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ワニもどきは上手いこと腹の下に槍を差し込んだり、魔法を撃ち込んだりしたら、ひっくり返すことが出来るんだよな。
ひっくり返してしまえば、ウチの兵たちなら十分討伐は可能なはずだ。
報告書は俺も一緒に読んだけれど、イラストこそついていないがワニもどきの詳細は記されていた。
だから、俺の説明だけでも何となくは想像できるだろう。
ただ、ワニもどきはな……むしろ倒してからが本番というか……。
「その魔物……オレは勝手にワニもどきって呼んでるんだけど。そいつさ、死体がなんか爆発するんだよね」
「……爆発?」
不思議そうな表情で首を傾げる皆に「そうそう」と頷いていると、リックがテーブルに広げられている報告書から、丁度ワニもどきに関して記されている紙片を手にしてこちらを見た。
「……腐敗した死体が破裂することは稀にあるが、それとは違うのだな?」
「違うね。倒してすぐだったし……。どういう状況だったか説明するけど、穴の底でワニもどきと戦っていた時に、アレクが矢で胴体を撃ち抜いて真っ二つにしたんだよね。それでそいつは確かに死んだんだよ」
「君が先日戦ったカエルもどきほどの生命力を持っているわけではないんだね?」
「うんうん。ともかく、ワニもどきを倒したんだけど、穴の中にはまだ他の魔物もいたんだよね。んで、残った魔物を倒そうと、団長がワニもどきの死体の半分の側を通りかかった時に、いきなり爆発したんだ」
俺の言葉に、またも皆不思議そうな表情を浮かべているが、気にせず俺は続ける。
「それで、団長が直撃を食らって倒れこんじゃったんだよね」
オーギュストが魔物の攻撃をまともに食らって倒れた……その情報に、リーゼルたちや周りの文官たちもざわついた。
「セラ、間違いなく死んでいたのよね?」
ざわつく男性陣に代わって、これまで黙っていたフィオーラが、確認するようにそう訊ねてきた。
「うん。それは間違いないよ。まぁ、団長も鎧をちゃんと着てるし、ダメージはあったけど無事だったよ。んで、ジグさんが改めてワニもどきの死体を観察してから、何が起きたのかの推測をたてたんだ」
そこまで喋ってフィオーラを見ると、続けろと手で促してきた。
「魔物って死んでもすぐには死体から魔力が抜けないでしょう? んで、その魔力が抜けたことが切っ掛けで爆発したんじゃないかって……なったんだ。下半身に比べたら上半身の方が残った部位は大きいし、心臓とかの臓器もたくさん含まれてるからね。だから、魔物の死体を調べたりはしないで、穴の上に退避したんだ」
「妥当な判断ね。それで、上からジグが魔法で消滅させたってところかしら? 貴女が持ち帰っていない時点でわかるけれど、素材は残っていなさそうね」
フィオーラはワニもどきの素材が手に入らなかったことが残念なのか、「ふぅ……」と小さく息を吐いた。
流石フィオーラといったところだろうか。
ジグハルトの思考と能力をよくわかっている。
だが。
「フィオさんの言う通りで、ジグさんが穴のすぐ縁からデカい魔法をワニもどきの死体目がけて放ったんだけど……その魔法以上の規模の爆発が穴の中で起きたんだよね。地上にいた皆は吹っ飛ぶし、穴の中はボロボロになっていて、あちらこちらが崩落してるし水脈から水が流れ込むしで大変だったよ」
俺は爆発直後の穴の様子を思い返しながら、報告書の中からリックが取り上げた次のページを探し出した。
「で、その爆発が切っ掛けでその穴は一気に崩れちゃったんだよね。その前にオレが穴の中を探るために見に行って、崩落しそうだって気付いたから、皆をさらに後方に下がらせたから誰も巻き込まれなかったけど、まぁ……危なかったよね」
「ジグが威力を見誤るとは思えないし、そのワニもどきの死体が何か影響を与えたのね?」
「うん。なんか魔法を拡散させたとかどうとか言ってたね」
俺の言葉に、フィオーラは一人納得したように頷いているが、他の皆は……ちょっとついてこれていないな。
魔法の威力とか死体が爆発とか、果ては、地面に開いた大穴が崩れたとか……情報が多いもんな。
でも、まだもうちょっと続くぞ?
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ワニもどきの死体を焼き尽くすために、穴の外からジグハルトが魔法を放ち、その結果、ワニもどきの死体から抜けた魔力だったり性質だったりが原因で、まさかの大爆発が起きて、地下水脈に繋がっていた大穴が一気に崩落した。
それだけでも十分大惨事なんだが……。
「穴が崩れた後なんだけど、巻き込まれたりしないようにオレたちはその場を南に向かって離れたんだよね。んで、走って少ししたら、穴を中心に、水脈が流れていた北と西に向かって大きく地面が崩れていたんだ」
そう言うと、俺が手にしていた報告書の中の一文を「ここ、ここ」と指しながら、向かいに座るリーゼルたちに見せた。
「ああ……川に土砂が流れ込んで、街の水量に影響があるかもしれない……と書かれているね。……川辺で戦闘でもしたのかと思っていたが、そこまで大事になっていたのか」
リーゼルは困ったような表情でそう言い、他の者たちは引きつったような表情を浮かべている。
だが。
「多分皆が考えているよりも、もっと派手だよ? 地下の水路に沿って大分広い範囲が崩れていたからね」
男性陣がギョッとしている中、隣に座るテレサが口を開いた。
「それだけ大規模ならば、流れ込んだ土砂が川を堰き止められたりはしていないのでしょうか?」
「あ、断言は出来ないけど、それは大丈夫だと思うよ。あくまで地下水路の地上部分が崩落しただけだからね。直接川に繋がっている箇所が崩れていたら、その周辺の土が流れ込んで、少し川幅を狭めたりしちゃうかもしれないけど、木とか岩が流れ込むようなことは無いだろうしね」
川の岸周辺は木は生えていなかったし、仮に崩落していたとしても、川を堰き止めるようなことは無いだろう。
「それならば確かに大丈夫そうですね。……ですが、土砂が流れ込むとなると……」
テレサはそこで言葉を中断すると、フィオーラに視線を向けた。
その視線を受けて、フィオーラが口を開く。
「水が堰き止められる心配は無くても、土砂が流れ込むとなると、水質が心配になるわね。それにアンデッドの件もあるわ。ネズミ程度ならそこまで影響は無いと思うけれど、大群となると……」
アンデッドがどうこうって以前に、大量の死体が生活用の水源に入り込むのは衛生面でも問題だ。
気になるのはもっともだが、だからこそジグハルトたちは時間をかけて念入りに死体を焼いていたんだよな。
「ほとんどのアンデッドは、ジグさんたちが焼いたはずだから、大量に川に流れ込むってことは無いと思うよ?」
「そうでしょうね。それでも、川と井戸の水質はチェックしておいた方がいいわね。ウチから人を出すことになるけれど……」
フィオーラは俺の言葉に頷きつつも、リックを見る。
その視線に気付いたのか、リックもフィオーラに視線を向けると。
「わかっている。街の外に出る者には1番隊から護衛を出そう」
フィオーラはそれに「結構」と答えると、懐から出したメモに何やら書きつけて近くの文官に渡した。
「明日の早朝に調査に向かわせるから、その班のことは頼むわね」
フィオーラのその言葉に、リックは「ああ」と頷いた。
この雨の中早朝から北の森に出かけるのか……大変だな。
「あっ!?」
魔導士と1番隊の兵に同情していると、ふと北の拠点からの帰路の光景が頭に浮かんだ。
「どうした?」
「今日帰って来る途中で、痕跡を見つけたんだけど、地中から這い出たカエルもどきたちが北の森に向かっているみたいなんだよね」
「……何体だ?」
「四つ穴が空いてたからね。少なくとも四体はいるんじゃないかな?」
「厄介だな……。わかった、その情報も伝えておこう」
溜め息交じりにそう答えたリックに、俺は「お願い」と伝えると、隣のセリアーナを見る。
「お前も参加するつもりなの? 出発前に片付くかしら?」
「明日はオレは領都で休む予定だからそれは問題無いんだけど……早朝は起きれるかわからないからね。起きたら適当に見て回るよ」
広い北の森をあてもなく痕跡を探しながら捜索するってのも出くわす可能性が低いと思うが、遭遇しないなら、それはそれで一先ず森が荒れていないってことだしな。
そんな感じでも大丈夫だろう。
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