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1602


「ふーぬぬぬ……? これは結構奥まで来ちゃってるね……。もう少し手前だと思ってたんだけど、魔物に突っ込ませるたびに少しずつ陣形が間延びしては、それを修正して……って繰り返してたからかな? 元の形が大分崩れてたもんね……」


 元々は綺麗な陣形を保って、森の中を捜索するつもりだったんだが、まぁ……無理だよな?


 俺が発見しては突っ込ませて、戦闘を終えたら報告にやって来て……なんてことを移動しながら行っていたしな。


 むしろ、見通しの悪い森の中にいるにも拘らず、ちゃんと陣形が機能している方が凄いって思うべきなのかな?


「原因はわかったし、下に戻ったら修正すれば大丈夫かな。それよりも、北の拠点のほとんど真南まで来ていたのか。それならアレクたちが見ている場所も近いのかもしれないね……」


 改めて下の森の様子を眺めてみた。


 チラホラ魔物の姿は確認出来るが、大した強さは感じないし、どいつもこの森の魔物だろう。


 一応各班それぞれが魔物の痕跡を追っていたから、全く見当外れな場所に来ているなんてことはないはずなんだが……こっちに逃げてきた魔境の魔物はこの辺にはいないのかもしれない。


 そうなると、向こうに魔物が抜けていったかな?


 俺の方も合流した今、人数はこっちの方が上だし……その可能性の方が高そうだな。


 さて、どうしたもんか。


 上空でクルクルと周囲を見渡しながらそう考えていると。


「副長! 何か見つかったか?」


 何か発見したとでも思ったのか、下から声がかかった。


「一旦下りるか。今行くよー!」


 俺はそう返しながら地上に下りていった。


 ◇


 地上に下りてきた俺は、一旦皆を集めると上空から見て来たことを伝えた。


「陣形がズレていたか……まあ、倒すたびに副長に報告に来ていたしな。移動しながらだし同じ位置に戻るのは難しいか」


「目的である広範囲の捜索は出来ているんだし、形にはそこまでこだわらなくていいんじゃないか? 見落としは……無いよな?」


「姫さんが広く見渡して、俺たちが直接踏み入って調べているんだ。わざわざ倒すまでもない小動物なんかは相手しなかったが……少なくとも確認出来るサイズの生き物は見落としていないだろう」


「そうだな。魔物が出入り出来るような穴も無かったし、問題は無い」


 主に発言しているのは各班の纏め役っぽい兵だが、他の者たちも同意見らしい。


 もちろん、俺もだ。


「そうだね。オレも普段よりも速度を落としてしっかり調べてたから、見落としは無いはずだよ。んで、そうなるとこの辺にはもういなくなってる可能性が高いんだよね。……ちゃんと痕跡は追えてたんだよね?」


 俺がそう訊ねると、一人が頷いた。


「ああ。雨で前日までの魔物の移動跡は流れてしまっていたが、今日の……それもさほど時間が経っていない物を見落とすなんてことはないからな。追えてはいるんだが……」


 彼はそう言うと森の奥に視線を向けた。


 それに釣られるように、他の兵たちも森の奥を見る。


「……奥に流れる川までは遮るような物は無しか。戻ってきているとはいえ、この辺りの魔物はまだまだ数は少ないし、どこまで行ったかわからないな」


 地形だけなら彼が言う通りなんだが、今のこの北の森にはちょっとした障害物が存在する。


「うん。もう少し南にはカエルもどきがいるはずだし、多分そっちにはいかないと思うから、アレクたちがいる辺りに行ってるんじゃないかなって思うんだけど……」


 強さだけならアレクたちの方がずっと上なんだが、一日程度とはいえ、格上の魔物が側にいるとなればそっちには行かないような気がするし、行くなら……真っ直ぐ突き進むよな?


「アレクたちなら、小型の妖魔種十体程度なら後れを取るとは思えないし、任せて大丈夫とは思うんだけど、念のため報告はしておきたいよね。オレが行くのが一番手っ取り早いとは思うんだけど……」


 今の俺はこの集団の纏め役だし、街道でジグハルトを待たせている。


 先程のように、合流を前提に俺だけ先行した時とはちょっと事情が違うし、ここは残った方がいいよな?


1603


 アレクたちの方に伝令を送るか、そのままにするか。


 普段だったら、俺が直接出向けばすぐに解決することなんだが、今日はちょっと事情が違うしな。


 ってことで、どうしたもんかと悩んでいたが、考えが纏まった。


 顔を上げて「……よし」と呟くと、それまで律儀に黙って待っていた兵たちが話しかけてくる。


「お? 決まったか?」


「一応伝令役だと適任はアンタなんだが……」


 俺は何故か不安そうな顔をしている兵の言葉を遮ると口を開いた。


「わかってる……オレはこのまま皆と行動するから、オレの班の四人で行ってもらえるかな? コッチはもう森では何も起きないと思うけど、向こうはまだわからないしね」


 俺は「いいかな?」と四人に顔を向けると、揃って頷いた。


「向こうに合流したら、後はアレクの指示に従ってもらえるかな? 戦闘になるとしても、あんまり派手なことになるとは思えないけど……それでも、こっちより人手がいるだろうし、多分合流することになるだろうね」


「わかった。ここからだと……副長、方角はわかるか?」


 森の中だしな。


 一旦北の拠点に戻ってからって手もあるが、大体の方角がわかれば真っ直ぐ向かうことも出来るだろう。


 確かめて来るか。


「ちょっと待ってね」


 俺は一言断ってから上昇する。


 森の上空まで出た俺は、一先ずこの場から西側を見ていくが……すぐに一本の煙が上がっているのが目に入った。


「おや? アレは……狼煙じゃないよね? アレクたちかな?」


 呑気に焚火をしているってことは無いだろうけれど、向こうは俺がいないし、集合場所として拠点を作っていておかしくはない。


 この雨の中じゃ自然発火なんてしないだろうし、してもすぐに消えてしまうだろうから、人為的なものに違いは無いだろう。


 とりあえずあそこの位置を覚えておけばよさそうだな。


 後はどこを見ておいたらいいかな……。


 ◇


「ただいま。見て来たよ」


 一しきり上空からアレクたちがいるであろう方向を確認して、今度はその情報を皆に身振りを交えながら説明した。


「距離があるから流石にアレクたちの姿は確認出来なかったんだけど、煙が上っている場所があったから、多分そこを捜索の拠点にしてるんだと思うよ。方向はアッチだね」


「捜索拠点か……それなら向こうも少数に散って行動しているのかもしれないな。わかった」


「それと、その途中にあんまり強く無いけど魔物が何体かいたから気を付けてね。一応……ほっ!」


 四人と、ついでに隊の皆にも効果が出るように【祈り】を発動した。


「おう、悪いな!」


 四人はそう言うと、俺が指した方に向かって走っていった。


 彼らの姿が森の奥に消えて見えなくなったところで、俺は手をパンと叩いた。


「…………よし! それじゃー、俺たちも出発しようか?」


「ああ。戻りは周囲の捜索は必要無いよな?」


「うん。今更何か見つかるとは思わないし、離れた位置にいる魔物も襲ってきたりはしないからね。さっさと走り抜けちゃおう」


「おう。先頭は俺が入るから、アンタは中央を頼む」


 何時でも俺が援護に入れる、よくある隊列の組み方だな。


 俺が「はいはい」と答えると、彼は「行くぞ!」と大声で指示を出して走り出した。


 ◇


 さて、森の外に向かって皆で移動を開始した。


 足場は良くない上に魔物も生息している森だし、本来は気を抜いていい場所じゃないんだが、既に通って来た道を引き返しているだけだし、お喋りする余裕があったりもする。


「そういえばさ、オレが合流する前に何か揉めるというか……もたついてたけど、アレは何が理由だったの? あれ以降は全然そんな素振りは無かったけど……」


 初めは冒険者主体の俺の方の班を組み込んだから、何か方針が違ったりで揉めでもしたんだろうか……と思ったけれど、合流以降は別に上手くやっていた。


 かといって、誰かの能力が足りなかったり、揉めごろを起こすような者がいるってわけでもないし、何か理由があったんだと思うんだよな?

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