めて座り込んでいる兵たちを見ると、腰や背中に紫色の痣が出来ている。


 俺がここに来る前から治療を受けていてこれってことは、もっとひどかったんだろう。


 打撲どころか骨折とかだったのかもしれないな。


 それならまともに戦えないだろうし、さっさと治療に下がるのも納得だ。


 それにしても、あのオオカミ……逃げ出さずに森の外に突っ込んでいくことを選んだくらいだし、あんまり知恵が回るタイプじゃないのかと思ったんだが、意外とそんなことはなかったみたいだな。


「ちゃんと考える頭を持っているのか……面倒だね。あ、ポーションいる? 結構いい物だよ?」


 彼らがどのくらいの量を持って来ているのかはわからないが、俺が持っている分を使ってもらう方が良いだろう。


 ポーチから取り出して差し出すと、彼はすぐに受け取った。


「悪いな。まだ余裕はあるが……他に治療が必要な奴が出るかもしれないから、ありがたく使わせてもらう。……ただ、アンタはいいのか?」


 受け取った彼は早速蓋を開けながらも、不安そうな表情で自分の分は大丈夫なのかと訊ねてきた。


「大丈夫大丈夫。オレが傷を負うことなんて滅多にないしね。それに、いざとなれば拠点に取りに行けるから、遠慮せずに使ってよ」


 そう言うと、彼は「そうか」と頷いた。


 まぁ……拠点と言ったが、いざとなればまだまだ【隠れ家】に店を開けるくらい保管しているんだ。


 この場で全部使っちゃっても問題無いだろう。

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