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「ふぬ……? 意外とこの辺にも魔物は戻って来てる……のかな?」
街道の崩落地点から南に進んでいると、ふと街道の西側に広がっている森に生物の気配を感じた。
今朝通った時はどうだったっけ?
あまり印象に残っていないから、多分生物はまだ戻って来ていなかったと思うんだよな。
朝と夕方とで何か森に変化が出るようなことと言うと……。
「あのワニもどきかな?」
ワニもどきは、自分がいた場所を中心に魔力を放つかどうかして、周囲の魔物を追っ払ったり逆に引き寄せたりしていたみたいなんだよな。
もちろん、アンデッドもだ。
ワニもどきがいつから森の生物を操っていたのかはわからないが、昨日今日ってことはなさそうだし、アイツを倒した影響って考えてもいいんじゃないかな?
森の北部に引っ込んだ生物がこっちに戻って来たってことも考えられるが、川の向こう岸に避難していたのが戻って来たってことも有り得るな。
まぁ、何にせよ森はこれで正常化……と一安心したが、すぐに首を横に振った。
「カエルもどきがいたね……そういえば」
結局痕跡を見つけることは出来なかったが、あの崩落現場付近の穴から出てきたのは、恐らくカエルもどきだろう。
カエルもどきは見た目の割に意外と知恵があるからな。
地上に出て早々に魔境に行くとは考えにくいし、多分北の森の方に移動しているはずなんだよな。
魔境ならともかく、普通のリアーナの森だとカエルもどきはちょっと強すぎる。
折角生物が戻って来始めているのに、餌にされかねない。
アイツを始末しないで森に放っていると、どれだけ荒れてしまうか……。
まだある程度行動範囲が予測出来ているうちにさっさと片付けてしまうのが一番なんだろうけれど。
「でも、今日はもう森の捜索も狩りもしたくないんだよね。……報告だけしちゃえばいいかな? なんなら、明日はオレは領都にいるし、ちょっと森を見に行ってもいいしね」
流石に今日はもう疲れたし、こんな状態で森の探索をしてミスったりしたら嫌だしな。
街道上で遭遇でもしない限りは、今日は帰還を優先だ!
◇
領都に到着した俺は、まずは冒険者ギルドに向かい職員を一人同行させると、お次は騎士団本部に向かった。
こちらでも同じく一人選ぼうと思ったんだが、本部に詰めていたリックが「自分が行く」と同行を申し出てきた。
オーギュストとアレクが北の拠点の方に行っているから、今日は彼が騎士団の責任者なんだけど……本部を離れてもいいのかなと思わなくもないが、夕方のこの時間なら新しい事件が起きたりってこともないだろう。
さて、冒険者ギルドの職員とリックを連れて領主の執務室に向かうと、そこにはリーゼルたちは揃っていたんだが、すぐに報告に……とはならずに、今日はテレサとフィオーラも呼ぶことになった。
騎士団や冒険者ギルドとが連携してことにあたっているし、魔物や魔道具の今回はそれ……加えて、領内の人間の移動なんか絡むし、多分セリアーナも一緒に来るだろうな。
「ご苦労だったね。今セリアーナの部屋に人を送るから、セラ君は向こうで休んでいてくれ」
「はいはい。あぁ……これ、団長と拠点の人からの報告書です」
俺は預かって来た報告書を渡すと、執務室の奥にある応接用のソファーの上に移動した。
◇
リーゼルがセリアーナたちを呼び出してから程なくして、彼女たちは執務室に姿を見せた。
テレサにフィオーラ、そしてセリアーナとエレナと、フルメンバーだ。
俺が街に帰って来てからしばらく各施設をウロウロしていたからか、こうなることも予測していたんだろう。
皆揃って服装も化粧もばっちりだ。
そして、その彼女たちも交えて、執務室で働く者たち皆が応接エリアに皆で集まっている。
そんなに大人数で働いているわけじゃないが、それでも全員が集まると中々どうして……。
「凄い圧迫感だね」
思わずそう呟いてしまうと、リーゼルが「フッ……」と笑った。
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いつものメンバーに加えて、執務室で働く文官たち全員の視線を受けながら、北の拠点から持って帰って来た報告書に関しての説明を行っている。
「…………」
ネズミのアンデッドの大群と、その巣穴になっていたらしい地下水路を発見したところまで話したところで、俺は口を閉じてリーゼルをジッと見た。
俺たちの周りにいる文官たちは、あくまで資料を用意したり記録をとったりと、何かを言ってきたりはしないんだが、まぁ……真剣だ。
先程俺がリーゼルに彼等の圧が凄いと訴えると、リーゼルが数歩下がるようにと言ったんだが、何時の間にやらまた前に出て来ている。
「……リーゼル?」
セリアーナの声にリーゼルは苦笑すると、また文官たちを下がらせた。
「内容が内容だからね。彼らも熱が入ったんだろう」
「まあ……何年も前からこの地でよからぬ企みを遂行されていたんですものね。リアーナ領になる前だから仕方が無いとは思うけれど……」
「どうしても西部絡みの問題だとね。今後は付き合いも限られてくるだろうし、こんなことは減って来るだろうけれど、まだしばらくは油断できないからね」
リーゼルはそう言って周囲の文官たちに一度視線を送ると、今度は向かいに座る俺を見た。
「セラ君、話を中断させて悪かったね。続けてくれ」
「はいはい。えーと、それでね……」
俺は一息つくと、説明を再開した。
◇
人の手による計画は、恐らくネズミのアンデッドの大群までだと思う。
現場にいた俺たちはそう感じていたし、この場で報告書を読んで、俺の話を聞いた皆も同感らしい。
ただ、ある意味厄介だったのはここからなんだよな。
ってことで、森の中を走る地下水路や、さらにその地下深くに流れている水路の件などを話していた。
地下水路は先日発見した街道の崩落現場で見つけたし、一の森でも見つけたから、皆もある程度想定はしていたみたいだが、地下の空洞だったり、そこに地下水脈から水が流れ込んだりしていることを話すと、だんだんと表情が険しくなっていった。
んで、ワニもどきだ。
「君たち四人がいて、それでも手こずるような魔物がこの北の森に生息しているのか……」
ワニもどきとの遭遇から、倒すまでを一気に話すと、リーゼルは地図を睨みながら重々しくそう言った。
他の者たちも息をのんで話を聞いていたが、皆似たような表情をしている。
まぁ……俺が全く手を出せず、最終的に【ダンレムの糸】とジグハルトの魔法で仕留めたとか言われても、簡単に再現出来るようなもんじゃないからな。
どうすりゃいいんだ……ってなるよな。
とはいえだ。
「強いことは強いけど、団長は正面に立って注意を引き続けられていたし、武器を選べば、簡単にとは言えないけど、戦いようはあると思うよ? 魔法を使うのは厄介だけど、その魔法で直接こちら側に被害を与えるようなことは無かったし、動きだって別に特別なことはしなかったからね」
俺たちも手こずらされたのは事実だが、でもあれは水脈と繋がった大穴の中という特殊な環境下での話だし、仮に地上での戦いとなれば、またちょっと違ってくると思う。
厄介なことに変わりはないけどな!
「姫は討伐はそう難しいことではないと考えているのですね?」
「うん。やり方とこちら側に人員が揃っているって前提はあるけどね。でも、その問題をクリアするのは別にそんなに難しいことじゃないでしょ?」
2番隊だけとか冒険者だけでとなれば、ちょっと魔法を使える者が足りなくなりそうだけれど、1番隊もうまく組み合わせたら、決して非現実的な話ってわけじゃないはずだ。
1番隊の隊長であるリックに視線を送ると、ムッとした表情で睨み返してきた。
「状況次第ではあるが、必要なら今回のように我が隊も協力させてもらおう。だが、セラ副長。団長の報告書によれば、決して楽な相手ではないと書かれているぞ? それに関してはどう説明するんだ?」
「あぁ……、それは倒すことじゃなくて、倒した後の話だね」
俺の言葉に、今度は皆が「?」と不思議そうな表情を浮かべた。
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