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1542
アレクとジグハルトの二人が二階に上がって来たことで、隊員たちへの森の出来事を説明する役を譲ることにした。
隊員たちだって俺の話より、アレクたちの話の方が参考になるだろうし、そっちの方がいいだろう。
そして、手が空いた俺は彼らに一言告げると、下に向かうことにした。
一階では、オーギュストがここの責任者たちとまだ話をしているだろうし、領都に戻る前にちょっとそっちの話も聞いておきたいしな。
ってことで、階段を下りていきながら、一階のホールに向かって声をかけた。
「団長ー?」
「む? セラ副長か。どうかしたのか?」
一階のホールでは、俺がここにやってきた初日に挨拶をしたおっさんたちとオーギュストが、何枚もの書類を広げているテーブルを囲んで話をしていた。
まだ話は終わっていないようだが、おっさんたちに一言断りを入れると、そちらを置いて階段に向かって歩いて来た。
「いいの? 向こうは」
「ああ。まだいくらか向こう側で話を詰める必要があるからな。私抜きでも問題は無い」
チラッと後ろを振り向くと、オーギュストはそう言った。
まぁ、こんな辺鄙な拠点の人間が、リーゼルに直接要望を出すって機会は中々無いだろうし、いきなりうまくは纏められないだろう。
しかし。
「それじゃー、まだ時間はかかりそうなのかな? オレは別にまだまだ時間がかかっても問題は無いけど……」
窓の外に視線を向けると、大分薄暗くなってきているが、寄り道せずに真っ直ぐ帰ればすぐに到着するだろうし、出発を遅らせること自体は問題無い。
「いや、君の都合をこちらに合わせる必要は無い。アレは今回の雨季の間に提出出来れば十分だろう」
「ふむ……まぁ、そうだね」
今回はウチの隊員たちが滞在しているし、先程の外に警戒に出て来ていたように、何か起きたとしても彼等が上手く対処するだろう。
「それじゃー、団長の報告書の内容だけ教えてよ。ちょっと今回の報告は色々情報が多そうだしね。向こうでオレが補足出来た方がいいでしょう?」
「そうだな。そうしてもらえると助かる。では……」
オーギュストは一旦テーブルに戻り書類を取ってくると、それを俺に見せながら解説を始めた。
◇
オーギュストの解説は30分ほど続いた。
もう少し軽く済ませると思っていたんだが、大分じっくりと話されてしまった。
まぁ……出発前の予定だと、オーギュストたちは一気に片付けてさっさと帰ってくるつもりだったのに、思った以上に時間も手間も取らされたからな……。
結局今日は彼等は拠点に滞在しているし、中々予定通りにはいかなかった。
「強いって程じゃなかったんだけど……ひたすら面倒だったよな。あっち行ったりこっち行ったり……」
さらに、ボス的魔物を片付けることは出来たが、森がとんでもないことになってしまったし……まだまだ大変だ。
そんなことを考えていると、ついつい口に出てしまったらしい。
階段を上がっているオーギュストの耳に届いたようで、足を止めるとこちらを見た。
「どうかしたか?」
「いや、何でもないよ」
俺がそう答えると、オーギュストは「そうか」と返してきた。
大半がもう片付いたことだし、わざわざ話すことでもないからな。
オーギュストも多少は内容は聞き取れていただろうけれど、深掘りするほどじゃないとでも考えたんだろう。
さて、俺たちは二階に上がるとホールの皆を見た。
「……ふむ。こちらの話は終わったようだな」
俺が一階に下りる前は、アレクとジグハルトの二人が話をして、それを聞くために隊員たちが周りを囲んでいたが、今は皆まだホールに集まってはいるものの、それぞれ自由にしている。
「オレたちが話し過ぎてたのかもね。それじゃー、皆。オレはお先に戻らさせてもらうよ」
ホールの皆に聞こえるように大きな声でそう言うと、それぞれ適当に「ああ」とか「おう」とか、簡単な返事を返してきた。
もう皆すっかりオフモードだな。
その様子に苦笑しながら、アレクは俺を見ると口を開いた。
「明日は一日搬送の準備に使うから、何か急ぎの伝言でもなければお前は明日は領都に待機でいいからな」
「うん。了解」
1543
北の拠点を発った俺は、例によって街道沿いを領都目指して飛んでいた。
ちょっと森で色々起こり過ぎたから、こちら側にも何か影響が出ていないか調べるためにも、森の上空を飛んで行ってもよかったんだが……。
「街道からでも派手な異変なら見えるしね」
森が崩落していたら木がゴッソリ倒れているわけだし、街道からでも何となく見えたりするだろう。
普段からあまり人が立ち入ることが無い森よりも、街道のチェックの方が大事だ。
ってことで、普段よりも速度を落として時折森に視線を送りつつも、じっくりと街道を見ながら飛んでいた。
「おや?」
北の拠点からしばらくは街道に何の異変も見当たらなかったんだが、先日崩落していた場所の近くに差し掛かったところで、その異変に気付いた。
「街道が崩れているのは元からだけど……周囲が崩れているね。でも……」
街道の地下を通っていた水路が原因なのかはわからないが、地面が大きく崩れたり亀裂が走ったり色々しているんだが、そことは別に、新しくその周囲が何ヵ所か崩れていた。
詳しく見るために、俺はその現場の上空に移動した。
◇
「ふぬぅ……?」
まず、街道に初めに出来ていた穴を眺めてみたが、中を流れている水の量が増えて、ついでに濁っているように見える。
とは言え、変わったことと言えばそれくらいかな?
「相変わらずずっと雨は降り続けているし、これくらいは雨の影響で変わったりはするよね。つまりコレは関係無い……のかな? となると、コッチか」
元の穴から離れて、新しく出来た穴に視線を移した。
「直径は……2メートル弱ってところかな? 深さもそれくらいで、どれも同じくらいのサイズだけれど……中に水が溜まっているね」
穴の真上に移動して、その穴の様子をじっくりと観察する。
一つ目二つ目と順に見ていくが……どれも似たようなもんだ。
「もう少しじっくり調べてみたいな。……ほっ!」
俺は三つ目の穴の上に来ると、中に照明の魔法を撃ち込んだ。
魔法に照らされて穴の底の様子も見えてくるが、どうやら水はただ溜まっているだけじゃなくて、流れがあるらしい。
「これは……底の方で他の穴かそれとも水路の方か……。ともかく、別のところとも繋がっているみたいだね。となると?」
今度は穴の中ではなくて、縁やその周辺を見ていく。
「なるほど。コレは中に崩れていったんじゃなくて、中から何かが出てきたってことかな?」
ついつい穴の中ばかり気にしていたが、いざ他の部分を見てみるとわかることがあった。
この穴は、中に向かって崩れたんじゃなくて、中から外に何かが出ていくことで出来た穴だ。
大半の土は中に落ちているが、中には縁の周りに零れた土も残っている。
そして、この雨の中まだそれが残っているってことは、出来てまだそこまで時間は経っていないってことだろう。
んで、このサイズの穴から出てくるような生き物といえば。
「カエルもどきか。まぁ……この辺でも戦ったことがあるし、いてもおかしくは無いんだけれど、この辺てそんなにカエルもどきが生息してるの?」
俺は穴だらけになっている街道を眺めて、そう呟いた。
ここ数日でもう10体以上のカエルもどきと戦っているから、慣れてしまってそんな気がしなくなるが、カエルもどきって領都の冒険者ギルドでも情報はハッキリしてないんだよね。
目撃情報……ではなくて、噂程度は領内の各拠点で囁かれていたみたいだけれど、こんなに出くわすもんなんだろうか?
「まぁ、いいか。それよりも、まだ遠くに行ってないかもしれないし、探し出して始末するか、それとも放置するか。どうしようかね?」
俺は地上から一旦距離をとって上空に出ると、「うぬぬ……」と唸りながら辺りを見渡した。
街道はもちろんだが、その脇の茂みにもカエルもどきが移動したような痕跡は残っていないし、街道から見つけるのは無理だ。
森の中に入らないと見つけられないだろうけれど……。
「止めておくか」
流石に今から森の捜索をしたら時間がかかり過ぎる。
領都には戦力はしっかり残っているし、北の拠点にも十分過ぎるくらいの兵がいるんだ。
ここはスルーしていいだろう。
そう決めた俺は、領都に向けて【浮き玉】を加速させた。
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