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 さて、倒した魔物の処理を終えた俺は、領都に向かって急いでいたんだが……。


「おや?」


 街道の少し先を走る馬車の姿が目に入った。


 周囲には騎乗した護衛が数人いるし、オーギュストたちだな?


 俺よりも数十分先行していたはずだから、合流するにしても領都手前辺りかと思っていたんだが……大分早い段階で追いついちゃったか。


 あそこからここまで戦闘を行った痕跡は無かったし、単純に速度の差かな?


「まぁ……いいや。さっさと合流しよう」


 俺は【浮き玉】の速度を上げて、前を走るオーギュストたちの下に向かった。


 ◇


「おっとっ!? 魔物じゃないよ!!」


 真後ろからだと脅かしてしまわないかと気を使って、念のため街道から少し外れて茂みの上を飛んでいたんだが、かえって警戒させてしまったようだ。


 オーギュストを始めとした、馬車に並走していた兵たちが一斉に剣を抜いてこちらに向けてきた。


 馬車を挟んで反対側の兵たちは、いつでも魔法を撃てるように魔力も溜めている。


 領都に近いこの位置を移動しているのに、ちょっと本気過ぎないか?


「待てっ!? セラ副長だ。剣を下ろせ!」


「っ!? わかりました!」


 慌てて俺だと両腕を振って伝えると、彼等はホッとした様子で剣を下ろして再び馬を走らせた。


 俺も彼らに合わせて移動を開始するが……慎重なのはいいことだけれど、後ろから飛んできた俺に即仕掛けようとするなんて、随分と殺気立っているなと感じた。


 何かあったのかな?


「ふぅ……ちょっとびっくりしたよ。皆に追いつくまでの道中で俺も周囲の様子を探ってはいたけど……特に魔物と戦ったような痕跡はなかったよね? 何かあったの?」


 先頭を走るオーギュストに追いつくと、隣を飛びながら、彼にあれだけ殺気立っていたのは何か理由があるのか……と訊ねた。


「戦闘は無かったが……北の森の浅瀬で、我々をつけてくるような素振りを見せる魔物の群れがいた」


「北の森で?」


 魔境や北の森のもっと奥ならともかく、浅瀬にそんな気合いの入った魔物がいるかな?


 俺は首を傾げながら、北の森の方を見る。


 ……俺たちを追っているような魔物はもちろん、ただ単に様子見をしているだけの魔物すらいない。


 気のせいや見間違い……だとは思わないが、そんなのがいるのはちょっと想像出来ないな……と振り返ると、こちらを見ていたオーギュストが小さく頷いた。


「私もそう思った。だが、君に魔物を任せてあの場を離脱してからしばらくすると、明らかに我々を追って移動している魔物たちがいたんだ。……そう言えば、あの場の魔物たちはどうなったかな? 君がここにいると言うことは全て片付けてきたんだろうが……」


「あぁ……アレね……」


 倒すことは倒したんだが……と俺が言いあぐねていると、何かを察したのか、俺が答える前にオーギュストが口を開いた。


「そちらも何かがあったようだな。話が長引くのなら街に戻ってからでも構わないな」


「ちょっと話すと面倒そうだからね。一応あの場にいた魔物は倒したから、近くの拠点とか街や村を襲うようなことはないはずだし、そこは安心していいよ」


 俺の言葉に、オーギュストは「十分だ」と答えると、隊の皆に見えるように右腕を上げると、徐々に馬の走る速度を落としていった。


「どうかしたの?」


「このペースでは馬がもたないだろうしな。一先ず君が魔物を倒してきたと言うことが分かった以上、無理をして急ぐ理由は無い。それよりも、君は先に街に戻って我々が帰還することを報告しておいてくれないか? 隊員も馬も疲れているだろうしな」


 北の拠点から領都まで、この雨の中特殊な積み荷を守りながら移動していたんだし、消耗も普段以上だ。


 ただでさえ、本来予定していないこの時期の出動なんだし、街に帰還したらすぐに休めるように手配をしておいて欲しいんだろう。


 俺は「了解」と返事をすると、一行から離れて、領都に向かって加速していった。


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 領都に戻ってきた俺は、オーギュストに頼まれた伝言を騎士団本部に伝えると、その後はリーゼルの部屋に向かった。


 詳しい報告は後々オーギュストに任せるとして、簡単にだが執務室の皆にも伝えようと思ったんだが……話した内容に驚かれてしまった。


 もちろん、彼等は今日の俺が何のために北の森に向かったのか知っていたと思うんだが、思ったよりもずっと真面目に戦闘を行ってしまったからな。


 場所は領都から離れてはいて、一応それなりの理由はあったものの、街道で結構な規模の魔境の魔物の群れと戦闘したわけだし、先日に引き続き頭が痛い話だろう。


 まぁ……それはまたお偉いさんたちで話し合って、どうにか良い解決方法を考え出して貰おう。


 ってことで、執務室での話を切り上げた俺は、セリアーナの部屋に戻って来た。


「ただいまー……疲れたよー」


 部屋の中ではセリアーナとエレナがソファーにかけていて、使用人たちが部屋の隅に控えていた。


 テレサとフィオーラの姿は見えないが、彼女たちは冒険者ギルドや研究所でお仕事中なんだろう。


 彼女たちにも色々話したいことがあったが、それはまた後でだな。


 とりあえず、これで今日の俺のお仕事は終わりだ。


 まだ昼ではあるが、元々今日は俺は休みの予定だったし、ここ最近真面目に仕事をし過ぎていたからな。


 ゆっくり休ませてもらおう。


 俺は空いたソファーの一つに飛び降りると、ゴロンと寝転がった。


 その俺に向かって、向かいに座るセリアーナが口を開いた。


「ご苦労様。疲れているでしょうけれど、用意は出来ているから先にお風呂に入って来なさい。その後昼食よ。休むならそれを済ませてからにするのね」


「む。りょーかいー……」


 疲れてはいるし面倒だとは思ったが、セリアーナの言葉はもっともだし……仕方が無いなと、俺はソファーから降りて風呂に向かうことにした。


「セラ様、昨日と同じようにフィオーラ様の研究所に届けますから、ジャケットを預かります」


 浴室の扉の目の前までやって来て、中に入ろうとしたんだが、その前に使用人が横から声をかけてきた。


「あぁ……そうだね。おねがーい」


 脱いだジャケットをその彼女に預けると、今度こそ俺は浴室の扉に手をかけた。


 ◇


 風呂から出ると、先程まではいなかったミネアさんが部屋に来ていて、用意されていた昼食を皆で一緒にとることになった。


 三人とも初めは特に当たり障りのない話をしていて、使用人たちが部屋にいるから、敢えて突っ込んだ話を避けているのかな……と思ったんだが。


「セラさん。セリアーナさんが、こちらで貴女の下に付いて活動する腕の立つ者がいないかと言ってきたの」


「むむ??」


 急な話に、思わずセリアーナとエレナの顔を見るが、二人とも何ともない様子で食事を続けている。


 一方二人と違って使用人たちは、声こそ出さないが驚きながらも、俺たちの話を聞き漏らさないようにと、控えている壁際から半歩程こちらに近づいていた。


 その彼女たちを無視するように、先程と変わらない口調でミネアさんが話を続ける。


「貴女の下に付くと言うことは、ウチの下で働くと言うことでしょう? 領地に残っている者で何人か融通出来ると思うのだけれど、どんな者がいいとか要望があるかしら? 多少は聞けるわよ?」


 この言い方だと、俺……と言うよりは、リアーナ領で活動するミュラー家の私兵のような感じになりそうだが……。


 ミネアさんの言葉に再度セリアーナに顔を向けると、肩を竦めて「好きにしなさい」と言ってきた。


 それならと、俺はどんな人がいいかなと考えることにした。


「そうですね……んーと……」


 理想を言うなら、アレクやジグハルトやテレサ……それとルバンのように、腕と頭が立って尚且つ何かセールスポイントがあるような人がいいんだが、それは流石にワガママ過ぎるような気がする。


 そもそも、そんな人が都合よくいるとは思えないし、簡単にこっちに来れるとは思えない。


 もう少し現実的なところで……と考えることにした。

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