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街道を目指して森の中を突っ切っていた俺たちは、さらに何度かの群れを蹴散らすと、森の外に出ることが出来た。
出た場所は拠点のさらに北側だったが、拠点からそこまで離れてはおらず、小さくではあるが拠点の塀が見える位置だ。
街道の周辺には魔物の気配は無いし、雨でぬかるんでいるから多少は足場は悪いが、それでも走ればすぐに辿り着けるだろう。
ってことで、オーギュストを先頭に、拠点に向かうために街道を走りだしたんだが、近付くにつれて拠点の周りをうろつく影がいくつも視界に入ってきた。
オーギュストは足を止めると、街道から外れて茂みに隠れるように指示を出した。
日頃から整備をしているのか、街道沿いの茂みには背丈の高い草は生えていないが、距離もあるし、騒いだりしなければ気付くことは無いだろう。
急いで俺たちは茂みに身を潜めると、そこから首を伸ばしてそいつらの様子を窺うことにした。
「……アレは?」
「何かいるな。獣じゃないし妖魔種のようだが……何だ?」
俺の呟きに応えるアレク。
こんな雨の中外をうろつく生き物だなんて、魔物くらいしかいないと思うんだが……距離に加えて雨が降っていることもあり、ハッキリと見ることが出来ない。
向こうにいるのが何なのかはっきりわからないのなら、判別できる距離まで近づけばいいんだが……拠点の側だけに、アレがもし魔物だったら刺激してしまいかねないし……。
「ジグさんの魔法は?」
「塀が近すぎる。アレは木製だろう? 威力を抑えてもいくらか塀に損害が出てしまう。やるにしても、まだだな」
俺が「ここから撃ってしまえば?」とジグハルトに提案したが、断られてしまった。
まぁ、今の状況で塀を壊してしまうと、拠点の防衛力が大分落ちちゃうしな。
「それに、まだアレが何かもわからない。お前もそうだろう? オーギュスト、アレク。もう少し接近しないか? せめてはっきり見える距離まで近づければ打てる手も増える」
「そうだな。セラ殿、君はここで待機していてくれ」
オーギュストはそう言うと、「行くぞ」と姿勢を低くしたまま移動を始めた。
どうやら俺はお留守番らしい。
コソコソ近付かないといけないのに、俺が一緒だとどうやっても目立つから仕方がないか。
「……気を付けてねー」
離れていく三人に小声で声援を送った。
◇
「……うん? アレはウチの隊員たちか?」
セラを置いて拠点に接近していた三人だったが、拠点周囲をうろついていた者の正体がわかると、潜んでいた茂みから街道に出た。
「団長!!」
「おい、二人も一緒だ!!」
三人の姿を見た隊員たちが、周りに声をかけながら駆け寄ってくる。
「ご無事でしたか」
「セラ副長は?」
三人の前に集まると、彼等は口々に質問をしてくるが、オーギュストはそれを制した。
「落ち着け。我々に問題は無いし、森での任務も片付けた。それよりも、お前たちが武装して拠点の外に出ているのは何故だ? 何か魔物の襲撃の兆候でもあったのか?」
「はっ。位置は特定できませんでしたが、すさまじい轟音と振動が何度か起きたため我々が周囲の警戒に出てきました。拠点内では、残った隊員たちが門と居住区の防衛にあたっています」
隊員たちの言葉に、三人は口を閉ざすと揃って顔を見合わせた。
「…………それは問題無い。外に出ている者たちを呼んで中に戻らせろ」
「……? はっ。セラ副長の姿が見えませんが、別行動ですか?」
隊員の疑問の顔は無視して、オーギュストはさらに続ける。
「いや、向こうで待機してもらっている」
「なるほど……それでは、失礼します。お前たち! 戻るぞ」
拠点に引き返していく隊員たちを見て、雨が降っているから聞こえないだろうに、小声でボソボソと話し出した。
「轟音ってのは……アレだよな?」
「ああ。ココまで届いたようだな。ここに来るまでどこも崩れたりはしていなかったし、影響は無いだろうが……住民に説明は必要だろうな」
「……よし、とにかく俺たちも中へ行こう」
アレクはそう言うと、後方で待機しているセラを大声で呼び寄せた。
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拠点周りをうろついていた者たちは、森から聞こえてきた轟音や振動が何か異変の兆しじゃないかと警戒して、拠点から出てきたウチの隊員たちだった。
ちゃんと拠点住民を避難させる用意も並行して行っていたようだし、冒険者も含む混成部隊なのにしっかり連携が取れているし、中々優秀じゃないか。
そう感心しつつも、ことの原因の大半は俺たちにあったため、若干気まずかったりもするが、ここの責任者たちへの説明はオーギュストたち三人に任せて、俺は宿舎の二階で隊員たちに簡単な説明をしていた。
「俺たちが別れてからの大体の出来事はわかったが……」
説明を聞いた一人がそう言って困惑顔をしたかと思うと。
「アレをジグさんがやったのか?」
「なあ……。見たわけじゃないが、ここまで音や振動が響いて来たぜ? 場所は副長が援護に入ってきた場所からそう離れていないんだろう?」
「うん……あの辺りからもうちょっと北西に離れた場所だね」
俺がそう言うと、「もっと離れてるのかよ……」と呻くように呟いた。
彼らがカエルもどきの群れと戦っていた場所だって拠点からまだ距離があったのに、そこからさらに離れているって聞いたら……まぁ、驚くのも無理は無い。
と、言うよりも、皆揃ってドン引きしている。
「まぁさ……オレもちょっと、そこまでやれんのっ!? って感じで驚きはしたけど、地下にあった空間とか倒した魔物の性質とか色々重なった結果だからね」
大分苦しい気がするが、一応ジグハルトのフォローをしておこうとそう言うと、彼等は何とも言い難い微妙な表情で「わかっている」と答えた。
◇
一通り森での説明を終えた俺は、その後はワニもどきとの戦闘の様子だったり戦いを眺めた感想などを話していたが、しばらく経った頃、下からアレクとジグハルトが上がって来た。
「おや? 下の話は終わったのかな?」
「まだもう少しかかるな。話自体は終わったんだが、今回の件の陳情と、オーギュストの報告を一纏めにするそうだ。その報告書を作っているところだ」
「ほぅほぅ……。まぁ、色々あるもんね」
近くの森の大規模崩落はもちろん大事だが、それに関連する魔物の行動の変化などへの備えも大事だろう。
森を移動している間に大まかな内容はオーギュストが考えていたが、拠点住民の視点も加わっていくし、全部とは言わないが、文章の追加や修正が入るかもしれないし、もう少しかかるのも仕方が無い。
俺はチラリと、窓の外に視線を向けた。
「日が暮れるにはまだもう少し余裕があるな」
俺の目の動きに気付いたのか、アレクがそう答えた。
「オレが領都に帰るのに気を付けるのは、【浮き玉】の速度をどれだけ出すかってくらいだし、時刻は気にしてないよ。それよりも、彼らが持って帰って来たあの荷物とかはどうするの?」
「今日はここで待機だ。明日の朝に、一部の隊員たちの帰還ついでに領都に運ばせる」
「……ふぬ。まぁ、今から運んだら夜になっちゃうだろうし、あれだけ魔物を呼び寄せるようなものを、暗い中運びたくないよね」
それも、魔境のすぐ側をだ。
それを抜きにしてもアレを確実に領都まで届けさせるとしたら、寄ってくる魔物を蹴散らせるくらいの戦力は必要だと思うんだよな。
森の探索はこれで終わりってわけじゃ無いだろうし、拠点内の戦力はある程度揃っておいた方がいいだろう。
だが、そうなると運搬の際の数が足りなくなりそうだし……と頭を悩ませていると、ジグハルトが「それに関しては考えがある」と言ってきた。
「積み荷で気を付けたいのは、タルといくつかの容器だけだ。特殊な魔物の死体を確保した際に包んでおくために用意しておいた、ある程度の魔力を遮断する布がある。安全に領都まで魔物を運ぶためのものだったんだが、その布を使えば魔物を呼び寄せる効果を発揮させないはずだ」
俺はジグハルトのその言葉に、「へー……」と頷いていた。
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