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森を出た俺は、ジグハルトの下に飛んで行く。
離れた位置からだと魔力を広げているだけにしか見えなかったんだが、ジグハルトに近付くにつれて、円状に広げているんじゃなくて、一の森の方に延ばしているのがわかった。
一の森の浅瀬に止まっている魔物を足止めするのにも、その方が都合がいいんだろうが……器用だな。
背後から数メートルの距離まで近づいた俺は、その場で一旦停止すると、腕を組み仁王立ちしたまま森を睨んでいるジグハルトに向かって声をかけた。
「ジグさん」
「おう。森にいる連中の手伝いをしてくれたらしいな」
魔力は一の森の方に延びていて北の森までは範囲に入っていなかったんだが、ちゃんと把握出来ていたのか。
「……よくわかったね」
前を向いたままのジグハルトに感心しながらそう言うと、「音でわかった」と笑った。
そんなにうるさかったかな……と思ったが、よくよく考えると、結構木の枝を折りまくっていた。
木を蹴り折るよりは小さいだろうが、それでも雨音しかしない中だと響いたんだろう。
「どれだけ倒した?」
「十体くらいかな? 全部は無理だけど、進路上にいたのは皆と連携して仕留めて来たよ。まだ森には残ってそうだけど、俺の方の隊員も後から来るだろうし、そっちの心配はいらないよ」
「上等だ。こっちの状況を話すぞ?」
ジグハルトは俺の簡単な説明に頷くと、組んでいた腕を解いて森の方を指した。
「ここからは見えないが、奥にいるのはオオカミの魔獣だ。恐らく、お前が宿舎で話していた様子を窺っていた魔物の一体だろうな」
「オオカミね。一体だけか……?」
オオカミと言ったら群れで行動するのがほとんどだ。
俺が気付いた時も一体だけだったし、群れからはぐれた個体なのかな?
それにしては結構強かった気がするんだが……と首を傾げていると、俺の呟きが聞こえたのか補足をしてきた。
「浅瀬まで下りて来ているのはな。だが……奥にまだいるはずだ。森から出てきたら倒すのは簡単なんだが……向こうもそれがわかっているのか出てくる気配がない」
斥候なのかボスなのかはわからないが、群れに所属していてもある程度単独行動が出来る力があるってことだな。
「それは面倒だね……どうしよう? とりあえず倒すんならオレが突っ込んで来るけど……」
そう言いながらジグハルトの前に出ると、「まだだ」と待ったをかけられた。
「お前が後れを取ることはないだろうし、アレが一体だけならそれでも問題ないんだがな……。奥にいる群れの全体を把握出来るまではこのままだ」
「ここで片付けておきたいんだね?」
「ああ。セラ、わざわざ来てもらったの悪いが、もう一度向こうの連中の手伝いに行ってもらえるか? お前が来たことで向こうに動きが出ないかとも思ったんだが……」
俺からは確認出来ないが、向こうからは俺が新たに加わったのが見えているだろう。
それでも、下手に動いたりせずに睨めっこを続けている。
「本当に我慢強いね。了解だよ。向こうの森の境に草を薙ぎ払って足場がいい場所を作ってるから。もし下がる時はそこを使って」
「ああ、悪いな」
俺はジグハルトに「うん」と返事をすると、さっき来たルートを再び戻っていった。
◇
森の中の兵たちは、先程はまだ一人一人距離をとるような布陣だったんだが、今は一ヵ所に固まって話をしている。
浅瀬にいた魔物は粗方片付けたし、それに加えて、新たに俺の方の班員四人も合流していたから情報の共有でもしているんだろう。
「副長!?」
「外で何かあったのか……?」
俺に気付いた兵たちが、口々にそう訊ねてきた。
ジグハルトの援護に向かったのに、戦闘も無しに俺だけまた戻って来たから不思議に思っているんだろう。
彼らも話し合うことはあるだろうが、一先ずこちらの状況説明を優先させてもらおう。
「話すから皆こっち来て」
俺は皆を集めると、話を始めた。
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「そんなところだね。んじゃ……森の中を見て回るけど、どうやって片付けるの? 何か考えてた?」
ジグハルトの状況と、森に戻って来た理由を話し終えた俺は、彼らがどうするのかを訊ねた。
すると、何とも言えない表情になった。
「何? 揉めでもしたの?」
今の所属こそ違うが、それでも大半が元冒険者だし、この状況で揉めるようなことはないはずなんだが……と不思議に思っていると、一人が「そうじゃない」と話し始めた。
「俺たち側は魔法を使える者が少ないからな。目の前にいる魔物を倒すのならともかく、身を隠している魔物を追うとなると……難しいだろう?」
「まぁ……浅瀬ならともかく、奥の方までいくんならそうなるね」
たとえ魔境の魔物であっても、小型の妖魔種なら多少の不利でもひっくり返すことは可能なはずだ。
だが、森の奥に入っていくとここ最近戻ってきている魔物たちもいるし、不意打ちが重なるとどうなるかはわからない。
魔法が使える中距離での牽制役は必要になるだろうな。
「多少数が不利になる可能性があったとしてもいくつかの班に分けるか、全員で纏まって移動するかで意見が割れていたんだ」
「なるほどねー……」
効率を優先するか、時間はかかったとしても安全を優先するか、難しいところだな。
とは言え、ジグハルトが森の外にいる状況で、時間をかけすぎるのは避けたいし……。
「わかった。魔法が使える人をメインに、班を分けていこう」
「分散して捜索をするのか?」
「うん。でも、オレを中心に移動しよう。それならすぐにオレが援護に入れるから」
俺を中心に、各班が放射状に広がって捜索するんだったら、とりあえずの懸念点はクリア出来るはずだ。
俺を呼ぶのにデカい声を出す必要があるから、元からこの森にいる魔物たちも刺激しかねないが……この人数で行動するんだし、そんな心配は今更だな。
「そうか……わかった」
彼らも俺の案に文句は無いらしく、「おい」と一声呼びかけると、それぞれ勝手に班を組み始めた。
「副長、いいか?」
「うん? 何かな?」
彼らは、時折俺の恩恵品やヘビたちの能力を訊ねてきたが、教えるとすぐに編成を終えた。
短いやり取りで情報を共有しているし、こういうのは慣れているんだろうと、感心しそうになったが……それにしては、さっきは俺が来るまでもたついていたし、なんだったんだろうな?
片付いたら聞いてみようかな?
◇
「いた! そこの岩の裏に三体……だけど、魔境じゃなくてここら辺の魔物だよ!」
森の中を移動しながら魔物を発見すると、まずは俺が魔物がいる方角に向かって魔法を放つ。
近くにいる班がすぐにそちらに向かうが、三人と四人の少数編成のためだからか、魔物も飛び出して襲い掛かってくる。
まぁ……結果は、突っ込んできたところを魔法で止められて、その隙に回り込んだ兵たちが剣を突き刺していく。
簡単に返り討ちだ。
「仕留めたみたいだな」
「……そうだね。こっちの被害は無しだし、いいペースだね」
いつの間にやら近くにやって来ていた他の班が戦闘が終了した様子を眺めながら、話しかけてきた。
ちなみにこの班は、今の班の前に俺が発見した魔物を倒したばかりだ。
その報告がてらにこちらに来ていたんだろう。
「もう大分片付けれたと思うが……どうする?」
「この辺りの魔物は確かに減らせているが、魔境の魔物はまだ一組だけだろう? 正確な数は無理だが、それでも二十体はいたんじゃないか?」
先程から、大体こんな感じで何度か魔物を倒しているんだが、彼らが話しているように、遭遇したのはほとんどこの森の魔物なんだよな。
「順調なのかそうじゃないのかわからないよね……ちょっと森の上に上がって来るよ」
一旦森の上空に出て、今いる位置や近くに何かいないかを確認することにした。
「悪いな。この場は俺たちが守っておくから、気にせず行ってくれ」
俺は彼らに「うん」と返事をすると、周囲の様子を探りながら森の上まで上昇した。
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