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黙ってドアの方を見るセリアーナ。
エレナやテレサが相手ならこんな反応はしないと思うし……誰だろう?
俺が「行こうか?」とセリアーナに視線を向けるが、小さく首を横に振った。
いつものメンバーが相手だったら、俺に迎えに行けって言うんだが、そうじゃないってことは……屋敷の使用人かな?
部屋に控えている使用人たちはまだ気づいていないようだし、セリアーナも首を振って以来特に合図をする素振りは無い。
まだ部屋まで距離があるのかもしれないし、とりあえず……このままでいいかと、ソファーに座ったまま食事を続けながら待つことにした。
それから数分経った頃、部屋のドアがノックされると、セリアーナが「出て頂戴」と使用人に向かって指示を出した。
すぐに一人がドアに向かって歩いて行きドアを開けるが、中に入ってくる様子はない。
「誰なんだろう……?」
そう小声で呟きながらセリアーナに視線を向けると、彼女は「さあ?」と肩を竦めている。
「セラ様」
何なんだろうな……とドアの方を見つめていると、応対していた使用人が不意に俺の名を呼んだ。
「ぬ?」
まさか俺へのお客さんだったのか?
「旦那様から連絡が届いております」
「……旦那様からの連絡?」
リーゼルからの連絡となると……本館で働く使用人の誰かだろうが、とりあえず聞いてみるか……と、そちらに向かうことにした。
◇
「あら? 本館の人かな……って思ったけど、違ったね」
廊下で待機していたのは南館二階の警備を任されている女性兵だった。
てっきり本館の誰かが、リーゼルかオーギュストあたりから預かった手紙か何かを持って来たのかと思ったんだが、色々予想を外してくるな。
「お疲れ様です。夜分に申し訳ありません」
俺の言葉に、彼女は律儀に頭を下げてきた。
「いやいや、気にしなくていいよ。それで……どうしたの? 旦那様が何か伝えたいことがあるなら、普通に向こうの人が持って来たりしそうだけど……」
「内容はわかりませんが、こちらを本館の兵から預かりました」
彼女は俺の問いに答えながら、封をされた手紙を差し出した。
それを受け取った俺は、封を開ける前に表裏を確認してみる。
目だった装飾が無いありふれた封筒で、差出人も宛名も書かれていないが……何となくリーゼルから俺宛てって感じはしないな。
南館に入ることが出来ないから彼女に任せたんだろうが、もって来たのは文官じゃなくて本館の兵か。
……となると。
「コレを渡すだけ? 受け取りのサインとか、返事とかは?」
「いえ、何も。ただセラ様に渡せばいい……と」
「そっか……ご苦労様。確かに受け取ったよ」
「はっ。それでは、失礼します」
そう言うと、彼女は一礼してすぐに下がっていった。
「ふぬ……まぁ、いいか」
色々気にはなるが、彼女にそれを聞いても答えられないだろうし、コレを読めばわかるしな。
俺は「ふむ……」と頷くと、セリアーナたちの下に戻っていった。
◇
ソファーに座ると、封を開けて中身を取り出した。
封筒同様に中の紙も飾りっ気の無いただの紙だが、質はいいし執務室に用意されている、正式な書類や手紙に使われるための物だろう。
「内容は?」
セリアーナの言葉に「まだ見てない」と答える。
だが。
「多分旦那様じゃなくて、団長が書いたんだろうね。わざわざ自分の名前を書かない理由はわからないけど、明日の指示とかそんなことが書かれてるよ」
軽く流し読みをしたところ、俺が明日の北の拠点や北の森でどう動いたらいいかっていう、テレサに相談したかったが出来なかったことについて書かれている。
ありがたいし助かるんだが……なんでこんなまだるっこしい方法を採っているんだろう?
俺がココにいるのがわかっているのなら、すぐに呼び出せるものなんだが、何か意図でもあるんだろうか……と首を傾げていると、セリアーナが口を開いた。
「夕方の私の報告があったから、念のため……でしょうね。内容はお前への指示なんでしょう? それなら理由を考える必要は無いわ。そのまま受け止めておきなさい」
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リーゼルの執務室経由で届いたオーギュストの指示書の内容だが、俺が今日オーギュストたちと合流した場所での戦闘跡や、それから魔境に入ってから見て回った場所やら……チェックする事項等が纏められていた。
明日出発前に、騎士団本部のオーギュストの部屋に来るようにと書かれているし、そこで改めて説明があるんだろうが、とりあえず明日の任務で気がかりだった点は、この指示書で概ね解消出来る。
今日は結局テレサと相談は出来なかったが、まぁ……何とかなりそうだ。
「はい」
とりあえずセリアーナたちにも読んでもらうために、読み終えた指示書を手渡した。
二人は揃って読み進めていくが、特に引っかかるようなこともなくすぐに読み終えた。
「……わざわざ届けてきた割に変わったことは書かれていないわね。お前の報告を聞いた限りでは、これまでとやることは変わらないと思うけれど……森の移動が多いわね」
セリアーナは同意を求めるようにフィオーラを見ると、一緒に指示書を読んでいたフィオーラは、「そうね」と頷きながら口を開いた。
「まだ倒し切れていない魔物は森にいるようだけれど、それでも本当に厄介な魔物は倒したし、貴女の機動力を考えたら妥当なところね。倒すことよりも、あくまで森の様子を知りたいんでしょう?」
「アレクとジグさんもいるから、魔物が暴れるようなことがあっても、向こうの隊がどうにかしてくれるだろうしね。そのための情報集めじゃないかな?」
俺は二人に向かって、指示書を読んだ感想を伝えた。
「でしょうね。先程言ったように、何か意味が隠されているようなこともないでしょうし、適当にこなして来なさい」
まぁ……見て回るポイントには魔境も含まれているし、決して油断出来るわけではないが、あんまり気合いを入れるほどのことでもない。
普段とは違う経路からの指示で少々緊張していたが、いつも通りでいいと二人からお墨付きをもらったわけだし、気楽に構えていいだろう。
こちらに返してきた指示書を受け取りながら、「うん……そうだね」と返事をした。
◇
「じゃー行って来ますねー」
部屋にいるセリアーナとエレナに挨拶をすると、俺は部屋から廊下に出た。
エレナの方はもう片付いたらしく、朝のうちから屋敷に来ていたが、テレサの方はまだまだ片付いていないようで、朝に挨拶だけしに姿を見せると、すぐに冒険者ギルドへと出発した。
ちなみに、昨日は街の外の訓練場で止め置かれていた積み荷も、無事研究所に運び込まれたようで、フィオーラは朝からそちらに向かったらしい。
どれくらいかかるかはわからないが、しばらく彼女は研究所に籠りきりになるかもな。
任務から帰って来たら、ちょっと顔でも出してみようかね……。
「おはよー」
「お早うございます。行ってらっしゃいませ」
本館に入ってすれ違う使用人たちに挨拶をしながら、俺は騎士団本部に顔を出すために、地下通路に向かって【浮き玉】を進めた。
◇
「おはよー」
「ああ、お早う。君のことだからもう少し遅れると思ったが……早かったな」
騎士団本部にあるオーギュストの部屋に入ってきた俺を、オーギュストもそこで働く文官も、少し意外そうな顔で迎えた。
「昨日はゆっくり休めたからね。気分よく起きれたよ」
俺の軽口にオーギュストは軽く笑いながら話を始めた。
「それは結構だ。昨日執務室から送った指示書は読んだか?」
「読んだよ。アレは団長が書いたんだよね?」
「ああ。奥様の部屋の状況がわからなかったからな。念のためああいった方法を採らせてもらった。それよりも……指示書で何か疑問はあったか? 無ければこのまま話を進めるが」
「大丈夫。何も無いよ」
そう答えながらオーギュストに視線を向けると、彼は机の引き出しから、厚い封筒と折りたたまれた大きな紙を取り出した。
そして、それを机の上に広げる。
「コレは……領都の北側の地図かな?」
見覚えのある地形が描かれた地図だ。
その地図に何ヵ所かマークが付けられているが……これは今日見て回るポイントかな?
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