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中心街から北街をメインに眺めていると、一見すると今も街中を移動する者はたくさんいるんだが、その大半は北街の商業ギルドから出発して、冒険者ギルドや貴族街に向かっているだけで、別に街中を移動しているってわけじゃなかった。
「言われるまで気付かなかったけど、オレがたくさん人が外を出歩いているって思っていたのは、商業ギルドの人たちだったんだね……。まぁ……この雨の中で歩く人なんて、何かハッキリ目的がある人くらいだろうしね」
自分の言葉に頷きながら、改めて街を見下ろすと、貴族街の入口で馬車の列が詰まっている様子が目に入った。
「ふぬ……貴族街に屋敷がある貴族に面会しようとでもしてるのかな? どうせ目的は一緒だろうし、商人側に話が伝わったのも同じくらいのタイミングだろうからね。朝のうちに動き始めて、昼過ぎに返事が来て……んで、今ああやって会いに行ってるってところかな」
領主の屋敷に直接話を持っていける者ならともかく、それ以外の者だと、商業ギルドの看板を使ったとしても当日会うには……ギリギリ貴族街の住人までかな?
商業ギルドはリーゼルの派閥で、冒険者ギルドはセリアーナの派閥ってことに一応なっているし、こっちに集まっている連中は、セリアーナとほとんど繋がりが無い連中なんだろう。
セリアーナと繋がりが無いのに、俺の部下候補を見つけないといけないんだし……彼らも大変だよな。
諦めたらいいのに……と思うが、そんなに諦めの良い奴がリアーナで商人をやったりはしないか。
「それよりも……あのまま放置しておくと事故が起きかねないし、どうにかしないとね」
入り口で詰まっているのは、貴族街に入るための兵によるチェックが時間をかかっているからだろう。
普段だともっとスムーズにいくんだが、外の商人絡みだとはいえここ最近色々あったし、チェックの手を緩めるようなことは無理だ。
……となると。
「よし……」
街を見て回るのはもうこれくらいでいいだろう。
俺は混雑する入り口を利用せずに壁を越えて貴族街に入ると、屋敷ではなくて、その下の騎士団本部に進路を向けた。
◇
「お疲れ様ー」
「お? 副長か。もう街の視察はいいのか?」
「今日は俺たちも朝から森や街道を見て回ったし、異変なんて何も起きてなかっただろう?」
騎士団本部に入ると、玄関前のホールでたむろしていた二番隊の兵たちが声をかけてきた。
この口振りだと、俺が地下通路からやって来た時もここにいたみたいだな。
そのときは声をかけられなかったから気付かなかったが……こいつら暇なのかな?
「視察なんて大したもんじゃないけどね。冒険者ギルドとか北街とか色々見て来たよ」
「そりゃ十分に視察だろう」
彼等の方に向かうと、他の待機していた兵たちも集まって来た。
何かあった時に備えて、ある程度の兵が待機しておく必要があるのは確かだが、その何かがあることなんて滅多にないし、彼らが言っているように、今日はもう街の外まで見回りをしている。
待機している兵たちの出番なんてまず起きないだろう……って考えているんだろうな。
「それで……何か街で起きたりしていたのか? もうやることはないはずなのに、直接屋敷に向かわずにこっちに姿を見せた……ってことは報告でもあるんじゃないか? まあ、慌てているようには見えないし、大したことじゃないとは思うんだが……」
その彼の言葉に皆が揃って頷く。
こいつら俺のことに詳しいな……と感心しながら、見てきた街の様子を伝えることにした。
どうやら彼等はまだ三番隊に関しての説明は何も受けていないようで、屋敷や貴族街へやって来る者の多さから、何かが起きているってことはわかっても、その理由まではわかっていないらしい。
別にこの場で俺が伝えたところで問題があるとは思わないが……奥にはリックがいるみたいだし、細かい説明は彼に任せるか。
ってことで、街の様子や貴族街の入口で馬車が詰まっていることなどを、三番隊のことは伏せながら伝えることにした。
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さて、玄関ホールでの話を終えると、俺は奥にあるリックの私室に、案内を断って一人で向かったんだが、その途中にある会議室の中から、リックの声と気配を捉えた。
他の職員らしき気配もあるし、自室じゃなくてこちらで会議でもしているんだろう。
ってことで、その会議室に「入るよー」と告げてから中に入ると、リックや一番隊の文官たちが、大量の資料が積まれた机を囲んでいた。
「……セラ副長か。ホールで随分と騒いでいたようだが、私に何か用か?」
「ここまで聞こえてたんだ?」
そこまで大きな声で話していたつもりはないんだけどな……と、困惑している俺に、リックは呆れたような顔で溜め息を吐きながら説明を始めた。
「本部内で大声が響くことはない……とは言えないが、セラ副長のような若い娘の高い声の持ち主が、大声で会話をすることはまず無いからな。それに、その声はたとえ大声ではなかったとしても、よく通る」
一応女性の騎士団団員もいないことはないが、彼女たちは基本的に上の屋敷で働いているし、たまにこちらに下りて来ることがあっても、騒ぎ立てるようなことはしないだろう。
肩身が狭い……とは言わないが、彼女たちも普段から居つかない場所なのに、大声を出すようなことはしないだろう。
言われてみればもっともだよな……と納得していると、リックは「それで?」と睨みながら話を続けてきた。
「今日のセラ副長の任務はもう終了しただろう? 団長も領都に戻って来たし、屋敷で何かを聞いたとしても、君が今日何かを任されるようなことはないはずだ」
まぁ……街の住民はともかく、商業ギルドの連中には三番隊の話が伝わっているんだし、それならリックにだって伝わっているよな。
騎士団内で話が周知されていないのは、まだ本決定じゃないから……とかかな?
それか、そういうのは騎士団団長であるオーギュストの役目だとでも思っているとか……か。
ともあれ、今日は朝から貴族街や領都内が騒がしくなっていることの原因が、三番隊に関してだってことはわかっているんだろう。
……ちょっと機嫌が悪そうなのはそれが原因かな?
まぁいいや。
俺は小さく咳ばらいをすると、不機嫌そうに話を待つリックを見た。
「貴族街の入り口のところで、馬車が何台か詰まっていたんだよね。中に入るためのチェックで手間取っているんだと思うけど、まだまだ街からコッチに来る馬車は増えそうなんだ。このままだと、事故が起きてもおかしくないよ」
それを聞いたリックは、大きく「はぁ……」と溜め息を吐いた。
「外の人間の手によるものだとはいえ、先日の件もある。貴族街へ入るチェックを緩めるようなことは出来ない」
「うん。それはわかってるよ。ついでに、一番隊から応援を出そうにも、人手が足りてないんでしょう? それなら二番隊を使っていいよ。皆暇してたから」
二番隊の隊長のアレクと副官のジグハルトは北の拠点に行っていて不在だし、副長の俺も昼過ぎまで街を離れていた。
そして、俺の補佐であるテレサは朝から冒険者ギルドに詰めていて、街の様子を確認できない状況だ。
二番隊が動ける状況ではなかったし、それなら俺たちが不在の間、騎士団全体を任されたリックが指示を出してもよかったんだろうが、色々な問題が表に出たのは、多分昼を回ってからだ。
その頃には俺もオーギュストも領都に戻って来ていて、彼が勝手に指示を出しづらい状況になっていた……ってところかな?
現場から要請があればまた別だったのかもしれないけれど、まぁ……難しいよな。
「一応、ホールで待機中の兵たちには、外の状況とか簡単には伝えているから、指示を出したらすぐに動けるよ。大勢は無理でも、一番隊の兵も一人か二人くらいなら出せるでしょう?」
二番隊の兵だと、入場のチェックとか気を使う作業の手伝いはちょっと不安だけれど、一番隊の兵に指揮役として参加してもらえば上手く動けるはずだ。
俺の提案に、リックは面白くなさそうな表情を浮かべつつも、仕方が無いといった様子で「わかった」と頷くと、命令書を書き始めた。
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