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森の外に向かうボスを追うのではなくて、先に全体の数を減らすことを選んだ俺は、兵が移動して手薄になっている南側にいる魔物の下に向かった。
倒しやすさだけを考えたなら、魔物たちの背後に回って最後尾から順次撃破ってのが一番なんだが、今回は全体の真ん中あたりから群れを分断する形で斬りこんだ。
群れの中の小さなグループを、適当に蹴散らしていく。
「ふぅ……とりあえずこの辺にいたのは始末したね。後は……前の方の数体か。大分逃げられちゃったね……」
始末した魔物の死体を前に一息つくと、一の森の奥へと引き返していく魔物たちの姿が目に入った。
初めに接触したグループと戦っている時は、まだ後続も前進を続けていたが、俺がいくつかのグループと戦っている間に、どこかに行ってしまっていた。
ボスの動きに合わせて突っ込んで来ていたんだろうけれど、俺を見て退いた方が良いと判断したんだろう。
俺が倒したボスも一緒だったら、もっと全体を統率できていたのかもしれないが、先頭とこれだけ距離が出来ていたら……ましてやちゃんとした群れじゃないみたいだし、そりゃ緩みもするよな。
時折足を止めてこちらの様子を窺うような仕草もしているが、決して速いわけではないものの、すぐに奥に走り出すし、再度戻ってくる可能性は低そうだな。
「出来れば全部仕留めておきたかったんだけどね……。まぁ、数も減らせたしこれで十分かな? 討ち漏らしは……うわっ!?」
まだ息がある魔物は残っていないか確認していると、森の外から爆発音が響いて来た。
慌ててそちらを振り向くと、何やら煙が上がっているし……森から出てきた魔物相手にジグハルトが魔法でも放ったんだろう。
「距離があり過ぎてここからじゃわからないか……。でも、今ので完全に魔物たちは奥に逃げていったね」
今の魔法の音か衝撃か……何が決め手になったかはわからないが、奥の方に下がって行っていた魔物たちは、もう足を止めたり振り向いたりせず、ひたすら奥に向かって走っている。
アレはもう戻って来ることは無いだろうな。
「よし……討ち漏らしもいないし、オレも向こうに急ごう!」
討ち漏らしがいないことを確認した俺は、再びボスを追って森の外に【浮き玉】を加速させた。
◇
「……魔法はあの一発だけか。何に向けて撃ったんだろう?」
森の外が近づくにつれて、魔物と戦っている兵たちの喚声が聞こえてくるが、魔法を使った気配は見えてこない。
「ボスの気配は……二つとも残ってるし、ジグさんも近くにいるよね? 混戦にでもなってるのかな?」
森の奥から一斉に外に向かっていた魔物のうち、俺が相手をしていたのは南側の群れだけだ。
それでも、三分の一くらいまでには減らせたはずだし、十分過ぎるとは思っているが……北側の魔物は離脱したグループがいくつかはいたものの、大半はそのまま森の外に出てしまっている。
間に合わないものは間に合わないし、全体の半分近くは減らすことが出来たから、俺が気にすることではないんだが……兵たちは結構な数の魔物と戦うことになっているはずだ。
「そろそろだね。……上に出るか!」
森の外が見えたところで、俺は前進しながら高度を上げていく。
「……おぉぅ」
森の上に出た俺は、視界に飛び込んできた光景を見て思わず呻いてしまった。
街道と一の森との間に広がる草原部分が、広範囲に渡ってひっくり返されている。
地面が凸凹に荒れていて、今はまだああなったばかりだから大したことないが、そのうち雨水が溜まっていってぬかるんでいくだろう。
んで、そこを突破した魔物もいるが、一気に駆け抜けることに失敗して足を止めてしまったんだろうな。
上からだと随分とモタモタと歩いているように見える。
魔物の数は多いが、分断と足止めも出来ているし、兵たちでも十分対処出来るだろう。
「……それじゃー、オレもこっちの数を減らす方から手伝っていこうかね」
【影の剣】を発動すると、足止めを食っている魔物目がけて降下していった。
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森から出てすぐの場所は、ジグハルトの魔法で地面が抉れたり隆起したりで荒れ果ていて、足場と視界が悪くなっている。
森から出て視界が開けて早々にそんな状況になった魔物たちは……まぁ、混乱するよな。
そんな状況をどうにかするのがボスの役目なんだろうが、肝心のそいつらはジグハルトが抑え込んでいて、手前に取り残されている魔物たちを援護する余裕なんて無さそうだ。
そこを突破出来た魔物たちは、ジグハルトより北側で兵たちと戦っているが、上手く兵たちが戦えている。
足止めされているグループが突破して、合流したらどうなるかわからないが、差し当たって問題無いだろう。
そして。
「ほっ!」
俺は地面が抉れて出来た穴を前に、その場で足踏みをしていた魔物の背中に向かって突っ込んでいくと、すれ違いざまに首を刎ねた。
【緋蜂の針】を盾に突っ込んでいくのが俺の普段の戦い方だが、こちらの魔物はまだまだ混乱しているし、混乱に乗じて【影の剣】を使った奇襲で仕留めていく方法が効果的なようだ。
指揮官役がいない状況でそれぞれの魔物がバラバラに動いているし、何かがいるくらいはわかっていても、俺の存在は共有出来ていないんだろうな。
そのお陰で、いいペースで数を減らしていけている。
「どれくらいで対処するようになるかはわからないけど……通用するうちはコレでいいね!」
俺が全部をやる必要は無いだろうが、とりあえず減らせるだけ減らしてしまおう。
俺は別の獲物を見つけると、また背後に回り込んで行った。
◇
「はっ! ……っと!?」
オオカミの背後から首を狙って【影の剣】を突き出したが、刃が刺さる直前で横っ飛びで躱されたかと思うと、俺めがけて飛びかかって来た。
もっとも、【風の衣】が弾いてくれて、その攻撃は俺に届くことはなかったんだが……空中で急に弾き飛ばされたのに、オオカミは動じた様子を見せていない。
俺は「ふぅ……」と一息吐くと、オオカミから目を離さずに距離をとっていく。
何度も成功していた背後からの奇襲だったが、遂に対処されるようになってしまったか。
「まぁ……そろそろかなとは思っていたけど、大分動きを読まれていたね」
オオカミを視界に入れながら、周囲の様子を探ってみたが……どこかで俺の動きを監視している魔物がいるなんてことはなかった。
以前北の森で魔物の群れと戦った時は、コウモリの魔物が情報の伝達役を担っていたし、今回もそんなのがいるのかな……と思ったんだが、単純に目の前のオオカミの実力だったか。
ってことは……。
「そろそろ混乱が収まって来たってことかな? コイツが特別強いって感じじゃないし、他の魔物も同じくらいのことは出来そうだね。半分くらいは減らすことが出来たけど……一々真面目に戦うのも大変だし……おっと!?」
オオカミから視線を外してはいなかったんだが、ジグハルトや兵たちの戦況を探ろうと、向こうに意識を向けた瞬間にオオカミが飛びかかって来た。
何の工夫もないただの突進だったから、【風の衣】で弾くことが出来た……が、そのうちこれも対処されるようになりかねない。
そうなる前に……っ!?
オオカミは突如遠吠えを上げるような仕草を見せた。
「はっ!」
俺は【浮き玉】を高速で回転させながらオオカミの頭部目がけて尻尾をフルスイングすると、当たるのを確認せずに一気に距離を詰めていく。
「外した!? でもっ……たぁっ!!」
オオカミは後ろに飛び退り尻尾の一撃を躱したが、一先ず遠吠えを阻止することは出来た。
ついでに、動きを一度止めることもだ!
俺はオオカミに向かって左足を突き出すと、そのまま突っ込んでいく。
尻尾との連続攻撃ではあるが、それでも正面からだしこれも躱されてしまった。
だが、すれ違いざまに尻尾を【猿の腕】で掴むと、そこを起点に反転して右腕を突き出した。
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