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 フィオーラとの話を終えた俺は、当初の予定通り今度はテレサにも相談に乗ってもらおうと、フィオーラたちに別れを告げて、研究所を後にした。


「おつかれさまー」


「はっ! お疲れ様です」


 今のは一番隊。


「おつかれー」


「おう、姫さんもな」


 今のは二番隊。


 そして。


「おつかれさまー」


 俺に道を開けるように壁際に立って無言で頭を下げる、街の警備兵。


 すれ違う多彩な顔ぶれの兵たちに声をかけたりしながら、地下通路をさらに進んで行く。


 彼らが普段よりも忙しそうにしているのも、北の森の件なんだろうな……と思うと、三番隊の必要性を感じてしまう。


「うーむ……大変そうだよなぁ。まぁ、とりあえず何人か候補を挙げて貰えただけでも助かるし、ちょっと方向性も決まって来たしね」


 俺の要望を全部満たす者はまずいないが、かといって少し基準を緩めたところで、そうそう主力を任せられるような優秀な人材は転がっていたりしない。


 だが、先程フィオーラとの話にあったように、他所の組織から出向のような形で協力してもらうってなら話は別だ。


 まぁ……急遽俺から案を求められたフィオーラだって考え付いた上に、すぐに行動に移れたんだし、セリアーナたちも考えてはいそうだよな。


 今頃もう少し具体的にするための用意でもしているかもしれないが……なんでもかんでも任せっぱなしってのも悪い気がするし、俺は俺で出来ることをやったって損は無いだろう。


「よしっ!」


 俺は、次もまた頭を使うことになるだろうな……と気合いを入れ直すと、通路をまっすぐ進んで行った。


 ◇


 地下通路から騎士団本部に出た俺は、まずはここにテレサがいないかを訊ねたが、結果は彼女は今日はこちらにはおらず、冒険者ギルドに朝から詰めているという返事をもらっただけだった。


 テレサは、今回の件を上手く処理するには冒険者ギルドの方が向いているとでも思ったんだろう。


 午前中の街道での件をどこまで把握しているかはわからないが、戦力なら騎士団の方が上でも、森の調査や探索なら冒険者の方が慣れているし、そう判断するのも納得出来る。


 ってことで、その件も含めてテレサと話をしよう……と、気を取り直して冒険者ギルドに向かったんだが、冒険者ギルド内は非常に混雑していて、一階の受付ホールは人であふれていた。


 さらに、それなりの有力者も冒険者ギルドに姿を見せているようで、奥の会議室やカーンの自室にも、普段とは違った者たちが集まっていて、とてもじゃないがテレサと話せるような状況ではなかった。


「……気合いを入れたんだけどなぁ」


 流石に無理だな……と、ボヤキながら俺は冒険者ギルドの玄関から表に出た。


 この雨にもかかわらず複数の馬車が止まって、忙しそうに人が行き来している玄関前を、人とぶつからないように気を付けながら抜け出した。


 そして、通りの反対側に辿り着くと、改めて冒険者ギルドを振り返った。


「やたら賑わっているけど、出入りしているのは皆一般人か。商業ギルドとかその辺の人間かな? 少なくとも、冒険者とかじゃないよね……」


「ふーむ……」と、腕を組んで唸っていると、横から「セラ様」と声がかかった。


「うん?」


 そちらを見ると、路地に出店している屋台のおっさんの一人が、屋台を離れてこちらにやって来ていた。


 昼過ぎという時間だからか、路地に並ぶ屋台の数は少なくなっているが……この天気でも元気に営業中だ。


「どうかした?」


「いえ……何やら冒険者ギルドを見ながら深刻そうな顔をしてらしたので……。今日は外の方でも騎士団の方々が忙しそうに動いていますし、何か起きたんでしょうか?」


 俺はその言葉に「あぁ……」と頷く。


 この辺は今回俺たちが出入りしていた北口から離れているし、彼らの立場からだと、何か騎士団が忙しそうにしているな……くらいはわかっても、詳細まではわからなかったようだ。


 俺たちは今日も同じく、行きも帰りも北口を利用していたが、冒険者ギルドや騎士団の訓練場がある東門が騒がしくなっているから気になったんだろう。


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 俺に声をかけてきた屋台の店主に、近くの建物の軒下で答えていると、周囲の屋台の者たちも気になるのか、顔を覗かせて様子を窺っていた。


 彼らも雨季直前の北の森での戦闘は知っているだろうが、それ以降は彼等まで情報が届いていないのかもしれないな。


 それなら……と、俺は彼らに向かってこっち来いと手招きをして呼び寄せる。


 すると、ゾロゾロと雨を避けるように小走りでこちらに向かってやってきた。


 おっさんたちが軒下に勢揃いってのは中々異様な光景ではあるが、それだけ関心があるってことだろう。


 皆が集まったところで、俺はここ数日で起きた出来事の中から、話しても問題なさそうなことを話していった。


 俺の話を彼等は黙って聞いていたが、一しきり話し終えると、その内容に思うことでもあるのかそれぞれ小声で話し出した。


 とりあえず彼等の話が収まるのを待っていると。


「なるほど……街道にも魔物が出て来ているんですか。それは森の側にある拠点や村は不安でしょうな……」


 初めに俺に声をかけてきたおっさんが場を持たすように、額を拭いながら話しかけてくる。


 自分から声をかけてきた割には、随分と緊張しているな……。


 彼の屋台は冒険者ギルドのすぐ側の、商売をするのに良い立地だったし、もしかしたらこの辺の顔役なのかな?


 それなら、彼に話を通して置いたら一度で済みそうだ。


 俺は彼の言葉に「うん」と頷くと、話を始めた。


「さっきも話したけど、一応騎士団とか冒険者から選んだ隊員を派遣しているし、森も簡単にだけど見回りはしているから、とりあえずこれからしばらく……少なくとも、雨季の間は魔物の心配は無いはずだよ」


「おおっ……! それは良かった」


 彼は俺の言葉にホッとした様子を見せているし、もしかしたら領都の近くの村とかに知り合いでもいるのかな?


「そうそう。もっとも……街道とかも含めて、本格的に見て回るのは雨季が明けてからになるけどね」


 俺がそう言うと、彼は他の店主たちを指しながら答えた。


「ええ、ええ。それは毎年のことですから……。いえ、今日は朝から普段とは違う顔ぶれが冒険者ギルドに足を運んでいたので、何か良からぬことでも起きたのかと、そこの者たちと話していたんですよ」


「なるほどねー……普段と違う人たちが冒険者ギルドに出入りしている中で、外が騒がしくなったりしたら不安になるよね。まぁ……とりあえず何か手に負えないような事態が起きたってわけじゃないから安心してよ」


「はっ。今日は店を出していない者たちも、家で気にしているでしょうし、明日にでも心配はいらないと伝えておきます」


「うんうん。そうしておいてよ」


 無事彼等の疑問と不安を解消したし、そろそろ立ち去ろうかな……と思ったんだが、俺にも気になる点が生まれたし、そのことを訊ねておくか。


「そういえばさ、今日は朝から普段とは違う顔ぶれが冒険者ギルドに来てるって言ってたけど、どれくらいの割合かとか、どこの人たちかとかわかる?」


「ふむ……? そうですね、割合まではわかりませんが、ここ数日に比べると、冒険者の数は若干減っているように思われます。もちろん、たまたまなだけかもしれませんが……。後は、訪れているのは商業ギルドの者ですな。馬車に印がありましたし……」


「なるほどねぇ……うん、わかった。ありがとうね」


 俺は彼にそう言うと、他の店主たちにも別れを告げてその場を飛び立った。


 ◇


 冒険者ギルド前から飛び立った俺は、街の上空をゆっくり移動していた。


「ここまで地下を通っていたから、今日は街の様子をゆっくり見るのはこれが初めてだけど……」


 今朝は街の外に出ていたし、帰って来る際にも一応北街から屋敷までは通っているんだが……あんまり意識していなかったからな。


 普段との違いに気付けなかった。


 ……と言うよりも、この雨が降りしきる中、普段と同じくらいだから気付けなかったのかな?


 街中を移動する馬車や人を見下ろしながら、俺は「ふぅ……」と息を吐いた。

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