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ワニもどきの死体が転がっていた場所を中心に、大きく深く抉れていて、さらに壁が大きく崩れていた。
穴の北壁の崩れた箇所から水がドバドバ流れ込んでいるし、水の勢いで、壁の崩れた箇所がどんどん広がっていっている。
ワニもどきの死体があったのは南寄りだったのに、北側もアレだけ被害が出るのか。
……これはこっち側にも影響が出そうだし、皆が回復するのを待とうと思ったけれど、早いうちにさっさと離れておいた方がいいのかもな。
「それにしても……いろんなところに何かが飛び散った跡が残ってるけど、これは……地中の石とかが爆発で飛んできたのかな?」
ワニもどきの死体が転がっていた辺りに出来た大穴は、その死体が爆発した跡だろうが、穴の壁のいたる所に、明らかに何かが衝突したような跡が出来ているんだよな。
アレだけ派手な爆発だったし、もう残っている個所は無いだろうから、これ以上爆発は無いと思うが、あんまりこの辺にいたくはないよな。
「下がるか。みんなー? そろそろ大丈夫? こっちはちょっと危なそうだし、とりあえずこの場を離れよう!」
俺の声がどこまではっきり聞こえているのかはわからないが、先程まで地面にしゃがみこんでいた三人もすでに立ち上がっている。
「ああ……わかった。穴は何か異常は無かったか?」
ジグハルトが俺越しに穴の方を見ながらそう訊ねてきた。
よく見たらあちらこちらに泥が跳ねているし、魔法の余波を避けるために下がったとかじゃなくて、吹っ飛ばされたとかなのかな?
穴の状況を理解出来ていないみたいだし、予兆無しであの爆発が起きたのか。
思い返せば、何かアレクたちも叫んでいたような気がするしな。
不意打ちでアレだと、この三人でもパニックになっていたみたいだ。
「流石にアレには皆も驚いたみたいだね……。えーとね……」
どこかホッとしつつ、皆の様子を見ながら、穴があの爆発でどうなっていたかを軽く話そうとしかけたが。
「北の壁が崩れて水が流れ込んできていたり、いたる所が崩れて……ん?」
アレクたちが立っている側の茂みの奥で何かが見えたような……っ!?
それが何かがわかるや否や、即各恩恵品を発動する俺。
「どうしたっ?」
戦闘態勢に入った俺を見た三人も構えようとするが、普段に比べたら随分と遅く感じる。
まだまだ全快にはなっていないみたいだな。
俺はそんなことを考えながら、返事をせずに彼らの頭上を越えて茂みへと突っ込んで行った。
◇
「カエルもどきっ! まだいるの!?」
茂みの奥にいたのは、今日だけですっかりおなじみになったカエルもどきだ。
向こうの穴の中から出てきた後も、俺は周囲の警戒は欠かしていなかったつもりなんだが、いつの間に……。
この辺りにはコイツはもちろん他の魔物だっていなかったし、俺の索敵の範囲外からやって来るにはいくら何でも時間が無さ過ぎる。
ってことは。
「こいつも地中からか!」
爆発か地面の振動か、それとも他の要因か。
この辺を探せば、コイツが地上に這い出てきた穴が開いていそうだな。
なんでもいいけど、三人はまだ戦えそうにないし向こうに行かれる前に倒さないと!
周囲には他の魔物はいないし、一気に決めてやる。
「ふっ!」
まずは牽制の一撃として、頭部に尻尾を叩きつける。
この一撃がダメージにはならないのはわかっているが、それでも、顔を背けさせる程度の効果はある。
「ほっ!」
顔を向けた方とは反対側に抜けると、俺は頭部を蹴り上げた。
続けて、ガラ空きになった首元に入り込むと、【影の剣】で首を切断する。
「はっ!」
そして、宙に浮いた頭部をそのまま蹴り飛ばした。
頭を失った胴体は、ゆっくりと仰向けになって倒れていくが……コイツはこれでもまだ生きているからな。
俺は仰向けになった頭無しのカエルもどきにゆっくり近づいて行くと、尻尾で胴体を押さえ付けながら、バラバラに解体していった。
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カエルもどきをバラバラにし終えたところで、俺は皆の下に戻っていった。
「あ、もう大丈夫そうだね」
「ああ……お前に任せて悪かったな。魔物はカエルもどきか?」
アレクが俺の様子を見ながらそう言った。
戦っている際に適当に頭を蹴り飛ばしたんだが……こっちには飛んでこなかったか。
アレどこに行っちゃったかな?
あれだけデカい魔物の頭が転がっていたら、見つけた人が腰抜かさないだろうか……。
森の真っただ中でそんなことになったら、死人が出かねない。
話していて一瞬そう思ったが、まぁ……この辺に人が来ることはそうそう無いだろうし、そんな不幸な奴はいないと信じよう。
「うん。他にもまだ来るかもしれないから、移動しよう。もうこっちで出来ることはやったし、拠点に帰ってもいいんだよね?」
先程までと違って足元がふらついたりもしていないし、移動を開始しても大丈夫だろう。
「む? ああ……それはそうだが、何か急いでここを離れる理由でもあるのか? そう言えば、向こうから戻って来た時に穴がどうのとか言っていたが……」
「北側の壁が崩れて水がどんどん流れ込んでいたんだ。それだけじゃなくて、他のところも結構崩れてるんだよね。もしかしたら、あの穴を中心にもっと広がるかもしれないんだ」
俺の「もっと崩れるかも」という言葉に、三人はギョッとした表情を浮かべると、すぐに真顔に戻った。
「わかった。それならまずはここを離れることを優先しよう。……北側の壁はすでに崩れていて、さらに西側ももつかはわからないんだな? そうなると……一先ず南か」
「そうだな。あの辺りには地下水脈は流れていないはずだ。崩れることはないだろう」
「ああ。他の隊員たちは既に拠点に辿り着いているだろうし、私たちが距離をとるだけでいい。行くぞ」
三人はサクサクと話を纏めると、南に向かって走り出した。
先程いた場所から南には、当たり前だが森が広がっていて獣道すら無いが、そんなことお構いなしだ。
状況を理解してくれているからか、目の前に枝や茂みがあろうと、足を止めずに走り続けている。
そんな中、ジグハルトが走りながら俺に話しかけてきた。
「セラ!」
「なにー?」
「穴の中を覗いて来たんだろう? どうなっていた?」
「上から見ただけなら話せるけど……ジグさんは魔法を撃った時は見れなかったの?」
「ああ。穴の縁に立っていたが、何かしらの爆発に巻き込まれて後ろに向かって弾き飛ばされていた。アレの死体を潰した手応えこそあったが、その後がどうなったのかがわからない」
「わかった……それじゃー」
俺は「簡単にだけど」と前置きをすると、見てきた情報を彼に伝えた。
◇
南に向かって走って10分弱。
俺たちが走ってきた方角から、何かが崩れるような大きな音が響いて来た。
そして、浮いている俺には関係ないが、続けてやって来る鈍い振動。
さっきも同じようなことがあったが……。
地上を走っていた三人に視線を向けると、地面にしゃがんだり、剣を支えに片足をついていたりしている。
三人それぞれ堪え方は違うが、立っていることも難しいレベルらしいな。
「ちょっと見て来る!」
俺はそう言うと、一気に【浮き玉】を上昇させた。
北からの崩落音だし、やっぱりあの穴の辺りが崩れたんだろうな……と考えていたんだが。
「……ぉぅ」
上空から見た光景は俺が予想していた以上で、思わず小さな呻き声が漏れてしまった。
穴があった辺りの木がさらに倒れているのは、壁が崩れてさらに穴が広がったってことだろうし、それは予想していた通りなんだが、そこを中心に、森が北と西の広範囲に渡って無くなっていた。
「……多分地下水脈が崩落して、それに巻き込まれたって感じなんだろうけれど、コレは想像以上だね。魔物の問題は多分解決できたと思うけれど、今度はこっちが大問題なんじゃ……? ……うん?」
唖然としながら森を眺めていると、ふと右手に違和感を覚えた。
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