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 セリアーナたちに希望を聞かれてどんな者がいいかを考えていたが……中々思い浮かばない。


 普段この辺で一緒に行動する機会の多い連中は、この世界基準でも能力が大分おかしい連中だからな。


 うーむ……。


「腕が良くて頭も良くて、人柄も良い人がいいな……」


「……それは見つけるのが大変そうね」


 少し困った様な声色で答えるミネアさん。


 我ながら漠然とし過ぎていたかな?


 正面のセリアーナも黙ってはいるが、困ったような表情を浮かべている。


 きっとミネアさんも同じような表情をしているんだろうな……。


「いないかな?」


「少なくともこの東部では、それだけの人材は既にどこかの家が好待遇で確保しているでしょうね。ウチならそれ以上の待遇を用意することは難しいことではないけれど……」


 セリアーナはそう言うと、横に座るエレナを見た。


「止めた方がいいでしょう。家の相談役だったり跡継ぎの教育係……場合によっては側近に……と考えているはずです。それを引き抜いたりしたら、家同士の関係が悪化しかねませんよ」


「そうね……」


 エレナの言葉に頷くセリアーナ。


 まぁ……セリアーナに当てはめたら、エレナやアレクを引き抜くようなもんだしな。


 いくらウチもミュラー家も大きい家だからって、そうそう簡単に頷くようなことでは無いだろう。


 ちょっと今の提案は引っ込めた方がいいかな……と考えていると、「ですが」とエレナが口を開いた。


「なに?」


「セリア様が王都から連れてきた冒険者たちは、今のセラの求める基準を満たしているのではないでしょうか?」


「ああ……ルイたちね。確かに能力面はそうだけれど……彼女たちは王都圏出身でしょう? ……そうなると難しいわね」


「そうですね……」


 二人はそう言い合うと、揃って苦笑している。


「他所の人を雇うとかよりも、やっぱりこの東部の人の方がいいんです?」


 俺は背後を振り向くと、ミネアさんに訊ねた。


「そうね。ウチの影響下の土地の者の方がいいわね。その方が貴女も楽でしょう?」


「……なるほどー」


 実際に雇うのはウチやミュラー家になるんだろうが、現場で直接の上司になるのは俺なわけだし、それならリアーナ領やゼルキス領……それか、せめて東部の出身の者じゃないとな。


 どんなに腕も頭も……ついでに人柄が良かったとしても、自分の命がかかった職場で大人しく俺の言うことを聞いてくれるかわからない。


 われながら貫禄は無いとは思っているしな。


 実際に何度も狩場やダンジョンに一緒に出掛けて、時間をかけて理解をしてもらえば可能なのかもしれないが、部下になるかもしれない者にそこまで気を使うってのも何か違う気がする。


 ……二人の話でちょっと出ていたが、あの王都の冒険者たちは特殊過ぎるパターンだな。


 立ち位置は俺の部下ってよりはセリアーナの直属の部下って感じなのかもしれないし、またちょっと違うか。


 さて、それはそれとして。


「まぁ……ちょっと他に思いつくこともないし、セリア様たちに任せます。……でも、何でまたこんな話が出て来たんです? ゼルキスの冒険者とかも結構コッチには来てくれてますけど、まだ何かあるんですか?」


 何だってまたミネアさん主導でこんな話が出て来たんだろうか?


 今までも結構兵士や冒険者を送ってくれたりしているのに、また追加で……。


 いくら魔境の警戒役と門番役をウチと交代したからって、そんなにポンポン戦力を送り出していいわけ無いはずだ。


「うん?」


 今の俺の言葉に、三人が一瞬視線を合わせた気がする。


 ……何やら企みごとをしているような気配を感じるが、今更ではあるが使用人たちがいる状況でこんなことを話していてもいいんだろうか?


 三人揃ってそのことを見落とすとは思えないし、使用人たち経由で話が外に伝わることも想定しているのかもしれないが……何を考えているんだろう?


 俺は首を傾げながら、三人が何か言って来るのを待っていた。


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「以前少し話題に出したけれど……三番隊の件は覚えているかしら?」


「三番隊って……アレ結局は設立しないってなったヤツだよね?」


 セリアーナの唐突な言葉に、「はて?」と首を傾げながら答える。


 三番隊の件は、北の森や北の拠点周辺の調査や防衛面を行うのに、普段の騎士団の人員だけだと手が足りなくなりそうだから……と、俺が少しだけ話題に出したんだが、常設するには今のリアーナだと人を集めるのは難しいだろうってことで、とりあえず今回の俺たちのように、一時的にあちらこちらから戦力を借りて……ってことで対処することになっていた。


 まぁ……残念ではあるが、負担を軽減するために提案してみたのに、逆にそれが負担になってしまったら本末転倒もいいところだしな。


 前もって期間限定で募集をかけることで、とりあえず乗り切ろう……って考えは悪くないと俺は納得していたんだが、セリアーナは「事情が変わったのよ」と溜め息を吐いた。


 そして、目だけ動かしてチラッと壁際の使用人たちを確認している。


「?」


 彼女たちが邪魔だって感じじゃないし……どういうことなのかなと、口には出さないが表情でセリアーナに訴えていると、フッと笑っていた。


 この話は聞かれても構わない……と言うよりは、わざと聞かせているっぽいな。


 彼女たちは皆、リアーナの貴族だったり商業ギルドの幹部格の縁者だったりするし……もしかしたら彼女たちを通じて情報を広めようとでも考えているのかな?


 回りくどいことを……と考えつつも、どうやらまだ三番隊に関しては本決定って感じじゃなさそうだし、そんな情報をセリアーナがあからさまに使用人に伝えることは出来ないんだろう。


 だからこそだな。


 そう言えば、以前も似たようなことをやっていた覚えがあるし……ここは俺も話に乗っかろうかな?


「事情が変わったって……三番隊作っちゃうの?」


「不本意ながらね。その必要が出来てしまったわ」


「……不本意なんだ」


 思ったよりもはっきりとそう言ったセリアーナに、少し驚きながら聞き返すと、彼女は苦笑しながら答えた。


「ええ。詳しい話は夜にでもテレサたちを交えてしてあげるわ。まだ細かい部分まで詰めているわけではないしね。ただ……もう薄々わかっているとは思うけれど、その隊はお前に任せることになると思うわ」


「……じゃあ、その為に?」


 振り向いて、今度は背後のミネアさんにそう訊ねると、「ええ」と笑って答えた。


「なるほどー……それじゃー、オレももう少し真剣に考えた方がいいですか?」


 一応アレはアレで真面目に答えたつもりではあったんだが、こういった事情ならもう少し答えようがあった気がしなくもない。


「別に構わないわ。セラさんもふざけて答えたわけじゃないんでしょう?」


「それは、まぁ……」


 ミネアさんは俺の返事に静かに笑っているし、どうやら俺の考えはお見通しのようだ。


 ミネアさんとの会話で困っていると、「セラ」とセリアーナが加わって来た。


「騎士団や冒険者ギルドに資料を用意させるといいわ。流石にお前の要望全てを満たす者はいないでしょうけれど、何人かは見つかるんじゃないかしら?」


「そうね。まだ時間はあるし急ぐようなことでもないものね」


 ◇


 さて、三番隊の話がメインなのか昼食がメインなのか、だんだんわからなくなってしまったが、ともかく昼食が終わると俺は寝室で休ませてもらうことにした。


 セリアーナたちは、お茶を飲みながらまだ話を続けるようだが、使用人が話を聞き洩らさないように聞き耳を立てている状況で、のんびり話しを続けられるなんて、何というか……タフだよな。


 一方俺は、外での大仕事を終えて来て、さらに帰って来たら来たで色々と普段考えないようなことを考えたりで、すっかり疲れてしまったし、このままグッスリ休ませてもらおう。


「ほっ!」


 ポンと【浮き玉】から飛び降りると、そのままベッドに潜り込んだ。

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