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「…………なるほどねぇ」
フィオーラから三番隊の設立の経緯を聞いて、俺は納得して頷いた。
リアーナを含む王国東部と魔境ってのは、割としっかりと境界線のような物で隔てられている……ってのが一般的な認識で、この土地で暮らすようになって数年経つ俺たちもその認識だった。
魔境の魔物がこちら側に来るのは、季節の変化で森の中の生活環境が変わったり、縄張り争いに負けたりして、生活していけなくなった個体が時折こちらにやって来る場合がほとんどだ。
極稀に色々な要因が重なって、大量の魔境の魔物を引き連れてこちら側に襲撃をかけてくるような困った個体もいるが、基本的にこちら側にやって来るのはイレギュラーだ。
だが。
「そりゃー皆も困っちゃうよね」
魔境の魔物が普通にこちら側にやって来て、尚且つそれなりに群れを作ったりしてしまう……なんてのは想定外だろう。
東部と一言で纏めてはいるが、土地が余るくらい広大な領地だし、人の目が届かないのは仕方が無いにしても、数年程度とはいえしっかり調査した結果をもとに色々計画を立てていたんだ。
それがご破算になりかねない。
それなら、多少の回り道になるかもしれないが、もう一度東部の調査や探索を行って正しい情報を集めた方がいいだろう。
「領都周辺の調査に協力した身として言わせてもらうけれど……私たちが調査をした際には、そんな兆候は全く目にしなかったのよね」
フィオーラは困ったように溜め息を一つ吐くと、話を再開した。
「今朝もだったけれど、貴女はここまで外からじゃなくて、屋敷の中を移動して来たでしょう?」
「うん。屋敷中結構バタバタしてたよ」
「でしょうね。三番隊の主力になるような者は、セリア様やミネア様の伝手で集めた者たちになるでしょうけれど、隊を維持するにはある程度纏まった隊員が必要になるわ」
「そうだね。とりあえず騎士団本部で事務作業をするかとかはわからないけど、交代要員を含めても、外で活動出来る隊員は十人以上はいるよね」
「屋敷で働く者たちを通して、三番隊の設立と隊員集めの情報を流しているのよ。商人や貴族の伝手を使えば、主力とは言わないまでも、ある程度東部の森や山で活動出来る者たちも集まるでしょう」
超一流……とまではいかなくても、一流の手前くらいの腕の者なら商人とかの方が知っているかもしれない。
隊員に推薦して、その推薦された者が見事採用されたら、推薦した側にとってもメリットになるだろうし、互いにとっていい案だとは思うが。
「ふぬ……それって、ここら辺以外からも集めるつもりなの?」
リアーナ領はもちろん、東部で活動する目ぼしい冒険者はもう大抵チェックされている。
そうなると、ルイたちのように王都圏とか王国西部の者になるはずだ。
……流石に外国の者はないよな?
俺の言葉にゆっくり頷くフィオーラ。
「それ大丈夫なのかな……?」
推薦される者たちの実力や人間性とかではなくて、俺の貫禄とかそういう意味でだ。
上でセリアーナやミネアさんが俺にどんな者がいいかって聞いていたのは、ちゃんと俺の部下って立場に納得する者を用意するためだったしな。
仮に採用されたとしても、恐らく一般兵的な立場になるだろうけれど、他所から来た者が果たして俺の下に付くことに納得できるのかどうか……。
不安になり「ぬぬぬ……」と唸っていると、フィオーラは「大丈夫よ」とこともなげに言い切った。
「そのために集めるのを他の者に任せるのよ。上手く行けば領主や騎士団幹部と繋がりが持てるけれど、もし推薦した者が何か問題を起こせば……ね? 候補者を集める手間と教育する手間を任せることが出来たなら随分助かるでしょう?」
「うん……そうだね」
この言い方であっているのか少々判断に困る内容ではあるが、今日の屋敷に来客が多かった理由や、セリアーナの部屋であまり深く話が掘り下げられなかった理由が分かった。
ある程度自分たちで考えてもらうのも選考の基準なんだろうし、使用人にここまで聞かせちゃうと対策とかされるかもしれないもんな。
細かいことを色々考えているなぁ……と、フィオーラと話しながら俺は考えていた。
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「……それで、貴女がここに来たのはこのことを聞きたかったの?」
三番隊設立の意図に加えて、セリアーナたちの考えまで教えてもらったし、もう十分ではあるんだが、折角だから隊員についても聞いてみるかな?
「あのさ、コレは別に答えられなかったら全然構わないんだけどね? 隊員ってどんな人がいいと思う? さっき上でセリア様とかミネアさんに聞かれた時に答えたんだけど、一緒にいたエレナの三人が揃って困ったような顔をされたんだよね」
今日の昼間のことを伝えると、フィオーラも三人と同じような表情になった。
「まあ……気持ちはわかるわね。それほどの者なら既にどこかが囲っているでしょうし、そうそう手放すようなことはしないでしょう」
「同じようなこと言われたよ。ただ、じゃー……どんな人を探したらいいかってなるんだよね。オレが名前と腕を知っている冒険者は、余程のことが起きでもしないと、冒険者を辞めて騎士団に入るなんてしないと思うんだ」
話しながら俺が知っている冒険者たちを思い浮かべるが、その中で基準を満たしている者はいることはいたりする。
だが、どこぞのクランや戦士団に所属している者もそうでない者も、既にリアーナの冒険者界隈でそれなりの立ち位置を確保出来ているし、今更その立ち位置を捨てるような真似はしないだろう。
そもそも、三番隊と同じくらいかそれ以上に、リアーナで活動してくれる腕の立つ冒険者も必要なんだし、いくら数は必要無いとはいえ、そこから引き抜いてくるなんてことは、セリアーナたちから止められるはずだ。
フィオーラは、「ふむふむ」と頷きながら俺の話を聞いていたが、椅子から立つと部屋の中に置いている本棚に向かうと、そこから何冊かファイルを取って戻って来た。
そして、「見なさい」とファイルをパラパラとめくっていく。
「例えば……ここで働く者は皆ある程度以上の魔法の技術を持っている者ばかりよね」
「うん、そうだね」
フィオーラの言葉に頷くと、彼女はそのまま話を続けた。
「並の魔物程度なら倒すだけの魔法も使うことが出来るわ。でも、実戦でそれが出来るかというとまた違うわよね」
この魔導研究所では、魔物やその素材の研究だったりポーションや魔道具の製作がメインではあるが、それでも魔導研究所って名前は伊達じゃない。
ここで働く者たちは、フィオーラが言うように魔法のレベルは中々ではあるが、それだけで優れた魔導士かというとそうじゃない。
研究の過程で魔法の実力を高めていっても、戦闘経験を積んでいない者だって少なくない。
先日もそうだったが、ここの研究員が外の調査に出向く際には、騎士団の兵が護衛についているからな。
土地の者が魔法の実力を身に付けて、それで魔導研究所に入る……って場合だと、戦闘経験だって積んでいるんだろうが、ウチは元々魔導研究所なんてたいそうな物を設立出来る環境ではなかったから、フィオーラが連れてきた者たちで構成されている。
まぁ……しっかりと護衛が付いている状況でなら、魔物が相手だろうが魔法を発動できるわけだし、それが問題だとは思わないんだが……?
フィオーラの言葉に頷きつつも首を傾げていると、ファイルの中から、何枚かページを抜き取ってこちらに渡してきた。
「これは……ここの人だよね?」
「ええ。王都圏出身で王都の魔導研究所から連れてきた者たちよ。魔法の腕は悪くないし知識も十分ね。個々での戦闘経験は無いけれど、騎士団の護衛付きでなら、北の森はもちろん、一の森での調査にも同行しているわ」
「それは……優秀な人たちだと思うけど、紹介してくれるの? 今のフィオさんの言いぶりだと、大分優秀な人たちみたいだけど……」
「ここの業務や研究だけなら、他にも同じくらい出来る者がいるわ。それなら、いっそ外での調査を専門に行う部署に異動した方が色々出来るでしょう? 貴女のことだってよく理解しているし、悪くはないはずよ」
「なるほど……」
三番隊で魔導研究所の調査を下請けするようなもんか。
その対価として幹部クラスを派遣してもらう……って考えたら、中々悪い話じゃないのかな。
「本人たちの意向次第ではあるけれど、一応候補に入れておいて頂戴」
「うん。ありがとー」
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